ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:羽吹

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【注意】
 気持ちの悪くなる描写があるかもしれません。
 また、読みにくいです。許してや、城之内……
 なので、解説をつけました。
 
レフィーヤ回だと言ったな。あれは(3/4ほど)嘘だ。


第12羽 蛍の歌

 

 己が火を

 

      木々に蛍や

 

            花の宿

 

 

  第12羽 蛍の光

 

 

 ロキ・ファミリア。

 フレイヤ・ファミリアと並ぶ都市最大の迷宮探索系ファミリアだ。

 私は、そのファミリアに入団する新人です。

 

 名前はレフィーヤ・ウィリディス。

 学区の出身で、冒険者レベルは2の第三級冒険者です。

 種族はウィーシェの森の出身のエルフです。ウィーシェの森では他種族の方々とも積極的に交流していました。

 

 よし、完璧な自己紹介だ。

 何回も練習したのだ。間違わないはず!

 自己紹介は失敗できない。まさかハブにされることはないだろうが、気まずくなってしまうの良くない。非常に、良くない。

 

 ここには王族であるリヴェリア様もいる。それだけでなく、オラリオにおいても絶対数の少ないレベル5以上の第一級冒険者が何人もいる。

 オラリオにおいて、もっとも危険で、それでいて安全な場所なのだ。

 

 ☆ ☆

 

 呼び出された。

 自己紹介は無事成功して、部屋にも案内された。

 幹部クラスの人たちは個人で部屋を持っているが、新人は複数人で一部屋だ。

 同じ部屋の女の子たちと早くも仲良くなって、お話をしていると。

 同じく新人が訪れて、私が執務室に呼ばれていると教えてくれたのだ。

 

 正直に言って、行きたくない。

 私が何をしたというんだ。何もしていないはずだ。荷物を運び込んだだけである。

 執務室についた。ノックをして、

 

「レフィーヤ・ウィリディス。参りました!」

「どうぞ、入っておいで」

 

 この声は、団長のフィンさんの声だ。

 少し前に団長や幹部クラスの人たちからは簡単なスピーチがあったので、覚えている。

 

「は、はい。失礼します!」

 

 部屋には三人居た。

 大きな机に小さな体がアンバランスなのがロキ・ファミリアの団長のフィンさん。

 その両翼に陣取っているのが二人。右にいるのはリヴェリア様だ。雰囲気が違う。お美しい。

 左にいるのは真っ白な人だ。肌の色も、服装も白い。ユウさんだ。幻想的な雰囲気を持っている。

 

「あれ? 僕だけ酷い紹介じゃなかった?」

「気のせいです」

「ンー、本当かなぁ……。まあいいや、本題に入るよ。君を呼んだのは僕じゃなくて、この二人だ」

 

 この二人、ということはリヴェリア様とユウさんが私を呼んだということだ。

 オラリオが誇る最高クラスの魔導士の二人である。

 私に何の用があるの……?

 

「まずは、自己紹介からしようか。

 私はユウというんだ。『赤姫』とも呼ばれているけど、名前で呼んでもらえると嬉しいかな」

「私はリヴェリアだ。知っているだろうが、王族(ハイエルフ)だ。

 といっても、必要以上の敬意を持たれるのは好きではない。ユウと同じように名前で呼んでもらえると助かる」

 

 はい! 知っていますとも! 二人とも超有名ですからね!

 

「私はレフィーヤ・ウィリディスです。

 ウィーシェの森から来たエルフで、他種族の方ともせっきょきゅてきに、こ、交流を。してきました!」

 

 噛んでない! ないったらない!

 

「うん、宜しくね。それで、本題だけど。

 レフィーヤは、魔力の総量や召喚魔法の特異性が認められたんだ。

 だから、これからは私とリヴェリアが付きっきりで指導をすることになったんだ」

「光栄なことだよ。オラリオにおける、魔導士のトップ二人に直々に教われるなんて、普通じゃ考えられないことだよ」

「皆からは羨ましがられるかも知れないが、安心するといい。その内憐れみの視線に変わる」

 

 ユウさんが説明をして、フィンさんとリヴェリア様が補足をしてくれた。

 ……憐れみ? フィンさんの言うように光栄なことだとは思うけど。

 

「それじゃ、早速今日から始めようか」

 

