薄命なる少年職人の道   作:シュヤリ

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第六話~どうか安らかに~

「ゴメン……僕が君に帝都ではあまり人を信じるなって一言言えばこんな事にはならなかったかもしれないのに……」

 

 何処からともなく、自身にとって大きめのフードの付いたマントをとランプを取り出すと、そのままでは届かないため鎧を召喚し、サヨを吊るしている手枷を外して床に下ろした。

 

「ううん……来てくれてありがとう……でもイエヤスが……イエヤスが……」

 

 ソロは全身に走る痛みで動けないサヨにマントを着せるとランプに火を付けた。

 

「うっ……この倉庫の中良く見えるとこうなってたのか……」

 

 部屋の全容が明らかになり、視覚による情報が入ったためソロは嫌悪感を露わにして中を見回す。そしてもう人間ではない者達を見てそっと手を合わせた。

 サヨは生き絶え絶えで無理をして這うようにイエヤスのいる牢屋に向かおうとするがそれをソロは止める。

 

「動いちゃだめだ。離れ離れになった仲間も居るんだね、僕が連れて来るからコレ持ってて」

 

 ソロはサヨに鉄弓と矢筒を渡す。どうしてこれが、とサヨが言おうとした所で察したソロが説明をする。

 

「僕は自分が作った物ならできてから一日くらいまで声が聞こえるんだ。あの後帝都の知り合いの所に行ったらこの家の事を聞いて、嫌な予感がしたから来て見たらビンゴだったみたいだ。この弓と矢筒はこの倉庫の横に捨てられてた。仲間はあの牢屋に閉じ込められてるんだね?」

 

 イエヤスの囚われている牢屋に向かおうとしたその時、大きな音を立てて部屋の扉が破壊され、二人の居る場所に飛来する。

 ソロは咄嗟に体をサヨに覆わせて扉から守る。扉はソロの背中に当たり、床に落ちてランプを潰した。

 ソロは鎧を装着しているため微動だにせず、それに守られていたサヨ共々無傷ではあった。

 

「見ろよ少年、これが帝都の闇だって……誰だお前?」

 

 外に居たのは四人。

 一人は長めの金髪で露出が高い服装に、髪の毛と同色の猫の様な耳と尻尾の生えた女性。

 一人はワイシャツの上にセーターを着て、背中に剣を装備している茶髪の少年。

 一人は首に刀を当てられている金髪に水色の服を着た少女。

 一人は少女の首に刀を当てている長い黒髪とノースリーブの黒い服とスカートに赤い手甲とネクタイを身につけた瞳の赤い少女。

 この四人の内ソロは三人見た事があり、サヨは二人を知っていた。

 

「なっ……サ……サヨ……どうしてこんな所をに……」

 

 サヨの姿と倉庫の中の地獄絵図を見て大きく動揺する茶髪の少年。ソロは無言で立ち上がり四人と向き合う。

 すると、少年はソロを突き飛ばしてサヨに駆け寄り体を起こした。

 

「タツミ……イエヤスが……イエヤスが……」

 

 サヨは震える手で右手の人差し指を入口近くの牢屋に向ける。中には身体中の黒い斑点が目立つ頭にバンダナを巻いた少年が口から血を流して倒れていた。

 サヨは外を見て狼狽する。自分にの体に傷を心に恐怖を植え付けた張本人、アリアの姿を見たからだ。そして大きく呼吸が乱れて過呼吸に陥ってしまう。

 ソロは牢屋の中の少年がイエヤスで、目の前にいる少年がタツミだと確信した。

 

「イエヤス……お前か……お前かあああああああぁ!」

 

 タツミは憎悪に満ちた眼でソロを睨みつけ、背中の剣を抜きソロの首目掛けて振るうが、その凄まじい剣速を持ってしても真紅の鎧に傷一つ付ける事すら叶わない。それでも何度も剣を鎧に叩きつけ甲高い金属の音が辺りに響き続ける。

