部屋から連れ出され、そろそろ30分くらいだろうか…
街外れの森にやってきていた。
「…ってこんなとこに森なんてあったか…?」
この都会で、緑といえば道路の雰囲気の為に植えられた花壇や花屋、ガーデニングを楽しんでいる人の家庭にある木々しか見た事がない。
それになにやら薄気味悪い形の木や本でよく見るマンドラゴラに似た物が生えている。
「なぁ…エルム…」
「はい、なんでしょう?」
エルムは俺を引っ張って行きながら振り返る。
結構走ったのに息切れどころか汗すらかいていない。
「こんな森…この街にあったか?」
「この街?何を仰るのですか?
もうここは魔界ですよ」
「…え?」
すぐさま後ろを振り返る。
木々や植物ばかりでそれ以外は何もなかった。
街を離れたか…?いや、でもおかしいあの街の光や音は少し遠くでも見えたり聴こえてくるはず…
「まさか…本当に魔界に…?」
そう呟くとエルムが頷いた動作が見えなくても分かった。
俺は諦めて、エルムについていく事にした。
走り続ける事20分、城下町のような場所に着いた。
「広いな…」
圧巻だった、勿論住んでいた街も広かったがそれ以上だったからだ。
そんな唖然としている俺を見てエルムが口を開く。
「ここはヴァネット城城下町です。
そして町の奥に見える大きな城が魔王様が着任なされるヴァネット城です」
そう言うと手で奥の城を示す。
かなり大きく、それでいて気味悪い雰囲気が漂っている。
まさに魔王の城だった。
そんな城をただ呆然と見ているとエルムが手を引っ張って歩き始める。
「行きましょう、兵士達が魔王様を待っていますよ」
「あ、あぁ…」
そんな返事しか出来なかった。
それもそうだ、仕事から戻ると変な手紙が届いていてそれを読むと魔王代理に選ばれたなんて書かれていて、迎えの悪魔も来て、展開が突然過ぎて理解が出来ない。
普通だった毎日がどうしてこうなったんだ…
そんな事を考えているといつの間にか城の前だった。
「さぁ魔王様、兵士達が待ち望んで居ます。
どうぞ…」
そう言うとエルムが下がって行く。
にわかにまだ信じ難いが恐る恐る扉に手をかけて、開ける。
「魔王様がいらっしゃったぞ!」
「お待ちしておりましたぞ、魔王様!」
「これで魔王軍は安心だっ!!」
開けた途端に歓声や歓喜の叫びが飛び込んでくる。
流石に驚き、固まってしまう。
「うぉ…!?」
ただ立ち尽くしているといきなり胴上げのように担ぎ上げられた。
ゴツゴツとした手が俺を投げ上げる。
驚きもだがいきなりの胴上げに疑問も産まれる。
そのまま王室のような所に連れて行かれ、そこで降ろされた。
「いつつ…なんだ今のは…」
「魔王様がお越しなって兵士達が喜んでいるんですよ」
笑ってそう言いながらエルムが入ってくる。
俺は立ち上がると少し溜め息をして苦笑を浮かべる。
「さて…この様子だと本当に魔王に着くことになるみたいだな…」
「はい、簡単な説明を致しますので。
そこのお席にお座り下さい」
エルムが指した方を見ると椅子があった。
言われた通り、腰掛けてエルムの話を聴く事にした。
「…では。
この度、現魔王が消息不明になってしまい、
代理魔王を決める議会が開かれました。
そして見事その議会で代理魔王に抜擢されたのが冨隆様です」
「…別に頼んでもないし立候補もしてないんだが…」
「その件についてですが…
今回の代理魔王決定会では下界に居る人間の中で最も魔王の素質や器がある者を選ぶ、というものでした」
「そしてその素質や器があるのが…」
「そう、冨隆様です」
それを聞き、溜め息をつく。
俺に魔王の素質と器がある…?こんな平凡な会社員に?
疑問もあるが、やはりそんな事より魔王に選ばれた事にかなり衝撃がある。
その様子を見るエルムだが、目を瞑って話を進める。
「…次は魔王の仕事についてです」
「…あぁ」
「魔王の仕事は城下町の店などの管理、防衛。
魔界に異変がないかの調査。
…そして敵との戦闘や騎士軍との戦争です」
「…え?」
騎士軍との…戦争…?
まさか…殺し合うのか…!?
いきなりの通告にただ呆然としていた。
「騎士軍と魔王軍は年々と戦争を繰り返しています。
その指揮権と主格を魔王自らやるのが伝統です」
「おい…待てよ。
俺は代理だろ?代理でもやらないといけないのか…?」
「当たり前です。
我ら魔王軍は魔王様が居ないと指揮も主も居ないまま戦わなければなりません…」
「…俺も、戦うのか…」
「…はい」
エルムは静かにそれでも強くその言葉を発した。
俺が魔王…魔王も戦う…俺が軍を指揮する…
そんな事…俺に出来るのか…
そんな思いが頭を永遠と巡る。
すると話を変えようとエルムが口を開く。
「…この話はまた後程。
魔王着任の為に準備をして下さい。
10分後にお迎えに上がります」
ただそう言うとエルムは部屋を出る。
1人残され、ただ天井を見ていた。
「…悩むのは後だな…」
10分後にエルムが来る…だから支度をしないと。
そう思い、立ち上がると立て掛けられていた魔王の服を取り、着る。
そして身なりを整え、エルムを待つ。
少しするとノックと共にエルムが入ってくる。
「お迎えに参りました」
「あぁ、行こうか」
エルムは頷くと歩き始める。
俺はその後をついていく。
長い長い廊下を歩いていくと城下町を見渡せるバルコニーが見えてくる。
既に歓声が聴こえてくる。
そして、バルコニーに立つとまるでオリンピックのような歓声が飛び込んでくる。
「静まれ!
これから魔王軍を導いて下さる魔王様のミタカ様だ!」
バルコニーに立っている1人の兵士がそう言う。
また溢れんばかりの歓声。
ミタカ…俺の名前から取ったのか。
そう思っていると着任した一言を言えと先程の兵士が言ってきた。
「この度魔王に着任した、ミタカだ。
着任したばかりでまだまだ不安が多いが俺がお前らを引っ張って行く!
改めてよろしく頼む!」
思い付いた事を言った。
ただそんな発言にも国民は歓声を上げていた。
何かと不安だがとりあえず着任はしたらしい。
そして俺の生活が普通の会社員から普通の魔王の生活へと変わった。
❄霜月❄です。
えー寒くなって来ましたね。
そろそろストーブの季節でしょうか、それはいいとして。
今回は魔王に着任と言う事でその場面を書きました。
こういう系は初めてなので不安が募るばかりです。
さて、あとがきはこの辺で。
更新は一週間以内にはしたいですが私の個人的な事情で遅れるかも知れません。