白銀の獣と深淵の蛇   作:鎌鼬

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同志と交友

 

 

アリアドネの弁当騒動から一月が経った。始めリョウはラインハルトへの復讐を考えていたらしいがラインハルトの婚約者がアリアドネであるとジースとキクリから知らされると顔を青くして口を閉ざした。幾ら位の高い貴族だとしても国の頂点に立つ王族には一部の例外を除いて逆らえないからだ。

 

 

アルフォアとエリアスはその後ラインハルトと交流を重ねてタメ口で話せる程に打ち解けている。アルフォアはラインハルトがこの世界のラスボスだと知っていて戦々恐々としていたが、自分の知っているラインハルトとは違う事に気がついて、このラインハルトならばきっとラスボスにはならないと判断したのだ。

 

 

そして今の時刻は放課後、学園にある図書室ではエリアスの友人のレムが本を読んでいた。読んでいる本のタイトルは『超越者解剖書』というもの。

 

 

この世界における超越者とは文字通りに超えた者を指す。何かしらのショックを受けたり経験を積むことで武芸者で言う所の壁越えを果たすのだ。この学園にも超越者は存在する。一人はアリアドネ、王族という血筋はどう言った訳か超越者に至りやすい。そしてラインハルト・ハイドリヒ。壁越えを期待されている人物として一番に挙げられる名前はミハイル、彼女は良くアリアドネとラインハルトと模擬戦をしている姿が目撃されているので近いうちに超越者として至ることになるだろう。

 

 

そして、今挙げた者たちは武力……闘う力の超越者たちだ。レムの知り合いの中には知識での超越者に至った者もいる。

 

 

「やぁ、こんにちわ」

「ん、こんにちわカール」

 

 

それがレムに挨拶をしてきた黒髪の影法師の様なイメージを抱かせる少年。彼の名はカール・クラフト、知識の超越者にしてレムの同志である。

 

 

「何を読んでいるのかね?」

「『超越者解剖書』、なかなか面白い」

「あぁそれか、その本なら最後の方に乗っている物が面白い。ネタバレになるから詳しくは話せないが楽しみにしてるといい」

「今二度目だから問題無い。カールが言っているのは強制的に超越者として至らせる実験のこと?」

「然り、その本によるとーーー」

 

 

この様に、カールは本のタイトルを教えただけで話題を振ってくれるのだ。話すことが少ないレムでもこれでは話さざるを得ない。実はレムは話すことが嫌いでは無いのだ。しかしレムは本ばかりを読んでいる為、話せる話題となると本のことしか話せないのだ。エリアスとは彼女の方から話しかけてきたこともあり友人にはなれたのだが彼女以外にレムには友人がいなかった。なので図書室に籠って本を読んでいることが多かった。

 

 

そんな時、レムはカールと出会った。そのキッカケはレムが読んでいた本にカールが興味を引かれたこと。カールはすぐに読み終えたら貸して欲しいとレムに頼み、彼女の側で本を読み始めた。その時にカールが読んでいた本は医学書、さらに隣には様々なジャンルの本が節操無しに積み重ねられていた。

 

 

そのカールの姿を見た瞬間、レムは同志に出会えたと悟った。

 

 

そこからレムはカールに話しかけた。レムの話せる話題は本のことばかりだったがカールは淀みなくその話題について来てくれた。

 

 

カールは間違いなく天才だ。身体能力こそ並よりも上程度の物だが魔導など知識が物を言うジャンルに関しては誰よりも上を行く。レムがカールのことを知識の超越者だと言った時にもカールは笑いながら肯定していた。

 

 

カールと他には誰もいない図書室で本の話をしていると大きな鐘の音が聞こえた。これは下校時刻になったことを報せる鐘で、あと十分もすれば学園は閉められるだろう。

 

 

「もう時間かね?やれやれ、楽しい時間は過ぎるのが早いな」

「話し足りない」

「それは私も同じだよ、残念だが続きは明日にしよう」

 

 

読んでいた本を戻してレムとカールは図書室から出て行く。この後二人はそれぞれの寮に向かうのだが会話らしい会話はここでは無い。レムの歩く速度にカールが合わせて途中までの道を一緒になるだけだ。

 

 

だけど、レムはこの時間が好きだった。カールと本のことについて話をしている時間も好きだがその時間はワクワク出来るから好きなのだ。カールと二人で歩く時間は、カールと時間を共有していると実感して心が暖かくなるから好きなのだ。

 

 

それが恋と呼べるものなのかはレムには分からない。だけどこのカールとの繋がりは壊したくないと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーラインハルト、少しよろしいか?」

「どうした?」

 

 

寮の一室、カールはレムと別れて自分の部屋に戻り先にいたラインハルトに真剣な面持ちで話しかけた。何かあると理解したラインハルトは寝転がっていたベッドから身体を起こしてカールを見る。

 

 

「来週の課外授業については知っているかね?」

「あぁ、郊外に出て魔物を狩ることで実戦経験を積むってあれだろ?」

 

 

カールの言う課外授業とは郊外で行われる実戦経験を積む為の授業。この世界では魔物が跋扈している。武器や魔導によって人の方が優位に立っているのだがそれでも命を奪われる可能性はある。平民であろうと貴族であろうと将来的には魔物と関わるので今の内に命のやり取りを経験させようとしているのだ。

 

 

