薄命なる少年職人の道   作:シュヤリ

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第三話~完成と出発~

「ふぅ……これでよしっと」

 

 サヨは泊めてもらったお礼にと家の掃除をし、料理を終えたところで先ほどのソロの言葉を考えた。

 

「家族がいない……か」

 

 サヨはふと自分の今までを思い返してみた。自分を愛してくれた両親がいて、祖父のような村長、兄弟姉妹こそいないが深い絆で結ばれたタツミとイエヤスがいる。

 ソロはどうなのだろう?

家族はいないと言っていたが友人は、そもそもこの辺鄙な岩山に一人で住んでいるのだから知り合いも居ないのではないか。思い切って彼の過去を聞いてみようと思ったその時玄関の扉が開いた。

 

「あー、お腹空いた!とりあえず弓は出来上がったよ。後は矢を作らなくちゃだけど、あとで矢筒を貸してもらえるかな?悪いようにはしないからさ」

 

 ソロは真っ黒になってしまった顔で笑いながら言うと浴室へと向かった。その際に腹の虫が鳴いていた年相応の行動にサヨは笑みをこぼした。

 汚れを落としてテーブルに着いたソロを出迎えたのはサヨの作った料理だった。

 

「好き嫌い聞いてなかったからある物で私の故郷の料理作ったんだけど……大丈夫かな?」

 

「すごい美味しそうだ。僕の家なんだから嫌いな物は置いてない全然問題ないよ。

この家で誰かの作った料理を食べるのはすごい久しぶりだ。いただきます!」

 

 テーブルに置かれた白米、サラダ、鍋、焼き魚を見てソロは大喜びだった。二人共食事を始めてからしばらくたったところでサヨは口を開いた。

 

「ねぇ、ソロはどうしてこんなところで一人で暮らしてるの?」

 

「どうしてってここが家だから……なんて巫山戯ていい場面じゃなさそうだね。

サヨは軍人になるんだろ?だったら僕は詳しい身の上話をするわけにはいかない。

まあ、ご飯作ってくれたお礼に、ザックリと話すと僕は二年程前まで母さんと色んなところを旅しててここに腰を落ち着かせた。母さんは住み始めてすぐ亡くなっちゃったけどね」

 

 ソロは料理を平らげ箸をおいてサヨを見つめ真剣な表情で語った。そして口調からこれ以上詮索するなという無言のメッセージも込められていた。

 しばらくの沈黙が流れた後、耐えきれなくなったソロは溜息をついて立ち上がりサヨの矢筒を手にとった。

 

「ご馳走様でした、ご飯美味しかったよ。僕はまだ作業が続けるから洞窟にこもるよ。明日の朝帝都まで送るからサヨはゆっくり寝て疲れを取って明日に備えてね」

 

「待って、その……お母さんのお墓って近くにある?ご挨拶だけさせてもらえないかしら」

 

「家の裏にある大きな石がお墓だよ。ありがとう、母さんも喜ぶよ」

 

 そういうとソロは外に出て行った。その表情は少し笑みをこぼしていて穏やかであった。

 サヨはソロの過去が気になったが、もう聞けなかった。幼く見える少年の剣幕に押されてしまったから。

 その後サヨは食器を片付けた後、ソロの母が眠る墓の前にいた。

 

「ソロのお母さん……私は貴方達家族に何が起こったのか知りませんが、貴方の息子は小さいけど強く育っているみたいですよ。だから安らかにお眠りください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜が明け、日が上り起床し、朝食を済ませて身支度を整えた二人は家の外に出ていた。

 

「ようし、それじゃあ帝都に出発するけど、その前にはいコレ」

 

 ソロはサヨに元の木製の弓と同程度の大きさの小振りな鉄弓と、矢の入った少し長くなった矢筒を渡した。

 

「わぁ、ありがとう!ってなにこれ⁉鉄の弓なのに私の弓よりも軽い⁉」

 

「特殊な金属を使ったからね。ちょっとやそっとじゃ壊れないし弓での格闘も全然できるし危険種の体毛を弦にしたから切れる事もない」

 

 得意げにソロが言うとサヨが試し撃ちしても良いか問い、ソロはやってみてと言った。

 サヨはニコリと笑って矢を構えると30m程先の木を目掛けて放つ。見事それに命中し突き刺さったかと思えば直様次の矢を放ち、木に突き刺さった矢に命中させる。いわゆる継矢という奴だ。これを後二度程繰り返す、この一連の動作約三秒程である。

 

「お、お見事……すごい弓の腕前じゃないか!」

 

「まあ、止まってる物相手ならこれ位出来ないとね!作って貰った弓矢もすごく手に馴染んでるし本当にありがとう」

 

「お礼はまだ早いよ、矢筒の方も細工してあるんだ。少し長くなってるでしょ。実は底が外れるようにして少し空洞になっているんだ。そしてそこにガラクタでも石でも何か硬い物を入れたら矢筒に新しい矢が補充されるようにしてみた」

 

 その突拍子もない発言にサヨは目を丸くして、残念な物を見るような目でソロを見た。

 ソロは咳払いをしてサヨから矢筒を受け渡してもらい、中に入っていた矢を捨てて底の部分を回して空けた。

 

「百聞は一見にしかず。よく見てなここに適当に落ちてた石を入れると……」

 

 ソロは落ちていた拳大の石を空洞の中に入れて底を回して閉めた。

 するとポンと音を立てて矢筒にいっぱいの鉄の矢が現れた。普通では考えられない現象にサヨは唖然としていたが、直ぐに正気に戻る。

 

「なっ……えっ⁉

……昨日ソロが着ていた赤い鎧もそうだけど、一体どうなっているの⁉」

 

「……世の中は普通じゃない事が多いって事さ。ここでの事は誰にも言わない方がいいよ。狂人扱いされるのが関の山」

 

 子どもが一人でこんな山に住んでるわけないしと自嘲ぎみに付け足すとソロは腰に付けていた袋から厚手の布を取り出し地面に落として指を鳴らす。すると厚手の布は畳二畳くらいの大きさまで肥大化し、宙に浮いた。

 

「さっ、乗って乗って帝都近くの林道までは行けるけどそこからは歩きだからね」

 

「これも不思議な物の一つってわけね……もう深く考えない事にするわ」

 

 サヨは半ば諦め半ば呆れ気味に言うと布に乗る。すると布は更に高度を上げて帝都方面まで飛行した。


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