白銀の獣と深淵の蛇   作:鎌鼬

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救いの少女との出会い

 

エトワール学園の入学式が行われて一週間が経った。一週間も経てば生徒たちは知り合いになり、友人になるには十分過ぎる。だがその友情は平等では無いとアルフォアは考える。宛行われた教室である1−Aを見渡す。そこには交友を持った生徒たちが各々のグループで集まっているが……その実態は貴族と平民で分かれている。

 

 

基本的に貴族は貴族としか仲良くしない。何の特権も持たない平民と仲良くしたところで何も利益が出ないから。

 

 

基本的に平民は平民としか仲良くしない。貴族に近づけば何かあった時に変わり身として切り捨てられることが分かっているし、面倒ごとに巻き込まれるから。

 

 

だから貴族と平民は基本的には余程のことが無い限り交友を持たない……しかし、アルフォアの目の前にはその余程のことが起こっている。

 

 

「はぁ……まだ始まって一週間なのにもうフラグ立ててやがるよ」

 

 

アルフォアの目の前にいるのは弟のイルフォア、そしてイルフォアを囲うようにしている六人の女子生徒たち。彼女たちは原作で言う所のイルフォアのヒロインたち、まだ学園生活が始まって一週間というのにイルフォアはもう六人のヒロインのフラグを立てているのだ。

 

 

外側にいるアルフォアからすれば彼女たちがイルフォアに異性として好意を向けているのは一目でわかる。だというのに渦中のイルフォアはその好意に気づく素振りを全く見せない。主人公の定番の鈍角という奴なのだろう。アルフォアからしてみたら何か病気じゃないかと心配になってくる。

 

 

さらに心配の種と言ったら……彼女たちが全員貴族の子女だということだ。流石にイルフォアの兄であるアルフォアに権力を振りかざしてまで何かをするとは思えないのだが、原作では彼女たちは容赦無く権力を振るい、アルフォアをクラスで孤立させてちた。そしてイルフォアがそんなアルフォアを心配し、彼女たちが苛立ってアルフォアに当たるという負の循環が発生する。

 

 

「はぁ……巻き込まれる前に逃げるか」

 

 

現在は昼休憩の時間なのでアルフォアはイルフォアと六人の女子生徒に気づかれないようにこっそりと弁当箱片手に教室から出て行く。そして向かった先は屋上。この学園の昼食は学食で済ませることが主なのだがごく稀に持参してくる生徒がいる。持参してきた者も食堂で食べたりするのだが貴族に絡まれることを嫌ったアルフォアは誰もいないであろう屋上で食べることにしていた。学園生活が始まって一週間でボッチ飯である。

 

 

「……ん?」

 

 

誰もいないはずの屋上だったが、そこには奇妙な音が聞こえていた。まるで何かを叩いているような鈍い音、好奇心に負けてアルフォアがその音の元に向かって足を進める。するとそこにはーーー

 

 

「ったく……あいつら場所も時間も弁えずに迫ってきやがって……おかげでこっちはストレス溜まりまくりなんだよ……なんだよ、いきなりやって来て俺のものになれ〜とか君は僕の理想の人だ〜とか。あれか、あれなのか、頭の中お花が咲き乱れてるのか?笑えねぇよ、病院行ってこい。こっちは学ぶために学園に来てるのに邪魔してんじゃねぇよ……」

 

 

何やら赤髪の女子生徒が壁を殴りながら何かを呟いていた。見てはいけない物を見てしまったやうな気がしたアルフォアは足音を立てないように気をつけながら屋上からの脱出を試みる。

 

 

「っ!?誰!?」

 

 

しかし、それは人の気配を察知した女子生徒が振り返ることで叶わなかった。これによりアルフォアは女子生徒の顔を確認することになる。鮮やかな赤髪に負けん気の強い目付きの女子生徒はアリアドネには劣るものの、かなりの美少女であった。そして、アルフォアはこの女子生徒に見覚えがあった。

 

 

「……エリアス?」

 

 

そう、この女子生徒こそアルフォア唯一の生存ルートを確立するための女主人公のエリアスであった。しかしこのエリアスはアルフォアの知っているエリアスとは性格が違っていた。原作では誰にでも優しい彼女だったが先のように恨み辛みを吐きながら壁を殴るようなキャラでは無かったはずなのだ。それは原作と現実との誤差なのか。

