続いていく。
明日に進んで。明後日に行こう。
夜が短くなって、昼が短くなった。
変わらずに、
昨日を思って。一昨日に泣いた。
夜が長くなって、昼が長くなった。
続いていく。
☆ ☆
「はぁ、はっ、はっ、……っ」
避ける。避けきれない。
足に線が走って、血が出る。
「リオン、大丈夫!?」
声が聞こえた。
「問題ない! っ、アリーゼ! 後ろだ!」
予備のナイフを投げる。当たった。よし、怯んだ!
そのままアリーゼはモンスターに向かい合った。もう問題はないだろう。
私も目の前のモンスターに集中する。
腰を低く構え、モンスターの右下に走る。
大降りの腕をギリギリで避け、すれ違い様に一閃。
後ろに回りつつ、右足の健を切る。
怯んだ隙を逃さずに股関節の骨の微かな出っ張りに足を掛け、跳躍。
右肩まで飛び上がり、左肩に横飛ぶ。
首に線が走り、血が吹き飛ぶ。
一連の動作の中で絶やしていなかった詠唱が完成する。
効果が発現するまでの僅かな時間を利用して、左肩から後ろ足で飛ぶ。空中で位置を調整。
よし、問題ない。
【ルミノス・ウィンド】
暴風が吹き荒れる。髪が靡いて、目の前から悲鳴が上がった。
巨体が魔石に変わって、一時の安寧が訪れる。
「きゃ、」と短い悲鳴が聞こえて、慌てて振り返る。アリーゼの声だ。
「アリーゼ!」振り返って、安心する。
巨体は見えなかった。
モンスターは討滅された後だったということだ。
「もう、大丈夫よ。ちょっと傷が痛んだだけ」
アリーゼが笑った。
周りを見渡す。モンスターの気配はない。
「どうしたの、リオン? あなたここ最近変じゃない? 大丈夫? 疲れているのかしら。
それなら、いいマッサージのお店をこの前見つけたのだけど」
今度一緒に行かない?
といって笑うアリーゼに笑みを返す。
元来表情が薄いことは自覚していたので、うまく返せたかどうか分からない。
「いや、大丈夫だ。嫌な予感がしたというだけ」
だから、大丈夫だ。神経質になっていただけだ。
……これは、疲れているということだろうか。
しまった。マッサージの話、受けておけばよかった。
後悔は、先に立たないものだな、そう思って。
少しだけ、笑った。
第6羽 後悔
私をいくつかの目が見ていた。
獣の、赤い目。
口の中に揺らめく炎を確認して、私に向けて吐こうとしていた。
彼の攻撃を受けてあげたいのだけれども。
ゴメンね。でも、愛してる。
アリアが響いて、雪が彼らの唾液を凍らせる。
開かない口から炎が暴発して、彼は仰け反った。
敏捷のステイタスを最大限に利用して彼の懐に入り込む。
左前足を切り上げるように飛ばして、上になびいた私の手から剣が消える。
『武器庫』だ。
軽くなった腕は推進力を失い、制御が容易だ。
そのまま上段に構えて、剣を顕現。
彼の首を切り飛ばす。違和感があった。
しかし、首の半ばまで切り落とされた彼は動かなくなった。
やっぱりおかしい。首を断ち切ったはずなのに。
直後に後ろからもう一匹が走ってきた。
剣を射出する。速い。避けられた、いや、避けきれていない。後ろ足に当たった。
バランスを崩した彼は私を押し倒すように倒れた。
顔のすぐ近くに彼の顔がある。
彼の右と左の前足を剣を射出することで固定して、口を凍らせる。
もう一度炎が暴発した彼は後ろに仰け反った。
首が無防備。
私の腕は彼に押さえつけられて動かない。嬉しい。私を必要としてくれてる。
