風を追いかけている。
ずっと、ずっと追いかけている。
だから、前しか見ない。
後ろも、横も、どうでもいい。
たくさんの人が前に居たから。
たくさんの人を追い抜かした。
私は風だ。
早く、速く。もっとはやく!
☆ ☆
病的なまでに、白い。
白い肌と、白い着物。
雪のような、雰囲気。
ゆっくりと、ゆっくりと、歩いてくる。
着物の袖口が風に靡いて揺れた。
風に吹かれれば飛びそうなくらい、儚いのに。
不思議な程に重心がぶれていない。
顔を上げて、私を見た。
恐ろしいほど澄んだ眼。
無表情で、感情が無い。
武器すら持たずに私を見て、微かに笑った。
上空で風がうねって、音が響いた。
第9羽
アイズは困惑していた。
ガネーシャ・ファミリアの催しで戦うことになったのだ。
一千万ヴァリスを賭けて。
リヴェリアやフィン、ガレス達には、くれぐれも負けないように釘を刺された。
プレッシャーである。胃が痛い。
問題はそれだけではない。
対戦相手にも問題があった。
『赤姫』ユウ。それが私の対戦相手だ。
私が知る限りにおいて、良い噂は聞かない。
モンスター血を好んで浴びる、といったような猟奇的な噂の絶えない人物なのだ。
けれど、
なら悪い人ではないのだろう。
神様には人を判別する力があるのだ。
そして、強い。と、思う。
直接戦ったことはもちろんないし、まともに話したのも一ヶ月前だ。
私と同じ年齢で、私と同じレベル。
オラリオでは私たちのどちらが強いかは良く話題に上るらしい。
戦ってみたいとは思っていた。
まさか賭け事になるなんて思わなかったけど。
でも、ちょっと楽しみだ。
ーーー
ガネーシャ・ファミリアの構成員に案内されて、闘技場に入る。
まずは前哨戦。
向かってきた相手にゆっくりと迎え撃って、交差の瞬間にだけ速度を上げる。
虚を衝かれた冒険者の大剣の下を潜ってサーベルを突き上げる。
前に一回転して相手は倒れた。
弱い。
早く戦いたいな。赤姫。
ーーー
目を瞑る。
人形のようだと揶揄されるように、本当に感情が抜けていく。
腕の先まで力を抜く。俯いて、息を吐いた。
この大会はトーナメント形式で、AブロックとBブロックに別れている。
Aブロックには私が、Bブロックには赤姫がいるのだ。
恐らく、神様達が割り当てに関与しているのだ。初めから戦う相手は決まっていた。
結果として、私が赤姫と戦うのは決勝の舞台だ。
そして、私の次の試合は決勝だ。
ゆっくりと瞼を開ける。
うん、大丈夫。最高のコンディションだ。
コンコン、とノックされて。
ガネーシャ・ファミリアの構成員が入ってきた。
彼に案内されて、薄暗い通路を進む。
大きな扉を越えると、光と声が襲ってきた。
怒鳴り声、叫び声が融和した、人の音。
鳴り止まない喧騒の中で、小さな音が聞こえる。
カツン、カツン、と緩やかに。
ゆっくりと、ゆっくりと、歩いてくる。
それは白色。病的なまでに白い雪だ。
武器すら持たずに私を見て、微かに笑った。
円形のステージで。私たちの視線が絡まった。
私たちの遥か上空で風がうねって。
しかし、私たちを揺らさない。
鐘の音が、響いた。
☆ ☆
静寂だ。観客の声が聞こえない。
静まり返ったまま、私たちは動かない。
いや、動けない。
隙ならあるのだ。赤姫は武器すら持っていないのだから。
だけど、予感がある。
踏み込めば切られるという、予感が。
けれど、このまま膠着状態を続けるわけにはいかない。
試合時間は三十分しかないからだ。
こんなとき、フィンたちならどうするのだろう。
そう思って、客席に居るであろう彼らに思考を少し割いた時。
【
【エアリアル】
詠唱、即、発動。
最速で自分に風をぶつけて、後方に吹き飛ばす。
その一瞬後に、私が居た場所に剣や薙刀が合計五本も突き刺さった。
私が避けなかったら、そして運が悪ければ、この攻撃は致命傷だ。
冷や汗が流れて、問い詰めるように赤姫を見る。
「どこを、見ている!」
怒鳴り声が私に帰ってきた。怒っている。
