第10羽 ファミリア
風は纏わない。
氷が飛んでこないからだ。
牽制での突きを連続で行う。
着物が風に揺れながら、意外なほど鋭い動きで避けていく。
本命の一撃のために後ろ足に力を込めて、
前足が払われた。
バランスが崩れて、無理矢理立て直す。
その場で2、3回小刻みに足を組み換えて、払われた衝撃を無くす。
距離が開いた。
刀が私に向いて構えられた。
彼が止まって、動いていない筈なのに、
気付けば近くにいた。
特殊な歩法による接近。
だけど問題はない。それは知ってる。
刀の刃先に当てるように、サーベルを当てる。
ガキッ、と音がして、刀が折れた。
そのまま首もとにサーベルを突きつけて、
私の勝ち。
「また、折っちゃった。
…………その、ごめん。」
「別に問題はないよ。1000ヴァリスもあれば買える」
安物だ。少なくともレベル4の冒険者が持つ武器ではない。
どうして安い武器しか持たないのか聞こうとして、
「じゃー、買い物に行こうよ!」
「そうね、私も武器は買いたいし。
消費する武器は損よね、本当」
どこからかアマゾネスの二人がやって来た。
ティオネはユウと武器の使い捨てについて話を始めて、ティオナが私に話かけた。
「アーイーズ。良くユウと模擬戦してるよね。
どっちの方が勝率は高いの?」
「7対3で私の方が勝ち越してる。
けど、ユウがまともな武器を使えば分からなくなる」
そもそも彼は近接専門ではない。
魔法無しの模擬戦で負け越しては居られない。
「それ、ベートには言わないようにね。
ユウに負けてから猛特訓してるから」
「綺麗にカウンターが入ってたね」
「一発KOだからね。流石に堪えたみたい」
それから私たちはシャワーを浴びて(ユウは当然別)、武器などの買い物に出掛けるのだった。
☆ ☆
真っ白は俺よりもレベルが高い。
俺やアマゾネス共のレベルは4に上がりたてで、
あいつは4に上がってからそれなりに経っている。
だからといって、不様をさらして良い筈がなかった。
なのに、手も足もでなかった。
カウンターさえかわせれば、それなりの勝負はできた筈だった。
一歩、踏みとどまる戦い方が必要だ。
あいつはフェイントの達人なのだ。
真正面からぶつかれば勝てない。
「次だ……!」
「少しは休憩を入れたらどうかな」
目の前で小さい団長が答えた。
あいつの身長はフィンと変わらない。
戦い方も似ている。仮想敵としてこれ以上ない相手なのだ。
「確かに、フェイントを見切る目を養うことは必要だよ。
だけど、ベート。君の戦い方は細々とした技の応酬じゃないだろう」
「……っ、だが! 速度で圧倒しようにもあいつはカウンターを合わせてくる!
どうすりゃいいってんだ!」
フィンはやれやれ、と肩をすくめて、
「ユウの刀の扱い方はね、自分よりも力の強い相手や体格の優れている相手への対策がかなり編まれている。
少しくらいフェイントを見切れた程度じゃどうにもならないよ。
アイズ程の近接戦闘を持って、ようやく破れるほどの、
速度で持って圧倒して、制圧する君との相性は最悪なんだ。
ここまで来るともう経験がものを言う」
「だったら! 続きを……」
「一朝一夕で身に付くものじゃない。
無理をして、大きな怪我をしたらどうするんだ。
まずは自分を大事にすることから始めるんだ。いいね」
強い口調で言われて、模擬戦は終わる。
悔しかった。だから、ここずっと模擬戦の繰り返しだ。
あいつに再戦を申し込んだ回数は二桁に登り、あいつはそのどれも断らなかった。
なら、これから先も戦えるのだ。
今はまだ、あいつの方が強い。
だが、これから十年先、二十年先はどうだ。
俺はカウンターにも対処できるようになっている筈だ。
「ハッ、いつかは越えてやるんだ」
負けっぱなしにはしておかねぇ。
☆ ☆
はあ、と溜め息をついた。
ユウがロキ・ファミリアに客分として入ってからしばらく経つ。
客分とはいえ、まるでファミリアのメンバーのように扱うことになった当初は混乱したものだ。
レベル4が移籍することは珍しく(ユウは移籍していないが)、始めはいさかいも有ったものだが、今では馴染んでいる。
実力は申し分ない。
ソロで40階層近くまで安全を確保しながら潜れたほどの人物なのだ。
噂に関しては仕方がないと思う。
あれは殆ど真実なのだ。
僕とリヴェリア、ユウの三人で簡単に実力を見るために迷宮に潜ったのだ。
そこで分かったことがある。
ユウは同行者がいれば異常な行動は取らない。
気分が高揚しないらしい。
モンスターとの間で愛を感じない等といっていたのは今でも記憶に残っている。
