それではどうぞ。
未だに状況を把握できていない俺はとりあえず傍にいる女の子に話しかけることにした。何かしらの情報が掴めるはずだ。
「ねぇ君、ここはどこだか分かるかい?」
「え? ここは鎮守府にある医務室ですよ」
何を言ってるんだコイツ、ほどじゃなかったがそれっぽい目で見られて思わず目が点になってしまった。
鎮守府? 医務室?
Why?
俺が知ってる鎮守府ってのは艦これの世界の鎮守府しか知らないぞ。ちなみに俺の家の近くに当然だがそんな名前の住所も存在しない。
「……って君はまさか、吹雪?」
「? 何を今さら……はっ、まさか頭を打ったショックで司令官が記憶喪失に!?」
「いや、それはないと思うんだけどな」
「た、大変ですー! 急いでみんなに知らせてこなくちゃ!!」
「だからそれはないって言ってるだろ!? ええいとりあえず落ち着け!」
「ふぎゅ!?」
大慌てし始めた『吹雪』という少女の制服の襟を掴んで強引に引き留める。その際に少女の呻き声がちょっと可愛いとか思ったのは内緒だ。
「げほ、げほっ……酷いです司令官……」
若干涙目になっている。そんなに強く引っ張ったつもりはなかったのだが泣きそうになっている少女を見て罪悪感が湧き上がってきて咄嗟に謝った。
「ご、ごめんな。とにかく俺はもう大丈夫だから必要以上に騒がないで貰えるかな、他の皆に余計な心配かけたくないし」
「し、司令官……?」
とにかく謝っておこうと思っての言葉だったのだが吹雪は何故かすごく驚いた顔をしている。
と、思ったら凄い勢いで俺に詰め寄って来た。
「やっぱり具合が悪いんですねそうなんですよね!! 司令官が私に謝るなんてあり得ませんもんね!」
「は?」
「よく考えてみたらいつもと喋り方も少し違いますし頭をぶつけたショックで人格に異常が出てるのかな……そうだったら一大事です! やっぱりもう一度しっかりと検査してもらった方がいいですよ!!」
「……は?」
俺と目の前の少女の距離は鼻と鼻がぶつかりそうなぐらい近いのだが、少女が凄まじい形相でまくしたてていりためそんなことを考える余裕はなかった。
「だからとりあえず落ち着いてって!」
「あぐっ!?」
とりあえず距離をとるために少し力を強めにデコピンをお見舞いしてあげた。
「ううっ……」
かなり痛そうに額を押さえているけど大袈裟なような気がする。そんなに痛かっただろうか? デコピンをかましておいてアレだが、再びちょっとだけ罪悪感が生まれる。
「吹雪、俺はもうぜんぜん平気なんだって」
「ううっ……ほんとですか?」
そこから十分程の時間をかけて吹雪を説得しなければならないのだった……俺としては早くこの状況の説明をしてほしいってのに。
ーーーー
俺はベッドから移動し、自身の執務室だという部屋に吹雪と二人でやって来た。ゲームと同じような印象を受ける内装だ。必要最低限の家具しか置かれていないので俺のゲームの中の執務室とは全く違うが。
先程たっぷりと時間をかけて吹雪を説得した。何故か納得がいっていないようだがどうしてだろう。
何はともあれ、一応は俺が元気だということになったので改めて聞きたい事を聞いてみる。
「そもそも俺はどうして気を失っていたんだっけ?」
「多分なんですけど階段を降りている時に急にバランスを崩してそのまま落ちていっちゃったんだと思います……凄い音がしたので心配だったんですよ」
「階段から落ちた……」
その際に何か超常的な力が働いてコイツの中身が俺になってしまったんだろうか?ちなみに先程、鏡を見て顔を確認した所、見間違えるはずもない俺――柊蓮弥の顔そのものだった。
本当はここで名前の確認とかもしたいんだが流石に自分の名前を聞くのは不味い気がする。せっかく落ち着いた吹雪がまた取り乱しかねない。
