魔王少女の女王は元ボッチ?   作:ジャガ丸くん

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みなさん感想ありがとうございます。

たくさんの感想をいただきよりやる気が出ていました。

今回は八幡の過去編と少し長めです。


ボッチな彼は孤独を嫌う

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その少年は僅か6歳にして老成していた。

それは親による屑を育てるための英才教育を受けたからか、或いは周囲から常に悪意の視線や行為を受けてきたからか、彼は内外共に他の大人と遜色ない……否、他の大人よりもこの世を理解し、結論付けていた。

 

親の育て方により、血なんてものが本来なんの意味も成さないことを知った。

 

担任の悪意から大人もまた子供となんら変わらないということを知った。

 

クラスメイトの敵意から世の中のほとんどのものがくだらない優劣感に浸らねば生きていけない存在だと知った。

 

 

 

そんな彼の目は腐り、淀んでいった。

そうした外見の変化もまた、周囲にとっては彼を貶める更なるポイントにしかならない。

 

少年はその年にして人生に疲れて果てていた。

外に出ればたちまちクラスメイトの標的にされ、家にいれば両親からは相手にされないどころか自分がいないような扱いすら受ける。

 

2つ下の妹は外面ではいい妹装うも周囲の目がなくなればたちまち人のことをゴミ呼ばわりである。

 

 

『つまらねぇな』

少年の世界はまるで色の抜けた世界だった。

悪意を敵意を、そして負の感情を向けられるが故に彼はこの世界の誰もが見ようとしない汚い部分をしっかりと見つめてしまっていた。

 

 

『ねぇ君、ちょっと道を教えてくれないかな?』

 

放課後、彼がいつものように彼のベストプレイスである近所のちんまりとした公園に腰を下ろしていると、1人の女性が彼に声をかけてくる。

第一印象は不審者。

アニメや漫画などの世界にいるキャラのような服を着ている、いわばコスプレだ。

 

それだけならばまだしもその女性の服装はプリ○ュアみたいな……魔法少女が着るような服だ。しかし、それを着ている女性は明らかにそんな歳ではない。目の腐った俺から見ても美人と評価できる彼女はツインテールと揺らしているが、同時に彼女の胸もまた揺れていた。

 

『…………』

 

『ちょ、ちょっと待ってよ⁉︎』

 

無言で立ち去ろうとした俺の手を握りその場に止めようとする。

 

『すみません。お金なら持ってないので他の男性を当たってください。自分まだ6歳なんで』

 

握られた手を払い深々と頭を下げると一目散に走り出す。

 

『ちょっと私のことどう思ってるの⁉︎わー、待ってってば〜』

 

そう言って何を思ったのかその女性は俺に飛びつきギリギリのところで俺の足首を握る。走り始めていた俺は当然そのまま転け、その女性も連動するように転けた。

 

『逃げないでよ⁉︎本当に道がわかんなくて聞きたいだけだからさ⁉︎』

 

鼻を押さえながらそういう女性は涙目になっていた。

 

これが少年比企谷八幡と魔王セラフォルー・レヴィアタンとのファーストコンタクトだった…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【あはははははははは】

 

誰かが笑っていた。

そこでは黒髪長髪の少女が口元から飛び出ている歯を見せながら俺の周囲を回っていた。

 

【ねぇ、早く会いたいね……】

 

ぼやけていて顔はよくわからないが、その少女は笑っているように見えた。誰なのかわからないその少女は今日も俺の周りを駆け巡っていた…………………

 

 

 

『…………またこの夢か………』

 

最近……正確には4日ほど前からこの夢を見るようになる。いつも決まって相手の顔は見えず、いつも決まったように彼女は俺の周りを駆け回り声をかけてくる。もはや呪いにすら感じるが、やはりあの時関わるべきではなかったか………

 

そう思いながら俺は起床する。

両親は順風満帆な社畜生活を送っているため日曜でもいない。妹はおそらくまだ寝ているだろう。俺は顔を洗い、適当なものを冷蔵庫から漁ると、歯も磨かずに家を出て行く。

 

本当ならば家にこもっていたいのだが、4日ほど前から俺のある意味平穏なぼっち生活は終わりを告げた。

そうして向かった先はいつもの公園。

いつもならば誰もいないこの場だが、先日から続けて先客がいる。

 

『やっほーハチくん。今日も来てくれたみたいだね』

 

どういうわけか俺は、支取セラという女性とあの日からほぼ毎日会っていた………

結局あの日、俺が折れる形で彼女のガイドとして、この街を案内していた。当初はとある店に行く道だけだったのだが、何故かそういうことになっていた……

それからだ。学校が終わった後も、今日のように休みの日も彼女に付き合わさられる形で街を案内している。どうやら最近引っ越してきたらしく地理にそこまで詳しくないらしい。最初は何か変な目的があるのではと思ったが、よくよく考えれば、俺をどうこうしたところで彼女に一ミリもメリットがないので成されるがままになっている。

 

しかし、この成されるがままというのも案外悪くないのではと、ここ数日で思い始めているのもまた事実だった……

彼女は見た目とは違い、気遣いができる方である。それも余計ではない範囲であり、わざとらしくない範囲で……そんな彼女の対応に何処か居心地の良さすら感じているのにやや焦りながらも今日も街へと繰り出そうとするが……

 

『さってとー、今日も街を歩くけど、その前に紹介したい子がいまーす』

 

彼女からまさかの発言が飛び出てきたことにより、身体を強張らせた。何かあるのではと身構える俺だが、そんな俺に対し彼女は

 

『そんな固まらなくて大丈夫だよハチくん。紹介するのは私の可愛い妹だから♪』

 

そこまで聞いて俺は少しだけ興味を持つ。

彼女の妹のことは彼女から耳にタコができるほど聞かされていた。それこそもはや彼女の妹のことをほとんど知っていると言ってもいいほど………

 

そんな興味を持つ俺を他所にピョコっと彼女の背後から黒髪短髪の少女が顔を出す。

 

『ほら、ソーナちゃんあいさつしなさい』

 

