寒空の下で、彼女は告げた。   作:餅煮込み

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その身に纏う、温もりを。

 入学する時に用意したがこれいらないだろ、と個人的に思う物第一位ウインドブレーカー。陸上部などがよく着用しているイメージがあるが、あいにくと俺は帰宅部、しかも登下校や体育の授業でも着ないため堂々の一位となってしまった。

 だが、今この時だけは買っといて良かったと思える。

 

「ふぁ、っぁあ……」

「大きいアクビやな。寝るの遅かったんか?」

「……お陰様でな。バニングスのが一番手こずったわ。デカイ、苦い、高そう。見事三冠達成おめでとう」

 

 昼休み後の体育の授業。クソ寒いのに男子はサッカー、女子はソフトボールとグラウンドを半分に隔て皆がプレイしている中体調不良を理由に端でぬくぬくのウインドブレーカーを着込んで休んでいると、八神から声がかかった。どうやら八神もサボりらしい。ジャージ姿にも関わらず少し汗をかいていることから途中で抜け出してきたことが伺える。

 何度諦めようとしたことか……、とボヤいていると、妙にくすぐったい視線が向けられていることに気が付いた。というか、八神が変に暖かい目でこちらを見ていた。

 

「……なんだよ?」

「いやー? なんやかんや言いながら食べてくれるんやなー、って」

「そりゃ、せっかくもらったんだから食べないと失礼だろ?」

「変なとこで律儀やな。まあそれがみどりちゃんのええとこなんやろうけど」

「そう言うなら悪ノリしないでもらえませんかね? テスタロッサはあれだからいいとして、お前となのはとバニングスはなんなの? せっかくのバレンタインなんだからもっと甘い感じにいこうよ。例年通り普通に普通のチョコをくれた月村の評価が何故かだだ上がりなんだけど」

 

 俺泣きながら月村のチョコ食ったもん。ああ、なんと慈愛に満ちたチョコなのか、って。

 下手すりゃ惚れてたね、あれは。

 

「でもあれはみどりちゃんが悪いよ。なのはちゃんにいらんこと言ってなかったらダメージは来月の出費だけで済んだのに」

「……まあ毎年のことだからいいっちゃいいんだけどさ。で、八神はなにが欲しいの?」

 

 突然振られた俺の言葉に、八神は目をパチクリとさせなにが? と返した。

 俺的にはホワイトデーなにが欲しい、と聞いたつもりだったのだが、伝わらなかったようだ。

 

「ホワイトデー。いちいち自分で考えるの面倒だから先に聞いとくわ」

「んー、ならエプロンで。無駄な装飾が付いてなくて動きやすいのでええよ」

 

 エプロン、か。もっと高価な物をねだられると踏んでいただけあって少々面食らってしまった。

 

「例年と比べるとおとなしめだな。ホントにいいのか?」

「毎年豪華なん用意してるんはアリサちゃんやし、贈り物は気持ちやからね。私はその人が真剣に考えた物やったらなんでも嬉しいよ?」

 

 なにこの子、めっちゃええ子やん。

 

「とまあ、建前は置いといて。なにか欲しいって聞かれて高価なもの強請ったらはしたないやん。良い子アピールついでに実用的なもの貰う。ビターなもの食べて弱ってるみどりちゃん相手にはベターな選択やろ?」

 

 なにこの子、めっちゃ打算的やん。

 ちょうどエプロン買い替え時なんよ、と朗らかに笑う八神が恐ろしい。

 ま、まあそんなところ含めての八神だし? 建前は可愛かったし?

 ちょっとときめいてしまった自分が恥ずかしい。

 

「エプロンね。りょーかい」

 

 軽い感じで返事を返し、グラウンドに目を向ける。そこには汗を流し、青春を謳歌する少年たちの姿が──

 

『てめぇなにサボって女子とイチャついてんだよ……!』

 

 ──視えることはなく、嫉妬とか諸々の負の感情一色に染められた呪詛をこちらへ飛ばす奴らが視えた。

 視線で人を殺せるのなら俺は何回死んでいるのだろうか。それを考えるのが怖くなり、逃避するように八神へと視線を戻した。

 

「それにしても今日は寒いなぁ……」

 

 男子たちの嫉妬の念に気付くことなく八神は小さく呟いた。本人からしたら独り言で、誰かに聞かせるつもりもなかったのだろう。だがしかし、それを俺は聞いてしまった。

 

「ん」

 

 そう言って、着ていたウインドブレーカーを手渡す。

 不思議そうにこちらを見やる八神に、置く場所ないから、と答えると、なら持っといたるわと言ってようやく受け取って羽織った。

 サッカーしている奴らの視線がより鋭くなったような気がしたが、この際無視するとしよう。女の子には優しく、それが死んだじっちゃの俺への最後の言葉だ。あれ? 近所のおっさんだった気がしてきた……まあどっちでもいいや。

 

「そろそろ体育館での競技に変わらねえかなー」

「確か来週から変わるはずやで。女子はバトミントン」

「男子はなにやんのかね。久々にバスケやりたいわ」

 

 ドッジボールもいいな……いやだめだ、この時期は男子からのヘイトを溜めやすいから俺VSその他男子の構図が目に見えている。まさに袋のネズミだ。

 今年はする気が削がれてしまったが、毎年チョコ貰ったぜ羨ましいだろオラァ! と自慢して回っているためバレンタインの後数日はピリピリとした空気が流れるのだ。もはや恒例となっているので今年しなくても流れでそんな雰囲気になるに違いない。さっきの呪詛もいい例だ。