現状を整理するとここはほぼ間違いなく『艦これ』の世界だ。まだ夢という可能性も否定できないが……ここまでリアルなのに夢オチだったら俺の艦これ依存症が露骨に出たみたいでなんとなく嫌だ。
右も左も分からない今、頼りになるのは目の前にいる少女ーー駆逐艦吹雪のみ。
とにかく彼女と打ち解けなければ話が始まらない。
「吹雪」
「は、はい」
改めて名前を呼ばれたことで少女の声に緊張感が出る。そこで俺も改めて自分がこの子の上司である提督なんだなぁ、と思った。
「最初に俺を見つけてくれたのは君だね」
「はい……凄い音がしたので気になって見に行ったら……」
「そうか。ありがとう」
「ふぇ?」
……どうしてそこで不思議そうな顔になるんだ? だけどいちいちツッコミを入れていたら話が進まないのでそのまま言葉を続けた。
「君が見つけるのが遅かったら酷いことになっていたかもしれないだろ? それについてのお礼だよ」
「は、はい。これぐらいは秘書官として当然ですから……」
なるほど、薄々気づいてはいたがやはり秘書官は吹雪なのか。それにしてもさっきから吹雪の返事の歯切れが悪いんだけどまさか中身違う人間だってバレたか!? いや、別にバレて問題があるわけじゃないんだろうけどさ。
……いや待てよ。よく考えろ、ひょっとして大問題になるんじゃないのか?
一応は軍を指揮している立場である以上、中身が全く別人の素人であると判明したら良くてクビ、最悪は死刑やら極刑やらにされるかもしれない。こんな訳の分からないまま死ぬなんてアホくさすぎるのでこの事は自分の胸の中にしまっておいた方が良い気がする。
だとすると下手に喋るとボロが出るか? いや吹雪達『艦娘』とコミュニケーションを取らない方が問題があると判断する。
この身体の本来の持ち主がどんな奴だったかは知らないが心機一転した結果だと言い通そう。苦しい言い訳だが仕方がない。
「この後の俺の仕事はなんだったけ。教えてくれ」
質問すると再び驚いたように ぽかーん、と口を開けている。なんでだ、俺は提督としてどうしたらいいんだ。ゲームしかしてないんだから分かるわけないじゃないか。
「ふ、吹雪?」
「え、あ、はい。この後の予定はですね、資材の備蓄量のチェック。それから遠征の途中報告を受けてもらう事になると思います。それからーー」
手帳のようなものをポケットから取り出し、この後の業務を細かく教えてくれる。
吹雪から仕事内容を聞いていて思った事。
提督、思ったより忙しくね? テーブルに座って遠征やら出撃やらの指揮を適当にするだけじゃないの?
顔が引きつりそうになるのを必死にこらえながら至って真面目な顔で受け答えをする。普段こんなに真面目な顔しないから顔の筋肉が疲れるよ……
「ーー以上が今日のお仕事ですね」
長かった。
うん、これは提督達に同情するわ。まだ話聞いただけだけど超大変そう。
内心、泣きそうになる。ここは秘書官の吹雪に頼るしかねえ! 二人で頑張れば何とかなるんじゃないのか。そもそも提督の業務に関しては何の知識もない俺は明らかに年下のこの女の子に頼るしかない。
「……吹雪」
「は、はい!」
内心じゃなくてマジで泣きそうになりながら彼女の名前を呼ぶ。情けないがすがるように。
「頼りにしてるからな」
そう言うとやはり驚いた顔をしたが、今度はすぐに笑顔になって敬礼までしてくれた。
「はい! 私、精一杯頑張ります!!」
そういえば初めて笑ってくれたな。やっぱりアニメでも思ったけど笑顔が可愛い……ってこれじゃ本当にロリコンじゃね? 二次元においてはロリコンの自覚はあったけど三次元においてのそっちの趣味はない。断じてない。
そんなどうでも良い事を考えながら、俺のあり得ない世界でのあり得ない体験が始まったのだった。俺、帰れんのかなぁ。
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ここまで見てくださってありがとうございました。