 ユウさんの講義。どんなことをするんだろう。

 

 ☆ ☆

 

 ぐでっ、と食堂の机に突っ伏した。

 疲れた。まだ昼間だというのに、非常に疲れた。

 

 オラリオでは、共通語が使われている。

 様々な種族が入り交じるこの都市で、言語の統一が計られたのはおかしなことでは無いはずだ。

 なので、ここでは共通語はスタンダードだ。共通しているから。

 

 なのに、あの二人の言葉は共通語じゃない。

 だって私には何も共通していないのだから。

 

 始めの講義は物体の相転移についてで、気体と液体と固体について。ここまでは良かった。まだ着いていけた。

 次からが駄目だった。

 準安定状態とベクトルについてだった。グラフがぐにゃぐにゃで、数式には数字がなかった。

 

 全然分からない。何言ってるのか分からない。

 そもそも数式なのに数字が書かれていない時点で、もう既に何かおかしいと思う。

 講義そっちのけで議論が始まったときは、もう抜け出しても良いんじゃないかと思った。

 

 それでも、ましになった方なのだ。

 涙目で分からないと訴えたのが効いたのか、書庫にある文書に則した講義になった。

 なので、まだなんとか着いていけるようになった。

 

 だというのに、今日からは近接戦闘用の杖術の訓練が始まる。

 予習はいつすれば良いのだろうか。

 

 誰か助けてくれないかなぁ……

 

 ☆ ☆

 

 初日は見学らしい。

 杖術がどういうものなのかを学ぶそうだ。

 ユウさんに訓練用の施設に案内された先で見たのは、二人の冒険者だ。

 確か、ラウルさんとアキさんだ。

 二人とも二軍の中核のメンバーで、私からみて雲の上の人物である。

 

 ユウさんと二人の模擬戦が始まった。

 始めはラウルさんとアキさんの同士討ちになった。

 次は二人の武器が奪われて、最後は二人同時にノックダウンされて終わった。

 

 叩きのめされた二人は何かアドバイスを貰っていて、嬉しそうな顔をしていた。

 そんな時だ。襲撃者が現れた。

 

「ユウ、模擬戦には呼んで欲しい」

 

 金色の襲撃者だった。

 その後にも何だかんだとあって、何故か最後に立っていたのはガレスさんだった。

 ユウさんもアイズさんもベートさんも、もちろん私も打ち倒された。

 

 ……どうして?

 

 ☆ ☆

 

 最後は、実践だ。

 上層でモンスター相手に魔法を使う。

 そこまではいい。問題は数だ。

 

 基本的にモンスター・パーティーが相手なのだ。

 ゴブリンやコボルト数十匹相手に動きながら魔法を打つのだ。

 どうして基本がモンスター・パーティーなのかな!

 普通はこんなこと(モンスター・パーティー)は避けて通るものだよね!

 二人ともどこかおかしいよぉ!

 

 始めは一旦離れてから大魔法で殲滅していたのだが、モンスターをおびき寄せる罠を近くに投げ入れられた。

 言外に動きながら魔法を使えといっているのだ。

 

 誰か、助けてください。

 

 ☆ ☆

 

「はい! 分かりました! リヴェリア様」

 

「……え? 私はリヴェリア様にしか魔法は教わっていませんよ?」

 

「アイズたん! まーた独りで迷宮にいっとたんかー。

 単独で冒険するなんてロキ・ファミリアではアイズたん位なんやから、気を付けなあかんでー」

 

「うん。でもティオナやティオネ、ベートたちとも迷宮には行くから……」

 

「ハッ、だったら次は俺も誘えよ、アイズ。

 俺に勝てるやつなんてお前ぐらいだからな」

 

「えー、私でも勝てるよー! ベートのバーカ!」

 

「ちょっと、ティオナ。はしたないわよ。

 でも、ベートにしちゃ大口叩くじゃない。

 ……やってみる? 返り討ちにしてあげるわよ」

 

「はあ、胃が痛いよ。もう少し落ち着きを持ってくれないかなぁ……

 あと独りでも増えたら胃に穴が空くだろうね……」

 

「随分と弱気だな。まあ、仕方ないか。

 私も後継には頭が痛い。もう少し落ち着きがあれば……」

 

「お主ら、結局同じことを言っとるぞ……

 まったく、もう少しあの四人を信じてやれんかのぉ」

 