セラにソーナちゃんと呼ばれている少女、支取蒼那は姉に言われるとゆっくりと出てきて俺へと挨拶をする。

 

『初めまして、ソー……支取蒼那です。ハチくんのことは姉さまから聞いてます……よろしくお願いします』

 

そう言って眼鏡っ娘……もとい蒼那は頭をさげる。それに倣うように俺も頭を下げ挨拶をすませ終えるのだが、いつまでたっても蒼那が視線を俺から外してくれない……

 

『俺の顔になんかついてるか?』

 

堪らず聞いた俺に対しハッと蒼那は目を開き誤ってくる。

 

『す、すみません。あ、あの……不思議な瞳をしているなと思ったので……』

 

『ああ、あんまりいいもんじゃないぞ。淀んでて腐ってて。』

 

『えぇー、私はいいと思うんだけどな♪』

 

蒼那の言葉を否定する俺の返事をセラが更に否定してきた。その言葉に嘘が込められていないのは今まで悪意と向き合ってきた俺にはわかるが、むしろ素直にそう言われる方が照れくさい。いかんせん、そう言った経験は少ないのだ……

 

 

『そう思うのはセラさんだけですよ……こんな眼、ロクなもんじゃない……』

 

『そ、そんなことありません‼︎カッコよくて素敵な眼だと思います‼︎』

 

『『え?』』

 

俺の照れ隠しの言葉を素直に受け取った蒼那が声をあげてきたことに対し、俺とセラは思わず口を開けっ放しにしてしまう。

 

『……え、あ………あの……えっと………』

 

思わず声をあげてしまったことに対する羞恥か、蒼那は耳まで赤くしながら俯いてしまう。

 

 

『ふーん。そっかー。ソーナちゃんもハチくんのこと気に入ったんだねー。』

 

そんな蒼那をセラはからかいながら抱きしめる。

 

『ちょっ、姉さま抱きつかないでください』

『えー、いいじゃん。姉妹なんだからこれぐらい普通普通。なんならハチくんもくる?』

 

楽しそうに話仕掛けてくる彼女は話しかけてくる。そこには微塵の悪意も裏もない。そんな彼女を見て俺は思わず微笑んでしまう。笑ったのなんて何年ぶりだろう……

 

『遠慮しておきます』

 

丁寧に断った俺にセラは残念そうにブーたれるのだった……………

 

 

〜〜〜

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「先輩……」

 

「なんだ?」

 

「途中からとある少年が俺になってますよ……」

 

「気にすんな……」

 

「はい……」

 

「まぁ、そんな感じでセラフォルー様達と会ったんだよ」

 

ムシャリと先輩はおにぎりをほおばりながら軽口に話していきます。

 

「先輩はどうしてお2人と仲良くなったんですか?」

ただ、その中でそれだけが疑問だった。

 

「第一印象は最悪さ、特にセラフォルー様はな。でもな、セラフォルー様もソーナも俺に対して一切と言っていいほど悪意を向けてこなかったんだよ。当時、多くの者に…それこそ家族からすら悪意を向けられてた俺にとってみれば、それが不思議でしょうがなかったんだ。だからかもしれないな。2人のことを知ってみたくなったんだ。もしかしたらこの2人なら信じてみてもいいかもしれないって。子供の頃の俺は純粋にそう思ったんだよ」

 

そういう先輩は何処か懐かしげに空を見あげます。

 

「でも先輩はその時はまだお2人が悪魔だと知らなかったんですよね?」

 

「ああ、それから大体1ヶ月近くは街の中で遊び倒してたな。お金は基本セラフォルー様が出してたし。後から聞いた話しじゃ、あの時の人間界の長期滞在の理由は駒王学園関連のことらしい。」

 

そこまで話してくれた時、ふと先輩の出す雰囲気が変わりました。

 

「でも、そんな関係はある日終わっちまったんだよ。今の俺からすればいい意味で。まぁ、起きたことは最悪のことだったけどな」

 

「え?」

 

「当時、とある悪魔がリアス・グレモリーとソーナ・シトリーの誘拐の計画を立ててたんだよ」

 

「部長と会長の?」

 

部長からも聞いたことのない話に私は首をかしげてしまいます。

 

「ああ、幸いリアス・グレモリーはサーゼクス様やセラフォルー様がいたから特に大きな問題にはならなかったんだが……」

 

そこまで先輩に言われて私は気づきます。

セラフォルー様も部長の方にいたってことは……

 

 

「ああ、小猫の思ってる通りその誘拐当日、ソーナの近くには俺しかいなかった……」

 

「でも先輩はその時神器を……」

 

「使えてないな」

 

私の言葉をすんなりと肯定してくる先輩ですが、それってかなり危険な状況ですよね?

 

 

「そんな計画を立てていたのが今は滅んだ元72柱の1つジャコブ家最後の当主、サタン・ジャコブだったんだよ……」

 

「サタン・ジャコブ……」

 

「ああ、そいつは実力的にはセラフォルー様達と遜色はなかったんだが……性格や思想が危ないってことで、4大魔王の候補から外されたんだ……それが気に食わなかったのか……或いはただ選ばれたセラフォルー様達への嫉妬かはわからんがな……」

 

そう言って先輩は話の続きを聞かせてくれますが、セラフォルー様達と同じ実力ってそれ本当にまずくないですか…………

 

 

 

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ここ1ヶ月の間俺は友人と言えるであろう奴らと出会い、遊び倒していた。当初こそ必死になって今の関係に慣れることを拒もうとしていた俺だったが、そんな気はもう無くなっていた。

彼女らの俺に対する接し方を見ていてこういう人間もいるのだと、俺の中で1つの枠組みができたのだ。そう思ってしまうと早いもので、俺は彼女達とのこの日常を楽しんでいた。

 

そんなある日だ。

その日はいつもと違う点が幾つかあった……

 

1つ目は夢だ。

あの日から見ている夢の中で話しかけてくる少女の言葉が今日は少しだけ違っていた。

【あはは、ようやく会えるね】

そう言ってその日の夢は終わって行った。

明らかに違う一言だが所詮は夢と普通なら思うだろう。しかし、1ヶ月以上続く夢だ。気にするなという方が無理がある。

 

