魔王少女の女王は元ボッチ?   作:ジャガ丸くん

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ハーメルン初投稿なので温かく見守って貰えれば幸いです……


八幡の柔らかチキン解体術♪
元ボッチが指導者としてやってきましたよ?


side ???

 

放課後、日が沈み始め街の景観が夕陽色に染まっていくこの時間が俺は好きだ。夕焼けは人の心を落ち着かせる効果があると言われているが、それは人に限った事ではないだろう。事実この景観は腐り濁っている俺の目から見ても素晴らしいものである。校舎の屋上で腰を下ろしながら、俺は1人自慢のアホ毛をピクピク跳ねさせながら静かにこの時間を堪能していた。

そんな雰囲気を壊すように携帯の振動が俺の身体を刺激する。俺の携帯が鳴るのは珍しい。俺の携帯番号を知っているやつが少ないとは言わないが、殆どの奴がかけてくることはない。

とはいえ、鳴ったことに対して驚くことでもなかった。かかってくる理由も、かけてきた人物もある程度予想できたからだ。数分前に感じた2つの力の塊。それだけで理解するには俺には充分だった。携帯を取り出し画面を開くと予想通りの相手からのメッセージが届いている。そこにあるのはただ一言。

『オカルト部室に来て下さい』

あまりにも簡潔に書かれたその言葉に思わず笑ってしまいながら、彼女らしいと思い立ち上がる。はぁ、と一息つくと黒い影が俺を包み、その場には静寂のみが残っていた……

 

 

 

???side out

 

イッセーside in

 

ライザーが消えた部室は静かだった。部長の婚約をかけたレーティングゲームが行われることになったが戦力差が明らかだからだ。

 

「大丈夫よ。ライザーなんかには負けないわ」

 

そういって眷属達を励ます部長だが安心はできない。無論あんな奴には負けたくないし部長を渡す気もないが、敵の眷属に為すがままにやられた俺は何も言えない。

 

「無理でしょうね」

 

部長の言葉に答えたのは眷属ではなく、その場に居合わせたグレイフィアさんだった。

 

「そんなのやってみないと……」

 

「わかりますよ」

 

部長の否定の言葉を彼女は冷たく返す。

 

「ライザー様は非公式とはいえレーティングゲームを既に幾度となくこなしています。それに加え眷属の数も揃っている上に、質も現時点ではライザー様が上です。」

 

そういってグレイフィアは俺たちにも視線を向けてくる。

 

確かに彼女の言うとおりである。

数は相手が15人

対してこちらは

部長、朱乃さん、木場、アーシア、雪ノ下、由比ヶ浜、俺、小猫ちゃんの8人。

人数はほぼ倍の違いだ。

質は俺が一撃でやられたことでわかる。

無論朱乃さんや木場がそう簡単に負けるとは思えないが……

雪ノ下と由比ヶ浜はつい最近転生したばかり、その上俺が無理を言って頼んだので部長が転生させてくれただけで、神器も持っていない。

無論ルークとナイトの駒の性質上力は上がるがそれだけだ。

 

部長もそれを理解しているからか、グレイフィアさんの言葉を受け押し黙る。

 

「ですので、こちら側からも支援させていただきます」

 

『は⁉︎』

 

押し黙った部長だけではなく、その場に居合わせた全員がグレイフィアさんの言った言葉に反応する。

 

「え、えっとグレイフィアさんは部長の事を結婚させたいんじゃ……?」

 

思わず思ったことを言葉に出した俺に対し

「いいえ。寧ろ反対ですよ。私もサーゼクス様も。しかし、酒の勢いとはいえ一度約束してしまったことは貴族として取り消せないとのことでしたので、サーゼクス様と話し合いをした結果レーティングゲームで決めるように仕向け、リアスお嬢様を勝たせればよい、との判断がくだりました。」

 

その言葉に俺たちは絶句してしまう。

いろいろ言いたいことがあるがまず何よりも

 

「うわぁ、あのライザーって人超不憫……」

 

「由比ヶ浜さん。あのような下卑た相手にはそういった対応が適切なのよ?」

 

