ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:羽吹

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第3羽 独占欲

 

 赤い。

 

 叫び声が上がる。

 叫びたいのは私の方だ。

 

 剣先を上げる。

 

 そうだ。刺そう。

 その目は何のためにあるのかな。

 

 そうだ。刺そう。

 その腕はどうしてそんなに赤黒いのかな。

 

 そうだ。刺そう。

 その口は誰に向かって鳴いたのかな。

 

 そうだ。刺そう。

 あなたは私のものでしょう?

 

 ねえ。そうでしょう?

 

 

  第3羽 独占欲  

 

 

 薄汚れた部屋だ。

 所々が破れたソファーとスプリングの弱いベッドが鎮座している廃教会の隠し部屋。

 薄暗い光に照らされるみすぼらしい部屋だ。

 だけど、何故か落ち着く、不思議な空間だ。

 

 私はベッドにうつ伏せに寝転んでいた。

 神様が私にまたがって、楽しそうに言った。

 

「これで君はボクの子供だ」

 

 恩恵というものがある。

 ファミリアに加入すると、神様から授かる祝福。

 背中に刻まれた祝福は、私の場合ヘスティアからの恩恵だ。

 

 それはステイタスを表している。

 ステイタスとは強さの指標である。

 そして、神様は自分のファミリアの人たちを自分の子供のように称している。

 

 楽しそうな顔を歪めて、神様は続けた。

 

「これで、ユウ君は迷宮に行くことが出来るよ。

 僕たち神々の恩恵があれば、モンスターとも戦える」

 

 けれど、と続けて。

 

「それでも、気を付けるんだよ、ユウ君。

 君は恩恵を得たけれど、人であることに代わりはない」

 

 死ぬときは、あっけなく死ぬんだよ。

 

「だから、無理はしちゃダメなんだ」

 

 神様はそう締めくくった。

 

 ☆ ☆

 

 私は愛に出会った。

 私を認めてくれるものに出会った。

 私をちゃんと見てくれるものに出会った。

 私を満たしてくれるものに出会った。

 

 私を、私だけを愛してくれるものに出会った。

 

 小さなコボルトだ。

 鳴き声をあげて私を見ていた。

 

 私を食べようとしていた。

 私を認めて、私に食べる価値があるんだって囁いてくれているんだ。

 

 涙が流れて、頭が熱くなった。

 息が乱れて、体が僅かに発熱する。

 

 私だけを見てくれている貴方が、

 ああ、嬉しい。愛してる。愛してる!

 

 その視線が私を満たすんだ!

 その表情が私を満たすんだ!

 その存在が私を満たすんだ!

 

 私を食べたいのだろうか。

 私を啜りたいのだろうか。

 

 いいよ。全部あげる。だから、全部、頂戴。

 

 愛し合おうよ。私と。私だけと。

 

 そして彼は灰になった。

 足りなかった。もっと愛し合っていたかった。

 

 犬のような声がした。

 彼も私だけを見ていた。

 

 ーーー

 

 赤い色が跳ねる。私のボロを染める。

 

 心地よかった。

 

 これは結晶なのだ。私と、彼との愛の結晶。

 

 愛し合った結果。

 

 出来るだけ浴びていこう。

 彼らに包まれていられるから。

 

 ーーー

 

 真正面から向き合う。

 彼を見る。彼も見る。

 彼の視線だけが私を認めてくれている。

 私が埋まって、満たされていく。

 

 剣先を横に。

 半円を描きながら正眼の形に、維持しない。

 

 手首を少し引いて、突く。

 彼の右肩に刺さって、左腕が私に向かってきた。

 

 走ったまま後ろ足に力をいれて、無理矢理飛ぶ。

 刺さった剣を支点にして、彼の上をとる。

 左肩に右足を乗せて、もう一度飛ぶ。

 踏み台になった彼はうつ伏せに倒れた。

 

 その上にまたがる。

 落ちている剣を拾って、まだ動いている左肩を突き刺す。

 腕が動かなくなった。

 

 彼がうつ伏せのままこちらに振り向いてきたので、その顔に手を当てて、顎までさする。

 

 下顎を上げて。お願い。

 そのままだとやりにくいの。ね、いいでしょ?