2つ目はセラがいないことだ。

アレでもセラは仕事をしているため、今日はどうしても外せない会議があるらしい。そのため今日は蒼那と2人だけで遊んでいる。

 

そして3つ目……その日俺たちはいつもの公園で普段よりも遅くまで遊んでいた。というのもセラが会議が終わったら迎えに来るらしいため、それまで遊んでいようという話になったのだ。

 

そんないくつもの物事が偶然か、或いは故意に重なったその日に俺はこの世界の本当の真実を知った……

 

『お前がソーナ・シトリーだな』

 

唐突にかけられた声。

それは俺が聞いたことのないほど冷たく、悪意に満ち溢れているものだった。そんな声に背筋を凍らせながら振り向くとそこによくわからない生物がいた。

 

形は人だ。

だがその足は牛の蹄のようになっており足にはバイソンのような毛が生えている。屈強な筋肉は長身その者の存在感をさらに強め、頭からは羊のような角が、背中には大きな黒い翼が生えている。セラのようなコスプレ……には見えなかった。コスプレと言い切るには、それらはあまりにもリアルで何よりもこの存在が出す雰囲気は明らかに人のものではなかった。

 

『来てもらうぞ』

『きゃあ⁉︎』

 

そう声を発した直後彼は目の前から消え俺の後ろで蒼那の髪を握りしめていた。

 

『お、おい、放せよ⁉︎』

 

思わず声をあげた俺にそいつは首をかしげてくる。

 

『ん?何故貴様は動けている?周囲には停止の魔法をかけている。魔力を持たぬものが動けるはずなどないのだが、ソーナ・シトリーの側にいたせいで効かなかったのか?』

 

その冷たい一言一言に心が折れそうになる。今すぐにでも逃げたいと身体が叫んでいた。それでも俺は体に鞭を打ち懸命に拳を振るう……

 

ガンという音が聞こえると共に俺の拳はそいつに届くことなく停止し俺の絶叫はその場に響く。膝をつきうずくまる俺の拳は赤く腫れあがり、まるでコンクリートを全力で殴ったようだった。

 

『魔力も持たぬ脆弱な人間が、私に触れるなどできるわけなかろう』

 

そう言ったそいつは俺のことを見下しながら手をこちらに向け

 

『こうなったのもこいつらと関わったからだ。悔やみながら死ね』

 

言葉を発するとともにその手のひらから紫色の閃光を放つ。その閃光が俺の胸元を貫きその場に蒼那の絶叫だけが響き渡った………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『やぁ、ようやく会えたねハチ……』

 

気がつけば俺は真っ白な世界にいた。

そこには地面に刺さった一本の剣の上で座っている少女がいる。

 

トクン、と自分の鼓動が俺の中で響く。

 

ああ、俺は知っている。

こいつはいつも俺の周りを駆け回っていたやつだ……いつもは黒く見える少女の髪も明るいこの世界では黒というよりも紺色に見える。

 

普段のように走り回っているのではなく少女は座っているため、今までわからなかったことがいくつも頭の中に入っていく。

まず一目でこいつが人ではないとわかった。

さっきのやつほどではないがこいつから出る雰囲気は先ほどの存在と類似している。

そしてなにより先の尖った耳、頭につけたカチューシャと同じ黄色の角、そして笑っている口元から見える尖った牙と背中から出ている黒い翼がそれを物語っていた。

 

『お前は誰だ?ここは何処だ?俺はどうなったんだ⁉︎』

 

いきなり入ってきた多くの情報に混乱し思わず叫んでしまう俺を他所にその少女はぴょんと飛ぶと俺の懐まで近づいてくる。

 

『うーん。口で説明するのは面倒だから情報ごと渡しちゃうね』

 

そう言った少女は自身の手首を強く噛む。当然強く噛めば血が溢れ出てくるが、それを気にせず少女は俺と唇を重ねてくる

 

 

『んん⁉︎』

 

突然のことに驚き目を大きく見開く。口の中には血の味が広がると共にゼラチン質なものがこちらの口内にも入ってきた……がその数秒後、先ほどとは比にならないほど心臓が強く鼓動する。その瞬間、俺の頭の中に大量の情報が洪水のように流れ込んでくる。

唇を離した少女に抱え込まれる形で倒れた俺は少しの間入ってくる情報に悩まされる。

ようやく落ち着いてきた頃には、この状況を理解する。

 

 

『セラ達が悪魔……』

 

流されてきた情報の中にはこの世の真実があった。悪魔、神、天使、堕天使、神器。御伽噺の中のようなことが現実で起きている。普段ならありえないと一言で終わるが、先ほどのことと今の状況からそれを否定することは俺にはできなかった……

 

『そ、そうだ蒼那は⁉︎』

 

『大丈夫だよ、こっちだと時の進みなんてないから……今君が死んだと思って泣いてるねー』

 

『死んでないのか?』

 

『死んでたらここにはいないよー。死ぬ前に僕がここに呼び寄せてあげたから。それに身体も少しすれば元どおりさ』

 

目を細め笑いながら言う彼女に俺はすぐさま言う。

 

『なら、今すぐに戻してくれ‼︎早くしないと……』

 

『そうしてまた死ぬのかい?』

 

その言葉にピクンと俺の身体が跳ねる。

 

『君は人間だよ?対してあの悪魔は魔王と同等と言ってもいいね』

 

魔王、先ほど入ってきた情報の中にあった……

 

『そんな相手に君が勝てるわけないじゃん』

 

それにとその少女は続けてくる。

 

『彼女らは君を騙してたんだよ?悪魔であることを隠して、そして君を巻き込んだ。それは君の大嫌いなことじゃなかったのかい?』

 

確かにそうだ。

この少女の言うことは正しい。

 

『それに君に近づいたのも君が神器持ちだからかもしれないんだよ?』

 

正しい……

けれども違う。

あの2人の視線は……

あの2人の行動は……

そんなものじゃない‼︎

 

 

『そんな奴らのために君が傷つく価値なんてないだろう?』

 

『あるさ』

 

