「ーーー」
森の中を緊張した顔で歩いているのはアルフォアとエリアス。彼らはこの課外授業でチームを組んでいる。イルフォアの関係で交友が狭いアルフォアと貴族の坊ちゃんたちのせいで遠ざけられているエリアスがチームを組むのは当たり前の事だろう。欲を言えば後列を任せられる存在が欲しかったのだが誰も組んでくれなかったので仕方ない。変わりに体力回復薬であるライフポーションを多く持つ事にした。
アルフォアの知識の中にあるこの森は『修練の森』、マップ以外で魔物が現れ始めてのダンジョンとして知られている森だった。ここに現れる魔物は危険度がEやDのものがほとんど。稀にCが現れる事があるらしいが事前の教員の調査では確認されていないとの話だ。
「……っ!!」
先行していたアルフォアがエリアスに手で止まるように指示する。茂みから顔を覗かせて確認するとそこには二匹のゴブリンがいた。ゴブリンは石を投げて木の実を落とそうとしているようでこちらには気づいていない。そして手や周りを確認したが武器になるような物は見られなかった。
アルフォアとエリアスが茂みから飛び出してゴブリンに襲いかかる。
エリアスの武器はメジャーな武器で駆け出しの冒険者にも勧められている片手剣。力任せにではなく遠心力を意識しながら振るわれた一撃はゴブリンを袈裟斬りにする。突然の不意打ちに対応することが出来ずにゴブリンは絶命した。
もう一匹のゴブリンは気付くことが出来たのだが武器を持っていない。アルフォアの持つナイフ二本で手の肘から下を切り落とされ、首筋への一撃を防ぐことが出来ずに息絶えた。
「ーーーふぅ」
気を緩ませてはいけないと分かっていながらもアルフォアはゴブリンを倒すことが出来たことに安堵のため息をついた。魔物とはいえど命を奪うとに忌諱感は持っていない。そんな物を持っていたところで自分が死ぬかもしれないと悟ったから。それでも命のやり取りをする事での精神的疲労は避けられないのだが。
「凄いね、アルフォア君は」
他に魔物がいないか警戒しながらエリアスは唐突にそう言った。
「いきなり何さ?」
「いやだって、一撃で殺すんじゃなくて完全に抵抗出来ないようにしてから殺してたじゃん。反撃を許さないところが用心深いなぁって」
「臆病と言ってくれよ」
エリアスの言葉に苦笑いで返す。これで倒した魔物は十匹だがアルフォアが倒した魔物はすべて手や足を傷付けた状態で死んでいるのだ。これはもしも一撃で殺せないで反撃を受けるかもしないと考えた結果、反撃をさせないようにあらかじめ使用不可能にすればいいと考えた戦法だった。
開始と同時に手や足を傷付けて使用不可能にし、その後で急所を狙うという戦闘よりも殺しの技に近いのだが死ぬよりはマシだと幼少期からずっと温め続けていたのだ。
その戦法がゴブリン相手とはいえ通じていることにアルフォアは内心でガッツポーズをする。
「さて……じゃ、次のを狩りに行こうか」
「そうだな」
アルフォアとエリアスは再び周囲を警戒しながら進み出す。エリアスはいつどこから魔物が現れるか分からないからだがアルフォアには別の理由があった。
それはこの『修練の森』で起こるイベントーーー本来ならいないはずの危険度の魔物の出現である。原因は公式でも説明されていなかったが、この課外授業で
そしてーーー事前に教員から渡されていた非常事態を報せる音を立てる魔石が、森のあちこちから聞こえてきた。
「ふむ……やっとか」
鼻に付く鉄の匂いを肺に充満させながらラインハルトは音を立てている魔石を手のひらの上で遊ばせていた。彼の周りに転がっている死骸は危険度Bのオーガのもの。だが魔石が音を立てている原因は別の物だと分かった。
「キシャァァァァァァァァ!!!!」
