ダンジョンに愛を求めるのは間違っているだろうか   作:羽吹

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第5羽 日溜まりを歩く

 

 振り返って、笑えてしまった。

 馬鹿なことばかりをしていて。

 

 前を向いて、困った顔になる。

 どの向きに歩けば良いのかな。

 

 明日が今日になって。

 今日が昨日になった。

 

 ねぇ、ちゃんと笑ってる?

 

 

  第5羽 日々を歩く

 

 

 一年が過ぎた。

 満たされた生活だったと思う。

 迷宮に潜って、満たされて帰ってくる生活。

 

 神様との二人暮らし。

 春になって一緒に花見に行き、夏になってガネーシャ・ファミリアの見世物に出掛けた。

 秋になって実りのある秋の作物に舌鼓を打ち、そして冬になった。

 私が迷宮に潜り始めてから、一年の節目の日に、私は神様とパーティーを執り行った。

 

 高いデザートを買いに走り、パイやスープを大量に用意した。

 二人で夜通し笑い、私が歌いながら雪を降らせた。楽しい時間が過ぎて、朝になった。

 起きたときには何故か私は神様の服を着ていた。

 

 そうだ、神様に無理矢理着せられたのだ。

 胸元の布が、というより全体的に大きかった。

 私はまだ8歳だ。しかも男だ。当たり前である。

 因みに神様はちゃんと服を着ていた。あしからず。

 

 だが、髪留めは貰った。プレゼントらしい。

 神様が私に似合うような物を自分の給料から用意したのだという。

 少ない給料の中から用意してくれたものだ。

 大切にしよう。

 

 何故髪留めを貰ったのかというと、私の髪は非常に長いからだ。

 しかもあんまり手入れもしていない。

 特に意味を見出だせなかったからだ。

 愛し合うときに邪魔になるわけではなかったので、半ば無視していたのだけれど。

 

「せっかく可愛いんだから、お洒落は義務なんだよ!」

 

 と、神様の啓示があったので無視できなくなった。

 まあ、見映えが良くなるのは悪いことではない。

 ありがたく使わせてもらうことにする。

 

 そうだ。一方的にプレゼントを貰ったと思われても気分が悪い。

 

 私からもプレゼントはしたのだ。服を。

 

 説明しよう。

 私は着物を着ている。白い着物だ。お気に入りである。

 これは特価品だったので高くはないが、なんと再利用できない。

 赤くなって帰ってくるからだ。

 当然洗濯では落ちない。

 

 そこで、費用削減のために私は着物を自分で作成することにしたのだ。

 幸い、着物の型紙やパターンを教えて貰った常連のお店が、古くなって使い勝手が悪くなったミシンを貰ってきてくれたので、安く買えたのだ。

 

 そして今に至るというわけだ。

 なので、服屋にも協力してもらって、神様の服を一から作ったのだ。

 デザインを決めて、パターンを作る過程で神様にも協力してもらった。

 着る人の体型が分からないと作りようがないからね。

 

 その過程で神様は何故か胸を強調する紐を主張していた。

 拘りだろうか。

 

 ☆ ☆

 

 拘りと言えば、私にもある。

 鋳造品の武器しか使わないことだ。

 鋳造品とは型に流し込んで作る武器で、鍛冶士が独自に鍛えた品ではない。

 大量生産に向いていて、その事もあるのか非常に安価で手に入る。

 しかしすぐに折れる。強度がほとんど無いのだ。

 

 そして、鋳造品の武器には心がない。

 型に流し込んで作る武器である以上、そこに鍛冶士の意志が介在しない。

 

 私はモンスター達を愛している。

 掛け値なしの私を見て、価値を認めてくれる彼らを愛している。

 だから、私は彼らに私の全てを持って応えたい。

 

 私だけの、全てを持って、愛し合いたい。

 だから、私に業物は要らない。

 私が独りで戦い続ける限りは、モンスターは私だけを見てくれるのだから。

 

 そんなことを続けていたからだろうか。

 【武器庫】などと言う魔法が発現した。

 

 いや、それスキルじゃないのかと思ったが、魔法らしい。

 しかも詠唱すら要らない。精神力を消費して使える。

 

 効果は単純だ。

 自分の武器だと認識したものを異空間に収納する。あと、射出機能付き。

 結構便利なのだ。

 好きなときに武器を取り出せる。離れた場所への使いきりの攻撃も出来る。

 一番大きいのは武器を大量に持ち運べることだ。

 大量に使うので、出費も激しいが。財布が泣いている。

 

 ☆ ☆

 

 更に時がめぐって、私のレベルが上がることになった。

 

 考えてみるといい。

 私は愛し合うために迷宮に行く。

 何日も籠っていることすらある。加えてソロだ。

 経験値が入らないわけがなかった。

 かなり速く成長していたらしい恩恵によって、私は更に愛し合った。

 

 何か特筆するべきことがあったとは思えない。

 何匹も纏めて冷凍保存したことだろうか。中層にいるはずのモンスターが上層にいたので、激しく愛し合ったことだろうか。

 何が原因か分からない。でもレベルは上がった。

 そして、レベルが上がるとは、二つ名を貰うと言うことだ。

 

 今日は神様が神会(デナトゥス)に出席する。

 二つ名というのはその神会で決定される。

 私は廃教会で料理を作りながら神様を待っていた。

 

 今日はシンプルにオムレツにしよう。

 ケチャップを取り出す。

 トマトとハーブがあれば以外と簡単に作れる物なのだ。

 

 バタン、と音がして。

 神様が帰ってきた。そして、私に言った。

 