少女の言葉を俺は否定する。

少女はふーんとこちらを眺め俺の続きを待っている。

 

『確かに悪魔であることをあいつらは黙っていた。その結果として俺は巻き込まれた。でも……でもな‼︎』

 

必死になって声を張る。

それは本当に俺の声なのかと疑わしくなるほど強いものだった。

 

『それでも、あいつらが打算や何かで俺に近づいてきたってのは絶対にない‼︎それは俺だからこそ断言できる‼︎』

 

『へぇ』

 

『それにな、お前大事な部分を隠してるだろ』

 

『……どうしてそう思うんだい?』

 

『今流されてきた中に、神器のことはあってもお前のことはなかったぞ。それにお前はまるで俺の心を折ろうとするように話してきてる。そういう奴の言葉に素直に耳を傾けるほど、俺は純粋じゃねぇ』

 

『ふふ、6歳とは思えない言葉だね。まぁ、君の人生を考えれば当然か……』

 

俺の言葉を否定せず、少女は笑いながら続ける。

 

『そうだね。まず、彼女らは君が神器を持ってることは知らなかったよ。僕がずっとバレないようにしてたからね』

 

観念したように少女は真実を告げる。

 

『そして、なにか打算があったというのもないだろう。そこは僕も保証しよう』

 

でもね………

 

『君じゃあ勝てないのは変わりないよ?』

 

『俺では……なんだろ』

 

少女の言葉に俺は直ぐに返す。

 

『なら、お前の力を貸しやがれ‼︎』

 

『ふむ、でも何故そんなに彼女を助けたがる?知り合って間もないだろ?』

 

俺の言葉を受け少女は俺に問う

 

『そうだよ……』

 

『それでも彼女達が大切だから?』

 

『そうだ……初めてだったんだ。誰かをこんなにも失いたくないと思ったのは……』

 

俺の出した答えに少女は軽く返してくる。

 

『いいよ、力を貸してあげるよ。僕は強い子が好きだ。君はその歳ではありえない経験とそれに基づく思考がある』

 

『なら‼︎』

 

しかし、少女は続ける

 

『でも、足りないよ。君にはまだ足りない。何かを得る為に何かを失うのはこの世の理だろ?』

 

『何を渡せばいい?何を渡せば力をくれる⁉︎』

 

相手は求めている。だからこそ俺は聞く。何が必要なのかと……

 

『君の血さ、まぁ、それだけじゃないんだけどね。』

 

『どういうことだ?』

 

『僕の力を使えば使うほど、僕は君の身体に入っていく。そうしていつか君は僕に身体を乗っ取られるのさ……』

 

『っ⁉︎』

 

その言葉に俺は息を飲む。

失う?俺の身体を。

こいつが俺の身体を奪おうとしてくる……

 

『言っただろ?失うって。それが嫌なら……』

 

『やるよ』

 

でも、息を飲んだのは一瞬だった。

俺の中では答えは決まっている。

言葉を遮った俺を少女は目を見開き見ていた。

 

『あいつを……あいつらを助けられるならなんだってくれてやる……』

 

『おーおー、すごいね君。自分の全てを犠牲にして、それで尚助けようとする。ずっと見てきたけど……やっぱり君は他の人間とは違う。矛盾を抱え、自身の欲望に負け、世界を壊していく人間達とはまるで違う……』

 

そういう少女の目は爛々と輝いている。

 

『いいだろう。気に入ったよ、君の心が強い限り従い続けるよ………でもね、少しでも弱くなったら君の身体はどんどん奪われていく、それを忘れないでね?』

 

少女からの忠告。

ならば乗っ取らないでくれと切に思うが……

 

『ああ‼︎』

 

俺の力強い返事に満足したのか少女は今日1番の笑顔を向けてきた。

 

『君に従おう。一応は神器だしね。』

 

そう言って少女は俺に手を伸ばしながら述べてくる。

 

『君の神器の名前は鬼呪装備。僕の名前は阿朱羅丸。【鬼呪龍神皇】阿朱羅丸だ。多くの者には【吸血の女王】と呼ばれていたけどね。力が欲しい時は名前を呼ぶといい』

 

そういうと彼女は刺さっていた剣に吸い込まれていく。

 

『阿朱羅丸……』

 

俺がそう呟くとその剣が輝きを放ち俺の元へとやってくる。それを握った瞬間……俺の現実の意識は覚醒した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現実ではソーナが泣いていた。

本当に時間が経っていないことに驚きながら俺はむくりと立ち上がる。

 

立ち上がった俺に目の前の2人の悪魔は驚き声をあげた。

 

「ハチくん⁉︎」

 

「貴様何故生きている⁉︎」

 

そんな声を聞きながら俺は蒼那へと告げる。

 

「今助ける……」

 

「助ける?貴様がか?笑わせるな」

 

そう言って俺の目の前にいる悪魔、サタンは俺へと再び魔力弾を放つが……

 

「力を貸せ、阿朱羅丸……」

 

俺がそう呟いた瞬間、魔力弾は俺の手に握られている剣によって弾かれる。

 

「馬鹿な⁉︎」

 

驚くサタンを他所に俺は間合いを詰め、彼の右手首を神器である刀で切る。

 

「っ⁉︎」

 

自身が出していた障壁がやすやすと破られたことに驚くサタンはその痛みに思わずソーナの髪を握っていた手を離す。それと同時に俺は強化された身体能力をフルに使い蹴りを食らわせ、ソーナからサタンを引き剥がした。

 

 

「ぐぅぅうううっ」

 

苦痛をあげながら飛んでいくサタンを他所に俺はソーナへと言葉を発する。

 

「逃げろ‼︎」

 

「で、でも⁉︎」

 

「させると思うか?」

 

俺が逃亡を促すも相手はそれをさせてくれなかった。やべぇ、思ったよりも効いてない……

 

「まさか神器持ちとはな。だがそれだけで俺に勝てると思ってるのか?」

 

そう言うと同時にサタンの魔力が恐ろしいほど上がる。これが魔王クラスかよ……

 

「クソガキが、お前はここで殺す‼︎」

 

