「ブォォォォォ!!!」
豚面の巨人ーーーオークが吠える。3メートルの体に付いた脂肪を揺らして手にした棍棒で前にいる人間をミンチにしようとする。
「ーーーフン」
一閃、人間の持っていた槍が稲妻と見間違う程の速度で放たれてオークの喉、心臓、腹を同時に穿つ。いつ自分が死んだかすら気づかずに、オークは人間をミンチにしている未来を幻視したまま息絶えた。
「やはりこの程度か……俺の領地の魔物に比べれば弱すぎる」
人間ーーーラインハルトは手にしていた槍を振り払った。それによって槍に付着していたオークの血液と脂肪が地面に弧を描く。通常オークの危険度は程度にもよるがC、一般庶民や駆け出しの冒険者なら蹂躙される程の強さを持っているのだがラインハルトからすれば雑魚同然の強さでしかなかった。
「にしても数が多い。ゴブリンとオークは一匹見たら三十はいると思えと言われているがまさにその通りだな」
ラインハルトの周りには先のオークの他にもオークの死骸が十転がっていた。そのどれもが喉、心臓、腹に穴を開けられた状態で死滅している。
「開始から一時間、後二時間といったところか……」
予め予定されていた時間を思い出しながらラインハルトは森の奥にへと足を進めた。
今日は魔物討伐という名の課外授業当日。この世界では命のやり取りをする機会が多いので早い内から慣れさせようとエトワール学園に入学してから一月で魔物討伐を行っているのだ。
無論、貴族の子供を預かる学園としても出来る限りの配慮はしている。事前に課外授業の予定地となっている森の調査をしたり、非常時の護衛兼監視の意味合いの教員たちも森の中に配置されている。そして課外授業をするに当たってチームを組むことになっており、そのチームは教員ではなく生徒たちに決めさせるようになっている。自分の実力を見極めてチームを組めるかというところを見定めようとしているらしいがほとんどの生徒はバランスを考えずに仲が良いものだけで組んでしまっているのでその目的は果たされることは無いと思っていいだろう。
その点で言えばラインハルトは教員の予想を外れたチームを組んでいた。ラインハルトのチームは……彼一人だけ。カールは他の者と組みたいと言っていた、ラインハルトの護衛を務めているわけでは無いのでラインハルトはそれに承諾してこの場にはいない。実際、このチームは間違っているわけでは無い。チームを組むに当たって重要なことは付いてこれるかどうかである。例え天下無双の実力の持ち主がいたとしてもろくに戦ったこともない者とチームを組めば後者が足を引っ張って前者の実力を出し切れない。護衛などではない限り、前者単体で動かした方がまだ良い。
ラインハルトはまさにそれだった。現段階の学園の生徒の仲で彼と並ぶ実力を持っているのはカールとアリアドネだけ。ミハイルは将来的には期待出来るが今はまだ付いてこれない。ゆえにラインハルトが一人で討伐をしている。
「にしても本当に数が多いな。事前に教員たちがある程度間引いているはずなのに」
錆び付いた短剣を握って襲いかかってくるゴブリン三匹の顔面を槍で弾き飛ばしながらラインハルトは呟いた。これでラインハルトが殺した魔物の数は五十を超えた。事前に教員たちが危険を減らすためにある程度魔物を間引きしているが一人で討伐した数にしてはあまりにも多過ぎる。ラインハルトだからチリでも払うような気軽さで倒しているが一般生徒なら抵抗虚しく蹂躙されるしかない。しかし未だに生徒の絶叫は聞こえない。教員の助けがあって命は助かったとしても一度や二度ならば聞こえてもおかしくないのにだ。
まるでーーーラインハルトにだけ魔物が集まっているような。
「なるほどーーーこれがカールが懸念していたことか。なるほどなるほど……些か面倒だぞ、これは」
樹々をなぎ倒すようにして現れたのはオーク並みの筋骨隆々の巨体を持つオーガ。単体の危険度ならばB、群れで現れたのなら災害級の危険度であるSとしても測られることのある魔物だった。事前の調査で見つけられているのなら真っ先に間引されているはずの魔物である。
なのでここにオーガがいること自体が有り得ないことなのだがカールが言っていたイベントとやらが関係しているのだろうとラインハルトは一人で納得していた。
ラインハルトの顔に焦りは無い。何故ならーーーオーガであっても、ラインハルトにとってはゴブリンやオーク同様のチリに等しい存在だから。
