一羽と二羽の意味が分からない人は二羽の最後に解説をいれました。
【注意】気分の悪くなる描写を含んでいます。
愛は永遠のものだ。
酔いしれて委ねることは刹那のものだ。
だから。私は。銘酒を煽るように求めている。
ピリオドのない酔いのなかにいたいのだ。
ただの一つの具体性もなく。
私は、求めている。
☆ ☆
未だに秋の冷え込みが続いている。
冬の始まりの風が、部屋を叩いて。
ゴトゴトと反響して、驚かせている。
外には微かに雪が降っていて。
地面が少しずつ白く染まっていった。
暖房も、窓もないこの部屋に。
くしゃみが聞こえて、咳が聞こえた。
呟く声が響いて、誰も動かない。誰も話さない。
暗い部屋の中で纏められて、肩を寄せあって。
お互いの体温で暖を取っている。
私たちはおんなじ立場の、敵同士。
第1羽 楽園
同じ顔をしていた。同じ瞳と、髪の色。
アルビノなのかと間違いかねない肌の色。
そして、瞳の中の絶望と孤独まで同じだった。
幼さだけがかつてと違っていた。
初めて意識して聞いた声は罵声だった。
女の声だ。ヒステリックに突き抜けた、甲高い声が恨み言をはいていた。
私に向けた言葉ではなかったが、怨嗟は私に向けられたものだった。
何でも、私は望まれて産まれた子供ではなかったのだという。
無理矢理に出来てしまった、誰の子かもわからないものをこれ以上育てられない、と叫ぶ声が聞こえた。
そして、そんな悲惨な目にあった私にはお金がないのだと聞こえてきた。
そうして、私は引っ越しをすることになった。
☆ ☆
ここは楽園。
これは楽しくなれる魔法だ。
だから飲んだ。白い液体の魔法だった。
頭が炙られて、熱い。燃えるように、あつい。
熱さが思考と共に何かを奪って、気分が昂る。
楽しいんだ。体が熱く、息が荒い。
大切な何かを失っていく喪失感が、
ああ、楽しい。
私って、誰だっけ?
ーーー
大部屋があった。広いお部屋。窓の無い世界。
赤色の壁には引っ掻き傷が刻まれて。
絵本には黄色の絵の具で染まっていた。
仲間がいる。笑顔の仲間。
みんな笑顔。ずっと笑顔。どこでも笑顔。
笑って、嗤って、わらって。
いったい誰を見て、どうして笑っているの?
冷たいシャワーを浴びる。雪のように、冷たいシャワー。
体を拭かれて、綺麗なドレスを着る。
君たちの仕事は、楽しませること。
楽しませて、気持ち良くなって貰おう。
そのためには、笑顔だよ。
ほら、笑って。
どうしたの、笑って。
笑顔だよ。笑顔。笑わないと気に入られないよ?
白い液体が。楽しくなる魔法が。
私を芯から熱して。暑い。熱い。あついから。
私は笑うんだ。笑顔で頷く。えがおで。
☆ ☆
笑顔で頷く。
頭を掴まれて、喉が痛い。
笑顔でうなずく。
粘ついて、踊る。体が軽い。
え顔でうなずく。
ベッドの上に突き飛ばされて。
えがおでうなずく。
えがおでうなずく。
えがおでうなずくの。
それは魔法の呪文だよ。
笑顔の誰かが教えてくれた。
かがみのなかで、わらっていた。
見覚えのある、空虚な笑顔。
あなたは、だあれ?
☆ ☆
なかまがひとり へっちゃった
まほうのおみず はきだして
おきゃくさまを おこらせた
なかまがふたり いなかった
えのぐをはいて めがゆきのよう
しろくてきれい かわいいな
おへやがひろく なってきた
あたらしいこが なかまいり
どうしてそん にないてるの?