 

 鋼を首に当てて、彼の首が飛んだ。

 

 しまった。

 私がまたがるのではなく、彼にまたがられているべきだった。

 これでは彼の血を浴びることができない。

 

 それは嫌だな。そうだ。

 彼の首を上に持ち上げて、皮を剥ごう。

 

 そうすれば、沢山出るよね。

 

 ひっ、と声をあげた冒険者が逃げた。

 それよりも、耳の皮が剥ぎにくい。

 あ、灰になった。もう、しょうがない子。

 

 さあ、次に行こうか。

 次は誰と愛し合えるかな。楽しみだな。

 

 ☆ ☆

 

 私は満たされていた。

 彼らに愛してもらえた。

 私だけを見てもらえた。

 だから彼らを愛した。彼らだけを見つめた。

 

 私と彼らの間には愛があったんだ。

 だから、ほら。

 その証拠に私はこんなに満たされている。

 

 だというのに、楽しい時間はすぐに終わるんだ。

 魔石を回収する袋が限界に近い。

 私の体が限界なのだと訴えている。

 オラリオに戻らなくてはならなかった。

 

 しかし、どのくらいの時間が経ったのだろうか。

 体感時間では一日も経っていない。

 せいぜい15、6時間といったところかな。

 

 バベルの塔の地下。

 そこに迷宮の入口が存在している。

 私が地上に上がると既に夕方だった。

 私は昼間に迷宮に入ったのだ。おかしいな。

 体感時間と計算が合わない。

 

 人混みを歩く。

 周りの人が私を避けて通りすぎていく。

 

 何故だろうか。

 歩きやすいから問題はないか。

 そんなことを考えながらギルドに向かう。

 

 私のボロから血が滴り落ちて、地面に吸い込まれていった。

 

 ーーー

 

「2日間も、何処に行っていたんですか!」

 

 怒号が響いた。

 ギルド中の視線が私に向いて、すぐに逸れた。

 

 職員が捲し立てる。

 

「昨日、ヘスティア様が泣きながらクエストを発注しに来たんですよ!

 受注した冒険者は今になってキャンセルするし!」

 

 私に叫んでいた。

 

「大体、その格好は何ですか! 血塗れじゃないですか!」

「えっと……」

 

 私は彼女の剣幕におされて、何も言えない。

 

「えっと……じゃありません! 初日からこんなことをして!

 無事だったから良かったものの、何かあってからじゃ」

 

 逃げよう。分が悪い。

 危なくなったら逃げるのは鉄則だ。

 目の前の彼女もそう言っていたじゃないか。

 

 未だに怒っているらしい職員の横を通って、魔石の換金所に行く。

 私はここの物価が分からないが、悪くない金額になったのではないだろうか。

 換金所の人が驚いていた。

 

 そのまま廃教会に帰ろうとして。

 肩を捕まれる。痛い。誰?

 

「せめて、シャワーくらい、浴びなさい!」

 

 私はその形相に恐怖を覚えた。

 

 ☆ ☆

 

 廃教会の中は暗い。今は夜だ。

 つまり2日と半分迷宮の中に居たことになる。

 

 今日は月の光が無かった。

 だから、目の前が見えない。

 不安定な世界で、足元だけが確かに感じる。

 

 光があった。奥から見えた。

 温かい光の中で、神様が寝ていた。

 近くにあるベットに横たわらずに、机に突っ伏して寝ていた。

 

 目の前に料理があった。

 ジャガ丸くんが大量に置いてあって、

 明らかに手作りの段幕があった。

 

 馬鹿なんだろうか。

 

 明らかに冷めていて、食べられるかどうかも分からないものをどうしてまだ置いているのだろうか。

 

 奥に入って、キッチンを確認する。

 水は出る。火は着く。オーブンもあった。

 

 踵を返して、町に走った。

 賑わっている道を越えて、大量の食材を買う。

 明らかに2人では食べきれない量だが、そんなことはどうでもよかった。

 

 パイ生地を敷き詰めて、ジャガイモをベースにチーズなどを詰める。

 オーブンにいれて、小麦粉と卵を混ぜ合わせる。

 トマトを煮詰めて、付け合わせを用意する。フルーツを潰して果汁を取る。

 

 そろそろブイヨンが、

 ああ、早くしないとキッシュが焦げる!

 

 ☆ ☆

 

 良い匂いがして、目が覚める。

 僕はどうして机で寝ているんだ?

