白くて、冷たくて、音がない、
ここは雪の世界。
歩いた場所に後を付けて。
後ろを向いて、見下ろした。
綺麗な景色。雪化粧。
白くて、冷たくて、音がない、
ここは死の世界。
第4羽 雪の世界
血が私の背中に落ちる。
神様が私にまたがっていた。
座ってやろうとは思わないのだろうか。
紙に何かが書き込まれるような音が聞こえて、止んだ。
赤く染まったボロを抱き締め、神様に結果を聞く。
「魔法が発現しているよ!」
神様が興奮しながら答えた。
「君は魔法スロットが3つもあったからね。
いつかは発現するだろうとは思っていたんだ」
内容は、といって紙に視線を落とす。
「基本的な氷の魔法かな。特筆すべき点は詠唱の短略を駆使することで、威力、範囲、ある程度は効果もかな。変化させることが出来ることだよ」
ユウ君らしいね。と呟いて。
「応用性の高い魔法だよ。色々なことに使ってみると良い」
例えば、寝苦しい夜に部屋を涼しくするとか。
などと話す神様。
神様、今は冬です。寒いです。
「魔法名は『雪の世界』。幻想的じゃないか!」
良かったね、と続ける神様を見て、思う。
雪とは死の象徴だ。
その白は生気を感じさせない神聖さを持ち、その冷たさは体温を感じさせない。
音の無く降る光景は、前触れの無い、それこそ直接的な死を象徴している。
しかし、私は雪が好きだ。
地上に着いてすぐに消えるあの儚さが、私に似ている気がするから。
なんて、自惚れかな。男性なんだけどね。
私が黙っていると、神様が真剣な表情をこちらに向けて、口を開いた。
「ユウ君。昨日みたいなことは、もうしないで欲しい」
僕がどれだけ心配したと思っているんだ。
言外にそう聞こえた。
そして、それは間違っていないのだろう。
「君はボクにとって始めての眷族で、大切な、家族なんだ。
君は聞いていなかったようだから、もう一度言うよ」
「無理は、しないでくれ」
真摯な声だった。
本気で私のことを心配している声だった。
だから、私は何も言えなかった。
☆ ☆
朝になって、神様はバイトに向かった。
私はバイトをする気はない。
何故なら、昨日の換金額を考えると十分に生活できるからだ。
神様からバイトの報酬を聞いたのだが、一迷宮は十バイト近い効率を持っていることが判明した。
レベル1でこれなのだから一流冒険者はもっと凄いのだろう。
なので、また明日には迷宮に向かう。
その為には装備の整備をしなければならないが、私にはその前にやらなければならないことがある。
服だ。私の服はボロしかない。
それも赤くなって、匂いが凄い。これはもう着れないだろう。
適当に歩いていると、安い服屋を見つけたので、入ってみる。
今日の大特価品! と書かれた服があった。
雪のように白い和服。
特価だからか非常に安かった。
一目で気に入って、複数購入する。
店主が私の背丈に会わせて調整してくれた。
オマケまでしてもらった。
この店は私の行きつけになるだろう。予言する。
ーーー
昨日の残りの食材を使って、料理を作った。
神様の分と私の分の二人分だ。
誰かのために料理を作るのは久しぶりだったので、楽しかった。
作り終えて、魔法を小規模で発現させて、手慰みにする。
空気を凍らせて、溶かして、また凍らせる。
ルーチンワークを繰り返していると、昨日の神様を思い出した。
神様は私が帰ってこなくて、こんな気持ちだったのだろうか。
大量のジャガ丸くんを思い出した。
もし今、神様が帰ってこなかったら。
私が作った料理はどうなるのだろうか。
その時、私はどう思うのだろうか。
当たり前のようにまた笑いあえる保証なんて、どこにもないじゃないか。
白い着物を着ているはずなのに、少し寒かった。
少しの時間がたって、私の心配を吹き飛ばすように神様は帰ってきた。
☆ ☆
「パーティを、組まない!?」
神様は信じられないものを見るような顔をした。
当たり前だろう。
迷宮にソロで向かうような真似は普通しない。
死ぬ確率が跳ね上がるからだ。荷物だってある。
「サポーターも、雇わない」
宣言する。
パーティの荷物の管理、安全確認等を行うサポーターも雇わない。そう宣言した。
それは、正真正銘一人だけで迷宮に行くと言うこと。
迷宮で死んだのなら、骨も残らないだろう。
「っ、何を考えているんだ!」
神様が私を見て。続ける。
「ボクは、君に! 無理をするなと! 何度言えば分かってくれるんだ!」
「パーティを組まないのも、サポーターを雇わないのも。君の勝手だ。
ボクがその選択にとやかく言う資格はない」
泣きそうな顔だった。
「それでも、ボクは。君に死んで欲しくないんだ」
「絶対に。生きて帰ってくるって、」
約束して欲しいんだ。
神様の言葉に、私は分かった、と小さく返した。
料理は冷めていた。
☆ ☆
【歌おう、唄おう、謳おう】
単調な詠唱を唱える。いや、歌う。
私の詠唱は歌なのだ。歌詞は何でもいい。
旋律を奏で、感情を込めた歌。
美しく、長く、難しく歌うことで効果が増していく。
歌は魔法だ。私はそう思う。
世界を作る魔法だと思う。
歌詞が気持ちを代弁して、旋律が私の代わりに泣く。
時に暖かくて、暗くて、優しくもある、
歌という名前の、世界。
雪の世界が空気を舐めて、白色に染める。
ここは、痛みの無い世界。
凍った彼らに近づいて、首を切る。
目を開いたまま彼は事切れた。
首から剣を突き刺して、鍋を掻き回すように回す。
骨が邪魔をした。
抜いて、もう一度、刺す。回して、また抜いて、刺して。回して、抜いて、刺す。回して、
こうしていると、暖かいんだ。
周りが凍っていて、寒い場所だから。
暖まらないと。風邪を引いちゃう。
☆ ☆
口元に赤色を確認した。
布の切れはしが少しだけ飛び出ていて、
あのモンスターは何かを食べた後なのだと分かる。
私の足から力が抜けて、へたり込む。
頭が下がって、前髪が顔を覆った。
私には同行者は要らない。どうしてだろうか。
理由は簡単だ。彼らが私以外を見るからだ。
私を満たしてくれるはずなのに。
私をみとめてくれるはずなのに。
彼らが私を裏切るのだ。
わたしはかれらだけをみているのに。
無意識に言葉が漏れて、世界が雪に染まる。
地面が凍って、彼らの足を縫い付ける。
剣先を口に差し込んで、下顎を削る。
その牙、要らないよね。
口を大きく開けさせて、顎をはずす。
その舌、要らないよね。
切り落として、頬を左右共に裂いていく。
ねえ、何を食べたの。
剣を差し込んで、食道を拡張する。裂けた。
ねえ、何を食べたの。
手をいれて、胃を掴む。魔石があった。
彼が灰になってしまった。
仕方ない。もう一匹で確認しよう。
こちらの方が独占欲だよね。
前の章に入れたかったです。まる。
やっぱり狂気成分が薄れてるなぁ……