物語が終わりを迎えて来てるからシリアスに持って行きたいんだなって感じ。
「どうしたの?」
「…無い」
これから夏休みが始まる。
終業式が終わり、帰ろうとしたが生憎の大雨。登校している時は曇り空だったのだが、今はもうこの有様だ。
傘を持って来ていたが、忘れた誰かに盗まれたようだ。
少し予想外な出来事に明は唖然としていた。
「無いって…傘?」
「うん、どうやら盗まれたみたい」
「ぬ、盗まれたって…酷い事を…」
盗まれた本人ではなく、茜が怒っていた。
「どったの明?」
「傘を盗まれーー」
「盗んだ奴を今すぐとっちめてやる!」
灰と修も合流して来た。
明の傘が盗まれた事を知るや否や、灰が犯人を追いかけようとしたのを修が止めた。
「やめとけ、目星もついてないだろ」
「僕のスピードを馬鹿にするのも大概にしてもらいたいな修ちゃん、今現在下校している生徒全員を追っかけるなど容易い。僕は地上最速の男だぞ」
「目的地に着くなら俺の方が早いけどな」
最早恒例行事となりつつある灰と修によるどちらが速いかという喧嘩。また始まったと呆れている明と茜だ。
「あぁん!僕の方が速いに決まってるだろ」
「俺なら一瞬だね。速さなんて関係無いからな」
「そこまで言うなら勝負しようじゃないか」
「良いだろう。だが、俺とお前の関係だ…勝負は既に始まってるぞ」
言い終えると同時に修は
「あっ、ズルいぞ!」
少し遅れて灰が走り出して見えなくなった。明の傘の事など忘れてしまったのだろう。
2人を見送ると、茜が傘を差した。
「ほら、入って」
少し照れ臭そうにして明を見ている茜。茜ファンクラブの人がその場に居れば激写ものだ。そして激しい嫉妬が渦巻くだろう。
「相合傘なんてしたら注目されるけど良いの?」
「い、良いの、ほら早く。じゃないと傘だけ置いて帰っちゃうよ」
茜の決意が揺らがない内に中に入り、明が傘を持った。
傘がそこまで大きく無い為、互いに密着しそうな距離だ。
「明君の前いた所では普段何してたの?」
「今とあんまり変わらないよ。大きく変わった事は君達を護衛する事位だよ」
「そうなんだ。あっちの友だちとかと連絡って取ってるの?」
「友だち……」
前住んでいた所は覚えているが、副作用により、どんな人が居たとかを忘れてしまっていた。
「…うん、取ってるよ。」
携帯の履歴など見ている限りでは、知らない人とのやりとりが幾つかあったからその内の何人かが、友だちだと思い、そう答えた。
「そういえばそっちはどう?スカーレットブルームの活動は」
「クリアタイムのお陰もあるし、順調だよ。楽しいし。」
笑顔で答える茜に、更に頑張らなければならないと思う明だ。
「って、何で明君がスカーレットブルームが私って知ってるの!?」
「櫻田家の皆と俺達兄妹は知ってるよ」
最後に国民全員が知ってるけど…と小声で付け足すけど大雨の所為もあり聴こえていない。
「そ、そっか〜知ってたの…じゃあさ、クリアタイムの正体って誰か分からない?」
「さあ?本人に聞けば?」
「明君も知らないんだ…」
クリアタイムの正体を知ってるのは少数しかいない。気になって仕方ない。
「うん、本人に聞こう」
例え聞かれたとしても正体を明かす気は無いのだが…
「明日から夏休みか…」
「今の内にやりたい事をやっとかないと、来年はそれどころじゃないだろうし。」
「だよね…」
大学受験に選挙。来年は大忙しの1年になりそうで、今まで以上に活動をしなければならない。
「行きたい所でもあるの?」
「海!夏休みと言えば海だよ!それに夏祭りに花火大会でしょ…それからーー」
夏休みにしたい事や行きたい所をたくさんあげる茜に、微笑ましく感じる明。だけど、その殆どが出来ない事だ。
「まっ、王様が許可をくれたらの話だけどね」
「だよね…」
どんよりとする茜。そう、護衛を付けていようが、子供だけでの行ける場所は制限されてある。彼女達が王族だから。行ける場合は貸切にしてる事が多いくらいだ。
「花火大会くらいなら城で見れるでしょ」
「それも良いんだけど…どうせなら…」
明君と見たい…そう言おうとした瞬間に、横を通り過ぎた車によって水が跳ねた。道路側に居た明が全て被ってしまった。
「………大丈夫?」
「いやいやいや、それはこっちの台詞だよ!明君結構濡れたよ」
「今日は運が無いな」
「え、ちょっと!」
傘を茜に渡すと、明は傘の中から出た。
「これだけ濡れたらもう関係ないよ」
「風邪引くよ」
「その時はその時」
「……分かった。じゃあ私も」
傘を閉じて、2人揃ってずぶ濡れになる。風邪を引いた所で明日からは夏休みだから、学校を休まなくて済む。
「何してんの?」
「良いの。風邪引いたときは明君にまた看病してもらうから」
「自分から風邪を引こうとしてる人なんて看病しません」
「とか言って何だかんだ看病するのが明君だよね」
「…そりゃあするよ」
「執事だから?」
「……?」
「うん?」
微妙な間が出来た。茜が何を言っているのか分かっていない明。逆にいつもの台詞を言わない明に違和感を持つ茜だ。
「ねぇ、大丈夫?」
「どういう事?」
「前々から少しだけ気になってたけど、明君の副作用って記憶障害じゃないかな」
「それは…」
ないとは言い切れない。本来なら当たっているが、記憶障害になっている事すら忘れている為、実感がないのだ。
「大丈夫だと…思う」
自信が無い返しだ。
茜からは疑心な目を向けられる。
「まだ出てないかもしれないし、記憶障害だと断定出来ないよ」
「…分かった」
納得のいってない顔だ。
「私達の執事なんだから、何かあったら直ぐに言ってよ。約束だから」
何を覚えてて、何を忘れてるのかも分からない為、その約束も無駄に終わる可能性があった。
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「お姉ちゃん、ちょっといい?」
夜、夕食とお風呂を済ませた後、茜は奏の部屋に向かった。
「今ちょっと忙しいから後にして貰える?」
選挙活動についての、演説を考えている真っ最中だ。
「明君の事なんだけど…」
「丁度暇になったから直ぐに話しなさい」
この切り替わりようだ。
明におかしな事があれば報告しろと言っていたからだ。
「最近、明君の記憶が曖昧な気がするんだ」
「やっぱり…」
「やっぱりって、お姉ちゃんは気付いてたの?」
「ただの物忘れかと思いたかったけど、最近あったありえない事すら忘れてるからよ」
「ありえない事?」
「あんたと入れ替わった事よ」
思い出した瞬間に顔から煙が出た。かなり恥ずかしい思いもあるからだ。
「これは何とかしないといけないわね…」
とは言うものの、どうすれば良いのか具体的なものが思い付かない。
病院に連れて行くか否か。
「明が何でそうなってるのか、何か知ってる?」
「あ〜…」
恐らく副作用なのだが、明からは口止めされている。だけど、このまま何もしないとなると解決は無理だ。
「知ってるけど、口止めされてるんだ…だから直接聞かない?」
「明に?」
「ううん、灰さんか白さんが良いと思う」
「分かった」
もう夜も遅いから今から行っても失礼になるから、明日にしようと連絡するが、無理だと返ってきた。なので、後日話し合いをする事になった。
第1章が終わるまでもう少し。
では、また次回に。