魔王少女の女王は元ボッチ?   作:ジャガ丸くん

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今回みじかめです。


ご了承ください。

メンタルが砕けつつある作者より。





【閑話】夏の夜に《ユウキ編①》

「それで何がまずいの?」

 

「…………」

 

「黙ってないで教えてよ八幡」

 

公園の街灯が辺りを照らす中グイグイと俺の服の袖を引っ張ってくるユウキを前に俺はどうすべきかと悩んでいた。そんな俺からは逃げるような言葉が飛び出る。

 

「それよりもここにきて大丈夫なのかよ」

 

「大丈夫大丈夫、ヴィザにいろいろ任せてきたから」

 

ケロッと言うユウキだがヴィザにまた事務作業を押し付けたらしい。ユウキは戦闘には特化しているが事務作業の方は残念だ。ゼノヴィアと同じなのだ。

 

そんな殴りたくなるほど可愛らしくもイラっとくる表情に呆れながらも俺は

 

 

「ヴィザには休みをやらねぇとな……」

 

と自身の眷属で最も多忙な男に対し申し訳なさそうに声を漏らす。

 

「それなら真っ先に八幡が休むべきだと思うよ?」

 

「押し付けた奴が言うな」

 

「っあて⁉︎」

 

漏れ出た声をユウキが拾うがどの口がそれを言うのだと彼女にデコピンを食らわすと、割とすごい音が鳴り響く。

 

まぁ、人間界の建造物なら吹き飛ぶレベルのデコピンだしな。むしろそれを痛いで済ませるユウキがすごい。

 

「うぅー、傷物にされた……」

 

「どこで覚えてきた……」

 

それと同時にユウキは額を押さえながらとんでもないことを言い出す。ホント心臓に悪い。特にシノンや他の連中に聞かれればただでは済まないだろう。

 

 

 

 

俺が物理的に……

 

 

 

「……それよりも本当に何がまずいのさ?」

 

そんなしょーもないことを俺が考えているとユウキが話を戻す。そんな彼女に

 

 

「なにも?」

 

と白々しくシラを切るが、

 

「あー、シノン達とおしゃべりしたくなってきたな♪聞かれちゃまずいことなんでしょ?」

 

と、意味深に言ってくる。その顔はしてやったりとにやけていた。

 

 

 

「……どこから聞いてた?」

 

ヒヤリと頬の横を汗が垂れる。

まさか、とその自分の考えを否定して欲しいがために彼女に確認をするも

 

 

「もう10年近く経つのか……」

 

「初めからじゃねえか⁉︎」

 

その淡い希望は簡単に打ち砕かれ、がくりと肩を落とし深いため息をついた。

 

 

口に出していた内容は少ない。しかし、その少ない内容だったとしても始めから聞いていたとなればユウキの事だ、ある程度は語らずとも察しているのだろう。

 

 

 

「わかってるのに聞くなんて人が悪いぞ?」

 

「悪魔だからね♪」

 

 

そうだったなコンチクショウ。俺もお前も人じゃなかった。

 

 

先ほど同様満面の笑みで応える彼女にまたしてもデコピンを食らわせたくなる。

 

 

 

 

「まぁでも大丈夫だよ」

 

そんな俺の衝動を宥めるようにユウキがふと呟いた。

 

 

「ん?」

 

 

 

「八幡が僕たちを守ってくれるように僕たちが八幡のことを守るからさ」

 

いきなりそういう物言いは反則じゃねぇか?

 

そう思いながら俺はユウキのその言葉にただ相槌を返した。

 

 

「……そうか」

 

「うん」

 

 

それだけ言うとユウキは寄り添う様に俺の隣に座ってくる。まるで彼女の全てを俺に預ける様に…….

 

 

 

ユウキはやはり察していた。俺がなにを考えていたのか。いや、彼女だけではない。口に出さないが眷属達は殆どのやつが気づいている。俺の過去を知っている奴も知らない奴も、俺がどう考えているのかある程度察しているのだ。

 

 

本当に俺には過ぎた眷属達だ……

 

 

そう心の中でつぶやく。

愉快でやさしくて、強くて、それでいて自分の弱さを受け入れ乗り越える力を持つものたち。

 

そんな彼女達が俺には少々眩しく感じられた。

 

 

「別にそんなことないよ」

 

「……心読むなよ」

 

もはや日常茶飯事となりつつある俺の心が読まれるこれも、恥ずかしいが何度もやっているこのやりとりが何処か安心する。

 

