「うぃっす、持ってきたよ」
「待ってましたぁ!!」
この世界の女主人公であるエリアスとの邂逅を果たした翌日、アルフォアは弁当片手に屋上にやって来た。エリアスは先にやって来ていたらしく、何故かベンチの上で正座をしている。
「(西洋風の世界なのに正座って……そう言えばゲームでの叱られるシーンではイルやエリアスたちは正座してたっけ?それに普通に米の流通とかしてるし)」
和洋の入り混じった文化に少し違和感を感じるが元日本人のアルフォアとしては日本を少しでも感じられるところがあるのは嬉しいので無視することにする。
そして気づく。エリアスの目が弁当に釘付けになっていることに。
「……」
試しに弁当を左側に移動させてみる。エリアスの目は左に向く。
弁当を右側に移動させてみる。エリアスの目は右に向く。
「(……なんか、野良犬に餌付けしてるみたいだなぁ)」
余程アルフォアの弁当が気に入ったのかエリアスは弁当ばかりに目がいく。それを見ているうちにエリアスの頭と腰の辺りから犬の耳と尻尾が生えている様に見えてしまったアルフォアのことを誰が責められようか。ちなみにエリアスの尻尾は千切れんばかりにブンブン振られていた。
「ご注文のハンバーグですよ〜っと」
「ヒャッハー!!」
弁当を差し出すとエリアスは飛びかかりそうな勢いで弁当を受け取った。
「(犬だな)」
アルフォアの中でエリアスは犬ということになったようだ。
「はぁ〜ご馳走様〜」
「お粗末様」
アルフォア作の弁当を綺麗に完食したエリアスは満足そうにベンチの背もたれに身体を預けていた。それによって胸が強調されるのでアルフォアはそれに目を向けないようにして持参してきたお茶を木製のコップに注ぐ。
「(イルのヒロインたちの胸が大きいからそこまで注目されてなかったけどエリアスの胸も平均以上あるんだよな……)」
訂正、確りと確認していたようだ。それでも目を向けていない辺り、ムッツリというか紳士的というか。
「ん、お茶」
「あ、ありがと」
お茶の入ったコップを口に運ぶ。保温機能が全くない水筒に入れてきたせいで緩くなっているがほれでも食後の余韻に浸らせてくれる。こうして晴れた日にのんびりとお茶を飲めるとどうしてか気が緩くなる。
「はぁ〜……こうして美味しい物を食べてお茶を飲んでるだけで幸せになれるだなんて……」
どうやらエリアスも似たような感情だったらしい……いや、目元に薄っすらと光る物が見えている辺りアルフォアよりも感傷に浸っているようだ。
今日もエリアスのお悩み相談をするかと口を開こうとすると屋上の扉が開かれる。
「ーーーむ、先客か?」
現れたのは入学式の日に見た『白銀』、この世界のラスボスとして登場する公式が認めるチートキャラクターのラインハルト・ハイドリヒだった。
「(アイエェェェ!?ナンデ!?ラインハルトナンデェ!?)」
顔には出さないようにしていたが内心で忍殺語で叫んでしまったアルフォアは褒められるべきである。現代日本風に言うなら食休憩中に突然目の前にロケットランチャーを担いだ兵士が現れた様なものだ。もっとも、アルフォアからしてみればロケットランチャーどころか核兵器レベルなのだろうが。
「済まんな、どこか落ち着ける場所を探していたのだがどうやら邪魔をした様だ」
「あ、大丈夫ですよ。それにまだ場所は空いていますし」
「そうか、それでは失礼させてもらおう」
「(エ、エリアスさぁぁぁぁぁぁあん!!!!)」
「ん?アルフォア君、どしたの?」
「……ナ、ナンデモナイヨ……」
カタコトになりながらアルフォアはチラチラとラインハルトの方に目を向ける。今は違うとは言っても未来で戦うことになる相手が側にいるのだ。アルフォアの警戒は間違いでは無い。
そのアルフォアの視線に気づいていないのか、それとも気づきながら無視しているのか、ラインハルトは初対面のアルフォアでもわかるくらいに上機嫌な様子でーーーピンクの可愛らしい包みの弁当を取り出していた。
「なんでや!!」
「むっ!?」
「うわっ!?」
ラインハルトのイメージを見事にぶち壊してくれる弁当の登場に思わずアルフォアは突っ込んでしまった。それによってラインハルトとエリアスの視線がアルフォアに集まるのだが彼にとってはそんなことは今はどうでも良かった。
「なんでそんな可愛らしい弁当やねん!!」
「あぁこれか?これは婚約者が作ってくれた物でな、朝から楽しみにしていたのだよ」
「婚約者ってことは……もしかして貴族の方でしたか?」
「そこまで畏まる必要は無い。公式の場ならいざ知らず、ここには私と卿らしかいないのだ。なら堅苦しい礼儀など不要だろう」
アルフォアとエリアスの態度を気にしていない様子のラインハルトにアルフォアの中でのラインハルト=ラスボスのイメージは完全に粉砕された。ショックを受けたわけでは無いが……何というか、知ってはいけない物を知ってしまった様な気持ちになってしまう。
「へぇ、貴族にしては珍しい考えですね」
「それについては自覚しているとも。ここに来るまでは貴族らしからぬ生活をしていたからな、その影響だろう」
ラインハルトが弁当の包みを開いて蓋を開ける。その中身は少量ずつではあるが種類が豊富なおかずと白米が詰められていた。不慣れなのか所々に焦げた痕が見える物の丁寧に作られた料理を見てアルフォアはこの弁当を作った人はラインハルトに美味しく食べて貰いたくて頑張ったんだろうと感心した。
イルフォアのヒロインにも弁当を作ってくる者がいるがそれは自己流のアレンジを加え過ぎた物でもはや別の料理になってしまっている。その事を考えると少し失敗しているこの弁当が恐ろしくまともな物に見えてしまうのが恐ろしい。