「ベールーくーん! やっと帰ってきたね! またボロボロになって。まったく、ボクが居ないとダメだなぁ。

 君は、ヘスティア・ファミリアの唯一のメンバーだからね! 自分を大事にしなきゃダメなんだ!」

 

「私の手を握れた人は、シルとアリーゼの二人だけです。

 友達、ですか。……アリーゼ……」

 

 赤色が跳ねて。

 

「……ユウ? えっと、それは誰?」

 

 ☆ ☆

 

 ベットから転がり落ちた。

 

 私の居ない夢を見た。

 ヘスティア・ファミリアには兎の男の子だけが所属していて。

 リューはアリーゼの復讐を障害もなく行う。ギルドのブラックリストに載って、一人シルに助けられる。

 アイズたちロキ・ファミリアはヘスティア・ファミリアとは何の繋がりもなく、日々を過ごしていく。

 レフィーヤはリヴェリアに知識を学んでいる。

 

 何故か分からないけど、それが当たり前なんだと分かった。

 私なんか居ない方が良い結果になるんじゃないかと思えて。

 どうしようもない虚しさが込み上げて来た。

 

 床に転がったまま、起きあがりたくない。眼を開きたくない。

 本当にここは私のいる世界なのかな。

 

 光が痛みをもたらして、周りを見る。

 いつもの私の部屋で、何も変わっていなかった。

 

 ーーー

 

 レベルが上がって、もう三年経つ。

 仲間がいるのが当たり前になった。

 それは私がかつて望んでいたことのはずだ。

 誰かに認められて、笑いあえて、幸せだなって、そう思えるように。私は願ったのだから。

 

 だけどそれらの全てが叶って、私は腑抜けている。

 失うことが怖くなったのだ。アリーゼのようにいつか居なくなるんじゃないかと思えて。柄にもなく怖い。

 

 そんな恐怖が、私にこんな夢を見せたのかな。

 廊下に出て、いつも通りの光景を確認して。

 白く濁った壁の色が私の眼に入った。

 

 ーーー

 

 白濁した壁がかつて私を汚したモノを想起させる。

 私が無くなっていく感覚を、もう一度思い出す。

 視界が濁って、ぶれる。

 腕がだらりと落ちて、微かに笑う。

 

 そうだ。わたしはこうじゃないか。

 私は、こういうモノだったはずだ。

 心のなかで、欲求が産まれる。

 私のスキル(独りぼっち)が、求めている。

 

 愛し合いたい。愛が欲しい。

 頭の芯から認め合えるような、酩酊した愛情を酌み交わしたい。

 

 足りないんだ。埋まらないんだ。

 どれだけ自分を慰めても、痛め付けても、私じゃ駄目なんだ。

 彼らの愛が欲しいんだ。

 

 ☆ ☆

 

 フィンに書類を提出する。少しの間、迷宮に行く報告だ。

 期間は明記しない。いつまで居るかは分からないからだ。

 この書類を提出したときの私は普通ではなく、レフィーヤとの講義も休講していた。

 

 そんな私を見て、フィンは同行すると言い出した。

 私は断った。独りで行きたい、元々ソロだから問題はないと言いくるめて、迷宮に向かう。

 

 迷宮二階層でゴブリンを解体した。

 一匹だけで私を見てくれたので、私も念入りに愛した。

 壁に両手両足を短剣で縫い付けて、刀を取り出す。

 腕の皮を剥いで、悲鳴を楽しむ。

 足の皮を剥いで、血を舐め取っていく。

 股関節を切り取って、膀胱を取り出す。

 まるでゴブリンに平伏しているような姿勢を取りながら小腸を引き摺り出していると、彼は灰になった。

 

 おかしいな。もう少し生きているはずだけれど。

 良く見ると、彼は舌を噛みきって上を向き、血で窒息していた。

 苦しかっただろうな。

 その血を吸いだしてあげようとしたけれど、既に遅く目の前で灰になった。

 

 ーーー

 

 迷宮18階層。迷宮の楽園(アンダーリゾート)

 

 赤く染まった私だが、リヴィラの町には用がある。

 花を買うためだ。18階層で摘んでも良かったが、いい加減なものは嫌なのだ。

 リヴィラの町に来ると欠かさずに通っているので、店主とは知り合いだ。

 白い花を買って、店主のお勧めを買う。

 酒場に行って、高い酒を買う。

 