だから、彼の首に口を付けて、
ぐちゃ、鉄の味。温かい。
ーーー
気が付くと、口から鉄の味がした。
そうだ。首を噛み切ったんだ。と思い出す。
半分以上が赤く染まった着物を見下ろして、溜め息をつく。
中層である程度倒さなければ元が取れそうになかった。
私はモンスターとの戦闘中は性格が変わっている。
端的にいうとトランスしている。
普段は取らないような猟奇的な行動を取っていることも理解している。
しかし、それはイケナイことだろうか。
そんなことはない、と私は思う。
自分を認めてくれるモンスターを愛している事実は普段から何も変わりはしない。
トランス状態でも意識はしっかりしている。記憶もある。自身の安全の確保も怠ってはいない。
ならば問題はない。
それが原因で他の冒険者から気味悪がられようとも。
私はソロなのだから、何の問題もない。
モンスターさえいれば、それで、いい。
友達なんていらない。
これまでだって居なかったんだから、必要なんてない。
そう、思っていたんだ。
☆ ☆
鍾乳洞のように遠くで水音が聞こえた。
呟く声すら反響しそうな静かな空間で、私は思案してした。
迷った。どうしたものかな。
地図とにらめっこをしていると、冒険者の一団が走り去っていくのが見えた。
その後にモンスターの声が聞こえて、私はモンスターを押し付けられたことを悟った。
いつもならば高揚する気持ちが、嫌に静かだ。気分が悪い。
彼らは私を見ていない。先ほどの冒険者を見ている。私はただのついでだった。
機械的に壊す。血の一飛沫も浴びたくなかった。
そして終わった。ドロップアイテムが出た嬉しさはあっても、他は何の感慨も湧かなかった。
私って、こんなに冷めていたのかな。
まあ、それは良い。それよりも、問題が発覚した。
武器の性能が限界に近いのだ。
力のステイタスの影響か、斬撃も刺突も通ってはいる。
しかし、今まで跳ねられたはずの首が中途半端に残ることが起きていた。
因みに、内蔵に関しては先程試したが、問題なく絶ちきれた。
切れ味が足りないのだ。硬い外皮を切るための切れ味が。
剣を使うことが間違っているのかもしれない。
切ることに執着するのなら、確かに剣ではない。
刀だ。そちらの方がいい。
このままでは、いずれ剣の性能が命取りになる可能性がある。
一旦戻ろう。戻って、刀の購入、基本的な使い方等を学ばなくてはならない。
☆ ☆
刀を購入した帰り道を歩いていた。
バベルで何本かの刀は買えたが、使い方が分からない。
どこか使い方を教えてくれる道場などを探そうかな、と考えていると。
強盗だ! と叫び声が聞こえた。
小汚い男が走ってきた。通りの真ん中で一人突っ立っている私に向かって。
え? 何? と思って、取りあえずは動かないでいると、男が私を捕らえた。
私の腕を掴んで、首に剣を突きつけた。
「このガキがどうなってもいいのか!」
叫んだ。耳元で叫ぶな。うるさい。
「下がれ! 道を開けるんだ!」
叫ぶ声に、返事が返ってきた。
「待ちなさい! あんたはもう顔が割れてるのよ!」
追って来ていた赤髪が言った。
「そんなことをしてどうなるっていうの!
今すぐ降伏しなさい! 悪いようにしないから!」
首元の鋼が震えた。切れたらどうしてくれるんだ。
まあ、切れないようには細工してあるが。
「うるせぇ! てめぇらはいつもそうだ!