俺が思ったことを由比ヶ浜が口に出し、雪ノ下がそれを否定する。

 

「ところで支援ってなんですか?」

 

ライザーに対するなんとも言えない空気が出始める中木場がグレイフィアさんに問い出す。

そういえば支援があるって言ってたな……

 

「直接は手を出せないのでレーティングゲームまでの10日間、こちらで皆様の特訓に付く先生を用意することになりました。」

 

『先生?』

 

「はい、その方は……いえ、どうやら来たみたいですね。」

 

俺たちの反応にさらに返そうとするグレイフィアさんだが、何かを感じ取ったように部室の入り口の方へと体を向ける。

それと同時にノックの音が部室に響いた。

 

「どうぞ入ってください。」

 

ノックに対してグレイフィアさんが反応し、ドアが開いていく。

 

そこには俺のクラスメイトであり、俺の友人である男がいた。

 

 

「は、八幡⁉︎」

 

 

 

イッセーside out

 

 

八幡side in

 

 

「は、八幡⁉︎」

 

オカルト部室に入るとまず驚きの声をかけられる。驚いているのはイッセーだけではなく、雪ノ下と由比ヶ浜、それに小猫も目を見開いている。そこまで驚くなよ。特に小猫は。

 

「はぁ、お久しぶりですねグレイフィアさん。」

 

「はい、八幡様は元気そうで何よりです。」

 

とりあえず久々に会った相手に挨拶をするがその返しに思わず笑ってしまう。

 

「ふふ、やめてくださいよ。最強の女王様に様付けで呼ばれるのはなんか、こう……モヤモヤします。」

 

「ご謙遜を。最強の女王など名ばかり。八幡様に比べたら取るに足らないでしょう。」

 

ふふふふふ、と2人して儀礼的なやり取りをすませる。その間他の奴らはポカンとしてやがるな。

 

「さてと。それでグレイフィア、ある程度呼ばれた理由はわかるが一応聞こうか。何の用だ?」

 

「八幡にリアスお嬢様及びその眷属の方々を指導して欲しいのですよ。10日後のライザー・フェニックス様とのレーティングゲームに備えて。」

 

わかりきっていた本題を聞き、予想していたとおりの返答が返ってくる。

 

「ったく。あのシスコン魔王が……嫌なら手前でなんとかしろってんだ。」

 

「立場がありますからね。」

 

俺の心にもない言葉をグレイフィアは笑いながら返してくる。

 

「わかったそんじゃそういうことで……」

「待ちなさい‼︎」

「なんだよ?」

 

俺がグレイフィアの依頼を受けようとした瞬間、雪ノ下が叫び出す。

 

「何故あなたがここにいるの?」

「ここの学生だからだが?」

「嘘ね。あなたの名前なんて全校生徒の名簿になかったわよ。」

「イッセー、俺はお前のクラスメイトだよな?」

「え?……あ、ああ。」

 

俺と雪ノ下の早いやり取りからいきなり振られたイッセーは慌てながら答える。

 

「そんなはず……まぁ、いいわ。では生徒だとしましょう。」

「実際に生徒なんだがな……」

「今更何しに来たのかしら?私達の前から勝手に消えておいて。」

「話聞いてなかったか?お前らに会いになんてこねぇよ。グレイフィアに呼ばれたからだ。リアス・グレモリー及びその眷属を鍛えるためにな。」

「あなたにそんなことできるわけないじゃない。あなたなんかに……」

「できますよ。」

 

ふと俺らのやり取りにグレイフィアが割り込んできた。

 

「彼ならば、貴方方を鍛えることができますよ。」

 

その言葉を聞いて尚雪ノ下は引き下がらなかった。

 

「そ、そんなことないわ。だって彼は‼︎」

「やめなさい雪乃‼︎」

 

ヒートアップし始める雪ノ下をグレモリーが声を荒げ止める。

 

「っ」

グレモリーに止められた雪ノ下は悔しそうに唇を噛み締めるが流石に主に反論はしないようだ。

 