 森の奥に進む。

 分け行って入り組んだ場所だが、この森は目を瞑ってでも間違わずに進める。

 一月に一度以上は来るからだ。

 たまにはリューも一緒に来るが。

 

 墓には白い花が添えられてあった。

 私がここに来たのは二週間前だから、この花はリューだろう。

 花を供えて、酒を飲む。一気に煽って、残りを墓にかけた。

 頭が少し振らついて、涙が込み上げてきた。

 その場に膝を折って、少しの間蹲った。

 

 ☆ ☆

 

 下層に降りる。

 バグベアーが襲ってきたので、愛した。

 毛皮を全て剥いで、爪を落として、牙を抜いて、目を繰り抜いた。

 

 それでも私を愛してくれたので、虚ろになった眼胞から頭を切開して、脳髄を弄る。

 前頭葉や側頭脳などを傷つけないように剥いで、顎の後ろの皮も剥ぐ。

 小脳とその近くに脳幹を見つけて、嬉しくなった。

 私は今、彼の全てを愛しているのだ。

 

 ホルマリンがあればいいのに!

 今、この瞬間を永遠に保存できればいいのに!

 ああ、そう言えばポイズン・ウェルミスの体液は腐敗防止薬に成ると聞く。

 帰ったら大量に購入しよう!

 

 っと、いけない。愛しい彼らを前に他のことを考えるなんて。

 やっぱりリハビリが必要だよ。

 

 生きたまま脳を繰り抜かれたバグベアーは、一度ビクンと跳ねて。動かなくなった。

 私は彼の繰り抜いた眼球と脳をもう一度繋ぎ合わせる作業をしていたのだが、千切れた視神経が繋がらなかった。

 悔しいので、次にであったモンスターは眼胞を傷付けないでおこうと思う。

 

 ーーー

 

 37階層を進む。

 ここは死者の世界だ。白骨と爬虫類が蔓延った、寒さのない雪の世界だ。

 白濁した壁が私を汚れた頃の私に引き戻していて、心に穴が開いたように寂しさが戻ってくる。

 頭の痛みが今の私を責め立てる。

 

 あの施設でお前は何をしていた。

 逃げ出した先でストリートチルドレン以下の生活を送ったお前は、生きるために何をした。

 そもそもお前は本当に生きているのか。

 コンクリートの城壁から身を投げたお前に、

 

 幸せになる権利など有ると思っているのか。

 

 舌を噛んで、赤い液体が滴る。

 その赤色は、私の親友の色だ。

 地面に吸い込まれて、消えていった。

 

 私は独りになった。

 金色の光を探しても、周りは白濁色だ。

 粘ついて取れなくて、臭くて、気持ち悪い。

 

 ーーー

 

 王様が笑っていた。

 私を押し倒して、嗤っていた。

 いやにスプリングの効いた、上等なベットの上に私はいる。

 ああ、この感触を覚えている。これは、私の尊厳を奪い去っていった舞台だ。

 私は迷宮に居たんじゃなかったっけ?

 

 ここは広い部屋だ。

 迷宮を5階層もぶち抜いた、王様の部屋だ。

 黒く光った王様は、家来を沢山私にけしかける。

 何人も、同時に。それは疲れるんだ。とても疲れるんだよ。

 腕もいたくなるし、口も喉も痛くなる。

 

 第一波の相手を終わらせて、私はとんだ。

 下から突き上げられた黒い槍が、私を責め立てるから。

 王様は不機嫌で、乱暴に私を壊そうとする。

 今日は痛い日なのかな。嫌だな、いたいのはきらいだよ。

 

 冷たいシャワーを浴びる。雪のように、冷たいシャワー。

 ねぇ、雪が降っているの。お外は綺麗だよ。一緒に雪で遊びましょう?

