オリエンテーションが終了して特科クラスⅦ組が発足されてから二週間が経とうとしていた。
「お疲れさま。前にも伝えたと思うけど、明日は自由行動日になるわ。厳密にいうと休みではないけど授業は行われないから、何をするにしても生徒の自由に任されているわ。」
「校内の施設は解放されるのしょうか?」
エマ・ミルスティン。彼女からはヴィータと同じ気配がするから恐らくヴィータと同じ魔女の一族だろう。実際魔導杖へ高い適正を示し習熟度も抜きんでている。問題はなぜ魔女の一族がこんなところにいるのかだな。この学院には何かがあるのかもしれないな。
「図書館の自習スペースが使えるとありがたいのですが」
マキアス・レーグニッツ。鉄血宰相の盟友であり平民初の帝都知事であるカール・レーグニッツの子息か、初対面でいきなり人の身分をきいてきたり、貴族に対する異様なまでの敵視、過去に貴族となにかあったようだ。
「もちろんその手の施設は解放されているわよ。クラブ活動なんかも自由行動日に行われているからそっちも見に行ってもいいかもしれないわね。それと、来週の水曜日なんだけど、実技テストが控えているから体調には気をつけなさい。一応評価対象になっているからね。鈍らないように体を動かすのもいいわよ」
実技テストか、ここに来てから以前のように体も動かすことができなくなっているからな。鈍らないように最低限の鍛錬はしているが、それまでだ。明日は情報屋のところに行った後は街道で魔獣でも相手にするか。
「実技テスト!?イヤな予感がする………」
エリオット・クレイグ。赤毛のクレイグの息子なのだとは思うが、箱入りに育てられたのか余り似ていないな。だが魔導杖に高い適正を示しそれを使えている所をみると、やはり血筋なのだろう。あとはもう少し体力と自身がつけばいいのだがな。
「ふん。面白い」
ユーシス・アルバレア。四大貴族の一つアルバレア公爵の子息か、伝統の宮廷剣術の腕は学生にしてはかなりの腕を持っているな。貴族特有の言い回しもあの怪盗に比べたらかわいいものだ。あいかわらず好き放題しているようだしな。
今のお気に入りはどうやら氷の乙女のようだな。同情を禁じえないが………頑張ってほしいものだ。
自由行動日当日ロランスはトリスタ市内にある質屋を訪れていた。
「帰れ。お前に売れる情報はない」
話には聞いていたが予想以上の人間だな、俺が欲しい情報を理解しているか。
それに………立ち居振る舞いに隙がない。中々腕がたつようだ。
「確かに、帝国の情報ならないのかもしれないが、他はどうだ?なんでもいい」
「やれやれ。それも踏まえてお前が知っている以上の情報はないんだがな………しいて言うならクロスベル関連くらいか。少し前にクロスベルのマクダエル市長の暗殺未遂騒ぎがあったらしい。騒ぎ事態はクロスベル警察に新たに設立された特務支援課とリベールからきた二人組のB級遊撃士達が解決したらしい」
「フッ。十分すぎる情報だ。礼を言う」
ヨシュアにエステル・ブライトも成長しているようだな。
しかし、クロスベル市長暗殺騒ぎか………クロスベルでなにかが起こりつつあるな。そちらも気にはなるが、あの二人がいるのだ。エステル・ブライトの人を惹きつける力にヨシュアの能力があればそうそうのことは大丈夫だろう。傍観をしているようだがレンもいる。
実技テスト当日、ロランス達Ⅶ組のメンバーは各々の武器を持った状態でグラウンドに集まっていた。
「それじゃあ実技テストを始めましょう。前もって言っておくけどこのテストは単純な戦闘力をみるのが目的ではないわ。状況に応じた適切な判断と行動をみるためのものよ」
単純な戦闘力ならオリエンテーションの時にみたからな。死線も潜っていないのに二週間やそこらで実力が高まるわけでもない。なら戦術リンクを用いた状況判断を見るのが目的か。それにいくら戦術リンクで連携能力が高まってもそれを持ちいるものの判断力がそれに追いつかなければ宝の持ち腐れというもの。
「では、これより4月の実技テストを始める。まずは、リィン・エリオット・ガイウス。前にでなさい」
「魔獣!?」
「いや命の息吹を感ない」
「そいつは訓練用の動くカカシみたいなものよ」
あれは………十三工房製の戦術殻か。よく手に入れることができたものだな。確かにあれなら少々叩いたりアーツを撃ったぐらいでは壊れないから戦闘訓練にはもってこいだろう。最大レベルのあれを斬れれば軍でも即戦力にはなれるだろう。
尤も今の軍では個の力より全の力のほうが重視されているので、そういう意味では軍より遊撃士のほうが適任だな。
「そこそこ強めに設定してあるけど、決して勝てないわけではないわ。例えば………戦術リンクを活用するとかね」
「それでは、始め!」
リィン達三人の戦闘が開始されると、すぐさま陣形を組み戦術リンクをつないでいた。
その動きはオリエンテーションのときより洗礼されており、戦術リンクをつないで戦うということに慣れた動きだった。
その理由は、自由行動日に生徒会の手伝いをしていたリィンは学院長からの依頼で旧校舎をもう一度調べにエリオットとガイウスとともに向かい、そこで
三人は戦術リンクを繋ぐとエリオットを後方にリィンとガイウスがツートップで前衛をする陣形をとっていた。
リィンが全体の鼓舞をしながら戦術殻の動きを阻害して隙ができたところにガイウスが風の力を纏った威力のある戦技ゲイルスティングを放ち、体勢が崩れたところに駆動が完了したエリオットの水属性のアーツ、アクアブリードが直撃してその隙を逃さずリィン八葉一刀流の技の一つ紅葉切りで戦術殻が動かなくなったところで戦闘が終了した。