「私の眷属がすみません。ですが私からも聞きたいのですが……」

止めたグレモリーだったが、気にはなるのだろう。確かに俺のことに対して何も説明してなかったな。

 

「ああ、説明を忘れていましたね。」

絶対嘘だ。わざと話してなかっただろ。

その証拠に口元がにやけている。

 

「彼、比企谷八幡様は四大魔王が1人、セラフォルー・レヴィアタン様の女王ですよ。」

 

 

『は?』

 

おーおー、グレイフィアの言葉で全員開いた口が塞がらなくなってんな……

 

「ちなみに私との個人的な手合わせでは、現在824戦中372勝370敗82引き分けと彼が勝ち越しています。それも神器も使わずに。」

それも私は手加減されてますし、とグレイフィアは付け足した。

 

 

『はぁぁぁあああああ‼︎⁉︎???』

 

あ、グレイフィアの奴が余計なこと言って更に騒がせてやがるな……

 

「は、八幡が悪魔⁉︎」

「セラフォルー様の女王ですって⁉︎」

「あらあら……」

「へぇ。」

「それってすごいんですか?」

「うそよ……」

「ヒッキーが……」

 

各々思うことがあるのか呟いている中、ふと袖を引っ張られた。

 

「八幡先輩って悪魔だったんですね。」

 

「ああ、まぁな。黙ってて悪かったな。」

 

「いえ、今度またケーキバイキングに連れて行ってくれるなら。」

 

「かまわねぇよ?」

 

俺がそう返すと俺の袖を引っ張った張本人。

搭城小猫はグッと拳を握りニヤける。

守りたい、この笑顔……

 

「小猫ちゃん八幡と知り合いなのか⁉︎」

俺と小猫が仲良く話していたからかイッセーが驚きの声をあげる。

 

「甘いもの巡りをしてます。」

 

「ああ、それって彼のことだったんだ。」

 

小猫の言葉に聞いたことがあったのか木場が相づちをうち、イッセーがマジかよ⁉︎とまた声を荒げる。

 

ってかここの奴らうるせーな。

 

「んじゃ、とりあえず、明日から特訓するから学校休めよ?そういうことで。」

 

そう言って立ち去ろうとするが、今度はもう1人の方が止めてくる。

 

「ひ、ヒッキー‼︎」

 

「はぁ……なんだよ。」

 

「え、あ、えっと……今まで何してたのかなーって思ったり……」

 

「別に?俺の今の任務はシスコン魔王2人から頼まれた、ソーナ・シトリーとリアス・グレモリーにもしものことがあった際の護衛くらいだし、それ以外は適当にフラフラしてるだけだよ。」

 

「そ、そうなんだー、あ、あははぁははは。」

顔を引きつらせながら無理やり笑う由比ヶ浜だが、その笑いは次第に収まり、そして深刻そうに聞いてくる。

 

 

 

 

 

 

「なんで……どうして奉仕部からいなくなっちゃったの?」

 

 

 

 

八幡side out

 

 

イッセーside in

 

 

「なんで……どうして奉仕部からいなくなっちゃったの?」

 

その一言に部室が静まり返る。

俺たちは雪ノ下と由比ヶ浜から話は聞いている。彼女たちが中学の時に起きた事件。

勝手なことをした八幡が勝手に消えた話。

聞いた時はそいつは最低野郎だなと思っていたが、八幡がそうだったのか。

 

 

「どうして……ねぇ……」

 

由比ヶ浜の言葉を八幡が復唱するように呟く。

その顔に何故か寒気を感じてしまう。

 

「はぁ。なぁ、あの時。本当に俺だけが悪かったのか?」

 

少しの間の後、八幡が出した言葉への返事は誰もしない。おそらくみんな感じているのだ。

このなんとも言えない寒気を。悪寒を……

 

「なぁ、雪ノ下。あの依頼はリスクが高かった。だからどうしても断るべきだった。俺がそういった時、俺に決定権はないと言って否定したのはお前だよな?」

 

その言葉に雪ノ下は答えない。

 

って、え?

今なんて言った?

八幡に決定権はなかった?