「私を見ろ! 今、目の前に居るのは私だ。
だから、私以外を見るんじゃない!」
どこか縋るようなその声に、私は気付かされた。
今のは私が悪い。ここは既に戦場なのだ。
油断をして良いわけがなかった。
なのに、油断した。だから怒られたのだ。
ここは闘技場だから、死んだ
もし、ここが迷宮だったなら、私は死んでいてもおかしくなかったのだ。
気を引き締める。もう油断しない。
ガネーシャ・ファミリアの審判も今の行為を反則としなかった。
私が抗議していないからだ。
まだ始まったばかりなんだよ。
こんなところでは終わるのは、嫌だ。
「私が悪かった。もう油断しない」
目の前にいるのはレベル4の冒険者。
階層主と同じクラスの化け物なのだ。
本気で、戦う。そして勝ってみせる。
この人に、勝ちたい。
ーーー
正面から赤姫を見据えて、駆ける。
赤姫の手にはいつの間にか刀が握られていて、私たちは交錯する。
デスペレートの突き。頭を反らして避けられる。
刀の横凪ぎを体を曲げて避ける。
その瞬間、刀が消えた。
更に一歩、踏み込んでくる。
手には短剣が握られている。
そうか、武器を自由に収納、搬出が出来るんだ。なにそれ、ズルい。
無理矢理に屈んで、短剣を避ける。
同時にデスペレートを引き戻して短剣を叩く。
あっさりと砕けた。
砕けた短剣の残りを投げられて、視界が途切れる。
追撃しようとして、飛び退く。
地面から
息をつく暇はない。
すぐに横に走る。赤姫の手には弓矢が握られている。ここに居たら狙撃される。
飛んで来た弓矢を叩き落として、違和感。
落ちた弓矢から地面が凍っている。
まさかと思って振り返ると、避けられて地面に刺さった弓矢からも凍っている。
しまった、避けられることが前提なんだ。
このままじゃ相手のステージに変えられる。
赤姫を止めなければならない。
でも、あの弓に当たったら駄目だ。きっと凍らされる。
……どうする?
そうだ。私の
エアリアルを体に纏って、走る。
飛んできた弓矢の鏃をデスペレートの先で跳ね上げて、エアリアルで巻き上げる。
弓を切断。これでもう射れないはず。
その瞬間、自身に風をぶつけて横に飛ぶ。
刀に鎧を切られた。一瞬でも反応が遅れれば昏倒させられていただろう。
少し、弓に意識を割きすぎたかな。
☆ ☆
「流石ですね、二人とも」
「……リュー、見えるの? 私には早すぎて剣姫の方は見えないんだけど……」
「ユウの動きを追えるだけでも充分だと思いますよ。シル。
しかし、流石に剣姫は速いですね。私でも完璧には追いきれません」
椅子に体を預けて、闘技場を真っ直ぐに見る。
「…………ユウ。何を考えている……?」
「どうしたの? リュー?」
「いえ、大丈夫です。少し違和感が有っただけですから」
その言葉の後、エルフは真剣に見据えた。
☆ ☆
仕切り直しだ。
始まったばかりのように再び動かなくなった私たちだが、状況は変わっている。
まず、ステージの半分ほどが凍っている。
多分、何かの魔法の下準備だ。
ここまで準備された魔法はエアリアルを持ってしても受け止めきれない。
これには気を配らないといけないということ。
でも、赤姫の魔法の一つは分かった。
武器を自由に格納、搬出出来る魔法。
でも、きっともう弓はない。離れていても射ってこないから……多分だけど。
もう一つは氷の魔法。
リヴェリアが言うには、応用は恐ろしく多岐にわたるらしいので、全てに警戒するしかない。
ここまで考えて、ちょっと笑った。
やっぱり、この人、強い。
だからこそ、勝ちたい。
ーーー
ナイフが迫る。避けないよ、この程度は。
飛んできたナイフの軌道を風でずらして、デスペレートで弾いた。
地面に刺さった場所から凍っていくけど、凍った場所に弾いたから大丈夫。
私がナイフに対応している間も赤姫は動かない。
と、思っていたら。いつの間にか近くに居て。
刀が首を狙って掬い上げられた。峰打ちだけど。
慌てて対応。でも、デスペレートは間に合わない!