槍が放たれる。その軌道は生物の急所である心臓。オーガは吠えて身体を萎縮させて迫る槍に対して防御の姿勢をとった。これはオーガが持つとされるスキル『金剛』、自分の筋肉を萎縮させることで防御力を一時的に上昇させるスキル。まともにぶつかり合ったのなら鋼の剣でも砕ける程の強度になるとされているオーガの『金剛』はーーー容易くラインハルトの刺突に貫かれた。
「グォォォォォォォ!!!」
貫かれた痛みにオーガが吠える。絶命しなかったのは『金剛』で心臓から軌道が逸れたこたとこの槍がラインハルトの本来の槍では無かったからという幸運が重なった結果。それでも肺が片方潰されるという重傷なのだがオーガはまだ生きている。自分に傷を付けた不届き者に全身全霊の拳をぶつけーーー
「ふむ……この程度か」
ーーーあっさりと片手で受け止められた。そして仕返しだと言わんばかりの槍の一閃、顔を無くしたオーガは今度こそ絶命した。
「冒険者たちの登竜門がオーガと聞いていたが……期待外れだな」
ラインハルトの顔に浮かぶの明白な落胆。ラインハルトは強い、それは自他共に認める事実である。だからこそ、ラインハルトは渇望しているのだ。己と対等に戦うことが出来る強者を。現段階では戦うことが出来る人物はカールとアリアドネ、それに数人。将来性を見据えればミハイルもその中に入るのだが……奇しくも彼らはラインハルトと親しい人物だった。
自分の望んでいる存在が自分の間近にある、しかしそれらを壊す事などラインハルトは望んでいない。一時的な欲求に従って満たしたところで得られるのは絶望だけだと知っているからだ。だからこそラインハルトは望んでいるのだ。
自分が壊しても構わない強者の出現を。
その死闘の果てに得られるであろう甘美なる絶頂を。
世界は広いのだからきっとそのような存在が現れると信じてラインハルトは今を生きている。黄金の獣と呼ばれる同姓同名の男と似たような思考になっているのだが本人は肉体に引かれているのかと苦笑いをした程度で拒んでいる様子は無かった。
そしてラインハルトは森の奥から姿を見せるオーガの群れへと白銀の双眼を向ける。
「代償行為って奴だ……気がすむまで殺らせてもらうぞ」
災害級と恐れられているオーガの群れを前にして、ラインハルトは臆するどころか喜々として槍を放った。
ゴブリン
危険度D。醜く、大きくても人の子供程度の身長の魔物。木を削って作った粗末な棍棒や冒険者の持ち物だった短剣を武器として使って襲いかかってくる。他種族だろうが雌であるなら孕ませる事が出来る。一匹見たら三十匹はいると思えと言われる程に繁殖能力が高い。
オーク
危険度C。豚のような顔面の3メートル程の魔物。ゴブリンのように棍棒を使っているが膂力は比べ物にならないくらいに強い。ゴブリン同様に繁殖能力が高く、他種族の雌でも孕ませられる。
オーガ
危険度B。鬼のような顔面で筋骨隆々の身体が特徴的な魔物。武器は持たずに専ら素手だが、まれにオークから奪った棍棒を使っていることがある。怪力と共にスキル『金剛』を使い、冒険者の間では登竜門とされている。
ラインハルト
強すぎるがゆえに強敵を望んでいる。黄金の獣っぽいなと本人は思っているがさしてショックは受けていない模様。本家ならば親しい相手でも容赦無く破壊するだろうが彼はそれを望んでいないので絶対にしやい。
魔物の危険度について
E……一対一なら一般人が武器を持って対処できる程度の存在。
D……複数人なら一般人が武器を持って対処できる程度の存在。
C……一般人では手に負えず、一対一なら冒険者や騎士などが対処出来る存在。
B……複数人なら冒険者や騎士などが対処出来る存在。
A……準災害級、騎士団や冒険者たちがチームを組んで対処する存在。
S……災害級、国を挙げて対処する存在。
SS……天災級、ここまでくると国を挙げても被害を減らすことしか出来なくなる。
SSS……神災級、神話などで語られる存在が現れる事態。これを対処した者は英雄として扱われるようになる。
原作ラインハルトはS、ラスボス化でSSSの扱い。人間なのに神災扱いとかチートと言われますわ(ウットリ)
今のラインハルトもSS、アリアドネもSS、カールもSS、ミハイルはA辺りです。現段階の主人公たちはいってもC辺りですね。
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