何をバカなことを言っているのだと思った。
逆に言えば、独りでなら異常な行動を取るということだ。
僕とリヴェリアが少し先行をして、戻った時に。
僕たちは見てしまった。彼がモンスターを解体しているのを。
獣の体と魚の下半身を持っていたと思われるものを見たのだ。
腕が切られて、指まで丁寧に皮が剥かれていた。
顎の下半分は切り取られていて、
下半身の魚の鱗もエラも血で染まっていた。
ユウはそのモンスターの腹を生きたまま開いており、肋骨を削り出していた。
笑っているのを確認して。
僕とリヴェリアは一瞬目を疑った。
二人がかりで止めて、事情を聴くと、独りで戦闘をするとトランスする、と教えられた。
それでも安全の確保はしているようなので、問題はないといえばない。
だが、これはファミリアのメンバーにはいささかショッキングな映像になる。
できるだけ同行者がいる探索では独りで行動させないことが重要になるだろう。
そんな問題のある彼だが、ファミリアへの影響は悪くない。
高い実力、猟奇的なことを除けば性格は悪くない。
社会性には少し問題がありそうだが、ティオナやティオネがいれば大丈夫だろう。
触発されて練習に精を出すものも多い。
今日もベートに長時間付き合わされた。
お陰で書類仕事が大量に残っている。
団長に与えられた部屋に入ろうとして、気付く。
誰かいる。音をたてないように中を探ろうとして……
「あ、ぁ、あんっ、団長の、匂いがっ、あっ、」
止まった。これは覗いてはいけないものだ。
頭痛がしてきた。
☆ ☆
武器の補充をしよう。
そう考えて、妹のティオナを誘った。
何だかんだあって、アイズも誘うことになったので、中庭に赴く。
アイズはユウと片付けをしていた。
また模擬戦で刀を折ったのだろう。
『赤姫』ユウ。
レベル4の冒険者だ。
最近にロキ・ファミリアに永久的な客分になった人物。
アイズとイベントで戦って、引き分けたこともあって、アイズは彼(男性らしい。どう見ても女性である)のメンバー入りを誰よりも歓迎していた。
次の日には模擬戦行い、アイズが勝った。
その次の日には負けて、今ではどちらが勝ち越しているのかは知らない。
「じゃー、買い物に行こうよ!」
「そうね、私も武器は買いたいし。
消費する武器は損よね、本当」
本当は私から買い物に行こうと提案したのだが。
「だからといって出し惜しみは出来ないし、貴方は魔法がメインだから良いけど」
「うん、確かに。私は牽制に武器を使うことが多いから、そこまで消費しない。
むしろアイズに壊された刀の方が消費が早いぐらい」
「貴方たち、どれだけ模擬戦してるのよ……」
ほぼ毎日戦っているところを見るから、迷宮に潜っていないときは毎日やってそうなのが怖いところだ。
出掛けることになったのは良いが、買うのは武器だ。個人的な目的だけで使うものでもない。
つまり、団長への報告が必要だということだ。
事後報告でも構わないのだが、団長にいい加減な女だと思われるのは嫌だ。
なので、出掛ける前に団長の仕事用の部屋に入ると。
誰もいなかった。
仮眠用に置いてあるベッドから良い匂いが漂っていて、枕を抱き締める。
それ以外は何もしていない、いいね。
☆ ☆
買い物に行く。
集合に遅れてきた姉がいたような気がしたけれど、些細な問題だ。
自分から言い出したのに。
武器の調整も兼ねているので、まずはゴブニュ・ファミリアに向かう。
私の
私なりに丁寧に扱っているんだけどなぁ……と考えていると、刀を見ているユウを見つけた。
「珍しいね。ユウがオーダーメイド品に興味を持つなんて」
そう、珍しい。ユウはオーダーメイド品はおろか、まともに鍛えられた武器を使わない。
何か理由があるんだと思うけど。
聞けば良いや。
「ねえ、何でユウって安物ばかり使うの? ビンボーショー?」
「貧乏性なのは否定しないけど。
まあ、大した理由は無いんだよね」
ユウが刀から目線をはずした。
「もういいの?」
「うん。欲しいって思えるようなものは無かったからね」
これは神様に相談した方がいいな、と聞こえてきた。
ロキ様は刀に詳しくないと思うけどなぁ……
結局ユウはゴブニュでは何も買わず、ギルドの近くにある安物が置いてあるところで購入した。
ここはお店のお店らしく、基本的には一般の販売はしないらしい。
だけど、ユウが顔を見せると売ってくれた。
その後に服も買いに行こうとしたけど、既に暗くなってきており、ホームである黄昏の館に帰ることになった。
「帰ってきたか。
ユウは部屋にいるか? 少し話があってな……」
「リヴェリア?
