眼帯兎との出来事日記   作:洗剤@ハーメルン

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2ページ目『ケルトの皆さんゴメンナサイ12/24』

 日付けは12月24日。世間はクリスマス一色であり、このIS学園も例外ではない。

 数日前から学園中には装飾が施され、早めのクリスマスパーティが行われた。その様子は欧米の学生が大きな割合を占めている校風ということもあって、生徒会長の音頭の元で大いに盛り上がりを見せたものだ。

 そして22日より、IS学園は所謂冬休みというものに突入した。

 これは世間の高校に比べれば早いのだろう。というのも、親元を離れて寮生活を送る学生達を、クリスマス・イブは家族とゆっくり過ごさせるためである。

 なんともキリスト教的、と思われるかもしれないが、実際IS学園の運営において大きな発言力を持つのは欧米の各国が中心であり、それに配慮した対応をするのは日本である。

 

 とはいえ、そのような話題は今は置いておこう。

 

 当初、典型的な日本人である私にとっては、休みが早く始まったということが何よりも重要だった。それこそ両手を上げて喜んだものだ。

 クリスマスパーティーが終わった翌日。陰の差した瞳で、帰省後の話をしている生徒を見つめるラウラを目にするまでは。

 この時ほど、それなりに察しの良い性分に感謝したことはない。「ラウラは帰って家族と過ごすのか」などと聞いていれば、悔やんでも悔やみきれなかったはずだ。

 なので、私は気を取り直してラウラに言ったのだ。自分は年末年始も通して寮に残るつもりだが、ラウラはどうするのかと。

 すると彼女は。

 

「なら残る」

 

 と、それぞれの家族の話で盛り上がる教室の中で、消え入るように言ったのだ。

 こうして休みが始まり、セシリアやシャルロットを始めとした面々がそれぞれの生家へ帰る中。IS学園の寮に残された数少ない生徒として、ラウラと私は数えられることとなったのだ。

 本来、寮は閉鎖される筈であったにも関わらずも滞在を許してくれたのは、きっと千冬女史が無理を言ってくれたのだろう。

 また、ラウラに。

 

 「お前は帰らなくてもいいのか」

 

 などとと聞かれはしたが、男性操縦者の両親は証人保護プログラムのようなものを受けていると言っておいた。つまりは連絡すら取れないと。

 両親が逝去し、姉があのブリュンヒルデである織斑一夏は例外中の例外である。一般家庭の出である私の両親がそうなったのは、身を守るためとはいえ本当に申し訳ない。

 政府の取り計らいで夕食を共にすることはできたようだが、ラウラのことを考えれば又の機会にしたのは正解だろう。

 

 

 そうして欧米では皆が家族と団欒を満喫しているであろう、クリスマス・イブ当日がやってきた。起きれば毛布の中にラウラが潜り込んでいたが、もう何時もの事だ。

 身を起こせば、毛布の中で体温が足に絡みつく。それは毛布に隙間ができたからか、隣にいた体温が逃げたからか。

 室内の温度がやけに低い。雪でも振っているのだろうか。

 そんな事を思ったが、窓の外が見える位置まで素足で歩く気にはならなかった。

 暖房のリモコンを操作して、暖気を部屋に送り込む。とはいえ、部屋が暖まるのには暫く掛かることだろう。

 躊躇いを抱く事なく横になり、毛布の位置を整える。慣れてしまったあたり、男としては駄目なのではなかろうか。

 そう思いながら心地の良い人肌の暖を取っていると、再び瞼が落ち、暗闇がやってくる。

 

 目が覚めたのは、昼過ぎの事であった。

 

 本来なら午前からラウラと出掛けようとでも思っていたのだが、こうなっては明日に持ち越そうという気になってしまう。

 そして先に目が覚めたらしいラウラの姿は無い。昼食を取りに学外にでも行っているのだろうか。

 ならば、とクローゼットに仕舞い込んでいた、クリスマスの装飾を引っ張り出した。校内を飾った物の余りであるが、それでも十分であろう。

 ラウラが戻って来ぬ内に。

 そう決めて行動すると、一度使った事のある物ばかりのために手際良く飾り付けることができた。

 部屋の隅、テレビの隣にはプラスチック製だがクリスマスツリー。各国のメリークリスマスシリーズのドイツ版、"Frohe Weihnachten"と書かれた垂れ幕のようなものをテレビの上の天井近くに。あとはLED電球入りなど含めた、小さな飾り付けを散らばらせてみた。

 自分にしては良い出来だと思った。こういうのは気持ちが大切なのだ、と言い聞かせる。

 クラッカーはあるにはあるが、昼間から鳴らしてはサプライズにしてもムード不足というものだろう。そう思いながら箪笥に仕舞み、せめてと電灯を暗めに調整した時。背後で部屋のドアが開く音がした。

 丁度いいタイミングだ。そう思いつつ振り返ると。

 

「ど、どうだ」

 