 

「八幡限定の技だけどね」

 

なははははと、はにかみながらユウキは此方を見上げてくる。上目遣いをしながら向けられた赤い瞳が俺の瞳と合うとそのはにかみが止む。

 

 

「だってさ、僕達からすればさ八幡以外が主ってのは考えられないから」

 

 

そういうユウキの瞳は懐かしむような雰囲気が込められていた。

 

 

「だってあの時助けてくれたのは他でもない八幡だから」

 

 

続けるユウキの言葉を俺はただ黙って聞き続ける。

 

 

「新しい家族や居場所をくれたのは八幡だから」

 

 

そこまで言うとユウキは俺から視線を外し身体を預けたまま空を見上げる。

 

 

十五夜の月と満天の星空。

その美しい光景が彼女の瞳に映ると、赤い瞳にその光景が投影される。空に広がる光景以上にその彼女の瞳の方が何倍も美しく見え、不覚にもドキリとしてしまった。

 

 

 

「僕に生きることに意味なんていらないって教えてくれたのは八幡だから」

 

 

そんなユウキの瞳を見入っていた俺に彼女が続ける様に声を放てば、俺も現実にしっかりと引き戻され彼女の言葉に対して返していく。

 

 

「それは教えてねぇよ。ユウキが自分で見つけたんだろ?」

 

 

 

「それでも八幡がいたからわかったことなんだよ?だから僕からしたら八幡が教えてくれたようなものだよ」

 

 

そんな俺の反応すらわかっていたのか、ユウキは言い淀むことなく告げていった。

 

 

 

 

 

「ねぇ、父さんも母さんも、姉さんも彼処で僕らを見守ってるのかな?」

 

 

そう言ってユウキは右手を空へと伸ばしていく。伸ばしきったところで手のひらを閉じ暫く握りしめたままでいる。そして脱力した様にその手を下ろしていった。

 

 

「だとしたら俺に向けて天罰がくるな。ウチの娘に近寄るんじゃない‼︎とかお前の親父さんにいきなり激昂されそうだ。」

 

そんなユウキの言葉に俺はややふざけながら返すと彼女は再び笑い出した。

 

 

「あはははは、父さんなら言うかもね。その時は僕が守るよ」

 

 

俺のふざけた言葉にユウキものっかる。

 

それと同時にゆっくりと俺の手の甲に彼女は自身の左手を置いてきた。振り払いはしない。ただ、自分の手のひらを返し、お互いの掌を重ね合う。

 

 

 

「うん、僕が守るよ。八幡にはいっぱい助けてもらっちゃってるし、それに……僕はもう失いたくないから」

 

 

そう言ってユウキは指の隙間に彼女の指を絡め力強く握りしめてくる。そんな彼女を見て俺も手に力を込める。

 

 

 

 

 

 

昔の俺ならここで

 

守る必要なんてないし危ないなら逃げればいい。逃げちゃダメなんて強者の考え方でしかない。弱者である俺たち有象無象はそうやって生きていけばいい。つまり、俺は間違ってない、インフレ過ぎるこの世界が間違っている。

 

と、でも言っていただろう。

でも、今はもうそんなことは言えない。

捻くれは未だに消えない。おそらくそれはもう性分なのでなくならないだろう。

 

しかしこういうマイナスな考えは……逃げる様な考え方はもう捨てたのだ。

何故ならもう逃げることはできないから。

 

逃げるにはあまりにも、大切なものが出来すぎた。

 

 

ここにいるユウキだってそうだ。

割と眷属内で考えれば付き合いが短い部類に入るユウキだって俺にとっては既に大切な家族だ。たかだか数年とはいえ、それだけでも彼女のことを大切に想うには十分な時間だ。

 

 

 

 

 

「でも、そっか。八幡からしたら悪魔になってもう10年近く……僕からしてももう2.3年前になるのか」

 

 

不意に空を見上げるユウキがつぶやく。その言葉が出たのは俺の心を読んだからかは定かではないが。

 

 

「早いもんだねぇ」

 

「そうだな」

 

 

 

先ほどまでユウキが出していた懐かしさが俺にまで伝染し、2人してあの頃のことを思い出していく。

 

 

 

 

 

 

 

 




いかがでしたか?

感想お待ちしてます。


次回前にやったものよりもより詳しいユウキの過去回です。
おたのしみに。



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