無理矢理に体を逸らせる。髪が少し切られた。
跳ね上がった刀が、消失する。
推進力の無くなった腕が上段で構えられて。
刀が現れる。
重力に後押しされて迫る刀を、ギリギリで間に合ったデスペレートが止める。
ダメだ、押し負ける!
寸前でエアリアルが間に合う。
私と赤姫を吹き飛ばす。私も痛いけど、我慢!
背中を打って、止まる。私も、赤姫も立ち上がった。
さあ、次はこっちの番だよ。
先程のエアリアルはまだ生きている。
デスペレートにも、私にも風を纏わせる。
だから、全力でぶつかる。
最速で赤姫に接近。先程の接近をされると困る。
腕を狙う。小さい動きで刀の付け根を叩く。
刀が消えた。安定した状態を維持したいのかな。
赤姫の手に短剣が現れたのを見て、今度は大振りでデスペレートを振るう。
赤姫が屈んで、短剣を振るう。
うん、そうするよね。私でもそうする。
だから、読める。
デスペレートを振るった勢いのまま、回し蹴り。
短剣を跳ね上げて、追撃。今は早さ重視。
デスペレートを落として、徒手空拳。
右からストレート。避けられた。
まだ。もう一歩近付いて、肘打ちで追撃。
屈んで避けられた。残念。
今度は赤姫も素手。
屈んだ姿勢から、アッパー気味の一撃。
仰け反って回避。……威力が乗ってない?
っ、フェイントだ!
下から足を払われた。体制を崩した私に刀が迫る。
エアリアルを私にぶつけて、退避。
デスペレートを落とした所に自分を吹き飛ばして、二度目の仕切り直し。
☆ ☆
デスペレートを拾って、赤姫を見る。
いや、見ようとして、気付く。居ない。
……え? 居ない? どこに行ったの?
けど、気配はある。近くに居ることは何となくだけど、分かる。
それはそうだ。これは試合だから。ここから逃げたら失格だよ。
ということは、これは魔法だ。
ずっと平行詠唱してたから。多分それかな。
エアリアルを纏う。これで探す。
この風に違和感があれば、そこに何かがあるはずだ。
しらみ潰しだけど、これしか方法がない。
その時、風に違和感があった。
私の近くの八方向の地面からだ。ということは赤姫じゃなくて、攻撃だ。
飛んで避ける。私のいた場所の近くから氷柱が飛び出して、砕ける。
着地した地面の周囲が凍って、かまくらのように私を包む。
エアリアルで私を覆う氷を吹き飛ばす。
その瞬間、嫌な予感がして、頭を下げる。
私のすぐ上を刀が
後ろだ。すぐ後ろに赤姫が居る。
よく見ると、空気が歪んでいるのが分かる。
光の反射の操作……? いや、それよりも。
今がチャンスだ。
目視できないなら、居場所が分かるときに落とす!
もう何度目か分からないけど、風をぶつけて移動。
これは本当は緊急手段なんだよ? 結構痛いんだからね。
赤姫が居るだろう場所の周りに風を展開。
エアリアルの応用技術。逃がさない。
両足に力を込めて、全身のバネを利用する。
狙いは、赤姫。風で動けないでしょう?
