白銀の獣と深淵の蛇   作:鎌鼬

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月下の誓い

 

 

「あ、アル!!どこに行ってたのさ!!」

 

 

エリアスとの昼食から帰るとイルフォアが半泣きの状態でアルフォアに抱きついてきた。原因はイルフォアのヒロインたちだろう、授業が始まる前だというのにギャアギャアと姦しい六人を見て理解してしまった。

 

 

口を出したところで噛みつかれて余計に喧しくなるだけなのは目に見えてわかる。なのでアルフォアは抱きついてきたイルフォアを騒いでいる六人に向かって突き飛ばす。そうすることでイルフォアは六人とぶつかって転倒、主人公お約束のラッキースケベを発動させる。そして六人の注目は一気にイルフォアに集まることになる。

 

 

「(ハンバーグがいいって言ってたよな……だったら炭水化物にはパンと、野菜は……マカロニサラダ、それとポテトサラダに……)」

 

 

裏切ったなぁ!!と叫んでいるイルフォアのことを華麗にスルーしてアルフォアは明日のエリアスにあげる弁当の内容を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時間が経って夜、エトワール学園は地方から来る生徒のために、それに協調性を育むためにという理由から全寮制になっている。二人部屋、三人部屋と二種類あってエリアスの部屋は二人部屋だった。

 

 

「(アルフォア君か……お弁当美味しかったな……)」

 

 

ベッドの上に寝転びながら考えるのは昼休みに出会ったダウナー系の同級生のことだった。

 

 

彼女のことを自分の物だと言ってくる貴族たちに絡まれて溜まってしまったストレスを発散させるために壁パンをしているところを見つかり、何故かそこから一緒に食事をすることになった。話をしているとどうやら彼も似たような状況で、自分がしている気苦労を共感してくれた。そしてその中で明日も弁当を作ってくれることを約束してくれたのだ。

 

 

「(またあの美味しいお弁当を食べれるんだ……うへへ〜)」

 

 

またアルフォアの弁当を食べられると思うと頬がにやける。彼の料理は悔しい事だが自分よりも美味しい。しかもただ美味しいだけではなく、美味しく食べて欲しいという気持ちがこれでもかと言うほどに込められているのだ。食べる人のことを思って作られる料理を食べられることを嬉しく思うのは当然のことだ。

 

 

「エリアス、機嫌いいね」

 

 

そんなエリアスの様子を見て読んでいた本から顔を上げたのは同室で平民の少女レムだった。いつも疲れた顔でベッドに転がるエリアスが今日に限って嬉しそうにしていることを疑問に思ったのだろう。

 

 

「あ、分かる?分かっちゃう?」

「うん、この一週間まるで徹夜明けの憲兵さんみたいな顔だったから」

「そんな顔だったの!?」

 

 

この一週間自分がどれだけ酷い顔をしていたのか同居人から明かされてショックを受ける。

 

 

「今日ね、実はお友達が出来たんだ。あ、いつも絡んでくる連中じゃないよ?それで明日お弁当を作って来てくれるって!!」

「そう、良かったね」

「そう言えばレムも今日は機嫌良さそうだね〜?何かあったの?」

「同志を見つけた」

「同志って……」

 

 

キラキラとした目になるレムに少しだけエリアスは引いてしまう。レムの言う同志というのは恐らく読書についてのことだろう。レムは本を読むためにこの学園に入学したと豪語する程の読書家だ。ちなみに将来の夢は王立図書館の司書だとか。

 

 

そうして自分たちが出会った彼らの話をしている内に夜は更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「機嫌良さそうだな、カール」

「いや何、今日は同志を見つけたものでね」

「それは喜ばしいことだな」

「カールと同じ趣味の人ですか……」

 

 

エトワール学園に建てられている時計塔、その最上部に当たる屋根の上に人影があった。

 

 

一つは黒髪の影法師、カール・クラフト。一つは銀髪の白銀、ラインハルト・ハイドリヒ。一つは金髪の姫、アリアドネ・ファブール・クラウン。一つは男装の騎士、ミハイル・アルト・リッター。

 

 

普通の生徒たちが入れないような場所で彼らがしているのはーーー酒盛りだった。各々が白磁の陶器を持ってそこに澄んだ酒を入れて飲んでいる。

 

 

「それにしても、ここは良いところだなぁ。人の営みが溢れていてまるで世界の縮図のようだ」

 

 

時計塔から景色を眺めながら、ラインハルトは上機嫌にそう言った。

 

 

人々の交友があり、人々の溝があり、善意があり悪意がある。ラインハルトが世界の縮図だと言ったのも頷けることだった。

 

 

「ハイドリヒ卿は本当に人が好きですね」

「あぁそうだ。俺は人を好いている」

 

 