「可愛い名前になったぜぃ! 『赤姫』だ!」

 

 グチャ、と音がして。オムレツが赤く染まった。

 

 ☆ ☆

 

「だいたい、私は男だと何時も言っているでしょう。

 背は低いですけど、初対面で男だと思われたことはありませんけど!」

 

 酷い話である。

 ギルドの職員さんも私のことを女性だと思っていたらしい。

 冒険者登録したときに性別も書いたはずなのだけれども。

 まったく、どうして間違えるのだろうか。

 

「でも、君の着付けは女性用の着方じゃないか」

 

 神様が反論してきた。その通りだった。

 しかし理由はある。あるんだ。

 男性用に着付けると毎回のごとくギルドだったり街だったりで注意されるんだ。

 

 間違ってるよ、と。

 間違っていない。

 

 しかし、余りにもしつこいので間違っていることにしたのである。

 

「負けたんだね」

 

 神様はいつだって正しかった。

 

「と、話がそれています」

 

 私は話をそらした。

 

「どうして赤『姫』何ですか」

 

 おかしいだろう。

 おおよそ男性につける名前ではない。

 ないはずだ。ないと言って欲しい。

 冗談だよって。さあ。

 

「簡単じゃないか。君が迷宮から帰ってくる度に赤いからだよ」

 

 そっちじゃない。そんなことは分かっている。

 わざわざ『姫』を強調したのに、こんな答えが返ってくるということは、答える気がないのだ。

 

 結果、少し間、食事が生野菜になった。

 神様が泣いて謝ってきたけど、少しの間はこのままにするつもりだ。

 

 私は後悔していない。

 

 ーーー

 

「スキルが発現していたよ」

 

 言い忘れていたよ、と神様がフライパンと卵と格闘しながら話しかけてきた。

 

「それよりも集中してください」

 

 私は答える。死活問題だからだ。

 生野菜が相当堪えたのか、神様は料理を教えて欲しいと進言してきた。

 

 レベルが上がると言うことは、これから更に迷宮に籠っている時間は増えるということで。

 それはつまり、今の神様の料理スキルでは生野菜よりも酷い炭を食べる可能性もあがるということでもある。

 

 危機感を覚えたらしい神様は土下座も辞さない!といって脅してきたが、そもそも私は断る気など無かった。

 構わないと快諾した私に気をよくした神様は、何と私の分まで作ると言う。

 

 私の顔が青くなった。

 これは生野菜の復讐だろうか。

 しかし神様は本気らしく、私も渋々付き合うことになったのだ。

 

 それが、少し前のこと。

 まともな食事がしたいんだ。

 そちらの方が二人とも幸せになれるはずだ。そのはずなのだ。

 だから、それ以外は今はどうでもいい。

 

 ーーー

 

「そういえば、どんなスキルが発現したんですか?」

 

 所々が焦げた卵を食べる。

 食べられないことはなかった。

 

「うー、そんなに美味しくない……」

 

「ああ、スキルだったね。レアスキルだよ。

 というよりも誰も発現しないようなものだよ」

 

 神様の顔が、

 

独りぼっち(アライン)

 ソロ、もしくは独りでの戦闘に対してステイタスの大幅上昇。ダメージの急速回復。異常耐性まで付いたかな」

 

 苦いものを食べたように歪んだ。

 本当に食べたのだけれど。

 

「君が取得した『魔導』と合わせて、かなり出来ることの範囲は広がったはずだよ」

 

 誉められている筈なのに、神様はジト目で私を見ていた。

 何か悪いものでも食べたのかな。

 

 ☆ ☆

 

 中層に行こう。

 そんなことを考えていると、ギルドから呼び出しを受けた。

 

 内容はピンポイントで、中層に行くために必要なもの、あった方がいいもの、どういう形態になっているかの説明、セミナーの様なものだった。

 私以外にも何人か来ており、そこでパーティを組む人もいた。

 

 私は当然誘われない。

 

 赤姫(始めは不服だったが慣れた)の名前は敬遠の対象だからだ。

 曰く、着物をモンスターの血で染める。

 曰く、モンスターの血を啜る。

 曰く、モンスターを解剖して笑っていた。

 等々。色々あるが、間違っていないものも多く、訂正する気も起きない。

 まったく、どうしてこんな噂がたったのだろうか。

 よって、私に寄り付く冒険者はいない。

 私はソロなので何の問題もないのだが。

 

 しかし、困ったことになった。

 精霊の護符が必須だと言う。

 火を吐くモンスターの対策である。

 

 その通りだと思う。

 防御もそうだが、着物では火を吐かれるとたまったものじゃない。

 どこに燃え移るか分からないからだ。

 迷宮の中で真っ裸は洒落にならない。本当に。

 

 だから、燃えない服は必要だ。

 私の尊厳のために。絶対に必要だ。妥協できない。白い服にしたいな。

 常連の服屋で相談しよう。そうしよう。

 

 直ぐに解決した。

 基本は赤色になる火精霊の生地だが、色を変えるのは難しくないらしい。

 染める代金、後は割引の為に幾つか服屋からの依頼をこなしたりして、私は精霊の護符を手にいれた。

 その生地を使って着物を織る。

 

 これで中層に行ける。

 




一気に時間が進む今羽ですが、実は主人公にかなり余裕が出来ています。
前回までは張り詰めていたのですが、一年以上満たされた生活を送って、解れていったのです。むしろ此方が本来の性格です。
この話はほとんど書き直してない!
タイトルは変わったけれどね。
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