カウンターも無駄。その上から落とす!
「リル・ラファーガ!」
最速。初速から既に音が着いてこない。
最短。空気抵抗なども意にも介さない。
最大。自分が持つ最高かつ最大の火力。
容赦など要らない。この人にそんなものは要らない。
全力だ。ただひたすらに、全力。
手応えがある! 当たった!
ターゲットを通りすぎて、技の反動を殺す。
確かな手応えを感じた。勝った!
その瞬間、私は油断した。
決して油断して良い相手ではないのに。
止めのタイミングこそ、一番気を引き締めるべきなのに。
「あ、ぅ、ぐぅ……!」
激痛。左腕。折れた。何で?
咄嗟にエアリアルを展開。自身にぶつけて退避。
一瞬後に私が居た場所に薙刀が突き刺さった。
赤姫は!? さっき、刺して。手応えもあって。
ゴトッ、と赤姫の形をした氷が崩れ落ちた。
……囮、だったんだ…………
呆けてはいられない。まだ試合中だ。
どうする? 見えない相手。氷の魔法。囮まで使ってくる相手。
いや、二回目は囮には騙されない。
油断した時に私を倒しきれなかったのは相手のミスだ。なら、まだ勝てる。
そのためには、カウンターだ。
見えないのならば、攻めてきたときに倒すしかない。
片腕だけど、赤姫の癖も分かってきた。近接なら、対応できる。
私は、負けない。負けたくない。
☆ ☆
沸き立つような歓声が
闘技場は満員だった。賭けのオッズは数秒単位で変化しており、均衡している。
少し前は剣姫が優勢で、左腕が折れてからは赤姫が優勢だ。
一大イベントなのだ。
チケットを手に入れられた人は運が良く、手に入れられなかった人が殆どという有り様だった。
そんな訳で、客席は大いに沸いている。
怒鳴り声が、悲鳴が、叫び声が、野次が。
全てが融和して沸き立っていた。
そんな中で、喧騒が少し静かな場所があった。
余り人が立ち寄らないその場所で、声が響く。
「油断したな」
「油断したね」
「油断したのぅ」
三者三様の反応だった。
怒っているわけでも、呆れているわけでもなく、楽しんでいる声だった。
「まったく、だから私はあれほど止めを刺すときに気を付けろと言ったんだ」
「いや、あれに初見で気付くのは難しいよ。
見えない相手が、あんな囮を使ったんだ。
おそらく、触覚も調整されているはずだ。
あれは僕でも気付かないだろうね」
感心した雰囲気に、咎める声が返される。
「だからといって、油断することは別じゃ。
止めを刺して、確認もせんのは問題じゃのぅ」
「こんな舞台で戦った経験なんて少ないからね。
プレッシャーがかかっていたのかもしれない」
少し申し訳なさそうな声だった。
「……確かに、勝つよう言い過ぎたかもしれんな。
だが、負ければ一千万だぞ……」
「勝てば、赤姫だよ。将来性を考えると一千万は安い買い物だ。
君たちもロキの判断に異は唱えなかっただろう」
負けたら一千万を失うだけだろう、とリヴェリアは言った。
真実だった。
「だが、そろそろ動くのぅ」
「ああ、赤姫が魔法を使うだろうな。
となると、アイズは厳しいかもしれない」
「ンー、アイズがどう対処するかがポイントだね。
様子見をしちゃうのは……ちょっとね」
さて、どうなるかな。と呟いて。
彼らは楽しそうに闘技場を見つめた。
静かに観戦する彼らの近くでは。
いけーやれー! そんな真っ白いの、ぶっ倒してやれー!
アイズのやつ何やってんだよ、とっとと倒しちまえ、そんな奴。
なにー? 嫉妬? かーわいいんだー。
何だとこらぁ! もう一回言ってみやがれ!