 

 

そして不意に現れた自分の生存ルートを前にしてアルフォアは混乱する。近いうちに知り合い程度の間柄になりたいと思っていたのだがその機会が突然現れたのだから仕方ない。

 

 

どうしていいか分からずに黙っているとエリアスの方からクゥーっと可愛らしい音が聞こえた。エリアスが顔を赤くしてお腹を押さえる動作をしたことでその音の正体は明かされる。

 

 

「えっと……良かったら一緒に食べる?作りすぎて」

 

 

どうしたらいいか分からなくなったアルフォアは弁当箱を差し出しながらそう提案した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーはぁ、ご馳走様。美味しかったよ」

「お粗末様です」

 

 

三十分後、屋上に備え付けられたベンチに座っているアルフォアとエリアスの姿があった。どうやらエリアスは弁当を持ってくるのを忘れたらしく、アルフォアの提案を即決で了承した。本当ならばこの空になった弁当箱はイルフォアの分も含めて二人前だったのだが彼はヒロインたちと学食に行ってるだろうから問題ない。

 

 

「それって君のお母さんが作ったの?」

「いや、俺の自作だよ」

「うそっ!?僕よりも上手って……」

 

 

アルフォア作の弁当の味にショックを受けているエリアスはアルフォアの知っている原作通りのエリアスだった。それならさっき見た彼女の姿は何なのだろうかと疑問を抱く。

 

 

「さっきのアレは何だったの?良かったら相談に乗るけど」

「え……始めて会った人に相談するってのはちょっと……」

「それ言ったら始めて会った人の弁当がっつり食べてたよね?」

「うぐっ!!!!」

 

 

痛いところを突かれたと大袈裟なリアクションをするエリアスを見てアルフォアは笑う。世界を救う勇者様がこんな普通の少女にしか見えないのだから。

 

 

「誰にも言わないさ……いう相手もいないし」

「……なんか、ゴメンね?」

「ううん……俺のコミニュケーション力が低いのが問題だから……」

 

 

何故かエリアスの悩みを聞くはずがアルフォアの悩み相談になりかけている。実際のところアルフォアのコミニュケーション力は低いわけではない。貴族の子女と付き合いのあるイルフォアの兄だからという理由で避けられているだけなのだ。

 

 

そんなアルフォアの姿を見て空気を変えようとしたのか、エリアスは自分の悩みについて言うことを決めた。

 

 

「僕ね、この学園には勉強して、良いところに就職しようと思ってるんだ……それなのに俺様系の同級生やエリート系の上級生が来て……僕の周りで言い争いして、勉強に集中出来ないし、友達作りたいのにそいつら貴族で周りから避けられるし……ストレスが溜まって溜まって……」

「うわ……」

 

 

自分の悩みを告げてテンションがみるみる下がっているエリアスにアルフォアは思わず同情してしまった。話を聞く限りではエリアスは何もしていないように思える。それなのにどんどんエリアスの攻略キャラがやって来て、それがエリアスのストレスになっている様なのだ。

 

 

気持ちは分からないでも無い。突然現れた男たちが自分の物だと言って取り合いをしているのだ。外から見れば逆ハーレムとか騒がれるだろうが本人からしてみれば迷惑でしか無い。しかもそれが貴族ともなると平民出身のエリアスでは強く言えないのだろう。

 

 

「俺でよければいつでも愚痴聞いてあげるから、ね?元気出して」

「うん……」

「弁当、また作ってきてあげようか?何か食べたいものある?」

「……ハンバーグ」

 

 

生存ルートの主人公と知り合えたはずなのに、何故かカウンセリングみたいなことをしているアルフォアであった。

 

 

 




アルフォア

現在、男主人公のハーレムのせいで周りから避けられてボッチ状態。学園生活開始から一週間でボッチ飯を始める。唯一の救いである女主人公のエリアスと知り合えたが友人よりも同類みたいな関係になっている。


エリアス

原作における女主人公。一人称が僕の明るい性格の美少女であるが……彼女に一目惚れした貴族たちのいざこざでストレスがマッハ。ストレス解消のために壁パンしているところをアルフォアに見つかることになる。好物はハンバーグ。地味に自分よりもアルフォアのほうが料理が上手いことにショックを受けている。


三話にして主人公たちが登場しない。でもこれは必要なことなのよ……


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