うん、居る筈だよ。戻るっていってたから」
「そうか、助かる」
何の用事だろう? リヴェリアもユウも魔法について研究しているから、その関係だろうか。
何でも良いや。今日は動き回ったから、少し眠くなっちゃった。
晩御飯までちょっと眠ろうかな。
☆ ☆
天才は存在するのだと、私は感じた。
理論からして、一つ二つ抜けている。
魔法とは現象だ。
魔力を編んで、言葉によって成さしめる奇跡だ。
だから、それ以上を考えない。
だが、ユウは違った。
どう調整するか、ではない。
どんな使い方をするか、なのである。
氷を出すのなら、敵を凍らせる、ではない。
凍らせる範囲などを変えて、利用する、だ。
そのように魔法を使ってきたからか、魔法の精密性が異常に高い。
そして、それを支える大量の知識がある。
最先端の化学、生物学の知識だ。
たった12歳にして、それらを網羅している。
異常だ。
だが、世の中には異常な存在などいくらでも居る。
ユウもその中の一人だということだ。
「ユウ、入るぞ」
「リヴェリア? ちょっと待って…………うん、いいよ」
ノックをすると、衣擦れの音がした。
着替えているのだろう。
「失礼する。
ふむ。ようやく片付いたか」
「ミシンだったりと大掛かりなものも運び込んだからね」
整理に時間がかかったんだ、と聞こえる。
「それで、頼まれていたことだが。
可能らしい。相当な技術が必要にはなるだろうがな」
「ありがとう。それだけ聞ければ充分だよ」
「いいのか? お前の武器だ。
ロキ・ファミリアの客分である以上、ファミリアからの出資も……」
「遠慮するよ、流石に頼れない。
どれくらいの値段になるかも分からないんだから」
そうか、といって話が終わる。
「そうだ。この前の探索で、霧を出しただろう。
あれは大規模では使わない方がいい」
「うん、分かってる。
一時的な目眩ましでしかないよ。血を混ぜ混んで簡単に散らしてあるだけだから、本当に短時間しか持たないしね」
「混ぜ混む? ああ、血を空気中に溶かしたのか……
匂いで分からなくするためだな。
大丈夫なのか? 特殊な探知法を持った敵には逆効果になるぞ」
時計が鳴った。
夕食の時間だろう。ついつい話し込んでしまった。
時々、こういうことがある。
ユウとの議論が白熱してしまうのだ。
ユウはこれまでソロで活動していたからか、集団戦の心得が薄い。
それを私が教えているのだが、いつのまにか議論に変わっているのだ。
食堂に私とユウが入ると、あまり人がいなかった。
フィンとガレスのせいだ。
明らかに高い酒で酒盛りをしていた。
特にフィンが凄い勢いで飲んでいる。
またティオネ辺りがやらかしたのだろう。
「おう、リヴェリアとユウか。
珍しくもない光景じゃな。」
「ガレス! 聞いてくれよ!
勝手に部屋に入るだけならまだいいんだ。あそこは執務室だからね。
だけど、仮眠用のベッドであんな、……ああもう!
何回言ったら分かるんだ、ティオネ」
「ここにティオネは居らんぞ。
大丈夫か、フィン。少し飲み過ぎておらんか?」
少し、ではない。明らかに飲みすぎだ。
仕方ない。後で解毒でも掛けてやろう。
☆ ☆
ガレスにとってユウはそこまで興味のある相手ではない。
自分よりもリヴェリアとの相性が良さそうだと感じていた。
魔法の運用などが光る人物だからだ。
事実、それは間違ってはいなかった。
決して、客分への交渉の席に自分が呼ばれなかったからではない。
断じて違う。そんな細かいことは気にしない。
ロキの奴め。
優秀だとは思う。
何度か探索に行き、役に立たないようなことは一度足りとも無かった。
前衛だろうが、後衛だろうが仕事にそつが無い。
だがそれだけだ。
優秀な新人、というだけなのだ。
集団戦での立ち回りなどはリヴェリアが教えており、それ以外に教えるようなことはない。
夜になって、今日は何処に飲みに行こうか、と考えながら玄関まで来ると。
「ガレス。これから出掛けるの?」
ユウの声が聞こえた。
「そうじゃ。飲み直そうと思ってな。
フィンに付き合って飲んだ程度じゃからのぅ」
「なるほど。一緒に飲みに行きたいけど、今日は約束があってね」
その後、隠れ家のような飲み屋を教えながら歩いて、別れた。
今日はうまい酒が飲めそうだ。
☆ ☆
扉を開ける。
そこは喧騒の世界だった。
話し声と笑い声が聞こえて、注文を取る音が絶えない。
カウンターに座ると、銀髪の子が注文を取りに来た。
珍しいな。
「珍しいね。シルが注文を取りに来るのは」
リューと一緒に飲むことは多いけれど、積極的には関わってこない人なのだ。
「気のせいですよ。で、ロキ・ファミリアに入ったと聞きましたけど、本当ですか?」
「うーん、所属する訳じゃないんだけど、一応は本当だよ。」
「それこそ珍しいです。
ユウは一匹で生きています、なオーラがあったのに」
それは幻覚だ。
「それで、注文だけど。いつもの料理と、お酒。後はリューで」
「リューは非売品です。
今日は忙しいから無理かな。また明日来てほしいな」
そうか、残念だ。
お酒を飲んで、まだまだ止みそうにない客足を確認して、店を出る。
「ユーウー君ー!