 二人でお部屋に居るなんて、つまらないよ。

 

 そんな私の意見を、王様は切って捨てた。

 上目使いの私を殴って、押し込めた。

 彼の剣が、私を貫いた。

 

 ☆ ☆

 

「迷宮に行きます」

 

 敬語が聞こえた。

 確かに、僕はロキ・ファミリアの団長だ。

 だけど、敬語で接しろとは命令していないし、必要がなければしなくていいと思っている。

 何より目の前にいる人物は、普段は敬語では接してこない。

 

 本当にこの人物はユウなのかどうか判断を躊躇うほどに様子がおかしかった。

 迷宮に行く、という彼の目がいつもと違っていた。

 彼の提出した書類を見る。驚いた。

 

 彼の提出する書類は、整理のされた綺麗なものだ。見る人のことも考えられた書類なのだ。

 だが、これは違う。

 マトモな文体ですらない。迷宮に行かないと、迷宮で愛し合いたい、などの脈絡のない文章が羅列しているだけだ。

 明らかに普通じゃない。

 

 咄嗟に迷宮には行かないように言ったが、聞き入れてくれない。ならば同行しようとして、それも断られる。

 ユウが出ていって、僕は決める。

 今日はユウに着いていく。あの状態の彼を野放しには出来そうにない。

 

 ーーー

 

 元々ソロの冒険者だからか、ユウの危機管理能力はかなり高い。

 だから、気付かれずに着いていくだけでも骨が折れた。

 

 ユウはモンスターを拷問していた。

 いや、彼に言わせればあの行為は拷問ではなく、愛しているそうだ。

 ゴブリンを、ミノタウロスを、バグベアーを、その他にも色々なモンスターを愛して? いた。

 

 18階層では、着いていかない。

 墓参りだろうからだ。リヴィラの町で白い花を買うのは、ユウの習慣なのだ。

 しかし、帰ってこなかった。

 しまった、リヴィラの町に戻らずに先に進んだのだろう。見失った。

 

 下層に進んで、たまに噂を聞く。

 気の狂った冒険者がいると聞いて、その方向へ進む。

 それを繰り返して、たどり着いてしまった。

 ここは37階層だ。白濁の壁を持つ迷宮階層だが、特筆すべきはそんなことじゃない。

 

 階層主(ウダイオス)だ。

 三ヶ月周期で復活する、37階層の階層主。

 上半身だけの黒色の骸骨の標榜をしている、レベル6相当のモンスター。

 

 加えて、三ヶ月以内に倒されたという報告は受けていない。

 ということはいるのだ。ウダイオスが。

 そして悟る。彼の目的はウダイオスだ。

 不味い。独りで勝てるような相手じゃない!

 

 階層主が待ち構える部屋に急いで飛び込む。

 しかし既に戦闘は始まっていて、僕が見た光景のなかで、ユウがウダイオスの黒剣に貫かれていた。

 咄嗟に駆けつけようとして、止まる。

 

 様子がおかしい。

 ユウも、ウダイオスもだ。

 

 ☆ ☆

 

【これは、一匹の蛍の物語だ】

 

【どこにでもある、普通の物語だ】

 

【綺麗な小川を見つけられなかった】

 

【そんな、馬鹿でのろまな蛍の物語だ】

 

 声が響く。これは詠唱だ。

 

「詠唱……?」

 

 おかしい。ユウは通常の詠唱などしない。

 彼の詠唱は歌のはずだ。決まった文言は必要ないはずなのだ。

 

【目標のない蛍は、どこに行くのか分からない。

 何もしなくても時間は過ぎて、周りは変わる。

 変わらないと信じた心が燃え尽きてしまった。

 心をなくした蛍は光ることができなくなった】

 

 ウダイオスが、動かない。

 時が止まったように、ピクリともしない。

 

【蛍には仲間がいなかった。

 助けてくれる蛍も嘲け笑ってくれる蛍もいない。

 だから、蛍は知っていたのだ。

 私が死んだところで誰も泣いてくれないことを。

 だけど、蛍は知っていたのだ。

 私が死んだところで誰も笑ってくれないことを】

 

 剣で貫かれているはずのユウが、

 剣に手を当てて、愛おしそうに撫でた。

 

【そんな蛍はお願いしたんだ。

 夜空を見上げて、願ったんだ。

 星よ、星よ。一番綺麗なお星様。

 私の苦しみを、悲しみを全て無くしてください】

 

【お星様はこう返したんだ。

 蛍よ、蛍よ。光らない蛍。

 貴方の名前を私に下さいな。

 そうすれば貴方の痛みを無くしてあげましょう】

 

 ウダイオスの、黒い頭部が微かに綻んだ。

 