そう言った彼は魔力弾をいくつも放ってくる。弾き損ねた魔力弾は容赦なく俺の手足を貫ぬいていく。

 

「ぐぅ」

巡ってくる痛みに耐えながら俺は必死に立つが休む暇もなく俺は盛大に殴られ吹っ飛ばされた。

 

「ほぉ、まだ立つか……」

 

「がはっ」

 

吹っ飛ばされた俺は血を吐きながらも足に力を入れ必死になって立ち上がる。傷自体は阿朱羅丸が次々と治してくれているが、痛みが直ぐに消えているわけではない。

 

「傷が治っているな……それにその刀。見たことのない神器な上にかなりのものだ。本来なら回収したいが、些か時間も無くなってきた。そろそろ終わりにしよう。」

 

そう言ってサタンはゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる。死が少しずつ迫ってくるのだ。

 

(くそっ)

 

《言ったろ?君じゃあ勝てないって》

 

舌打ちする俺に阿朱羅丸が脳内に直接話しかけてくる。

 

「こんなに強いのかよ……」

 

《ああ、こんなにも差があるんだよ》

 

俺の言葉を阿朱羅丸は肯定してくる。

万事休すかと思った時俺の脳内に1つの言葉が思い出される。

 

(なぁ阿朱羅丸)

 

《なんだい?》

 

(お前ならあいつに勝てるか?)

 

《あんなの倒すのは造作もないよ?》

 

(お前ならソーナを助けられるか?)

 

《もちろん》

 

その答えが聞ければ満足だ。

その答えだけで覚悟は決まった。

 

「阿朱羅丸‼︎俺の身体をやる。だから……だからこのクソ悪魔を倒してくれ‼︎」

 

「貴様は何を言っているのだ?」

 

唐突に大声を出す俺に目の前に迫ってきたサタンがその拳を振り下ろそうとした……その時

 

 

《あはははははははは》

 

突然周囲にも聞こえる声を阿朱羅丸が発したと思うと、俺の周囲を黒い影が包んでいき、そこで俺の意識は消えていった………

 

 

 

 

 

過去八幡side out

 

過去ソーナside in

 

 

 

 

 

私は後悔していた。

私達のせいで彼を巻き込んでしまったことに。私自身、恐怖で身体が動かないことに

 

目の前の少年は人間であるにもかかわらず目の前の圧倒的な存在に立ち向かっていた。

身体から血は流れ、服は赤く染まっている。

 

そうして吹き飛ばされた彼にサタンがトドメを刺そうとした時、彼は声をあげた。

 

「阿朱羅丸‼︎俺の身体をやる。だから……だからこのクソ悪魔を倒してくれ‼︎」

 

何を言っているのかわからなかった。

それはサタンも同じらしく、それを無視して殺そうとするが、その直後だ。

 

《あはははははははは》

 

 

幼げな声とともハチくんの周りを黒い影が包んでいく。

 

「な、なに?」

思わず疑問の声を上げるも、それに答えてくれるものは当然いない。ハチくんの側にいたサタンも同様らしく、ハチくんから跳びのき距離を取る。

 

 

『ふぅ』

 

黒い影が霧散し、現れたハチくんは一息つくと言葉を発する。

 

『ふふふ、やはり面白いね君は。他人のために自分をここまで犠牲にできるなんて。本当に面白いよ。』

 

「ハチくん?」

 

その雰囲気に私は戸惑ってしまう。

 

『さてとサタンくん。とりあえず…死んで?』

 

ゾクッと背筋が凍った。

それは先程のサタン以上の威圧。

それで気づく。

そこにいるのはハチくんではない。

ハチくんの姿をした何かだと………

 

「う、うぉぉぉぉおおおおおおおおお」

 

その威圧もモロに当てられたサタンは咆哮を上げながら魔力弾をひたすらハチくんへと撃ち続ける。

 

『あはははは、遅いよー』

 

それは楽しそうに避けるハチくんに当たることはなかった。

 

『んじゃ、いっくよー』

 

その瞬間ドガんという轟音とともにサタンが地面を削りながら飛ばされていく。先ほどの蹴りとは比べほどにならない威力を持つそれは瞬時に移動したハチくんが放ったものだ。

 

「っくそ⁉︎ぐぅ」

 

なんとか体制を立て直したのも束の間、なぜか蹴り飛ばしたハチくんは既にサタンの背後へと移動し終え、もう一度、今度は空に向かって蹴り飛ばす。

 

「っち、それなら……ば?」

 

連続して受ける規格外の威力の蹴りに血を吐きながらサタンは空で停止し反撃を試みようとするもその途中で目を見開く。

 

『そろそろ終わりにしようかぁー?』

 

何本もの刀が空に停止するサタン中心に回っていた。それは明らかに普通の刀ではない。まるで妖刀。呪いを纏っているかのようなその刀で周囲を囲まれたサタンは顔を引きつらせてしまう。

 

 

『君や僕が本気出したらこの辺りが更地になっちゃうから、そうなる前にちゃっちゃと終わらせるね?』

 

「う、うぁぁぁぁああああ」

 

先ほどの咆哮とは違うまぎれもない絶叫がこの場に響く。

 

『阿朱羅観音【串刺しの刑】♪っと、バイバーイ』

 

ハチくんが楽しそうにそう叫ぶとともに刀は一斉にサタンへと向かっていく。

絶叫を命乞いを、助けを求める声をあげながら刺されていくサタンはしばらくすると動かない肉塊と化した………

 

そうしてサタンが動かなくなった直後、私の前に魔方陣が展開される。

そこから出てきたのは、姉さまたちだった……

 

 

 

 

 

過去ソーナside out

 

過去セラフォルー side in

 

 

 

 

 

私は焦っていた。

数十分前私達を、正確にはサーゼクスの妹であるリアスちゃんを襲ってきた悪魔の対応に私達は追われていた。幸いリアスちゃんは会議をしていたところからさほど離れていないため危険は免れたが、私とサーゼクス、それにグレイフィアは襲ってきた悪魔達と交戦していた。

ほとんどを蹴散らし、終わったかのようにも思えたが最後に残った悪魔の一言により私の顔から血の気が引いて行った。

 

