白銀の獣と深淵の蛇   作:鎌鼬

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原作開始

 

 

暖かい風が吹き、蕾が花を咲かせる季節の春。王都にあるエトワール学園ではこの日に入学式を迎えていた。王族が知恵を平等に学ばせることを目的に開かれたこの学園では平民七割、貴族三割の割合で在学している。平民の数が多いことに驚くかもしれないがそこは資金を前貸しで提供する奨学金制度を設けているので問題無かった。

 

 

平民の数が多いのだが力の関係として上位にあるのはやはり貴族だ。貴族というのは様々な功績を立てた結果、国が与えた称号で、それに似合う特権が与えられる。本来ならその特権は与えられた本人だけの物なのだが世間としてはそうは思わないだろう。

 

 

例えば、平民の子と貴族の子が争っていたとする。非は明らかに貴族の子の方にあり、周りの者もそれを知っている。だが、それでも悪とされるのは平民の子なのだ。理由は貴族の子を咎めることで貴族である親の怒りを買いたく無いから。明らかに贔屓なのだがこれはこの世界としては珍しいことでは無い。一部の例外を除き、貴族の方が上だと誰もが思っているのだ。

 

 

そんな学園の門を潜る生徒の中で、二人の似たような顔をした少年がいた。一人はこれからの学園生活に思いを馳せているのか明るいが、もう一人はまるで親の葬式でもあったかの様に暗い。

 

 

「学校楽しみだね!!アル!!」

「あーはいはいそーですねー」

「暗い!!暗いよアル!!そんなんじゃこれから楽しめないよ!!」

「ゴメン、ちょっと黙って?寝不足で頭ガンガンするから」

 

 

明るい方の少年はイルフォア、明るい茶髪に澄んだ碧眼の美少年と呼ぶに相応しい顔付きだ。暗い方の少年はアルフォア、イルフォアとは違いくすんだ茶髪に鈍い碧眼の美少年。名前や姿からわかる様に彼らは双子で、アルフォアの方が兄でイルフォアの方が弟になる。

 

 

イルフォアのテンションの高さに適当に対応しながらアルフォアは寝不足であまり働かない頭を必死になって働かせていた。

 

 

「(マジでエトワール学園に入学しちまったよ……どうしよ?このままだと『神魔学園』のストーリーに俺が巻き込まれる)」

 

 

アルフォアは前世の記憶を持って生まれた転生者だった。その中にはこの世界ーーー『神魔学園』の知識についてもある。

 

 

彼が転生したアルフォアは……原作においては中々に酷い扱いを受けていた記憶がある。イルフォアは原作においての男主人公、アルフォアはその双子の兄として登場している。選択肢の中に当然の様に『彼女よりもアルと行く』というのが存在するほどイルフォアはブラコンの気配をプンプンさせている。それに面白く無いのはイルフォアのヒロインだ。自分よりも慕われているアルフォアに嫉妬して強く当たるのは当たり前、酷いのは戦闘をアルフォアに押し付けてイルフォアとヒロインが先に進むというシーン。ルートによってはヒロインと和気藹々とするものもあるのだがそれでも最後にはイルフォアとヒロインを先に進ませるために囮を買って出るシーンにたどり着く。

 

 

つまり、どう頑張ったところでアルフォアにはバッドエンドしか無いのだ。公式からは『不幸な兄さん』とか呼ばれていたり、プレイヤーにも『はよ、兄さんのサイドストーリーはよ』とレスが立てられたりする程の不幸っぷり。

 

 

なのでアルフォアは原作に関わらない様に頑張った。イルフォアに冷たく当たることでブラコンを無くそうとしたが……何故か興奮した様子で迫って来るのでMの気質があるのでは無いかと思い止めた。

 

 

次に親の仕事を手伝うことを理由にして学園に行くのを断ろうとした。最早最終手段だが他に手が思いつかなったのでしょうがない。アルフォアとイルフォアの親は王都で料理屋をしているのでどちらかが店を継がなければならない。そこでアルフォアは店を継ぎたいから学園には行かないと言ったのだ。ちなみにこれは打算などでは無く、アルフォアの本心である。前世では料理人だった彼だが自分の店を持つ前に事故で死んでしまったのだ。だからこそ、今世でその夢を叶えたいと思っていたのだ。イルフォアは不満そうな顔をしていたが店を理由に出されてはしょうがないと閉口した。