【そして蛍は安らかに眠る。

 苦しみも悲しみも無くなって、

 蛍には何も感じられなくなったのだ。

 汚れた河の畔で眠る蛍の暮鐘には、

 綺麗なままで、何の言葉も刻まれてはいない】

 

【これは、一匹の蛍の物語だ】

 

【名前を無くした蛍の物語だ】

 

【だから、ここに私は謳おう】

 

【その名前こそ、彼の人生なのだから】

 

 ーーNach.erleben's.Noah

 

 

 音もなく、ウダイオスの骸骨の眼から光が消えた。

 上半身だけの体がバラバラに砕けて、

 持っていた黒剣まで綺麗に砕けていった。

 

 貫かれていた剣をなくして、ユウが地面に落ちた。

 駆け寄って、状態を確認する。

 精神疲労(マインドダウン)だ。手持ちのマジック・ポーションを飲ませて気付いた。

 貫かれた傷がもう六割近く治っている。そう言えば彼のスキルは急速回復もあったか。

 それにしても凄まじい回復力だ。

 

 ☆ ☆

 

 書き置きだけを残して、数日の間居なくなっていた僕たちはオラリオに戻ってくる。

 ユウは倒れたままなので、僕が背負って移動した。

 黄昏の館に着くと何故かティオネが見張りをしていて、背負われたユウを見て驚いていた。

 

 ユウを一旦医療班に任せて、執務室に戻る。

 リヴェリアとガレスが鎮座していた。

 説明を求められたが、ユウの書いた書類を見せると納得してくれた。

 ユウがウダイオスを倒した、というと二人とも驚いていた。

 

 何日か後にその功績が認められたのか、ユウはレベル6に上がった。

 

 ☆ ☆

 

「これから、どうするんだい」

「お祖父さんが亡くなったんだ。家に来るといい」

 

 心配そうな声に、僕は返す。

 

「いえ、僕はオラリオに行こうと思っているんです!」

 

 お祖父ちゃんは言っていた。

 迷宮には出会いがあるんだって!

 仲間と冒険して、気になる人を守って。

 沢山の女の人に好きになってもらえたりして!

 

 そう、僕は。

 ダンジョンに出会いを求めているんだ。

 

 ーーー

 

 1st stage ended!

 To be next stage. Comming soon……?

 




 分かりにくいよね!
 私も書いててそう思ったよ!

 なので解説します。
 最近自分が書いたネタを自分で解説することに新しい快感があることに気付きました。
 分かりやすく書けって話ですが。

 夢を見て、精神的に不安定になっちゃた。
 ああ、こんなときは愛し合おう!
  ↓
 モンスターはどんなことがあっても私を愛してくれるよね。
  ↓
 そのためには独りでいかなくちゃ。
 フィンがいたらダメなんだよ。
 モンスターの愛はわたしのモノなのだから。
  ↓
 37階層に着いたよ!
 白濁色の壁が嫌だなぁ。昔のことを思い出しちゃった。
 ちょっとブルーな気分だよ。
  ↓
 ボス部屋に着いたよ!
 黒い骸骨の王様見たいなモンスターだね!
 でも気分が沈んでるんだ。
 昔に居た施設のことを思い出しちゃったよ。
 フラッシュバックっていうものかな。
  ↓
 そんなことをしていると剣で刺されちゃった!
 あ、因みに体を反らせて致命傷は避けたよ!
  ↓
 このままじゃヤバイね。
 仕方ないか。奥の手を使うよ。三つ目の魔法だ。
 どーん!
  ↓
 勝ったよ! やったね!
 でもちょっと疲れちゃったかな。おやすみ。

 と、こんな感じです。ちょっとファンシーに書いてみたけど、本人も実はこんな感じかもしれない。


 さて、これで一部は終了です。
 次は番外を一つ挟むと思います。

 それにしても、本当に好みが別れるような内容ですよね。今回とか特に。
 書いていて楽しいのでこれからもこのままですが。

 これからで思い出しましたが、初期段階ではこれが最終回だったんですよ。
 プロットをここまで書いていましたから。

 最初のユウは女の子だったのです。
 年少期がエグすぎるので、男性に急遽変更されました。
 その名残が所々残っていたり。

 え? 女の子だったらどうなっていたのかって?
 何回か○絶を経験して、もうちょっと暗い性格になっていたと思います!
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