山の一部を断つ一撃
山の一部を吹き飛ばす一撃
その2つの衝撃が連続するよう展開されていく。
上段から振り下ろした剣は返す刃で下段から上へと降り抜かれ最後には横薙ぎに剣撃を放つ。
対して両の手を使った拳はそれぞれの剣撃に対応するように振るわれた。
互いが互いに周囲への影響など気にすることもなく。繰り出す攻撃。
側から見れば拮抗しているように見えるそれも。だがしかし、悲しいことに拮抗などしていない。
方や目の前の敵しか見えておらず、方や周囲を見回す余裕を持ちながら対応している。
拮抗して見えているのだとすればそれは……
「ふむ、そろそろいいか」
相手の手の内を探るために片方が様子見をしていたからだろう。
「待たせたなデュランダル。解き放つぞ」
そしてようやくその様子見が終わったことを証明するように呟かれたゼノヴィアの言葉。
それに反応するようにデュランダルの出力が上がっていく。
「っおい、なんだそれ?!!」
先ほどの比にならない魔と聖のエネルギーに驚愕の声をあげる兵藤。
「そもそもデュランダルはその威力、切れ味ゆえに鞘を持たない。それに私の魔力を乗せているんだ。本来この程度の斬れ味な訳ないだろ?」
不敵な笑みを浮かべながら腰を低くし、デュランダルを水平に構える。
その瞳は兵藤を見ているようで見ていない。
その瞳が捉えるのは彼の周囲。
特異な能力がなくとも聖剣であるデュランダルに自身の魔力を流し込むことによって、邪なる気には敏感に反応できるようになったゼノヴィアは的確に兵藤の先を読んでいた。
赤龍帝たる兵藤。
その能力は非凡なものだが、彼自身は凡才だ。それは彼が赤龍帝の力を扱えてないというわけではない。むしろ奇妙な技を作るという意味では歴代最強とも言える鬼才だが、ここでいう凡才とは純粋な戦闘能力についてだ。
呑まれかけていたとこから脱し、向かい打とうとした兵藤に対し、ゼノヴィアは足に魔力を分け加速、距離を瞬間的に詰め、横薙ぎにデュランダルを振るう。
たとえ、能力を倍加していようと扱えなければ何の意味もなさない。
ゼノヴィアの動きを見ることはできても、反撃しようとしても、それを実行することをできなければ何の意味をなさず、デュランダルは赤龍帝の鎧の腹部を捉え、ミシミシと嫌な音を立て、吹き飛ばす。
「っぁぁああああ??!!?」
「逃がさん」
突如襲ってくる激痛に声を荒げる兵藤だがその隙を彼女は逃さない。
「っぐ、俺は、俺は負けれねぇんだ!!」
しかし、予想外なことに立ち直りが早い。
無様に飛び、転がっていった兵藤はその勢いのまま立ち上がると構え直す。
「ほぉ、見上げた根性じゃないか」
「部長の為にも俺は負けれねぇ!」
自身の主人の為、リアスグレモリーの為。
立ち上がり迎撃しようとする。
まさしく物語に出てくる主人公。
どんな不利な状況にも、どんな困難な状況にも立ち向かう。そんな姿。
しかし。
「自分の為の間違いだろ?」
無慈悲な袈裟斬りが繰り出される。
「ッナァァア???」
まるで瞬間移動したかのような動きに
いつ斬られたのかさえわからないその動きに
再度突然訪れた痛みに
彼は鎧が解除され膝をついた。
「部長の為?君は何をしていた?山籠り?特訓?そんなの当たり前のことだろう。本当に彼女のことを思うならこんな場所で彼女の恥部を突いたなどと言わない。本当に彼女を思うなら覗きのような行為をしない」
そんな彼を前にゼノヴィアはただ冷酷に告げていく。
「君のそれは全て自分の為だろう?」
デュランダルを空高くかかげ
「私も覚えたての言葉だが覚えておくといい兵藤」
まさしく女王と呼べる雰囲気を放っていた。