 タツミがソロに斬りかかるのも無理はなかった。サヨはタツミと再会した際に鎧の人物に助けられて弓を作ってもらったとは言ったが、どの様な鎧かまでは言ってない。ソロが軍人が嫌いだと聞いて共に入隊するつもりだったタツミにはあえて詳細を言ってなかったことが災いした。

 結果タツミの眼から見たら密室で鎧を着たソロはサヨを傷つけた変質者にしか見えなかったのだ。

 

「落ち着けよ少年、私はその鎧の奴が無関係かは知らない。それでもその部屋の惨状を作り上げたのはこのお嬢ちゃんとその家族さ。

地方から来た身元不明の者たちを甘い言葉で誘い込み、己の趣味である拷問にかける」

 

「アリアさんが……」

 

 金髪の女性の言葉でタツミは剣を止めて視線を金髪の少女、アリアに向ける。

 

「護衛も黙っていたから同罪だ。それにここの婦人は捕らえた者を薬漬けにしてその様を日記を着ける悪い趣味がある。ソイツはもう助からない」

 

 赤い瞳の少女はタツミに言い放つと刀をアリアの首から外し、鞘に収めた。そして長くなりそうだとポケットから携帯食糧を取り出して口にした。

 

「そんな……嘘よ……私はこんな場所があるなんて知らなかった!タツミは助けた私とコイツ等とどっちを信じるのよ⁉」

 

 タツミの耳には誰の言葉も入らなかった。大切な者二人の惨状を見た事と、それを行ったのが自分を助けてくれた筈の一家だという事実のショックが大き過ぎた。しかしその時。

 

「タツミ……サヨは……そいつにやられた……俺も……そいつに騙された……俺は飯食ったら眠くなって……気付いたらココに入れられて……妙な薬打たれてこんなになっちまって……サヨは少し前に連れてこられて……そいつが……そのクソ女が痛めつけやがった!」

 

 命辛々、神が起こした最後の奇跡とでも言うように少ない命を燃やし、イエヤスは目を覚まし一つの真実を親友に伝えた。

 

「……何が悪いって言うのよ」

 

 アリアはタツミの前に踊りでて言葉を紡いだ。

 

「お前達は何の役にも立てない地方の田舎者でしょ‼家畜と同じ‼それをどう扱おうが私の勝手じゃない‼」

 

 その歪んだ悪魔のような表情にタツミが見たアリアの面影は無かった。それでも目の前の悪魔の口は止まらない。

 

「だいたいその女家畜のクセに髪がサラサラで生意気すぎ‼私がこんっなにクセっ毛で悩んでいるのに‼

だからお前よりも先に責めてあげたのよ‼むしろこんなに目をかけて貰って感謝されるべきだわ‼」

 

 アリアが身勝手な持論を述べている時、トラウマに囚われていたサヨの体が動く。思考がまともに働かず、身体中に走る激痛に顔を顰めるが体を起こして矢筒から一本の矢を取り出す。その動きはソロ以外の誰も気がつかない。ソロはサヨのやろうとしている事に気がついて体を支える。

 

「善人の皮を被ったサド家族か……邪魔して悪かったなアカメ……」

 

「葬る……」

 

 金髪の女性が詫びると、アカメと呼ばれた瞳の赤い少女は刀に手をかける。

 

「待て」

 

 それを止めたのは他ならぬタツミだった。下を向いていてその表情は分からない。

 

「まさか……またかばう気か?」

 

「いや……俺が斬る」

 

 タツミは剣に手をかけ、抜刀しアリアの腹部を斬り裂いたのと同時に、アリアの首を一本の鉄の矢が貫く。放ったのは当然サヨだ。しかしサヨはそれと同時に糸が切れた人形のように力が抜け気を失ってしまう。

 

「憎い相手とは言え迷わず殺すか……この二人」

 

 外で見ていた金髪の女性は事を見届けると顎に指を当ててポツリと呟いた。

 

「さすがタツミとサヨだ……スカッとしたぜ……!」

 