「ははははは」

 

「なにがおかしいのかね?」

笑っている悪魔に対しサーゼクスが問うとその悪魔は心底愉快そうに答える。

 

「確かに我々はここで死ぬさ。だが、サタン様が今頃ソーナ・シトリーの捕縛に成功していることさ」

 

最悪だった。

その悪魔の一言だけでその場が固まる。

 

「サタンだと⁉︎では貴様らは⁉︎」

 

「サタン様の眷属さ。せいぜい……こうか…いしや………が、れ………」

 

 

そう言って最後の悪魔も消滅していった。

その直後だ、私達が尋常ではない威圧と魔力を感じたのは

 

「ソーナちゃん…それにハチくんも⁉︎」

 

「確か君の妹と一緒にいた人間だね。セラフォルー急ごう。グレイフィア‼︎」

 

「はい」

 

私たちはグレイフィアの転移魔法で急いでその発信源へと向かうがそこで見たのは私達が思っていた光景とは全くもって違っていた。

 

 

 

 

「姉さま‼︎」

 

転移した直後、腰が抜けているのか、地面に座ったままのソーナちゃんが私を呼んでいる。

 

「ソーナちゃんよかった。でもこれって……」

 

私達の眼の前では何本もの刀で串刺しにされたサタンとそれに手を伸ばしながら息絶えたサタンを見ているハチくんの姿があった。でもそれよりも……

 

「セラフォルー……彼が君の言ってた人間かい?」

 

サーゼクスが警戒しながら私に問いかける。

グレイフィアもサーゼクスの前に立ち臨戦態勢だ。

 

「う、うん。で、でも、あんな雰囲気じゃないよ、いつものハチくんは」

 

私たちが戸惑っている中ふと、ハチくんが私達の方へと顔を向けた。

 

『やぁやぁ、ようやくご到着かい?魔王様方』

 

その声にゾクッと寒気がする。

違う。ハチくんじゃない。瞬時に判断し私も臨戦態勢に入るが……

 

 

『そんな警戒しないでほしいなぁ。そこのソーナ・シトリーを助けてあげたのに。まぁ、彼の頼みだけどね』

 

そう言うとハチくんはパチンと指を鳴らす。

その瞬間、サタンに刺さっていた刀が消え、サタンも消滅していく。

 

「君がやったのかい?」

 

『逆に僕以外できると思うかい?』

 

サーゼクスの問いに楽しそうに答えるハチくんはゆっくりとこちらに寄ってくる。

 

『大丈夫だよ、君達に危害は加えない。それを彼は望んでいなかったからね』

 

「あなたは誰なの?」

 

近づいてくる相手に警戒を解かずに私は聞く。

 

「僕?僕はハチの持ってる神器に宿るものだよ」

 

「ハチくんに神器⁉︎」

 

その言葉に私はおもわず声を上げる。

ありえない。ハチくんからは神器の気配などなかったはずだ……

 

『そりゃ、僕が気配を気取られないように隠してたからね。わからなくても仕方ないよ』

 

私の心を読んだように言い放ってきた。

 

 

「それで、彼をどうするのかね?」

 

その言葉に私とソーナちゃんの身体が僅かに跳ねる。そうだ、今その神器に宿る者がハチくんの身体を動かしてるならハチくんは……

 

 

『うーん。本当のところを言うと、このまま乗っ取ってもいいんだよ。僕としてもそうすればまた自由に動けるし。またいっぱい遊べるからね』

 

その言葉に私達は後ずさる。

そこに込められた一瞬の威圧からこの者がどれほど強いのかわかってしまう。おそらく3人がかりでも………

 

『でもね、止めにしたよ』

 

「え?」

 

『ハチは面白い。僕が見てきたどんなものよりも。だからもう少しハチに主導権を渡しとくさ。それにハチの血は極上だったしね』

 

そう言ってハチくんは自身の手首にまとわりつく血を舐める。

ただその行為だけで私達は恐ろしさを感じてしまう。

 

『だから、ハチのことよろしくね。また会おうよ、魔王様方………』

 

 

そこまで言い終えると糸が切れたようにハチくんは地面へと倒れこむ。

 

「「ハチくん」」

 

私とソーナが思わず駆け寄ると、ハチくんは気持ちよさそうに寝息を立てている。

 

「よかった……」

 

「ごめんなさい……私……私………」

 

安堵する私とは裏腹にソーナちゃんは不意に泣き出してしまう。

 

「ソーナちゃん?」

 

「ごめんなさい。姉さま……私……私はなにもできませんでした……ただずっと………」

 

「大丈夫。ハチくんも大丈夫だから」

 

涙を流しながら肩を震わせるソーナちゃんを私はしばらくの間抱きしめていた…………

 

 

 

過去セラフォルーside out

 

過去八幡side in

 

 

 

気がつけば俺はベットの上で寝ていた。

うっすらと目を開いていく俺の視界に真っ先に入って来たのはセラフォルーだった。

 

「セラ?」

 

「は、ハチくん起きたのかい⁉︎」

 

俺に名前を呼ばれた彼女は声を荒げながら俺に抱きついてくる。

 

「いづづづづづづ、痛い‼︎まじで痛いから‼︎」

 

「ご、ごめん」

 

そのあまりにも強い抱擁に苦痛の声を上げると彼女はすぐに離れてくれた。

 

「やぁ、起きたようだね」

 

「ハチくん‼︎」

 

セラフォルーが離れた直後、戸が開きソーナと赤髪の男性、そして銀髪の女性が入ってくる。

 

「ソーナ……無事でよかった……」

 

彼女の顔を見て俺は安堵する。

阿朱羅丸に身体を渡した後もうっすらと意識はあった。だからこそ、なんであいつが俺に身体を返してきたのかが本当にわからないが。

 

「ごめんなさい……私……」

 

「別にいいさ」

 

泣いて謝ってくるソーナの頭を撫でながら俺は返す。ソーナ顔を赤くしながらも、特に嫌がったりはしてこない。

 

「君が寝ていたのは3日ほどだが、ご家族には交通事故にあったということにしておいたよ。この病室代も私達で出している。それと学校への届けもね」

 