俺たちを見下してやがる。何様のつもりなんだ。
パンすらまともに食えねぇガキがいるんだ。
俺が捕まったらそいつらはどうなるってんだよ……」
言葉が尻すぼみに小さくなった。
相手に聞かせるための言葉ではないのだろう。
「どけろ! どけねぇなら……」
言葉が止まった。
「……え?」
腕が上がらなかったからだ。凍っているから。
「あなた……」
赤髪が驚いて私を見ていた。
☆ ☆
「ありがとう。助かったわ」
あなたのおかげで騒ぎも大きくならなかったし、と付け加えて。
「申し訳ないけれど、ちょっと家の本拠に来てほしいの。いいかしら」
そう続けた。
今回の件についての話が聞きたいのだろう。
話せることは何もないのだが。
【アストレア・ファミリア】
彼女が団長を務めているファミリアだ。
そこまで大きなファミリアではない。
しかし、アストレアというと正義の神だ。
その性格が出ているのかこのファミリアはオラリオの治安維持の役割を帯びている。
「そう、本当に偶然巻き込まれたのね」
分かっちゃいたけど。
そう続けて、申し訳なさそうな顔になった。
「一応、規則なのよ。面倒くさいけど。
これから強盗に入られた店の店主からも話を聞かなくちゃならなくて」
はあ、と溜め息を着いた後、私に言う。
「それにしても、噂の赤姫が通りかかるなんて。
やっぱり噂は噂ね。こんな可愛い子がモンスターを解体してるなんて、」
「全く、酷い噂よね」
彼女が笑って、
「まったくです」
私も笑った。
ーーー
部屋から出る。そこには覆面がいた。
椅子に座ってお茶を飲んでいた。
不審者じゃないか。どうしてこのファミリアはこの人を取り調べないのか疑問に思う。
まあ知り合いなのか、このファミリアに所属しているかだろうけれど。
覆面さんは私を見て、口を開く。
「『赤姫』ですね。事情は聞きました。災難でしたね」
以外にいい人だった。
声からは本当に気の毒そうに感じていることが伝わってきて、私は好感を持った。
そこまででもない、と返すと、対面の席にお茶が置かれた。帰れそうになかった。
私は覆面さんに好感を持ったことを後悔し始めたが、遅かった。
その後にドワーフがやってきて、リューさん(対面の覆面さんの名前である。エルフらしい)と話した後に私に絡み出した。
迷惑そうに顔をしかめていると、
赤髪がやってきて、
「あれ、まだいたんだ」
などとのたまった。
貴方達のせいでしょうと皮肉で答えると、
「じゃあ今晩奢ってあげようじゃないか!」
などと唐突に提案した。
ドワーフに腕を取られた私にはなす術がなく。
晩御飯を御馳走になった。
☆ ☆
お酒を飲んだ。
あまり冷えていないから自分で冷やした。
頭にキーンと鋭く痛みが走って、少し気分が高揚する。
冷えたお酒を飲みたかったのか、赤髪がやって来た。
私にもそれお願い! と私に絡みだした。
彼女が持っていた串を代金として、冷やしてやる。
冷えたお酒を飲んだ彼女は笑って、私に自己紹介を要求してきた。
アリーゼ(彼女の名前である)に私は男性だから間違えないようにいうと、全く信じなかった。
何が嘘はダメだよ! だ。嘘じゃないのに。
その後アリーゼは私に愚痴をたっぷり2時間は聞かせて、トマトを食べていた。
愚痴に付き合ったお返しにトマトを奪って、塩を降って食べる。美味しい。
トマトを奪われたことに不満だったのか、アリーゼは私のカクテルに別のカクテルを混ぜて笑っていた。
何て事してくれるんだ。
お返しに何かしてやろうかと思ったが、思い付かなかったので情報で妥協する。
刀に武器を変えたのだけど、技術を教えてくれる場所を知らないか、と尋ねる。
知らなかったら、この混合カクテルを無理矢理飲ませてやる。
だが、残念ながらアリーゼは寂れた道場を知っていた。
次の日に案内してくれるらしい。
仕方がないのでアリーゼに混ぜられたカクテルは自分で飲んだ。
苦くて喉が焼けたのに。
何故か美味しかった。
ーーー
アリーゼに案内された場所は道場だった。
何の流派かって? 書いてないから分からない。
アリーゼに聞くと、彼女も知らなかった。
ドウイウコトナノ……
不安になった私が道場に入ると、人が襲ってきた。
アリーゼは爆笑していた。
道場破りめ! 覚悟しろ! といって竹刀を向けている人に道場破りではないことを説明するのに苦労した。
アリーゼはずっと笑っていた。許さない。絶対に。
この人は元レベル4の冒険者らしく、モンスターやヒューマンよりもあらゆる面で特化している他の種族と渡り合うための柔の刀術を開発したらしい。
