ノンビリやっていこうかと思います。
俺、
同い年の女の子で、誕生日が近かったためか母親同士が交流を持って意気投合しその流れで一緒にいることが多かった子だ。
仲は……いい方なのだろう。彼女の家庭の事情で幼い頃はウチで一緒に飯を食ったりしていたし、中学生になった今でも家族ぐるみで付き合いがある。
仲がいいと言ってもそれは男女間の間柄ではない。まあなんだ、家族構成的には一人っ子なもんでよくわからんが俺が彼女に向ける感情は妹に対するモノに近いのだろう。
つまり、俺にとっての彼女は妹であり、彼女にとっての俺もまた然り。直接聞いたことはないけど少なくとも俺はそう接してきた。
時たま親父の故郷である英国に長期滞在することもあるが、それ以外は基本的にお互い用事がない限り顔を合わせていたしそんな関係も周知の事実として広まっている。
さて、脳内でそんな幼馴染との関係を色々と考えていたわけだが、俺は今件の彼女に学校の屋上へと呼び出されていた。
まだ寒風が吹き荒ぶ二月の寒空では、いくら日中でも長居はしたくない。
「おっそいなぁ」
呼び出したくせに未だ姿を現さない幼馴染に、呟きを漏らした。
寒い。遅い。寒い。寒い。
もはやそれ以外の言葉が出てこない。
「そもそもなんで……」
伝えたいことがあるから、と呼び出されたわけだがどうしてこんなクソ寒いところを指定したのか。そんなこと教室でも、人に聞かれたくないのならメールなどで済ませてしまえばいい。
学校の屋上。伝えたいことがある。男と女。
こんなシチュエーションまるで──
「いやいやいやっ、それはない。うん、ないな」
ブルブルと頭を振り、思い浮かべてしまった考えを掻き消す。
あれだろ、屋上に呼び出しアンド誰にも聞かれたくない、メールではなく面と向かって話したいとなればお金貸してください(カツアゲ)とかだろ。いったいいつの間にこんな悪い子になってしまったのか。
「おまたせー」
「ひぃっ!? 昨日衝動買いでゲーム買って手持ち二千円しかないんでこれで勘弁してください! ほら、ジャンプしても小銭の音しないだろっ?」
「いや、別にそんなこと言ってないんだけど……あと無駄遣いはダメだよ?」
いつのまにか来ていた幼馴染の、変なモノを見る目にハッと正気に戻る。
んんっ、と咳払いを一つ。さて、仕切り直そうか。
「遅いじゃないか。こんな寒いとこに俺を放置していたんだから、今度シュークリームとコーヒー奢りな」
「仕切り直せてないし、寒いのは薄着している君が悪いんでしょ?」
そういやそうか。俺は冬服の制服のみ、対する幼馴染は上にコートを羽織っている。ちくしょう、せめてマフラーだけでも巻いてこりゃよかった。
「で、要件はなんだ? さすがにこれ以上は風邪引きそうだ」
「うん。そのことなんだけど、さ。私もそれに気付いたのは最近で、昨日の夜にやっと君に伝えようって決心したの。だから出来れば茶化さずに聞いてほしいって思ってるんだけど……いいかな?」
「真面目な話、か……?」
やや頬を赤らめて頷く幼馴染。
ドクン、と心臓が高鳴った気がした。
まずい、これはまずい。何がとは言えないけどとにかくまずい。
ねーわと一蹴したあの考えが舞い戻ってきた。もしや本当に告白なのか。
待って、とにかく深呼吸。ひっ、ひっ、ふー。だめだわ、まともな思考が出来ない。
「まあ、聞くだけなら……」
顔が熱を持っている。鏡がないから確認出来ないが、今の俺の顔は熟れたリンゴの様になっているのだろう。
今ここで聞かないなんて選択肢は、彼女の真剣な眼差しを見た瞬間に消え失せた。
万が一にも告白だったとして、双方納得のいく解答が示せるかどうか……。