 

 

これは行ける!!と内心でガッツポーズをとったアルフォアだがそれは親からアルフォアも学園に通えの一言で崩された。親からすれば店を継ごうとヤル気があるのは嬉しいのだが選択肢を狭めて欲しく無い、色んなことを経験して欲しいと思っているのだ。普通なら感涙物なのだろうがアルフォアからすればありがた迷惑に近かった。それでも親が本心から言っていると分かっているので何も言えなかったのだが。

 

 

こうしてアルフォアは原作通りにエトワール学園に入学する事になった……彼が知りうる未来は自分の意思で囮になるか、嵌められて囮になるかの二択。どう足掻いても絶望である。

 

 

「(どうするか……いや、他にも選択肢はあるんだけど無理ゲーなんだよなぁ……)」

 

 

一応、アルフォアの生存ルートはある事にはある。それは女主人公であるエリアスのアルフォアルートだ。エリアスを主人公で進めてアルフォアを好感度マックスで攻略した時だけアルフォアはエリアスを先に進めるために囮を買って出て、ラスボスを倒して戻ってきたエリアスを満身創痍ながら笑顔で出迎えるというシーンが存在する。そしてアルフォアの生存ルートはそれだけしかない。

 

 

つまり、アルフォアは死にたくなかったらエリアスを口説くか、エリアスに興味を惹かせて口説かれるしかない。

 

 

「(無理だよな〜アルフォアも顔は悪くなかったけど俺よりも顔のいいキャラ一杯いるし)」

 

 

公式発表の人気投票ではラスボスが不動の一位を獲得しているが、意外な事にアルフォアが主人公であるイルフォアとエリアスを差し置いて上位に入ることがあった。まぁ、その投票の理由はアルフォアの境遇に同情して『救われぬアルフォアに救いの手を!!』というのがほとんどなのだが。

 

 

「(やるしか、無いのかな……)」

 

 

正直に言ってこれは難しいどころの話では無い、亀が月を目指す様な話なのだ。それでも死にたく無いのでアルフォアはエリアスと知り合うことから始めようと気合を入れる。

 

 

すると、馬の甲高い鳴き声が聞こえて一台の馬車が現れた。馬車に刻まれているのは金の獅子の紋様。それが使うことが許されるのは王族だけなので、あの馬車に乗るのは自然と王族の関係者という事になる。

 

 

馬車が止まり、従者が扉を開ける。するとそこから現れたのは金髪の男子用の制服に身を包んだ中性的な顔付きの人物だった。

 

 

「(あれは確か……ミハイル・アルト・リッターか?)」

 

 

アルフォアはその人物に見覚えがあった。彼……いや、男装をしている彼女はミハイル・アルト・リッター、王族の分家でありながら騎士として生きることを決めた一族。彼女はイルフォアのヒロインなのだがパッチを使うことでエリアスとのルートが現れるらしい。

 

 

そしてミハイルに手を引かれて現れた人物を見て周りから音が消えた。無論、急に音が消えるなどありえない、この現象の正体は音が耳に入らない程にその人物に集中しているからだ。

 

 

現れたのは長い金髪をポニーテールで纏めた女子。顔付き、プロポーション、風格、どれを取っても人の物とは思えない。天の使いと言われても納得してしまいそうな程に完成された人間がそこにはいた。

 

 

「(すげぇ……アリアドネ・ファブール・クラウンだ……ゲームでも綺麗だと思ってたけど現実でも凄いな……)」

 

 

アリアドネ・ファブール・クラウン、この王国の第二王女にしてゲームでは未完成の状態のラスボスと正面から戦って引き分けるという戦いをして見せた超越者である。無論、彼女もイルフォアのヒロインの一人に数えられている。

 

 

