薄命なる少年職人の道   作:シュヤリ

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第四話~帝都到着~

「あー……ひどい目にあったわ……」

 

 一度空飛ぶ布から落ちかけ死人に近い窶れた顔でサヨは言った。自由落下という平時では有り得ない恐怖体験をした結果である。

 

「だからゴメンって……大丈夫だよ、アレで間に合わなかったら僕が飛んで助けたから」

 

「……まあいいわ。結局無事に帝都の近くまで送ってくれたわけだし。

でも、どうしてソロは私にここまでしてくれたの?」

 

「えっ、特に理由は無いよ。最初に会った時に言ったけど困った時はお互い様、それにできるだけ人の助けをしてあげなさいって教わってきたからね。

弓を作ったのはインスピレーションが湧いたから職人として作らなくちゃって思っただけだよ」

 

 ソロはそんな事は当然と言わんばかりのような反応を返すと指を鳴らして地面にある布を元の大きさに戻して腰の袋に入れた。

 

「なーんだ、てっきり私の魅力に惚れ込んでくれたのかと思ったのに!」

 

「あはは、ないない。僕の好みは年上だからね!」

 

 サヨは巫山戯て頭と腰に手を当てて魅了するようなポーズをとる。ソロも巫山戯て両手を上に向けて首を横に振る。それにサヨは怒ったふりをしてソロに殴りかかり、ソロは逃げる。傍からみたらまるで姉弟のように見える光景だ。

 

 

 そんな冗談を重ねているうちに二人は帝都に到着した。

 サヨには帝都の賑わいや人の多さ、目に映る商店の数々、遠くに見える宮殿といった全ての物が輝いて見えた。そんな呆然とするサヨを見て、ソロは一つ咳払いをして正気に戻す。

 

「そんな調子で大丈夫なの、こんな入り口で立ち往生してて?」

 

 ソロは怪しい物を見る目付き、所謂ジト目でサヨを見る。サヨは少し羞恥心を感じたのか顔を赤くしてすぐさま否定した。

 

「だっ大丈夫よ!これからは私がこの街を守るんだから!

ソロ……本当に何から何までしてくれてありがとう。貴方が居なかったら私は帝都まで来れなかった。私が軍で出世したらきっとお礼に行くわ!」

 

「いいよ、来なくて。僕は帝国が好きじゃないんだ……軍人に来られても困る」

 

 ソロの発言に場は凍りついてしまったが、少しの間を空けてサヨはソロの手を両手で握った。

 

「ふふっ、じゃあ友達として会いに行くわ!それならいいでしょ!

ソロが困った時は私が必ず力になるから、その時は軍人だからとか言わないでよ。それじゃあ私は行くわ!

バイバイまたね」

 

 サヨは手を離すとそのまま振り返り、街中へと歩いて行った。ソロは呆然としながら眺めていたがサヨは振り返る事なく見えなくなってしまった。空を見上げて彼女の目的の成就を願うと、ソロも街中へと向かった。

 

 ソロにとっては数ヶ月ぶりの帝都だった。彼は厳密には帝国は嫌いだが、帝都という都市自体は嫌いではない。生活に必要な物資から始め様々な物が揃っているから利用はしている。

 実はある程度の収入はあり金銭にも困ってはいなかった。自分の作った武器や防具、山や森で狩った危険種を店に卸しているからだ。流石に卸す時は人間嫌いの父が作ったり狩った物を売りに来た少年を装っている。それでも作った物は出来が非常に良く、危険種もランクが上の物ばかりでソロ自身もある程度物の価値は分かるため足元を見られる事は無かった。

 

 ソロは帝都のメインストリートのカフェに入り、テラスでアップルパイとミルクティを堪能しながら人間観察をしていた。

 宮殿に近いからかスラムの人間であろう人は少なく、見る限り大半が普通階級よりは上の人ばかりだった。

 

 その中で目を引いた人が何人かいた。金髪で黒の水着のような服と白い一本縦に黒のラインの入ったマフラーと白い腰布と袖布、を見に付けた、男が見たら少なくとも10人中8人は振り返るグラマラスな女性。

 帝都の治安を守る帝都警備隊の制服を着た隻眼で大柄な体系で髪を後ろで四つに結った男に、同じく警備隊の制服を着た長いポニーテールの女性とリールに繋がれた二頭身の犬のような珍獣。

 買い物で目を輝かせて護衛を連れまわす水色の服を着た富裕層であろう少女、その護衛の中に混じる茶髪で剣を装備している少年。

 