『お主は主人から可愛がられ、おだてられたからといって強くなろうと思うのか?主人の為にという言葉の元強くなるのか?違うな。自身が力をつけるのは何処まで行こうと自分の為だ。まずそれを認めねば先には進めない。自身の主人の為とはトドのつまり、主人の為になりたい、主人にこうあってほしい、主人にこうしてほしいという自身の我欲からくるものなのだから』
特訓3日目
マギルゥから言われたその言葉を紡ぐ。
本来この後には
『まぁ、それをハチもわかっておる。じゃから大切なのは依存しないことじゃ。あの白猫やソーナにはその節があるがお主は違えぬな。何も主人の為と言うなとは言うておらん。じゃがの、依存していては、人という字のままの通り、いずれ寄りかかられている方に負けてしまう。まず1人と1人になり、自立できねばの。そして自立しても、それでも寂しくて、寄り添いたくて、一緒に居たいからその身を寄せ合う。それ故に人という字は人と書くのじゃよ』
ま、ワシらは悪魔じゃがの♪
という、言葉が紡がれるがそれはこの場では紡がない。
ただ、かかげたデュランダルを垂直に振り下ろす。
なにせ、彼女の言葉を送るには目の前の男性はあまりにも……
覚悟が足らない
ズガンッと振り下ろされたその聖剣は兵藤には当たらずに地面に当たる。
それと同時に
『リアスグレモリー様兵士1名リタイア』
女王と懐刀との戦いの終幕が告げられた。
『リアスグレモリー兵士1名リタイア』
1つの戦いが終わりを告げられる一方で、そんなことなどには耳も貸さず、この戦場において先の2人と以上に苛烈を極めていたのは
「どっせい!!!」
「っふん!!!」
猫姉妹である。
先日の続きをするかの如く互いが仙術を行使しながら動く。
もはや2人の動きは鏡写しになっていた。
黒歌の黒い気弾が動けば、小猫の白い気弾が迎え撃つ。黒光りの稲妻が動けば白雷が対抗し、漆黒の風が吹けば純白の風がその行く手を阻んだ。
まるで生き物のように自在動く気弾と、時折紡がれる仙術の攻防が繰り出され、千日手となりつつあった。
仙術においては黒歌に一日の長があるが、近接戦では小猫が勝る。加えてゼノヴィアを除く八幡の眷属達は各々が制約を受けていた。
阿伏兎であれば【魔力の使用禁止】などであるが、黒歌が受けていた制約は
「(っんにぁ、流石に辛いにゃあ)」
仙術による索敵と先読みを行い小猫の攻撃をいなしている黒歌だが、その頬には汗がたらりと垂れる。
その瞳にはよく見れば魔法陣がうっすらと描かれていた。
(【視界の閉鎖】……思ったよりもきついにゃん)
せめて白音が仙術をここまで使いこなしてなければ、と妹の成長への喜び5割、現状に対する不満5割と心の中で悪態を吐く。
「っそこ!!!」
そんなことを考えてる間も終始小猫は攻めることを辞めない。視界が見えていない黒歌にはわからないが、2本の尻尾が小猫の後ろで揺れ動いている。
仙術で上回る黒歌だからこそ対抗できており、このまま長引けば他が動きこちらが次第に優位になっていくだろう。
しかし、
(それは姉としてできないよねぇ)
姉としての矜持がそんな外的要因による優位で勝つことを良しとしない。
たとえ制約を受けている現状でも勝ってこそ姉なのだ。
だが、だからこそ彼女は焦る。
(シノンがシノクニを使う前に終わらせにゃいと)
同僚の魔法が出る前に決着をと。
ゲーム開始前に決められたこと。
シノンの切り札の1つの使用。
前回の会談の際に老害に対し発言したこともあり、ある程度の力を見せつける必要があるからこそ、必ずシノンは使うだろう。
そして使われれば、若手の中でそれに対抗できるものはいない。
故に、
「ほらほらぁ、いくわよ白音!」
黒歌は自然エネルギーを先程以上に取り込む。自然から得たエネルギーが多ければ多いほど、それは強大な仙術となり小猫を襲っていく。
先程まで相殺されていた魔術は小猫の物を貫通しその身を襲う。