などと騒がしくなって、止めに入られるまでもう少し。
☆ ☆
体が痛い。ズキズキと痛む。
剣姫の風に何度も吹き飛ばされたからだ。
だけど、大体は予定通りに進んでいる。
出来るならここまでで仕留めたかったが、出来ない。
反応が早すぎるのだ。私では対応できない程だ。
よって、無理に倒しに行けない。
今度こそカウンターを貰う。囮も通じないだろう。
さて、剣姫さん。ここで問題です。
姿を現さず、刀で切りかかってくる相手。
遠距離攻撃は恐らくしてこない。
あなたなら、どう対処しますか。
オーディエンス、50/50、テレフォンは使えない、アタックチャーンス!
ハワイ旅行が当たるかも!
それでは答え。
待ち伏せてカウンター狙い、と思ったかな?
残念。不正解だ。
遠距離攻撃をしてこない、がそもそも間違いだ。
私を相手に様子見は自殺行為である。
そもそも、私は近接戦闘よりも遠距離の方が得意なのだ。
なのに、剣姫を相手にここまで近接戦闘をしたのには訳がある。
剣姫の機動力を殺すためだ。
私の敏捷は低い。
ソロでやって来たので、相手は私に向かってきてくれる。そして、私はそれを迎え撃てばよかった。
そんなわけで、平行詠唱はともかく、私の敏捷は剣姫には及ばない。
なので、剣姫が待ち伏せるように思考を誘導した。
今、この時は。彼女は攻めてこないのだ。
それはつまり、長文詠唱が出来るということだ。
さあ、剣姫さん。ようこそ。雪の世界へ。
アトラクションは、空中遊泳だよ。
ゆっくりと、楽しんでいって欲しい。
☆ ☆
雪が降り始めた。真っ白い、雪が。
次いで雨が降り始めて、雪と混ざった。
今は冬ではない。そもそも、霙は闘技場にしか降っていない。
髪が濡れて、少し顔に張り付いた。
気付く。私は、いったい何をしていた。
赤姫ほどの、魔導士を相手に。
待ち伏せる、だと?
自殺行為だ。自分から広範囲魔法を打ち込めと言ったようなものだ。大失態である。
私を纏う風が力を増して、雪と水を弾く。
その時、地面から違和感が走る。
全ての地面が凍りついた今、遠距離攻撃が来てもおかしくはない。
私の周り八方向からの攻撃だ。
これは知ってる。さっき同じ攻撃が来た。
飛んで避ける。かなり高い。
地面から突き出した氷柱が砕けて散った。
周りを見渡そうとして、下を見る。
私の顔が青くなった。これは、罠だ。
地面にあったのは、地獄だ。針山地獄。
凍った地面から針が生えている。
数えきれないほどの針が。一面を埋め尽くしている。
降りられない。降りる場所がない。
人が降りられるスペースがないのだ。
赤姫は多分、針の上にいる。
私が同じことをすれば、多分凍らされる。
……どうする? 無理矢理にでも降りるか?
いや、足を傷付ければ機動力を失う。
片腕で、ヒット&アウェイが出来なくては、赤姫には勝てないだろう。
なら、時間をかけて慎重に降りるか?
駄目だ。そんな悠長なことをしていたら、広範囲魔法で落とされる。
瞬間、エアリアルを強化。
降っていた雪が、雨が。前触れもなく襲ってくる。
エアリアルに阻まれて、氷の針は落ちていった。
……駄目だ。勝つ方法が分からない!
一番楽なのは空中での近接戦闘だけど。
この状態で赤姫は絶対に近付いては来ない。
……勝てない。でも、負けない方法ならある。
試合時間は後僅かなのだ。そこまで引き伸ばす!
赤姫にこれ以上大きな魔法を打たれないようにするんだ。
降りる振りを繰り返して、牽制し続ける。
襲ってくる雪と雨の対策に、全力でエアリアルを展開し続ける。
後数分。後数分だけ粘れば良いのだ!