ラインハルトが上を見上げるとそこには空を飛んでいるワイバーンの姿があった。ワイバーン単体の危険度はB、そして下位ではあるとはいえど竜種であることから群れでのワイバーンの危険度は天災級のSSに達する。本来のワイバーンの群れは多くても五十頭程度、なのだが……ラインハルトの目の前で飛んでいるワイバーンの数は低く見積もっても八十は超えていた。
「一つ?……違う?二、三の群れが集まっているのか?」
目を凝らせばワイバーンの一部が命を奪い合うように争っていた。一つの群れだとしたらこんなことにはなるはずがないことからラインハルトは幾つかの群れが集まっていると判断した。
そしてワイバーンの一部が吠えて、ラインハルトの方を向く。ラインハルトが今いる場所は拓けた場所で障害物は無い、飛行種であることもあって視力の優れているワイバーンに見つからないはずがなかった。
「……魔石が鳴り始めてから三分が経ったというのに教員の姿は見えず……計られたか?」
事前の説明で予想外の事態になった時には魔石が鳴り、近くにいる教員が駆けつけるという手筈になっていたのだ。しかし魔石が鳴り始めてから三分経っても教員が現れるどころか近づく気配すら感じられない。そのことをラインハルトは計られたと言った。元々ラインハルトは貴族の中では有名であるが王族であるアリアドネを婚約者としていることもあって好かれているわけで無い。そして敵もいる。だからワイバーンの群れは別だが教員がやって来ないことを計られたと言ったのだ。
「まぁいい」
そう言って学園から支給された槍を捨てる。ワイバーンの群れを前にして諦めたのか?イヤ違う。使い慣れていない槍ではなく使い慣れている槍を手にする為に捨てたのだ。
「『来たれ我が槍よーーー』」
紡いだのは誓いの言葉。その言葉に従うように光が集まって槍の形になる。
「『
現れた槍を語るのなら黄金の一言しかなかった。穂先、柄、石突きと槍を構成しているすべてが黄金。信仰深い者ならばその槍から溢れ出る神威を前に跪くことも厭わない聖槍をラインハルトは無造作に掴む。
今のラインハルトならばワイバーンの群れなど容易く蹴散らせるだろう。しかし数が多いことには変わりない。この事態で待っているであろう親友と婚約者を安心させる為にラインハルトは速攻でワイバーンを滅することにした。
「『この輝きは導きの灯火』」
語るのは契約の言葉。超越者となった者の一部が至った極地。
「『深淵の暗闇を照らす一条の光』」
聖槍から溢れ出ていた神威が、ラインハルトからも溢れ出す。
「『迷いし者よ、この光に導かれよ!!』」
ラインハルトが聖槍を掲げる。
「『神威顕現ーーー
そして神威がこの場に顕現した。
時は巻き戻り、魔石が鳴り始めた頃。教員たちは迅速に行動し、僅か二分でほとんどの生徒を回収していた。その理由は魔石。魔石には予めマーキングが施されていて、緊急事態には即座にそのマーキングの元に転移出来るようになっていたのだ。そして三分が経ち、一人を残してすべての生徒が回収される。
「ラインハルト・ハイドリヒがまだか……」
名簿を見て呟くのは教員の一人、目にかかる程に伸びた金髪を鬱蒼しそうに書き上げて唯一戻って来ていない生徒であるラインハルトの名前を見ていた。事前の準備の段階ではすべての魔石にマーキングがされていたがラインハルトの魔石のマーキングだけが反応を見せなかったのだ。ラインハルトがどこにいるのか分からないので金髪の教員を除いた教員たちが森の中を探している。
「兄上」
「おぅ、アリアドネか」
教員の前に立ったのはアリアドネ。彼女は教員のことを兄上と呼んでいた。彼の名前はセクトル・アイゼン・クラウン、この王国の第三王子にしてアリアドネの兄になる人物だ。
「ラインハルトはまだ見つからないのか?」
「あぁ、マーキングが反応しないから人海戦術で探すしか無いんだよ……いつもみたいにラインハルトの気配とか分からんのか?」
「残念ながら今日は生理でな、体調が優れなくてラインハルトの気配が掴めないのだ」