いつかは俺たちの関係は壊れるのかもしれない。そう思いつつも、いつまでも続いてほしいと矛盾した望みを抱いていた。
だから、あえて俺はそういった事柄──恋愛関係の話を、今まで彼女に振らなかったのだ。
どちらかが彼氏彼女を作れば、まあ立場的には他人の俺たちの関係を快く思わない可能性もある。思春期にこういったゴタゴタで一度離れてしまえば、もう一度関係を修復するのは難しい。
だからこそ、この展開は予想外だ。まさか彼女からこの様なアクションを起こされるとは。
「うん、えっとね……」
口は挟まず、彼女の言葉に意識を集中させる。
もはや賽は投げられた。どんなことを告げられようが、俺は真摯に対応し、それによってどんな結末を迎えようと受け入れる。
やがて決意したのか幼馴染──高町なのはは真っ直ぐに俺を見据え、こう言い放った。
「私、実は魔法少女なのっ!」
「そっか魔法少女なのか……魔法少女? え?」
◇
「あっははははっ! あんた何言ってんのよ、なのはがあんたに告白ぅ? そんなことあるわけぷふっ、ないじゃない……!」
「うぎぎ……!」
「アリサちゃん、そんなに笑うと鳴海くんに悪いよ。鳴海くんもほら、少し落ち着いて。そんなに歯をくいしばると欠けちゃうよ?」
なのはの衝撃告白から翌日の今日。俺は学校終わりになのはの両親が経営する喫茶店へと足を伸ばし、友人たちとくっちゃべっていた。
昨日はあのあと呆然としながら帰路につき、一晩かけて状況と心境の整理を行った。おかげで今日は寝不足だ。
なのはは魔法使い。テスタロッサも八神も魔法使い。ついでにテスタロッサの家族と八神家の人たちも魔法使い。なんだそりゃ、魔法使いのバーゲンセールかよ。
そして魔法使いの皆さんは魔法管理局なる組織に勤めているらしい。
それについて知っているのは今共にいる月村とバニングス。当たり前のことだが高町家の皆。
まとめるとそんなところか。
「うぁー、あの状況じゃそう考えちまうのも無理ないだろ……それにしてもよくよく考えてみたらなんで俺だけ知らなかったんだ?」
テーブルに身を預け、二人に問いを投げかける。
当事者の家族ってことで士郎さんたちが知っているのは頷けるが、どうしてバニングスたちが知らされているのか。親しい、ってだけじゃないのだろう。それなら俺も知らされているはずだし。……ハッ! もしやなのはにとって俺はどうでもいい存在なのか……?
「……俺ってなのはに嫌われているのかな……?」
「嫌われているのなら今更秘密を告げたりしないわよ」
「私たちが知ったキッカケも成り行きだったからね」
「多分タイミングが合わなかったとか、忘れてたとかじゃない? あんた小三の時イギリスにいたでしょ?」
クリスマスに発表してたからね、とのバニングスの言葉にへー、と頷く。そっか、そりゃそんなタイミングに暴露大会していたなら知らないはずだわ。
少なくとも嫌われていないという事実にホッと一息。
「でも、帰国後にフェイトやはやてとも接していて気づかないなんて鈍いってレベルじゃないわよ。他の人がいる時はそうじゃなかったけどあんたが一緒の時はみんな隠してなかったし。ほら、管理局のこととか」
「いや、魔のつくアレがホントに存在するとは思わないって。ちょいちょい気にはなってたけど中学二年生特有の病気かと思ってたし」
「ふふっ、それもそうだね」
笑って同意してくれた月村にだよな、と言葉を重ねる。
実際分からんもんだって。管理局がー魔法がー、とか隣で言われてもハテナだし。変に突っ込んで反感を買うより素直にウンウンと話を合わせていた方がいいと思うわけですよ。そういやなのはにビームを画面いっぱいに埋めれば当たるよね、とかテスタロッサに攻撃当たらないくらいのスピードで動ければ最強、とか八神に弱点を突くのは常套手段とかよくわからんけどゲームの話をしてなんとかついていってた気になってたけどあいつらはリアルにそんな世界を体験してるのか。ちなみに今日も三人揃って用事があると言っていたので、そういうことなんだろう。