☆ ☆
驚いた。詰ませたはずなのだ。
彼女なら、僅かな勝ちの目を求めて、無理矢理に地面に降りると考えていた。
そうでないなら、広範囲を凍らせれば良いと考えていた。
出来ない。
狙いは分かっているが、放置できないのだ。
無傷で降りられれば私は困る。
折角準備をした魔法が無意味になってしまう。
対処に魔法を打たざるを得なくなり、長文詠唱が出来ないのだ。
エアリアルもそうだ。常時全力展開など無茶苦茶なのだ。
十分持てば良い方である。何て無茶をするんだ。
お陰で決め手を打てないまま、試合は終わった。
引き分けである。
ーーー
大荒れだった。(小並感)
客席からは悲鳴と罵声、叫び声が聞こえる。
ガネーシャ・ファミリアの人が怒鳴られている。
まあいいや。どうせ勝っても負けても同じだっただろうしね。
優勝賞金は剣姫と山分けである。
結構な大金である。仕方ない。これを使おう。
私がロキ・ファミリアに認めて欲しかったことは、客分として扱って貰うことだ。
ロキ・ファミリアの遠征にのみ参加したかったのだ。
はっきり言って、こちらに都合の良い話だ。
報酬は少な目でも良いのだ。
そこまで譲歩すると、ロキ・ファミリアには損はない、と思う。
とはいえ、こんな話を認めて貰うのに、手ぶらというわけにもいかないだろう。
そのための、優勝賞金だ。
言い換えれば賄賂だ。ははー。どうぞお納めくださいー。である。
思いっきり汚いけど、このままだと近い内に行き詰まることは目に見えている。
そうなってからでは遅いのだ。
剣姫を介してロキ様との会談の約束をする。
了承の返事が返ってきた。
☆ ☆
ある程度の正装をする。けど、この世界の正装ってなんだろう?
……冒険者だから。白い着物でもいいか。
今からいく場所は高めの食事どころだけど、ドレスコードはない。
なので、これは気持ちの問題だ。
神様はそんな必要はない、と言って私服だけど。
夜のオラリオを神様と歩く。
しばらく、歩いて、歩いて。
五年前のことを思い出した。
一人で歩いていた頃のこと。
周りには沢山の人がいたのに、私は一人だった。
帰るところも、行くところも、私にはなかった。
そんな世界の、うらぶれた廃教会で。
私は神様に出会ったのだ。
そして。
帰るところをくれたのだ。
私に居場所をくれたのだ。
これから先、私がヘスティア・ファミリアの所属でなくなる訳ではないけれど。
少し感慨深かった。
ーーー
「よお、赤姫ちゃん。一ヶ月ぶりやな。
今日はアイズたんとええトコ見せてもろたで」
「はあ、嫌だねぇ。心が貧しいっていうのは。
ボクを無視するなんて、礼儀を知らないのかな」
私に挨拶してきたロキ様を威嚇するように前に出る神様。
イーっだ! とロキ様を睨んでいる。
「あっれぇ? 声がすんのに見えへんなぁ?
まあ、礼儀何てもんは払う相手と払わんでもええ相手が居るっちゅーことや」
どういうことだそれは! と怒る神様を宥める。
「それで、どういった要件かな?」
苦笑を溢しながらフィンさんが聞いてくれた。
そう、この場所にはフィンさんとリヴェリアさんが居る。私は何も言っていないのに。
流石は天界きってのトリックスター。
既に要件が知られている。
「手間、省いたっただけや。助かるやろ?