ミハイルが呆れ気味に呟いた言葉をラインハルトは肯定した。

 

 

「人族が好きだ、エルフ族が好きだ、獣族ドワーフ竜族……この世界に生を受けている人間を俺は好いている。あぁ愛い、愛いよなぁ貴様ら」

盧生(バカ)と薬中の合わせ技と来たか」

 

 

手を広げて好意を語るラインハルトを軽く流しながらカールは酒を飲む。ラインハルトとは七年程度の短いと言える付き合いなのだがそれでも彼の心内を理解出来る程の間柄になったと自負している。

 

 

「愛しているとは言わないのだな」

 

 

そんなラインハルトに疑問を投げたのはアリアドネだった。狂気とも言える好意を語るというのに愛とは言っていないことに気づいたのだ。

 

 

「それはそうとも。俺の愛は狭いからな。向けられるのは領地の民と家族に部下、それとお前たちだけだよ」

 

 

好意と愛情には絶対的な壁が存在する。好意ならば誰にも抱けるだろうが愛情を向けられる相手は限られているのだ。ラインハルトはそれを理解しているから人間誰もを愛しているとは言わない。

 

 

「それにしても、エリアスとアルフォアが接触したか……」

「それは確か、カールが前に言っていた話のことですか?」

「然り、エリアスが誰を選ぶのか気にはなっていたのだがアルフォアを選ぶか……私としてはこのまま彼と連れ添って欲しいものだがね」

 

 

カールはこの世界の流れを知っている。それはつまりアルフォアがどういう結末を迎えるのかも知っているということだ。アルフォアの未来はほとんどが死を持って幕を閉じる。それを快く思っていないカールとしてはエリアスと結ばれて生きて欲しいと願うのは当然のことだった。

 

 

「そこは彼の努力次第だ。何かしらの縁があれば手を貸すのは吝かでは無いが今の俺たちは無関係だから、下手に手を出したところで怪しまれるのが関の山だ」

「分かっているのだがね……私は彼ほど報われない終わりを迎える者はいないと思っているのだよ」

「そこまで酷いのか?」

「十中八九彼は死ぬ」

「うわぁ……」

 

 

アルフォアの未来が暗すぎることを知ってミハイルは縁が出来たら優しくしてあげようと密かに誓った。

 

 

「いずれにしてもだ」

 

 

ラインハルトが陶器を掲げる。その先にあるのは地球とは違い二つある満月。

 

 

恐怖劇(グランギニョル)は始まりを告げた。ならばどの様な結末になろうとも段幕が降りるまでは酔い痴れる様に踊り続けるだけだ……ま、俺の愛する奴らに危害加える様なら舞台破壊するけどな!!」

「ふぅ……まったく、君はブレないね」

「だかまぁ、ラインハルトらしいといえばらしいのだがな」

「えぇ、そうですね」

 

 

カールが、アリアドネが、ミハイルがラインハルトに続いて月に向かって陶器を掲げる。

 

 

「ーーー愛する者を守る為に」

「ーーー敬愛する友を守る為に」

「ーーー我が国の民を守る為に」

「ーーー従うと決めた者を守る為に」

「「「「乾杯」」」」

 

 

各々が守ると決めた者を守ると言う誓いを、彼らは月に誓った。

 

 

 

 

 

 





アルフォア

エリアスに作る弁当の中身を考えてる。イルフォアを突き飛ばした行為はヒロインたちからサムズアップされることになる。

エリアス

アルフォアの弁当が楽しみでニヤニヤしてる。なお、逆ハーレム状態の時は顔が死にかけていたらしい。

レム

エリアスの同居人で読書家。成長が遅いらしく色々とちんまい。最近同志ができてご機嫌な模様。イルフォアヒロインではない。

ラインハルト・ハイドリヒ

酔った勢いで人間好きダァ!!とカミングアウト。だけどただ好いているだけなので守ろうとは考えない。愛情〉好意なので愛する者に危害を加えられると容赦しない。現在の愛情対象は領地の民と部下とカールたち。

カール・クラフト

ラインハルトのごちゃ混ぜ理論に苦笑いを浮かべる。彼個人としてはエリアスはアルフォアとくっ付いて欲しい。なお、最近同志を見つけたらしくニッコリしている。

アリアドネ・ファブール・クラウン

カールからこの後の流れを聞かされている為、魔王だろうが魔神だろうがかかってこいヤァ!!状態になっている。

ミハイル・アルト・リッター

規格外な人間たちに囲まれているので色々と気苦労している様に見えてちゃっかり楽しんでいる。最近の悩みは女なのに同性からラブレターが届くこと。


イルフォアを主人公で始めるとエリアスヒロイン、エリアスを主人公で始めるとイルフォアが攻略対象になります。だけどこの世界ではそんなことは起こらないし起こらせない所存です。


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