そう言って話しかけてきたのは先ほどの赤髪の男性だ。

 

「ありがとうございます。サーゼクス様」

 

その言葉に皆が驚いた。

 

「何故私の名前を?」

 

「聞きましたので」

 

そう言って俺は心の中で阿朱羅丸を呼ぶ。

すると俺の手元にあの刀が現れる。

 

「君はあの時のことを覚えているのかい?」

 

「はい」

 

サーゼクス様の言葉を俺は肯定する。

 

「もしよければ、なにがあったのか教えてほしいのだが……」

 

俺は頷くと、ポツリポツリとあの時のことを語って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「阿朱羅丸……その神器の中に彼女が⁉︎」

 

話を聞き終えたサーゼクスの顔は驚愕の色で染まっていた。

 

「鬼呪龍神皇……かつて神、龍、悪魔、天使、堕天使と見境なく襲った彼女が八幡様の神器の中に」

 

隣にいるグレイフィアさんは目を細めながら俺の刀を見ていた。

 

 

「姉さま。鬼呪龍神皇って?」

 

阿朱羅丸のことを知らないらしいソーナはセラフォルーに問いかける。正直言って俺もよくわかっていない。

 

「ふぅ」

 

セラフォルーは話す前に一息つくとその口を開いた。

 

「【鬼呪龍神皇】阿朱羅丸。通称吸血の女王。その昔、種族を問わずあらゆる種族を手にかけた吸血鬼よ。彼女の特異体質で血を吸った相手の力をコピーできるらしいよ。私が実際に会ったのは昨日が初めてだから本当かどうかわからないけど……それでも彼女は殺した相手の血を吸い、力をつけてはまた他の相手を殺す。そうした事を続けた吸血鬼。中でも1番被害が出ていたのが龍達。現存する龍と神器に封じ込まれた龍以外は全て彼女が狩ったと言っても過言じゃないわ………でも、多くの龍の血を吸い続けた結果、いつしか彼女の肌には鱗が生え、龍へと変貌して行ったらしいの。まるで呪いがかかったかのように。故につけられた名が鬼呪龍神皇」

 

そこまで言うセラフォルーの頬に汗が伝う。

強いとは思ってたけど、そんなヤバい奴だったのかよ阿朱羅丸って…………

 

 

「八幡くん。君はこれからどうするのかね?」

 

サーゼクス様に話しかけられた俺は答えない。

 

 

「その神器は強力すぎる。その上君が乗っ取られる可能性も高い。だからこそ、我々の保護下に入って………」

 

 

「嫌です」

 

サーゼクス様の言葉を俺は強く遮った。

 

 

「ハチくん⁉︎」

 

セラフォルーは驚き俺の顔を見てくる。

 

「何故だい?」

 

サーゼクス様からすれば不思議で仕方ないのだろう。強力すぎる神器を持っていれば普通の生活などできない。だからこそ、保護下に入れば普通ではなくとも平穏な生活はできる。

 

でも、俺はそんな事を望んじゃないない。

 

サーゼクス様達は俺の事を見ている。

俺の言葉を待っている。

こんなのは初めてだ。

こんなにも怖いのは……

こんなにも身体が震えるのは。

 

ふと震える手に小さな手が添えられる。

小さいと言っても俺とさほど変わらない手。

ソーナから差し出されたその手は俺の手を握ってくれた。すると震えが止まっていく。先ほどまでのことが嘘のように……

 

「ふぅ」

一呼吸置き、俺は語り始める。

 

 

「こんな事を言えば、僅か6歳の子供がなにを言っているんだと思うかもしれませんが……」

 

そこまで行き俺はみんなに視線を向ける。俺の前置きを聞いても、誰1人として視線をそらしてこない。真剣そのもので俺を見続けている。

 

 

「サーゼクス様……俺はずっと…ずっと…考えてたんです。俺がこの世界に存在する意味はなんだろうって……家にいれば親にはいないもの扱いされ、妹にはゴミ扱いされる。外に出れば周囲の人間、それこそ大人子供関係なく悪意を向けられる。せっかくこの世に生を授かったっていうのに、周りからは虐げられて、何も生み出すことも与えることもできず、悩み苦しみ悶えて、その果てにただ消えるだけなら今この瞬間に死んだ方がいいって、何度も何度もそう思ったんです。どうして俺はこの世に生まれてきたんだろうって………」

 

それは本当に僅か6歳が発するようなものではなかった。他の者が聞けば子供がなにを言っているんだと言うだけで終わるだろう。

しかし、目の前の4人は真摯に俺の言葉を受け止めてくれている。親にも学校にも伝えたと言っていたから、或いは俺がどんな扱いを受けているのか知ってしまっているかもしれないが…

 

 

「でも、初めてだったんですよ。本当に信じられる相手ができたのが……心を許せるかもって思える相手ができたのは……」

 

そういう俺の拳にはポツリと涙が落ちる。

 

「お互いの事を許容できて、それでいて理解し合える。そんな本物の関係ができる。初めてそう思えたんです……」

 

一度出始めた涙は止まらない……

 

「怖かったんです。あの時……初めてできた大切な相手の1人が連れ去られるかもと思ったら……また1人に戻るんじゃないかって……」

 

だからこそ俺はあの時必死に立ち向かった。

阿朱羅丸は他人のためだと言うがそんなことはない。俺は自分のためにやっていた……

また1人に戻りたくなかったから……

ようやく色づいた世界がまたあの白と黒の世界に戻ることに耐えられなかったから……

 

 

「自分の身体を失うことなんかよりも、自分が死ぬことよりも……1人になりたくなかった…」

 

 

そんな俺の言葉に4人の目元も潤んでいる。

 

「だから‼︎俺は嫌なんです。護られるなんて‼︎だってそれじゃあ、またいつ1人になるかわからないから‼︎」

 

護られるだけでは一緒にいられない。

護られるだけではいつしか護り手が死んでしまうかもしれないから……そうすればまた孤独になってしまう。それが怖くて仕方ない……

 

「だからお願いします。俺を悪魔にしてください。」

 