「それでは、いただこう」
そうしてラインハルトは備えられていたフォークを手にとって弁当を食べようとする。ラインハルトがこの弁当にどんな評価を下すのか気になったアルフォアとエリアスは固唾を飲んで見守っている。
そして少し焦げたミートボールがラインハルトの口に入りそうになった時だった。
「エリアス!!」
「エリアスさん!!」
「エリアスちゃん!!」
「エリアスゥ!!」
慌ただしく屋上への扉が開けられる。それにラインハルトは驚いたのかミートボールを落としそうになるが地面に着く寸前でキャッチすることに成功する。それを見て安堵の溜息を吐き、やって来た人物を見ると四人の男子生徒だった。
学園指定の制服を着崩した不良風の男子に皺一つ無い制服に身を包んだ眼鏡の優等生風の男子、一見したら少女と見間違う容姿の男子と何故か花を胸ポケットに差し込んでいる男子。
それを見てアルフォアは彼らがエリアスの攻略キャラたちであることを思い出した。
「(えっと……不良のリョウに生徒会長のジース、エルフとのハーフのキクリ、王族の遠縁のニルスだっけ?)」
エリアス主人公でゲームをプレイするときにはアルフォア一択だったので他のキャラクターは説明書に載っていた説明文程度の事しか知らなかったが名前だけは覚えていたようだ。他にはアルフォアとイルフォア、そして隠しキャラとしてラインハルト、それと名前が思い出せない三人がエリアスの攻略キャラとして存在していたがそんなことは今は思い出している暇は無かった。
どうやら昼食をエリアスと一緒に取ろうと思っていた彼らだったがエリアスが教室にいなくて捜索、そして屋上にやって来たらしい。目的のエリアスを見つけると彼らはエリアスの目の前で言い争いを始めた。その議題は誰がエリアスと二人っきりで昼食を食べるのかというもの。残念ながらエリアスはすでに食べ終わっているのでそれは叶うことは無いだろう。
ラインハルトは彼らの言い争いが耳障りなのか、見るからに不快そうにしている。アルフォアとしてはラインハルトの怒りを買わないようにしたいがそれよりもエリアスのことが気になった。
エリアスは四人が現れた瞬間に……目から光を失っていたのだ。今は愛想笑いをしているのだろうけど目に光が無いのでかなり怖い。だが言い争いに夢中になっている彼らはその事に気づいていないようだった。
「あの〜、彼女がちょっとよろしく無い様ですけど……」
ここにいる四人は貴族という平民であるアルフォアとは身分が違う人間なので出来る限り下手に出て何とか穏便に済ませようとするアルフォア。出来るのなら四人が立ち去る様に誘導し、それが無理なら言い争いだけでも止めようと考えていた。
「あぁ!?邪魔だ!!」
「グェッ!!」
そんなアルフォアのことが気に食わなかったのかリョウが振り払う様に腕を振るう。そのときに握られていた拳が裏拳気味にアルフォアの顔に当たってしまう。無警戒のところに一撃を貰ってしまい、かなり力を込められていたそれを貰ったアルフォアは吹き飛ばされてしまう。
このまま屋上の床に倒れると思われたアルフォアだったがその先に座っていたラインハルトにぶつかって床に倒れることだけは免れる事になる。
「ーーー」
その代わりに、ラインハルトの弁当が床にぶちまけられる事になったが。
「あーーーす、すいません!!」
床にぶちまけられている弁当を見て何をやってしまったのか理解したアルフォアは許しを請うために顔の痛みを忘れてラインハルトに向かって土下座をする。物語終盤ならば兎も角今のアルフォアではラインハルトの怒りを買えば一秒も持たずに殺されることが分かっているからだ。
頭を下げているのでラインハルトの様子は分からないが服の擦れる音から立ち上がったことがわかる。ここで死ぬかもしれないという恐怖に身体を震わせながら頭を下げていたアルフォアをラインハルトはーーースルーした。
「え……?」
ラインハルトが通り過ぎたことに驚きアルフォアが頭を上げる。ラインハルトが向かっていった先にあるのはーーー言い争いを続けている四人の姿が。
「ーーー卿よ」
「あぁん!?」
ラインハルトがリョウに向かって声をかけ、それに苛立たしげな声をあげならリョウが振り向く。そしてーーーラインハルトがリョウの腹を蹴たぐった。
ズドンと重たい音が聞こえてリョウがその場で崩れ落ちる。呻き声一つ上げずに痙攣しているところを見るに相当な威力の蹴りだった様だ。
リョウを一撃でのしたラインハルトを残された三人が目を限界まで見開いて見る。
「ーーー卿ら、あまり私を不愉快にさせるなよ」
ゲームというフィルターを通してしか知らないアルフォアでも、今のラインハルトが怒っていることぐらい簡単に気付くことができた。
アルフォア
エリアス=ワンコの方程式を手に入れた。突然現れたラインハルトにおっかなびっくりしていたがラインハルトの弁当を見て色々と吹っ切れた。
エリアス
犬属性を入手。アルフォアの料理を食べてご満悦だったが原作での彼女の攻略キャラたちが現れたことでレイプ目になる。
ラインハルト
人の目が鬱陶しかったので屋上で昼食を取ろうとしてアルフォアとエリアスの二人と出会うことになる。婚約者お手製の弁当を食べることを楽しみにしていたがエリアス攻略キャラたちの被害で弁当がぶちまけられて激おこモードになる。
攻略キャラ四人
エリアスしか目に入らなくなってしまって踏んではいけない獣の尻尾を踏んでしまった。彼らはこの先生きのこることが出来るのだろうか?
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