「少しの間眺めてただけで帝具を二つ見れるとはね」

 

 ソロはポツリと呟くと、追加でアップルパイをテイクアウトしてカフェを後にした。

 その後は武器屋や防具屋で商品を見て今後の創作の参考にしたり、本屋に入り気になっていた漫画を買ったり、作業時に着る簡素な服、普段の食料を買い込んだりしているうちに日は沈み両手にはいっぱいの荷物を持っていた。

 多くの荷物を持ったまま帝都の中心である宮殿を見上ると、苦虫を噛み潰した顔になり、舌打ちをしてメインストリートを後にした。

 

 しばらく歩いてソロは路地裏に着き、辺りに誰も居ない事を確認すると荷物を一旦地面に起き、胸に手を当てて目を瞑る。するとアップルパイの包み以外の荷物が白く発光して光の粒子になって腰の袋に吸い込まれた。

 再び周囲を確認するとソロは包みを拾い上げて足早にその場を去り、さらに奥にある民家のドアを叩いた。

 

「ふあっ……あーソロかーいらっしゃい……」

 

 ドアが開き家から出て来たのはみ丸い眼鏡を掛けた緑髪の女性だった。顔立ちは美形、体系はスレンダーなのだがボサボサの髪型とシワと毛玉が目立つ服を着ていてだらしなく非常に残念な印象を受ける。

 

「こんばんはラキさん……もしかしてこんな時間まで寝てたの?」

 

「んー……昨日の夜から昼までお仕事してたからね。お昼から今まで寝てたんだー」

 

 ラキと呼ばれた女性は寝ぼけた様子で笑い、手招きしてソロを家の中に迎え入れる。だらしない見た目に反して家の中はさほど汚いくなく、物は整頓されていた。

 ソロは手土産のアップルパイを渡して椅子に座る。少し待つと、ラキは紅茶を持って来てソロに勧めて、反対側の椅子に座る。

 彼女の仕事は情報屋であり、とある縁で知り合ったソロは帝都を訪れる度に彼女の元に情勢を聞きに伺っている。

 ラキはソロに語った。

 帝国の内政は相変わらずオネスト大臣による独裁政治で有能な国を憂う者が次々と処分されている事。

 それでも宮殿の守りはブドー大将軍によって鉄壁である事。

 エスデス将軍が北の異民族の討伐に出ている事。

 エスデス将軍の相手が異民族の王子で槍を持たせば百戦百勝の『北の勇者』と呼ばれている事。

 帝都では暗殺集団『ナイトレイド』が金銭目的で富裕層を襲っていると言う情報が流れているが、それはデマで力無き者の怨みを晴らすために暗殺をしている事。

 帝都を守る筈の帝都警備隊の隊長が商人から賄賂を受け取り無実の人間に罪を着せている事。

 

「ほんと、世の中腐ってるよねー。情報が食い扶持の私でも気が滅入りそうだよ」

 

「そんな調子で言われても説得力無いんですが……でもラキさん、気を付けてくださいよ。ある日訪ねたらヤバイ情報仕入れて処刑されてましたはシャレにならないですからね」

 

 僕の数少ない友達なんだから。と小さい声で呟き下を向くと、ラキは一瞬でソロの後ろに回り込み抱きしめた。

 

「あ私の心配してくれてありがとー。でも大丈夫よー、ソロも知ってるでしょー?

私が皇拳寺で師範代だったことー。それにーソロがくれた道具もあれば絶対捕まったりしないよー」

 

 ラキはソロから離れると宙に向って拳を交互に何度も突き出す。しかし傍から見たら巫山戯ているようにしか見えない。

 

「まったく……それじゃあ僕はそろそろ帰ります。紅茶と情報、ご馳走様でした」

 

「バイバーイ。あっ⁉

この時間に出歩くと泊まる場所ないなら泊めてくれるなんて言ってくる富裕層の女の子がいるんだけど絶対に着いて行っちゃだめよー」

 

 ソロはそんな事言われなくても分かると言わんばかりの苦笑いを返して家を出ようとしたが、ラキの次の言葉で動きが止まった。

 

「その子、親切なんかじゃなくて拷問にかける相手を探してるだけだから。帝都慣れしてない田舎から夢を持って出てくる子とか狙うらしいよー」

 

「……ラキさん、その富裕層の話聞かせてもらっていいですか。情報なら買います」


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