その言葉と共に俺は深々と頭をさげる。

そこにはたった6年。

けれども俺の全ての想いがこもっていた。

 

俺が唯一彼女達と離れない方法。

転生悪魔になるしか術はなかった。

 

「いいのですか?転生したらあなたに平穏はもう来ないかもしれないんですよ?」

 

「平穏なんて……1人じゃ意味ないです……」

 

グレイフィアさんの言葉に俺は首を振る。

 

 

「そうなれば、また身体を乗っ取られるかもしれないのだよ?」

 

「なにも出来ないよりはマシです……それに、今は阿朱羅丸にやられっぱなしですけど、いつかコントロールしてみせます」

 

サーゼクス様は俺にわかりきった事を聞くが、俺の決意は変わらない。

 

 

「姉さま……」

 

ソーナはセラフォルーの方を向いている。

 

この場において適任は彼女だ。

それはこの場にいる全員が理解している。

そもそも、駒を持っているのはサーゼクス様とセラフォルーだけなのだから……

 

 

「……私だってハチくんと一緒にいたいよ……遊んだ日々は忘れられない。それに私には最初から選択権なんてないもの………」

 

そう言ってセラフォルー俺の方へ向いてくる。

 

「ねぇハチくん……私の妹を、ソーナを助けてくれてありがとう。」

 

「自分のためです……」

 

「それでもだよ……でもね、ハチくん。あの場に間に合わなかった私にはこんなこと言う資格なんてないけど、ハチくんもなんだよ‼︎」

 

そういうセラフォルーの頬を涙が伝っていく。

 

「セラさん?」

 

「ハチくんもソーナと同じ私の大切な子なんだからね。だからもう2度と自分の身体を明け渡すなんてことしないで。自分の身体を無闇に酷使しないで……」

 

そう言いながらセラフォルーは俺の服を掴んでくる。セラフォルーもわかっている。あの場においてあれが最適解なことは。それをわかった上で彼女は矛盾する2つの気持ちを俺にぶつけてきた。

 

そこには妹を助けてくれた感謝と自身の身体を無下に扱ったことに対する憤りがある。

 

そんな彼女の言葉は俺に今までにない衝撃を与えてきた。

人に感謝されたこともそうだがなによりも自分の事をここまで大切にされたことが、必要とされていることが……俺には嬉しかった……

 

「はい……」

そう返事をした俺の手を取り彼女はその上に取り出した駒を置く。その形は兵士でも、騎士でも、戦車でもなければ僧侶でもない。

 

女王の駒。

それは悪魔の駒における最強の駒。

それはほかの駒とは違い眷属の主が1つしか持てないほかのどの駒よりも価値があるもの。

 

それも魔王である彼女の女王だ。

その価値は計り知れない。

 

だが、その場にいる誰もがセラフォルーがその駒を置くことに口を出さなかった。

 

そうして1つの輝きが俺を包み、俺は種族を超えた……………

 

 

 

過去八幡side out

 

 

 

〜〜〜

〜〜〜

 

 

小猫side in

 

 

 

「とまぁ、こんな話だ……」

 

全てを話し終えた先輩は何処か照れくさそうにそっぽを向いてしまいます。

確かに、言っててすごく恥ずかしいセリフも何個かありましたし、何よりもこれをあまりほかの人に知られたくない理由はわかりました。

 

「先輩……もしかしてユウキさんやシノンさんが先輩に抱きついたり、料理をずっと作り続けたりしてるのって……」

 

「純粋な好意もあるだろうが、この話を知ってるってのもあるだろうな……」

 

先輩の顔を赤くしながら言う言葉に私は思わず微笑んでしまう。

この先輩は寂しがり屋なのか……と。

 

「こんなのヴィザやほかの奴らに知られてみろ?俺は恥ずかしくて死ぬぞ?」

 

「そうですね」

 

私は手で顔を仰いでいる先輩にどうしても聞きたくなってしまったことが2つあった。

 

「身体は大丈夫なんですか?」

まず最初にそこだ。

先輩の身体は乗っ取られていないのか……と

 

「ああ、あいつとは数年前に和解した。今じゃ俺の大切な家族だよ」

笑いながら言う先輩を見て私はほっとします。

けれどももう1つあるんです………

 

「先輩」

 

「ん?」

 

「先輩は私から居なくなりませんよね?」

姉様みたいに………

 

「お前が望むならな……」

 

そう言って先輩はもう一度私の頭を撫でてくれます。やっぱりこの感じ懐かしいです。それに先輩の匂いを嗅ぐと落ち着きます。

 

「私も本物になれますかね?」

 

「さぁな、俺はずっとお前に悪魔だってこと隠してたからな……」

 

先輩……そこはうんって言ってくれないんですか……

 

 

「でも今はお互いに知ってる。悪魔だってことも、お互いのことも。過去のことも」

 

その言葉に私はピクンと反応してしまいます。先輩はセラフォルー様の女王ですし、何よりもサーゼクス様達とも良縁です。

姉様について知っていてもおかしくはないですが………………………

 

 

「だからなれるさ。小猫が辛いときはいつでも俺が傍にいて支えてやるから」

 

ふにぁぁぁあああああ

 

先輩その笑顔はズルいです。

反則ですよ。

 

 

いきなり向けられた先輩の笑顔に私は顔を赤くし、今すぐにでも隠れたい気持ちを抑え言葉を紡ぐ。

 

 

「わ、私も傍にいます‼︎今は難しいかもですけど、いつか私も先輩を守れるくらいになって‼︎」

 

私の言葉に先輩はそっかと答えると立ち上がる。

 

 

「そろそろ戻ろうぜ。だいぶ遅くなっちまった」

 

そういうと先輩は私に手を伸ばしてくれました。私は未だに残る顔の熱さを振り払い先輩の手を取り歩き出します。

 

この手が宿につくまで握られていたことは

私と先輩だけの秘密なのです……

 

 

 

 

 




まさか1万7千文字越えとは………

長くなってしまいましたが回覧ありがとうございます。

誤字脱字、感想などお待ちしております

ではまた次回お会いしましょう

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