「女の子がそんな生々しいことを言うんじゃありません!!もっとオブラートに包んだ言い方をしなさい!!」
アリアドネの女性らしからぬ発言にツッコミを入れると悲鳴が聞こえた。そこを向けば一人の生徒が森の方を指差している。生徒が指差しているのは森の最深部、それもワイバーンの群れが見えていた方向だ。しかしそこにあったのはワイバーンの群れだけでは無かった。
光の騎士がそこにいた。重厚な鎧に身を包んだ騎士は森の木々を軽く超える体躯を起こしている。
「……なぁアリアドネ、もしかしてあれってラインハルトの?」
「あぁ、ラインハルトの神威顕現だな」
「あそこにいたのか〜そりゃあ見つからないわけだ」
残っていた教員が生徒を落ち着かせている中でアリアドネとセクトルはやっぱりあいつかみたいな雰囲気で話していた。どうやら騎士の出現には焦っていない様だ。
そゆな二人に話しかける者がいた。どこか胡散臭い雰囲気を漂わせるカールだった。
「やぁセクトル殿、お久しぶりだね」
「おぅ、カールか」
「どうかしたか?」
「ちょっとラインハルトの活躍を観に行くつもりだがどうかね?」
「頼むわ」
「私も頼む、ミハイルもだ」
まるでそこまで付き合わないかという気軽さで尋ねたカールにアリアドネとセクトルは簡単に頷いた。どうやら然程驚くことでも無いらしい。
では、とカールは呟くとアリアドネとセクトルの身体が宙に浮いた。風属性の魔法である『フライ』を発動させたのだ。そして浮いたのは二人だけでは無い。アルフォアとエリアス、そしてレムとミハイルの姿もある。
エリアスとレムは興味本意、そしてアルフォアはラインハルトの神威顕現が生で見られるという理由からだ。
そして、騎士とワイバーンの戦いが始まる。そして戦いは一瞬で決着した。
ワイバーンが騎士を敵と判断したのか一斉に飛び掛かり、それに対して騎士は手にしていた槍を地面に突き刺した。そして騎士を中心に半径50メートル程の光の柱が現れる。
光の柱が消えた時、ワイバーンは一匹残らず消滅していた。
「……ラインハルトの奴デタラメだデタラメだと思ってたけどやっぱりデタラメだったな」
「流石はラインハルトだな」
「それに惚れたお前もデタラメだよ……」
ラインハルトのデタラメっぷりに誇らしそうに胸を張っているアリアドネの姿を見て頭を抱えるセクトルだった。
ワイバーン
二本足の翼竜種、危険度はB。ブレスこそ吐かないが竜種なだけあって生命力は高い。牙や爪は武器に、鱗と皮と骨は防具に、肉は食用に、血は滋養強壮にとすべてにおいて無駄の無い魔物と知られている。
ラインハルト
久しぶりに神威ブッパ出来て気分爽快。
アリアドネ
ラインハルトの神威ブッパを見てご満悦。
アルフォア
安全を考えた結果かなり酷い戦い方になったが合っていた模様。戦い方はこれで固定するつもりでいる。
エリアス
アルフォアの指示通りにすると魔物が倒しやすいことに気付いてニッコリ。今後は相手の隙や死角をついた戦い方を考えるつもりらしい。
セクトル・アイゼン・クラウン
王国の第三王子でアリアドネの兄。第一王子の王位継承がほぼ確定で継承権が事実上消滅しているので憧れだった教員に就職する。ラインハルトのデタラメっぷりを知っていたつもりだったが改めてデタラメっぷりを知らされる。
ラインハルトの愛槍。すべてが黄金の輝きを放つ聖槍。ラインハルトが一度、銀メッキを付けようとしたがメッキが蒸発したので諦めたらしい。
神威顕現
超越者の中でも一握りがたどり着ける極地。神話や伝説の中に登場する武器の名を持つ武器やそれに所縁のある武器を持つことで、その武器に宿っている神威を形にして使役する法。要はスタンドや随神相。サイズは人によりけり。
ラインハルトの神威顕現。武器は
KKKの随神相に惹かれて出した……悔いは無い!!
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