「その日にゲーム内ではイベントが起こる。本来ならそこでは現れないはずの魔物が現れるのだよ」

「はぁ?事前に教師が調査をしてるだろ?そんなことあり得るのか?」

「無いとは言い切れぬだろう。私としてもそんなイベントが起きないことを祈っているが……もしあったとしたら、この世界はラインハルトがラスボスとして進まぬことを決めたとしても原作通りにことを運ぶつもりだと分かる」

「面倒だなぁおい」

 

 

カールが心配していることは分かるのだがラインハルトは今日一日の疲れがあったのかまたベッドの上に寝転がる。肉体的にではなく精神的に疲れているのだ。

 

 

ラインハルトは人目がある時には貴族の振る舞いの演技をして過ごしている。これはラインハルトが辺境伯の爵位に相応しい人間であると周りに知らしめる為にやっている。その結果平民たちからは畏怖の混じった目で見られるのだがラインハルトとしてはそれは望んでいた事なので問題なかった。問題だったのは貴族で、彼らはラインハルトの事を明らかに侮蔑した目で見ていた。しかも陰口付きで。貴族からの注目の方がラインハルトの精神を疲弊させていたのだ。

 

 

「兎も角、来週には気を付けてくれよ。君が負ける事など断じてありえんがそれでも心配なものは心配だからな」

「さんきゅ」

 

 

自分の事を心配してくれているカールに礼を言うと部屋の扉がノックされた。ノックの音が聞こえるとラインハルトは即座にベッドから飛び起きて衣服の乱れを整える。

 

 

「ラインハルトさ〜ん。エリアスで〜す。アルフォア君と料理持って来ましたよ〜」

「入りたまえ」

 

 

カールが立ち上がって扉を開けるとそこには両手に大皿を持ったアルフォアとエリアス、そして二人の後ろでダブルピースをしているアリアドネと照れながらダブルピースをしているミハイルの姿があった。

 

 

「……何をしているのだね、後ろの二人」

「えっ?……うわっ!?」

「えっ!?誰!?」

「美味しそうな匂いがしたので来てみた!!」

「アリアドネ様に無理矢理やらされてます……」

 

 

どうやらミハイルはアリアドネに無理矢理やらされているようだ。しかしこれは想定外の事態である。元々アルフォアとエリアスとの四人で食事をする予定だったのにアリアドネとミハイルの到来、アルフォアの持って来た料理は多くても五人前でとてもでは無いが足りそうに無い。だからと言ってアリアドネ達を追い返すのも失礼になる。

 

 

どうしたものかとラインハルトに相談しようとカールが振り返るとーーー

 

 

「む?何をしているのだカール。手伝いたまえ」

 

 

エプロンと三角巾を装備したラインハルトがいつの間にか作っていた料理の盛られた皿を持って立っていた。

 

 

「……何をしているのだね」

「見てわからぬか?アリアドネとミハイルの気配を感じたので追加の料理を作っていたのだよ」

「へ〜ラインハルトさんも料理出来るんだ」

「あぁ、アルフォアのように凝った物は作れないがな」

「何?ラインハルトが料理しただと!?これは食べなければ!!」

「ハイドリヒ卿の料理ですか……いただきます」

「えっ!?いつの間に!?」

「二人に関してはこういう人物だと割り切った方が楽だよ、悩めば悩むほど面倒になるからね」

 

 

こうしてラスボスとその親友、女主人公に男主人公の兄、王国の王女とその護衛という統一性の無い肩書きを持つものたちは交友を深めていった。

 

 

そして、最初のターニングポイントがやって来る。

 

 

 





レム

本を読むことばかりしていたので流行などに疎く、話したとしても本の話題しか話せないので人付き合いが苦手。そんな時に同志(カール)と出会う。フラグは建設途中?

カール

同志と出会えて思わずニッコリ、小動物系なレムだからか世話を焼く事が多い。そのせいか懐かれている。

アルフォア

ラスボスと付き合い始めてから胃が痛むことが……でも原作のようになりそうに無いので徐々に改善されている。あと一月もあれば胃は痛まなくなるだろう。

エリアス

友達が増えて、付きまとってくる奴らがいなくなってニッコリ。アルフォアの料理が美味しすぎて体重が気になってきた年頃の乙女。

ラインハルト

外では貴族らしい立ち振る舞いをしているが部屋の中ではたれらいんはるとになっている。簡単なものであるなら料理が出来る。

アリアドネ

美味しそうな匂いを嗅ぎつけてダブルピース。その後ラインハルトの料理を食べてニッコリして、これよりも上手になってやると意気込んでいる。

ミハイル

アリアドネに付き合わされて照れ顏ダブルピース。もしもアリアドネがキチ世界の住人なら命令という形でアヘ顔になっていたかも。ラインハルトの料理を食べて幸せな模様。最近の悩みは上級生の女子生徒からラブレターが来るようになったこと。


超越者について

読んで字の如く『超えた者』を指す言葉。一般的な認識としては戦闘能力方面での超越者が普通だがカールのように並外れた記憶能力による知識方面での超越者も存在する。至る条件としてはショックや鍛錬などによる刺激など。その条件で至った者は後天的超越者、反対に生まれた時から至っている者は先天的超越者と呼ばれている。ラインハルト、カールが前者でアリアドネが後者。主人公であるイルフォアとエリアスは後天的超越者になる。


超越者について分かりにくいですかね……?


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