ところが跡継ぎがおらず、ファミリアから独立して道場を開いていたのだが、誰も来なかったと話していた。
襲われて解ったが、この人はかなり強い。
悔しいがアリーゼの紹介に間違いは無かったようだ。
そして私はそのまま成り行きで弟子入りすることになったのだった。
☆ ☆
私のレベルが上がった。
刀の練習をしながらも頻繁に迷宮には行っているのだ。
今度は何をしたのだろうか。
ミノタウロスとバグベアー5匹を撫で切ったことだろうか。
それとも階層主と愛し合ったときに、両腕と両足を凍らせて絶ちきったことだろうか。
達磨になったゴライアスを愛でようとしていたら、口から衝撃波を出して天井を崩し、更に私を吹き飛ばしたので最後まで達することは出来なかった。
今でも心残りだ。
レアモンスターのヴィーヴルも何体か愛した。
ドロップアイテムの売価の桁が違って驚いたのを覚えている。
おかげで貯金の額も上がった。
後でとんでもない額の買い物が控えているので、貯めているのだ。
付け加えてヘスティア・ファミリアのランクもGに上がった。
恒例の如く神様と夜通し騒いだ。
生クリーム等を購入して、簡易のケーキを用意したのだ。
神様の料理スキルもかなり上がってきていたので、一緒に作った。
姉妹みたいだね! と神様がはしゃいで、私は男ですと恒例の如く返した。
そして、私に3つ目の魔法が発現した。
☆ ☆
アリーゼに切りかかる。
垂直を意識して、竹刀の軌道を曲げる。
上段から、逆胴へ。
足元まである着物のおかげでこの変化は読めないだろう。
思った通り、反応が遅れる。盾の位置が高い。
下を潜り抜けるように竹刀を振るう。
アリーゼが後ろ足で飛んだ。
竹刀が寸での所で当たらない。
しかし、まだだ。
体制を崩しているアリーゼに追撃。
盾に当たる。そのまま押し返される。
垂直に当てたからこそ反らせない。
しまった、体制が崩れる。
ゾクっとして、体をそらして、自分から横に倒れる。
一瞬後に盾から飛び出した竹刀が私のいた場所を突いた。
しかも、避けられることを予測していたのか、非常に軽い。
そのままアリーゼは私の首元に竹刀を突きつけて、言った。
「これで今日はユウの奢りね。やった!」
私の財布に直撃した。
私たちがしていたのは、模擬戦だ。
私とアリーゼが休みのときは、こうして模擬戦をしている。
勝った方がその日の飲み代を持つという賭け勝負を。
そして、私は負け越している。
「アリーゼ、やっぱり盾はズルい」
「良いじゃない。私は本来剣が武器なの。
剣と盾ね、私の武器。だからズルくない」
アリーゼの楽しそうな声に私は少し口を尖らせる。
そう、アリーゼはあの道場の門下生ではない。
というよりはあの道場には私しか門下生は居ない。
「アリーゼはレベル4だ」
「それでもいいって言ったのはユウじゃない」
「だとしても! 今日は私のレベル昇格の宴会じゃないか!」
自分の宴会で自分が奢るのはどうなのだろうか、という話だ。
仕方ないわね、といって今日は割り勘になった。
良かった。あれ? 良くないような……?
☆ ☆
まともに刀を扱えるようになった頃には一年以上過ぎていた。
取り回しや距離の取り方が独特なのだ。
そして、まだまだ私は未熟だ。
出来るだけ折らないようにする為には、重心を安定させることだけでなく、刀に血が付かないように切る必要がある。
動かないものにそれらを成すだけでも苦労する。
動いている敵に成すのはまだまだ私には出来ない。
だけど、アリーゼにも稀に勝てるようになってきた。
初勝利したときは殆ど出回らないソーマを頼んだ。
アリーゼの顔が青くなったのは見物だったが、ソーマの7割は彼女が飲み干した。私が頼んだのに。
しかし、酔いつぶれた彼女をリューやドワーフと一緒になって介抱したのは楽しかった。
師匠は後は実践で覚えるがいい、といった。
この刀術は未完成であり、故に名前はない。
自分が名付けたいと思えば自分の技に自分で名付ければ良いと笑った。
そんなことだから門下生が来ないんじゃないか、というと、
お前が来た。と師匠が笑った。
もう年だから、私が最初で最後の弟子かもしれない。
たまにはここに遊びに来よう。そう思った。
そんな日々が過ぎていった。過ぎてしまった。
アリーゼはオリジナルのキャラでは無いですよー
ちゃんと原作にも登場しています。
ユウ君はこの段階で11歳です。だから所々言動が幼いんです。
まあ、精神年齢はすごく高いので、アリーゼとは対等の付き合いをしていますが。というか、アリーゼの精神年齢が低いだけな気も……