寂しかったよ! すっごい寂しかったよ! もう帰って来ないんじゃないかってぐらい寂しかったよ!」
「落ち着くまでは帰らない、と言ったでしょう。
神様の方は変わりありませんか」
無いよ! と元気な声が聞こえた。
ならファミリア・ハンティングの成果も無いのだろう。
ここは廃教会だ。私は帰ってきていた。
色々と近況を報告しあって、本題に入る。
「神様、武器のオーダーメイドについて質問です。
…………神様、作れますか?」
ダメもとであるが、神様は炉の神だから、あるいは!
「いや、無理だよ。ボクには作れない。
でも、以外だね。ユウ君がオーダーメイドを使おうなんて」
やっぱり駄目か。
「これからは、集団戦闘が増えます。
今までのような視点でのみモンスターを見ることが出来なくなってしまって」
同行者がいる、ということは私にとって大きな変革だった。
トランスしないのだ。気持ちが高揚しない。
モンスターが私以外を見ているからだ。
なら、愛し合うことにはならない。
だから、全力で気持ちを伝える為に使っていた、心の無い武器を変えても良くなった。
独りでの戦闘ではこれからも変わらないが、集団戦闘では武器を変える、ということだ。
その為にオーダーメイド品が欲しい。
魔宝石は数千万で購入して、それを通常の武器に組み込むことは可能だとリヴェリアに確認して貰った。
これからも使い続けるので、不壊属性の武器が良い。
そこまで伝えると、神様が言った。
「なら、ボクに任せるんだ。
最高の
☆ ☆
「5億ヴァリス」
交渉の結果だ。
ユウ君が珍しく呆けた顔をしている。
「ヘ、ヘファイストス。その……」
「駄目。ビタ一文まけない。」
僕がユウ君に鍛冶士を紹介する、といって早数日。
僕はヘファイストスと話をすることに成功した。
僕の眷族の武器のオーダーメイドをしたい、という話を神友のよしみで受けて貰ったのだ。
「魔宝石を組み込んだ不壊属性の刀。
ということは魔法を使うことが前提よね。
なら、単純に不壊属性だけじゃ駄目。
魔法に適した鉱石を、一つ一つ不壊属性でコーティングしなきゃいけない。
それに、最深部まで使うのなら、使い減りも考えなきゃならない」
「ぐっ、」
「私たちなら、その全てに対応することが可能よ。
だけどそれには途轍もない精錬行程が必要なの。
完成まで数ヵ月は掛かるの。
それまでの拘束代も込みよ。
払えるの?」
ユウ君が難しい顔で俯いた。
やっぱり無理じゃないかな。
いくらなんでもこれは高すぎるよ……
「前金に、2億5000万ヴァリス。
後は一年のローンを組みます。
それでどうでしゅか」
噛んだ。ユウ君が噛んだ。
凄い、こんなところ始めてみた。
って、2億5000万ヴァリス!?
ユウ君の全財産じゃないかな、それ!
「いいわよ、前金で半分出すなら、信用するわ。
そうね、ローンも2年くらいで組んでも良いわよ」
ああああ、ヘファイストスも受けちゃったし!
これじゃあ、ユウ君は僕と同じ極貧生活だよ!
これまで僕の方に入ってきてた上納金は使い切ってるんだ!
援助する余裕なんて僕には無いよ!
「分かりました。
なら、書類の作成と平行して、詳細を詰めるということで……」
仲介の僕を無視して話を進めるなぁ!
「神様、うるさい」
「ヘスティア、今は真面目な話をしているの。少し静かに……」
酷い! 僕も真面目なのに!
その後、これからの整備代を無料にする、ということでこの契約は締結された。
ファミリアのお話。
一気に登場人物が増えたのでこういう形式になりました。
タグにソード・オラトリアを入れようかと悩み中です。
まだレフィーヤは居ないよ!