鏡写しのように動いていた気弾も、黒歌のそれは速度を増し、小猫のそれを打ち破りその身に迫った。
突然の変化に目を見開くも、即座に後ろに飛び距離を取る小猫。
しかしそれを許すほど今の黒歌は優しくない。
「んに"ゃ?!」
着地の瞬間、地から天へと登る雷撃を受けた小猫は驚きと苦痛の声をあげる。
そして、そこで足を止めたのが失敗だった。
先程まで避けていた気弾がその数の猛威を振るう。無数の痛みに耐えながらも更に跳びのき距離をとっていく小猫だが戦車の駒で防御力の上がっているにもかかわらず、その姿は痛々しい。
「んにゃー、ごめんね白音。でもこれで終わりにゃ!」
一方、そういって笑顔を見せる黒歌だが、彼女とて余裕ではない。
仙術を使うために取り込むエネルギーが多ければ多いほど強大な仙術になるが、当然それを扱うためにそれ相応の代償もある。
気を抜けば、悪意に呑まれるだろう。
気を抜けば、それこそ暴走とてありえる。
自身の制御できる自然エネルギーの量とて限度があるのだ。
今の黒歌は、攻撃から防御、小猫の動きまで全てを仙術頼りで動いている。
そもそも、動きの感知は自然エネルギーを取り込み、自身の魔力を入れ、薄くした状態で周囲に広げるものだ。
索敵ならばいいだろう。
しかし、今の黒歌は常に仙術で小猫の動きと周囲を感知している。
つまり、常時仙術エネルギーを取り込んでは垂れ流している状態なのだ。
さしもの黒歌でも、そう長く持つものではない。
「にゃはは、取り敢えず今日のところは私の勝ちにゃ」
だからこそ、終わりの一撃を放つ。
頭上に乱回転を起こしている黒い魔球はその勢いを増し小猫へと放たれた。
「っ……」
顔を歪め、姉を見る小猫だがそれを避けるほどの体力は先の回避で使ってしまっている。
そもそも、仙術で上回る黒歌と撃ち合い続けていたのだ。どちらが先にガス欠になるかなど想像に難くない。
けれど、最後までその攻撃から彼女は目を離さない。ここで負けるとしても、戦いの中で目をつぶらない。
魔球は徐々に近づいていき、そして───
「ぎゃーーーーっす??!!?!?!」
「へ?」
「んにゃ?!」
突如飛んできた金髪少女へとクリティカルヒットを起こした。
『・・・八幡様、兵士1名リタイア』
不運にも痛みを感じないように気絶できるよう殺傷性こそ低いものの、魔球に込められた自然エネルギーが多かったからか、突如飛んできたミッテルトはそのまま気を失ってしまう。直撃した頭部は大きなこぶが出来ており、心なしか煙が出ているようにも見える。
なんとも言えない空気が流れながらも、審判のグレイフィアからダウンの合図がされると共に彼女は転移させられていく。
「あの女を一撃で気絶させるか…流石は鬼呪龍神皇の眷属だな。不本意な倒し方ではあるが仕方ないか……大丈夫か?リアスの戦車」
「「っ??!」」
呆然としていた2人だが、突如かけられた声に2人は視線を移す。
視界が見えないにもかかわらず、突然の事に周囲への索敵を怠ってしまっていた黒歌からすれば不意打ちもいいところだ。
「ライザー……フェニックス!!」
「一応は同じチームだがな。まるで敵に出会ったみたいに名前を呼ぶな……不本意ではあるが相手がいなくなってしまった。勝手ながら助力させてもらうぞ」
そういって彼を炎が包む。
過去に受けた時以上に熱く眩い炎に思わず腕で影をつくる小猫だが、炎が収まると彼女は目にする。
先程までミッテルトと戦っていたからか、あちこち傷ついていた身体ではない。
まるでゲームが始まる前に戻ったが如く身なりを整えられたその姿を。
「さぁ、挑ませてもらうぞ鬼呪龍神皇の眷属。仕切り直しだ!」
ライザーはキメ顔でそういった。
次回!
ライザー視点!
何故ミッテルトは飛ばされたのか。
黒歌は2対1の状況をどう切り抜けるのか。
お楽しみに!
そしてミッテルトへ合掌!