 

 そうだ。昨日のことだよ。

 

 昨日は大変だったんだ。

 ユウ君が帰ってこなかったんだよ。

 始めて迷宮に入って、

 一日中帰ってこなかったんだ。

 

 僕はなんてことをしてしまったんだ。

 ユウ君を冒険者になんてしたから。

 まだ7歳の子供だと言うのに。

 

 死んだかもしれない。

 考えると止まらなくなって、涙が出てきた。

 

 探しにいかなくちゃいけない。どうやって?

 

 依頼だ。報酬は? 大丈夫。少しなら手持ちはある。

 

 真夜中にギルドに駆け込んだ。

 必死な顔でクエストを発注した。

 幸いなことに近くにいた冒険者が受けてくれた。

 

 迷宮に居るとは限らないかもしれない。

 クエストを発注してから気付いた。

 

 町を走り回る。大声で叫んだ。

 ダイダロス通りも含めた、他の区間も見て回った。

 喉が痛くなっただけだった。

 

 太陽が真上に鎮座する頃、限界が訪れた。

 最後の望みを賭けて、廃教会に戻って来たんだ。

 ここにもユウ君は居なかった。

 

 昨日用意した、パーティー用の料理がそのまま置いてあって、僕は疲れて寝てしまったんだ。

 

 以上が昨日の出来事だ。

 結局、僕は何も出来なかった。

 

 やっぱり、奥が騒がしい。誰かいるのだろうか。

 泥棒だろうか、と思って。

 奪う価値のあるものはなかった、と思い直す。

 

 奥を覗き込む。ここはキッチンだ。

 食料は置いてない。料理ができないからだ。

 

 僕が覗いていることに気付いたのか、

 誰かが僕を見て言った。ちょっと焦った声だ。

 

「神様、オーブンを開けて! 焦げる!」

 

 内容は頭に入ってこなかった。

 声が聞こえる。ユウ君の声だ。

 

 涙が出てくる。これは夢だろうか。

 確かめようとして、ユウ君の頬をつねる。

 

 包丁持ってるから、とか。危ない、とか言っているが、そんなことよりも嬉しかった。

 これは夢ではなかった。

 

 結果。キッシュは焦げた。

 それでも、美味しかった。

 




 本来書きたかったシーンを入れられなかった。
 でもこれ以上入れられないしなぁ……。
 リメイクだからかどうしても前の文章に引きずられてしまう。
 こんな稚作でもお付き合い下さると嬉しく思います。

 お・ま・け

 必死な顔を見てしまったから。クエストを受けた。

 難易度は高い訳ではない。
 が、成功するかどうかは全く分からなかった。

 新米冒険者の救出だ。
 生きていれば、難しいクエストではない。
 しかし、そうでないなら達成不可能なクエストだ。

 一階層か二階層には居るだろう、ということだったので、くまなく見て回る。
 こういうことはきっちりと見ていくべきだ。
 深夜だからか、冒険者は少なかった。

 甲高い悲鳴が上がった。モンスターの声だ。
 これは当たりかな、と思ってその場所に急ぐ。
 そして、見た。見てしまった。

 女の子が。幼い、女の子が。
 モンスターの首を撫でていた。

 その首には皮がなかった。
 頬の赤い筋に指を這わせて、
 耳の皮を少しづつ丁寧に剥いでいた。
 時折滴り落ちる血を舌で舐めて、
 切断面を愛撫していた。

 狂っていた。間違いなく、まともじゃなかった。
 恐怖を覚えて、逃げようとして、足がすくんだ。

 彼女がこちらを見た。無感情だった。
 なんの興味も持っていない目。
 恐ろしく澄んでいて、何も写していなかった。

 声を出そうとして、舌が動かなかった。
 しゃくりあげた、引きつった短い声が聞こえて、
 それが自分の声だと理解する。

 彼女の舌が官能的に動いて、
 首の断面から滴る血を舐めた。

 彼女はもうこちらを見ていなかった。

 無意識に足が下がり、気付けば逃げ出していた。
 無理だ。このクエストは達成できない。

 そもそも必要すらない。
 彼女はこんなところで死ぬような人間には見えない。
 キャンセルしよう。もう関わりたくない。

 結局、トラウマだけが残った。
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