自分からは切り出しにくいか。まあ、そやろな。
なぁ、赤姫ちゃん。自分、ソロの限界を感じ始めてるんちゃうか?」
ロキ様の視線が、私を貫く。
「……はい。50階層より先は、一人では安全を確保できない、と見ています。
そもそも、
通りすぎるだけでも命をかける必要がある。
「まあ、せやろな。ウチらでも全戦力をつぎ込んで倒す相手や。一人では、無理や。
……で、だからどうしたいんや? 赤姫ちゃん?」
分かりきった上で、私に聞いているのだ。
「ロキ・ファミリアの遠征に、客分として参加したい。
我が儘ですが、私はヘスティア・ファミリアを離れる気はありません」
少しの沈黙の後、問いかける声が聞こえる。
「……それは、一回きりというわけではなく、継続的に参加したいということだよね」
確認の問いかけに、頷く。
今度はリヴェリアさんが質問をしてくる。
「……一つ、良いだろうか。どうして、そこまでしてヘスティア・ファミリアに残ろうとする?」
それは簡単だ。
「私はヘスティア様を裏切れません。
返しきれないほどの恩があります。
加えて、眷族も私一人しか居ませんから」
フィンさんが考え込み、リヴェリアさんは黙った。
そんな沈黙を打ち破って、ロキ様が笑う。
「半永久的な客分。それでどうや、赤姫ちゃん。
そこのドチビのファミリアからは抜けんでええ。
けど、遠征だけの客分は認めへん。そんな都合のええ所だけ欲しい、いうんは欲張りや」
なぁ、そう思うやろ。といって。
「分配は少なくてもいい、も無しや。
そんなビジネスライクな関係は嫌やなぁ」
ウチはそんなことを赤姫ちゃんには望んでない。
「
ウチのファミリアに、常に客分として参加して貰う。
当然、
部屋も作らす。役職にも就ける。ただし上納金は貰うで。
それでも書類上は、そこのドチビのファミリアやけども、な。
どうする? 赤姫ちゃん。この提案受けるか?」
前例の無いことやけどな、と笑っているロキ様に。
私は即答する。
「ええ。受けます」
はあ、と隣で神様が溜め息を着いた。
「よし。これで赤姫ちゃん、いや、ユウちゃんはウチのファミリアの一員や。客分やけどな。
これから、宜しくな。ユウちゃん」
ええ、宜しくお願いします。そう応えた。
「それにしても、ユウちゃんは健気やなぁ……
そんな穀潰しにも甲斐甲斐しく世話を焼いて。
裏切りたくありません、ときた。泣かせるなぁ。
更に欲しくなってもうたわ。罪な女やでぇ……」
「私は、男性です」
空気が凍った。
「…………ホンマ? それ?」
「…………神様でしょう?」
しばらく時間が経って。誰も口を開かなかった。
「……ま、まあええわ。
ウチのなかではこれからも女の子やから。
さて、そういうことなら書類作ったり、ウチのファミリアにも情報を流さんとあかん。
ユウちゃん、また明日、話させてくれへんかな」
「構いません。場所は……『豊穣の女主人』でどうでしょうか。書類を作成するなら変えますが」
「ええよ。まだ資料集めの段階や。簡単に詰めるだけやし、ウチの団員連れてこいってことやろ?」
「はい」
顔見せだ。賑やかで酒も入った方がいいだろう。
「そうや、ユウちゃん。優勝賞金はしまっとき。
後、ドチビ。いつまでもユウちゃんの優しさに甘えとらんで、眷族探せよー」
そう言って、ロキ様たちは去っていった。
これだけ書いて、読み直す。
読みにくくね? これ。
……わたしは考えるのをやめた。
アイズの魔法解説!
・エアリアル
低燃費、高火力の
自分の武器、体に纏える風です。
ですが、纏う側にもある程度のダメージがあります。
この小説では、低燃費とは常に最高状態でなくても良いことだと認識しました。
つまり、最大展開をすれば流石に長時間は持たないです。
また、ここのアイズさんは反射神経が超速いです。神速のインパルス。
エアリアルに違和感がある
↓
そこから何か来る! 対応!
こんな感じです。普通は出来ない反応です。
最後にぶっちゃけると。
エアリアルを纏ったアイズは白兵戦ではユウより強いです。