アリアドネが馬車から降りるとミハイルが一言二言従者と話し、馬車がその場から立ち去っていく。それを合図に男女問わずに誰もがアリアドネに群がっていく。少しでも彼女の側に近づきたいという下心からの行動だった。アルフォアは事前に知っていたので堪えることが出来たがイルフォアでも顔を赤くしてポゥっとしている。

 

 

そして、二台目の馬車が現れる。しかし、その馬車は異質だった。まずは馬車を引いている馬、先のアリアドネとミハイルが乗ってきた馬車の馬よりも二回り以上は大きい。そして馬車を操縦している老人、彼の眉間には皺が刻まれていて一目で不機嫌だと丸わかりだった。さらに馬車に刻まれている銀の槍の紋様、アルフォアはそれを見た瞬間にこの馬車には誰が乗っているのか分かった。

 

 

馬車が止まり、老人によって扉が開かれる。中から現れたのは黒い髪の少年。彼もまた、馬車を降りるのと同時に老人と向かい合う様にして頭を垂れる。

 

 

そして、『白銀』が現れた。

 

 

誰かが息を飲む音が聞こえる。それほどまでにこの場を静寂が支配していた。アリアドネが現れた時とは異なる静寂。アリアドネの時には誰もが見惚れていたから静かだった。しかし、今は畏怖しているから静かなのだ。

 

 

髪、瞳に至るまで全てが冷める様な銀一色、男子用の制服に身を包んでいる物のその気配すら銀のように感じられる。

 

 

彼こそが、ラインハルト・ハイドリヒ。人類史において過去現在未来を通して頂点に立つと言われた男にして、この世界のラスボスの座に座る男だった。

 

 

誰もがラインハルトから一歩引いた。恐ろしいのだ、ただ佇んでいるだけなのに圧倒的な差を教えるラインハルトのことが。アルフォアが足元を見ると一歩引いていた。例え前もって知っていたとしてもラインハルトの重圧には耐えられなかったらしい。

 

 

そして、ここでアリアドネが動いた。誰もが止まっている重圧の中で、彼女だけがラインハルトに向かって歩を進める。ミハイルも割と平気そうな顔をしてアリアドネの後ろについて歩いている。

 

 

そしてアリアドネはラインハルトの前に立ちーーー周囲の目など気にしないで彼に抱きついた。

 

 

「ーーーえ?」

 

 

その声をあげたのは誰だかは知らないがその気持ちは誰もが抱いていただろう。王族であるアリアドネが、恐ろしい貴族らしき少年に突然抱きついたのだから。

 

 

「久しぶりだな、ラインハルト」

「卿も元気そうで何よりだ、アリアドネ」

 

 

仲よさそうに話している二人を前にして、周囲は違った静寂に包まれることになる。

 

 

 





イルフォア

『神魔学園』の男主人公。平民の出ではあるが人並み外れた才気を持っている。ゲームにおける彼のヒロインは十人。

エリアス

『神魔学園』の女主人公。イルフォアと同じ平民の出、だが父親が貴族で平民の母親は愛人だった。なので貴族の血を引いているが愛人の子なので父親の実家には認められていない。なお、生活費は父親のポケットマネーから出ている。ゲームにおける彼女のヒロインは十人。

アルフォア

イルフォアの双子の兄にして転生者。彼の原作での生存がたった一つしか無いことから若干投げやり気味になっている。現在の目標はエリアスと知り合うこと。

ミハイル・アルト・リッター

中性的な顔付きの男装少女。騎士の家系の生まれなので女としてでは無く騎士として育てられているので男装。決して本人の趣味では無い。イルフォアのヒロインの一人。そしてくっころ枠

アリアドネ・ファブール・クラウン

ラスボスであるラインハルトを除いた人類最強。髪や瞳の色、それに人体の黄金比と言われるほどのプロポーションから『黄金姫』と言われている。原作ではラスボス覚醒前のラインハルトと互角に戦っていたが、ラスボス覚醒されるとあっさり蹂躙された。イルフォアのヒロインの一人。やはりくっころ枠。


ラインハルトが原作通りに行動していなかった時点で原作がぶっ壊れています。なのでイルフォアヒロインがヒロインじゃなかったりします。


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