だいじょうぶだよ
ここはらくえん た しいところ
いたくて にが て たのしい ころ
おきゃく まをたのしませてね うなずくの
ありがとう ざいましたっておれいを って
わらっ くれたら わた もうれ い
だいじょうぶだよ
まほうがあ から、す なれる
だいじょ ぶ よ
こ はらく ん、た しいせかい
☆ ☆
雪が熱で溶けた。春の日差しで溶かされて。
夏の炎に煽られて蒸発してしまった。
気体になった雪は冬の寒波に凍らされて。
もう一度降り積もる。白い、白い雪。
風の強いある日のことだ。
冬が笑って、肌寒くなった日だった。
何も変わらないふざけた日常の中で。
悲鳴が、聞こえた。
ーーー
「一体何事なんだ!」
お客様は叫んだ。苛ついた声。
私をベッドに突き飛ばして。頭を掴まれる。
私を見下ろして、魔法使いに尋ねたのだ。
話せない私の代わりに魔法使いが応える。
「申し訳ありません、ただいま調査しておりますので、しばらくお待ちください」
部屋の外から魔法使いが謝って。
私はやっと息が出来るようになった。
「まったく、折角の楽しみが台無しじゃないか」
私を見下ろしている人を見上げて。
そうだ。きれいにしたら、たのしんでくれる?
その声に答えずに、お客様は私を殴った。
ああ、お客様は不機嫌なんだ。
きょうはいたいあそびをするの?
いやだな、いたいのはきらいだよ。
お客様が部屋から出ていって、私は心を放した。
私のなかに熱が入っていて、頭にまで伝播した。
暑くて、熱くて、楽しくて、笑う。
窓の外では、雪が降っていた。
ーーー
叫び声がして、扉が乱暴に開いた。
お客様が入ってきた。先程の人。
どうしたの? もういちどあそぶの?
続けて、熊のお客様達が入ってきた。
先程のお客様が私の肩を掴んで熊のお客様に投げた。
私は熊のお客様に抱き締められて、またもや投げられた。
窓を突き破って、外に放り出された。
おそとにでても、いいのかな?
ゆきがふっていた。
いつかのような浮遊感が私を支配して、
私は雪原に落下した。
風が吹いて、雪が下から私を冷やした。
ねつがひいた。
熱が、引いた。
☆ ☆
恐怖を感じた。
私は一体何をしていて、私は一体何を失ったのだろうか。
頭が痛い。割れるように痛い。
なのに冷たかった。
不意に目の前が温かくなった。
燃えている。
建物だけではない。魔物も、人も、燃えている。
魔法の呪文が聞こえた。
あなたはいったい誰? 見覚えのある子だね。
極東の顔立ちに、色の無い瞳。
アルビノなのかと間違えかねない肌の色。
女の子のような顔立ちの、男の子。
この子の名前は、何だったのかな。
遠い昔に、呼ばれた名前が。
私には、思い出せない。
魔法の呪文は悲鳴に変わった。
あの建物の中では日常的なものだった。
雪が炎に煽られて溶けていた。
☆ ☆
走る。必死に走って、転んで、また走る。
どこまで行けばいいのかは分からない。
でもどうして走っているのかだけは分かる。
あの場所から逃げたかった。
私が目を背けて、大切な物を無くしてしまった、
あの場所から、楽園から。逃げたかったのだ。
沢山のものを失った。
始めから無かったものも多かった。
親の愛が無かった。自己愛を失った。
希望は無かった。尊厳を失った。
居場所は無かった。感情を失った。
だけども、失った一番大切なものは自分自身だ。
私は誰だったのだろうか。
見覚えのあるあの子が、私を見ていた。
☆ ☆
私は願っている。今でもまだ、願っている。
愛が欲しいのだ。認めてくれる、愛が。
自分を包み込んで、誰かを許して、
笑って、満ちていられるための、愛が。
私は、欲しいのだ。
これはR-15、R-15。R-15なんだ。R-15だよー
よし。暗示は成功したはず。皆、R-15だよね!