 と、恥ずかしげに頬を染めながら、それでも健気に胸を張って立つラウラがいた。

 朝見た肌色とは違う、真っ赤な装いに先の垂れ下がった三角帽子。所謂、サンタ衣装である。視線は彼女の顔から動き、足の方へ。ミニスカであった。

 つい無言になったため、ラウラは胸を張った姿勢のまま固まっている。申し訳ないが、それも致し方無かったと言いたい。

 もこもことした、毛布のような生地でできたショートワンピースのサンタ衣装。タイトな作りであるが布地に厚みのあるそれは、覆っている曲線を更に柔らかそうに見せていた。

 似合っている。呆気にとられ、遅れて出た言葉はそんなものであった。

 だが、ラウラは意外とご満悦そうに、胸を更に逸らしながら。

 

「それでこそ着た甲斐があるというものだ!」

 

 と言い張った。

 先日と打って変わり楽しそうな様子であるとはいえ、少々不安を感じてしまう。

 

「ん? どうした嫁よ」

 

 だが、そんな心配とは無関係なように振る舞うラウラを見て、今は頭の中から追い出す事にした。

 もしそうだとしても、今ラウラは楽しもうとしているのだ。それに応えなければ。

 よく似合っている、可愛い。もう一度、彼女の姿をよく見ながら言えば。

 

「あまりジロジロと見るな……」

 

 頬を染めつつ、ラウラは腕で身体を庇う仕草をした。

 流石に、気持ち悪かっただろうか。そう考え誤魔化すような苦笑いと共に謝意を述べた。

 

「謝らなくても良い。…………見たいのなら、また後でだ」

 

 期待を湧かせるような言葉を投げたラウラは、私が歓喜の声を上げる前に部屋の中心近くへと歩を進めた。

 そして、私が施した部屋の装飾を見て一言。

 

「なんだ、一人でやってしまったのか」

 

 整然とした様子でだが、不服そうな様子を感じる。

 一緒にやりたかったのか、と直接言葉にして聞けば。

 

「ここは私達の部屋だぞ? 模様替えをするにしても、装飾をするにしても然りだ」

 

 やりたかったようである。

 少々サプライズ的な思惑もあったのだが、その思惑も見透かされているだろう。サプライズなんてものは必ずしも喜ばれない、と直接言われることを思えば優しい怒り方だ。

 兎にも角にも、私は勝手に装飾したことを謝ることにした。すると。

 

「そんなものは別にいい」

 

 と、頬を膨らませながら彼女は言う。

 ラウラもこのように不機嫌になるのか、などと関心している場合ではない。初めて見るということは、機嫌の直し方も知らないということだ。

 プレゼントはこのようなタイミングで渡す物ではないだろう。逆に、火に油を注ぐようなことになるかもしれない。

 素直に、もう一度謝ることにした。捻りもないが、仕方がない。

 

「だから良いと言っているだろう! 何も本気で怒っているわけではない!」

 

 大声を上げる彼女に、更に怒らせたのかと肩を震わせるが。

 

「私が言いたいのはだな…………」

 

 と口にする、頬を赤らめてもじもじと――身体の形が分かりやすいこの服装で――身を捩らせるラウラを見て。ふと、長く居着くために部屋に染み付いた彼女の匂いを意識して。

 私はベッドに座った。特に意味は無い。意味は無いともさ。

 

「どうかしたか?」

 

 少し俯きがちになった顔を覗き込むように、ラウラは背を曲げてきた。

 そして「大丈夫」だ、と言おうとして。彼女の顔を見ようとして。重力に従って服と身体が離れた、その胸元の隙間が目に入る。

 

「どうしたというのだ!?」

 

 慌てて、身体を滑らせるようにベッドの毛布の中に潜り込んだ。

 そして言う。いや何、突然寒くなってきたんだ、と。

 

「暖房は付いているが。確かに」

 

 リモコンを触り、設定温度を見返すラウラ。

 それはお前の格好が薄いからだ。言いたかったが、何時もなら言えるのだが、雰囲気的に何故か言えない。

 押し黙り、ゆっくりと呼吸をして落ち着こうとしていると。無言で、何時もの調子でラウラは毛布の中へと入ってきた。

 

「…………せっかく寮に残ってまで飾り付けてくれたのに。機嫌を悪くしてすまなかった」

 

 そうして暖めるべく、また体温を求めるように、布団の中で身を寄せてくるラウラ。

 可愛い。止める意図もあったのだが、腰に置いた左手からの感触が本当に柔らかい。

 

「お前が残ると知った時、クラリッサに色々聞いたのだ」

 

 と、準備を楽しみにしていたことを語り始めるラウラであるが、顔と顔が30センチもない距離で向き合ってる状態では全く耳に入ってこない。

 柔らかい。いい匂いがする。縋り付くように身を寄せて背に腕を回してくる。

 彼女は何時も通りの、むしろ服を着てるから大丈夫だと思っているのだろう。

 だが、そちらは苦労の末に堪え、慣れることに成功したと言えども此方はまた違うのだ。

 

「聞いているのか? やはり、体調が――――」

 

 ああ、堪えるのだ。服を着ているのだから、大丈夫だ。

 そう思い、目を伏せて悶々としたいると、額に肌が当たる感触がした。

 

「少し熱いな」

 

 そう言い、唸るラウラの腕が首に回る。

 

「しっかり寝て汗をかけ。治るまで私が付いていてやる」

 

 頭を抱き寄せられ、足を絡められ、胸板がぴったりと当たる程に近づく。

 となれば、必然的にソレもそうなるというもので私は。

 

 




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