 今までとは比較にならないほどの量の血をイエヤスは口から流す。それは先ほどアカメの言ったように、もう助からないという事が見て明らかだった。

 

「イエヤス!サヨ!」

 

 仲間の異変にタツミは大声で二人の名を呼んだ。

 

「彼女は大丈夫、気を失っただけだ。でも彼は……最後の言葉、聞いてあげなよ」

 

 ソロはそう言うと、サヨを床に寝かせてイエヤスの閉じ込められている牢屋に近づいて扉の部分の鉄格子を掴む。すると掴んだ鎧の腕から炎が揺らめいたかと思えば、力任せに扉を引き抜いて壊した。

 タツミはそこから中に入りイエヤスを抱えて起こす。

 

「俺はもうダメだ……故郷の事は……任せたぜ……俺は先に逝って……お前らが来るの待ってるからさ……。

タツミ……サヨは……アイツにやられても……自分でやり返した……心は屈してなかったんだぜ……カッコいいよな……だから……このイエヤス様も……カッコ……よく……」

 

 イエヤスの天に向けた拳が力無く下ろされる。一人の少年の命の火が燃え尽きた瞬間だった。

 

「イエヤス……イエヤスっ!」

 

 タツミは親友の名を呼びかけた後もう目覚める事が無い事を悟り、絶叫に近い声をあげて泣いた。

 

「行こう」

 

「んー……あの少年と少女持って帰らないか。アジトは何時だって人手不足だ。運や度胸、才能もあると思わないか?

そこのお前、こいつ達連れてっていいだろう?」

 

 金髪の女性が踵を返してこの場を去ろうとするアカメを引き止め、ソロに問いかけた。

 

「……サヨの怪我をどうにかする術はあるの?」

 

「近くに知り合いの元医者の爺さんがいる。腕は確かだ」

 

「……百獣王化ライオネル、一斬必殺村雨。アカメって名前で手配書を思い出したけど、君達はナイトレイドだろう?

……顔を見た僕はどうする。口封じのために殺すかい?」

 

 ソロは腰に装備している黒い筒に手を伸ばし、アカメはその言葉に答えた。

 

「帝具について知識があるようだが、お前は標的ではない……斬る必要は無い。レオーネ、時間が掛かり過ぎている。連れて行くなら早く行くぞ」

 

「そういう事だ、お前には何もしない。行くぞ少年、死体は後で私が運んでやるから安心して着いて来い」

 

 レオーネと呼ばれた女性は倉庫の中に入りサヨを抱え上げてタツミに声をかける。

 

「何を……勝手な事を……サヨを下ろせよ!俺は……イエヤスの墓を……」

 

 タツミは未だ涙が止まらず、嗚咽を漏らしながら反論する。レオーネは力づくで連れて行こうとしたがそれを止め、タツミを諭したのはソロだった。

 

 

「ねぇ、君とサヨはやるべき事があるんだろう。死んだ仲間を悲しむなとは言わないけど、それは今の現状を何とかしてからでも出来るんじゃないの。今苦しんでるサヨを手当てしてからでも出来るんじゃないの⁉」

 

「……っ!……本当にサヨは助かるんだな」

 

「ああ、私達の仲間になってはもらうがな」

 

「……わかったよ。あんた達について行く」

 

 タツミは服の袖で涙を拭い、立ち上がって移動するアカメとレオーネの後について行こうとして一つ思い出したように言った。

 

「さっきは悪かった、そんでありがとう」

 

 タツミの言葉にソロは頷いて応じた。四人が去った所でソロは外に出て空を見上げる。すると月に照らされる幾つかの影が夜の帝都の空を駆けていた。

 

「暗殺集団ナイトレイドか……ラキさん情報通りかな。

……どうか魂は安らかに天に昇りお眠りください」

 

 ソロは倉庫を向いて合掌し、頭を下げ黙祷を捧げると鎧の翼を広げ帝都を後にした。


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