……ん? ということは……
「結構前になのはが怪我してたのってそれ関係だったり……?」
「あー、まあそうね。その時もイギリスに行ってたんだっけ? ホント、大事な時にいないわよねあんた」
「やめて、その言い方役立たずみたいに聞こえるから。俺のハートにグサッとくるから」
イギリスでなのはが怪我をしたとの報せを聞いた時は驚いたもんだ。親父の仕事の関係ですぐには駆けつけられなかったが、区切りがついて帰国してみると松葉杖姿のなのはを見て思わず泣いてしまったんだっけか? 手紙のやり取りで無事だということはわかってはいたが自分の目で見るまでは不安感が拭えなかったんだろうな。
「そんな危険なことをしてるってことを知らなかったなんて、ちょっと幼馴染として自信なくしちゃうな……」
「やめなさいよ。あんたが湿っぽくなったら唯一ある取り柄すら消えちゃうじゃない」
「え、なに? 俺の取り柄ってノーテンキってとこだけ? そんなことないよね月村?」
「えっ、えーと……あははっ」
「オーケイ、その乾いた笑みでだいたい察したわ。そして俺の長所にひとつ付け足しとけ。言葉の暴力に打たれ強いってな」
言いながら立ち上がる。ついでに伝票を取るのもわすれない。
「んじゃ俺帰るわ。あとは女の子同士でごゆっくり」
「別に自分の分は自分で払うわよ? 自慢になっちゃうけど私もすずかもお小遣いはあるほうなんだから」
「えっ? ……あっ、悪いからいいよっ」
目ざとく気付いたバニングスと、遅れて気付いた月村に遠慮の言葉を投げられた。
だがしかし、男である以上一度やろうとしたことに自分で待ったをかけるのはどうかと思うわけで。
「いんや。たまにはいいカッコさせてくれ」
「そうね、たまにはカッコつけとかないとね」
「それじゃ、ご馳走様です」
「おう、また明日な」
バニングスの軽口と月村の礼を背に、レジへと足を進める。
今日は昨日の小っ恥ずかしさからなのはとあまり話せなかったけど、明日はテスタロッサたちも含めて詳しめの説明を受けられるといいな。あ、でもかなり込み入った話だし向こうから切り出してくれるのを待つべきか? や、でも気になるし……
「ま、そのうちわかるっしょ…… 美由希さーん、会計おねがーい」
「はーい。ちょっと待ってねー」
悩んでいても仕方ないので、とりあえず会計を。
近くに居たなのはの姉である美由希さんを呼んでお願いする。
「お会計二四〇〇円です。甲斐性のある男の子はポイント高いよ、さすが翠くん」
何がさすがなんすか……と返しながら財布を弄る。えーと、二四〇〇……
「あれ?」
「ん? どうかした?」
おかしい。小銭入れには一枚たりとも硬貨が入っていないし、札も野口さんが二人しかいない。おっかしいなぁ、福澤さんがいたはずなのに……?
「あ、ゲームだ」
「ゲームがどうしたの?」
「いや、なんでも……あるか」
さてどうしようか。万札があると思ってカッコつけたわけだが、その実千円札が二枚しかなかったとは。
今すぐゲーム売ってきて金作って来ます……はなんか二度手間だ。そもそも家に帰れば金あるし。
しょうがない、ここは恥を忍んでアレをするか。いい加減美由希さんの視線に耐えられない。あとバニングスたちにも気づかれそうだし。
「美由希さん、悪いけどツケといて。バニングスたちが帰った頃にまた戻ってくるから」
「ツケはポイント低いよ、翠くん」
※中学は女子校だというツッコミはナシでおなしゃす。