ちょっと待って欲しい。

俺たちが聞いた話では依頼を受けたのは……

 

 

「なぁ、由比ヶ浜。あの時リスクが大きかったのにその場の空気に合わせてやろうやろうって言ったのはお前だよな?」

 

その言葉に由比ヶ浜は俯く。

 

 

やはり何処かおかしい。

俺らが聞いてた話と食い違いがある。

 

「なぁ、雪ノ下お前は俺に決定権がないと言って受けたくせに、最後はクラスが違うからって俺に丸投げしたじゃないか?その上お前は言ったよな?俺に任せるって。」

 

その八幡の一言一言は重々しい。

 

「なぁ、由比ヶ浜。お前は終始何もやらなかったじゃないか。やろうやろうって言っといて。結局何もしなかったじゃないか……」

 

八幡の言葉に雪ノ下と由比ヶ浜の顔色がどんどん悪くなっていく。それが、八幡の言ってることが本当のことだと如実に物語っていた。

 

「だから俺がやったんだろ?相反する2つの依頼。告白したい奴と告白を避けたい奴。その妥協点として俺が偽の告白をしたんだろ?なのに、俺のやり方が嫌い?人の気持ちを考えろ?」

 

ふと俺は気付く。

自身の身体が震えていることに。

八幡が出している気配に恐怖を感じていることに。

 

「巫山戯るなよ?俺はお前らの都合のいい玩具じゃないんだよ。」

 

その言葉を最後だったのか感じていた悪寒が消える。

 

「っはぁ……」

 

思わず呼吸をすることを忘れていたようで、俺はようやくそれに気付き思い切り肺に空気を送り込む。

 

「ああ、わりぃ。ちょっと魔力が漏れ出てたみたいだな。」

 

なんともないように八幡が告げる。

 

あれでちょっと漏れ出た?

その八幡の言葉と実際に感じた気配に背筋に冷や汗を流す。

 

「まぁ、お前らのことなんでどうでもいいがな。」

 

その八幡の言葉にその場にいたグレイフィアさん以外が目を見開く。

 

 

「所詮、偽りの日常。セラフォルー様みたいになりたくて入ってみたが、やっぱり俺は駄目だな。どんなに頑張ってもセラフォルー様のようにはやっぱりなれない。」

 

その言葉にどんな想いが込められているのか俺にはわからない。でも、そこに八幡の複雑な想いが込められていることは彼の顔を見て読み取れた。

 

雪ノ下と由比ヶ浜は唇を噛み締め、俯いたまま何も言わない。

周りは八幡の雰囲気に殆どが圧倒されている。

だが、例外もいた。

 

小猫ちゃんだけは

何故か雪ノ下と由比ヶ浜を睨んでいた。

 

「……さない。」

 

「小猫ちゃん?」

 

よく聞こえなかったが小猫ちゃんは何かを呟いていた。

 

「さて、それでは私はそろそろ失礼します。」

 

この雰囲気の中みんなに聞こえる声で発したのはグレイフィアさんだった。

 

「おぅ、お疲れ様。まぁ、こっちはやれるだけやるさ。」

 

「よろしくお願いいたします。それと最後にセラフォルー様からも2つ伝言を頼まれているのでそれだけお伝えします。」

 

「なんでグレイフィアがセラフォルー様からの伝言を預かってんだよ……」

 

「1つ目がソーナ様の件、ご苦労様だそうです。2つ目が特訓の時は万全の体制でやっていい、とのことです。」

 

「……了解。」

 

では、とグレイフィアさんの足元に魔法陣が現れ姿を消す。

 

「んじゃ、明日から10日間グレモリー家所有の山で特訓するからな。朝早いから遅れるなよ?グレモリーは俺ら全員の公欠手続き頼むわ。」

 

そう言って八幡は部室から出て行った……

 

 

残されたこの部屋では、皆がソファに腰を下ろすボスンという音が聞こえてしばらくの間、誰も言葉を発しようとはしなかった。

 

 

 

 

 




回覧ありがとうございます。
誤字脱字、感想など頂ければ幸いですm(__)m

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