「そこまで!」
「な、なんとか勝てたぁ」
「うんうん。悪くないわねぇ。戦術リンクも使えていたし旧校舎での実戦がきいているんじゃないの」
見事な連携だった。
地力で劣るエリオット・クレイグに合わせて動いていたが、完全にかばいながらではなく、エリオット・クレイグの力を最大限に発揮できるように立ち回れていたのも評価が高いだろう。
その後ラウラ、ユーシス、エマとフィー、アリサ、マキアスのメンバーの実技テストが行われたがリィン達とは違い戦術リンクの強度が高くなく、個人技主体のたちまわりになっていた。
同じクラスになってから二週間だが、それだけではお互いを信頼し背中を任せるにたる信頼感は生まれない。
それこそ、共に死線を潜り抜けでもしなければ到底無理な話である。
「さて、これで全員終わったわね?」
「いえロランスがまだです教官」
全員の実技テストが終了したと思われたが、ロランスだけが呼ばれていなかったのである。
実はサラから忘れられていた………とかではなく、単純にサラがロランスの本名と実力を知っているので態々実技テストなんてする必要がなかったのでロランスのことを後回しにしていたのだった。
「そういえばいたわね。あなた。んーそうねぇ、こいつにコレはやるだけ無駄だし………私が相手しましょうか。あんたもここに来てから碌に体を動かせていないでしょう?」
「やれやれ、仮にも今のお前は教官で俺は生徒なのだがな」
だが、紫電のいうことも一理ある。
確かにこの学院に来てから碌に剣を奮えていない。鈍りが気になっているのも事実だ。
あれから紫電がどれだけ腕を上げているのかも気にはなる。
「剣を抜きながら言っても説得力が皆無よ。それじゃ始めましょうか!」
サラが言いながら手にした導力銃で発砲、しかしロランスは距離を詰めながらも体を軽く傾けて回避する。
ロランスはそのままの勢いでサラに左側からの逆袈裟で斬りつけるが後方に跳躍して躱され、跳躍と同時にサラから雷の力を宿した魔弾、鳴神が放たれた。
着弾点に落雷のような雷が襲い掛かる戦技にしかしロランスは冷静に着弾点を見極め、回避しながら距離を詰め、サラに肉薄し、斬りかかるもブレードで防がれ一度距離をとった。
距離をとったロランスを見てサラは導力銃でけん制しながら距離を詰めロランスに斬りかかるも、紙一重の見切りで回避したロランスがカウンターでサラを吹き飛ばした。
以前と比べてかなり強くなっている。
流石に幾度も場数を踏んでいるだけはある。
それだけに………惜しい。ここの教官となったことで戦える機会が減ったのだろう。あまいところがある。それだけ鈍っているということか。
フッ。他人事ではないな。今はまだ思うように動けてはいるがこのままここに居続けるとどうなるか分からないな。
そういえば、リィン・シュバルツァー達が旧校舎で実戦をしていたと言っていたな………恐らく、この近辺の魔獣よりは手ごたえがあったのだろう。今度行ってみるのもいいかもしれないな。
紫電め、
次の瞬間、ロランスの姿が消え、サラの背後から首に剣を突き付けていた。
「そこまでだ。流石にそれまで使いだすと収拾がつかなくなる」
「はぁ~。それなりに腕は上げたと思っていたけどやっぱり敵わなかったか、全然底が見えないわね」
「フッ、この一年で一から自分を鍛え直したからな。そう簡単には追いつかせるわけにはいかない」
断じてヨシュアに剣を弾かれたのが悔しかったわけではない!
「教官の動きもだけどそれ以上に最後のロランスの動きが全く見えなかった。あれは何なんだ?」
「ただの縮地法だ。八葉に連なるお前なら似たようなことはできるだろう」
「はいはい、談笑は後にしなさい。まだ肝心なことである特別実習のことを伝えていないのだから」
「あなたたちにはA班、B班に分かれて指定した実習地に行ってもらうわ。そこで用意した課題をこなしてもらうわ。ちなみに、行くにのは君たちだけで教官である私は基本的にはついていかないわ。私まで一緒に行ったら修行にならないでしょ♪」
なるほど。これが放蕩皇子が言っていた特別実習か………帝国各地に赴きそこで課題という名目で帝国の表と裏を知ってもらうか。
「結局、俺たちに何時何処へ行けというのだ?」
「そうね。さっきもいったけど君たちにはA班、B班に分かれてもらうわ。まずはA班、リィン、アリサ、エリオット、ラウラ、実習地は交易地ケルディック。B班は、エマ、マキアス、ユーシス、フィー、ガイウス、ロランス、実習地は紡績町パルムよ」
「ケルディックは東にある交易が盛んな町だね」
「パルムは帝国南部にある紡績で有名なところですね」
パルムか………暫く行けていなかったな………感謝しよう。
「ば、場所はともかくB班のメンバーが………」
「ありえん」
確かに犬猿の仲の二人が同じ班分けだからな。その意見には同意するが………紫電め、犬猿の仲だからこそ同じ班分けをしたな、これから先はこのようなことは普通にある。どう折り合いをつけるか見るつもりだな。そして、いざというときは俺とフィーがフォローすることまで計算に入れられている………些かめんどうだ………………最悪の場合、物理的に黙らせるとしよう
「日時は今週末、期間は二日くらいになるわ。両班ともに鉄道を使って実習地にいくことになるわね。各自、それまでに準備を整えてしっかり英気を養っておきなさい」