 

「そういえば、なんでみどりちゃんは部活入ってないん? 無駄に身体能力高いのに」

「無駄には余計だ。……そうだな、俺さ、大概の事はすぐに出来るようになるんだ。天才だから」

「天才は余計やし勉強は出来んけどな」

「うっせ。まあそんなわけでルールを覚えたらレギュラー張るくらいの自信はあるんだよ、どの部活でも」

「ルールを覚える自信がなくて部活入るん諦めたん?」

「お前は俺を舐めすぎだ。で、だ。俺が昔読んでたマンガにこんな描写があったんだ。身体能力高い主人公が部活の助っ人で小遣い稼ぎするっての。俺それに憧れてさ」

「ふぅん。それで助っ人経験は?」

「一回もなし。よくよく考えたらこの学校人数カツカツの部活も、助っ人呼んでまで勝ちたい奴らが集まってる部活も無いんだわ 。中途半端な時期に入るのもアレだから帰宅部やってんだよ」

 

 エスカレーター式の学校だから俺がどれだけ動けるか知ってる奴多いし、その内声掛かるでしょと思っていた時期が俺にもありました。よくよく考えなくても中学生の助っ人で金が動くわけねえじゃん、分かってるから俺を可哀想なものを見る目で俺を見るな八神。

 

「よく考えるまでもなく中学生の試合の助っ人程度でお金が動くわけないやん……」

「だからそんな目で俺を見るなって。フィクションに憧れて何が悪い。全国のちびっ子全員が将来の夢は? と聞かれて公務員と答える世界は嫌だろ? 子供は夢を見ていいんだ」

「子供……? ああうん、私たちまだ子供なんやね。最近その事実を忘れる事があるわ……」

 

 八神も八神でなにやら悩みがある様子。俺もこの話をこれ以上掘り下げられたくないし、八神も悩み事を思い出したくはないだろう。だからこの話はこれにて終了。

 次なる話題はー、と。キョロキョロと話題探しのために辺りを見回してみると、打ち上げられたボールをバンザイしているなのはが目に入った。ツインテールをピョコピョコと揺らして白球を追いかける彼女の姿を見ていると管理局で立派にお勤め出来ているのか心配になる。

 

「……なのはって、あっちの世界でもあんな感じなの?」

「……流石にあんなんはないかな。所属は違うけど、なのはちゃんの活躍はよう聞くよ?」

「武装集団十人中十五人無力化とか、投降してきた立てこもり犯に魔法ぶっ放すとか?」

「いやー、それはない、かな? うん、ないと思う」

「頼むから俺の目を見てはっきり言ってくれよ。向こうの犯罪者さんたちに同情したくなるから。善悪の概念が反転しちゃうから」

 

 テスタロッサに聞いた話によるとなのはの得意な魔法は砲撃魔法らしい。ああ、幼馴染がトリガーハッピーになるとは……。

 

「あーあ、昔のなのははそんな奴じゃなかったのに。いつも俺にくっ付いてきてさ、風呂とかも一緒に入ってたんだぜ?」

「へえ、小さい頃から仲よかったって聞いてたけどそんなよかったんやね」

「ああ。懐かしいなぁ、そういやあの頃お気に入りだったクマのパンツ、今も履いてんの──」

 

 あれ? ピンクの光が──

 

「ぐぼらぁっ!?」

 

 点滅する視界の中、俺は確かに般若を見た。

 

 

   ◇

 

「……管理外世界とやらで魔法の存在が明らかになるとまずいんじゃなかったっけ」

「バレてないからセーフだよ」

「なにこの子怖い」

「私としては昔の恥ずかしい事を暴露しようとしていた君の方が怖いかな?」

 

 顔は笑っているけどこめかみがピクピクと動いているなのはが恐ろしい。指詰めろやと言わんばかりである。

 俺にとっては未知の技術で意識を刈り取られ、保健室で目を覚ました俺の目に映ったのはなのはの顔だった。その顔を見て二度寝を決め込もうとしたが、ピンクの光が瞼越しに焼きついたので全力で謝っておいた。

 いきなり俺が倒れて騒ぎにならなかったのか気になったが、鳴海翠には突然気絶する趣味があるから大丈夫と誤魔化してきたらしい。誤魔化せて嬉しいやら悲しいやら複雑だ。俺が変人認定されない内に情報をコントロールするとしよう。

 

「で、俺はどんくらい寝てたの?」

「そんなに時間は経ってないよ。もうすぐ体育が終わる時間だし」

「じゃあ気絶したふり続けるから下校時間になったら起こしに来てくれよ」

「うんわかった。でも先生にバレると怖いから念のために意識を落としておくね」

「いやだからお前がこえーよ」

「ふんっ。私これでも怒ってるんだよ?」

「だから謝ったじゃん。誠心誠意込めてさ」

「君の誠心誠意は底が浅いからなぁ」

 

 失敬な。俺は全てにおいて懐が深い男なのに。

 

「さっ、そろそろ行こうぜ。今ならちょうどいい感じに合流出来るだろ」

「うん、そうだね。……あっ、今終わって着替えに戻るらしいよ」

「便利だよな。念話だっけか」

「うん。あと、来週から体育館での体育だって。バトミントンとドッジボール」

 

 ミントンとドッジかー。ドッジ? え、来週から?

 

「それって男子バトミントン女子ドッジボールだったりしない?」

「ん? 男子がドッジボールで女子がバトミントンだけど?」

 

 さて、残り僅かな時間。火消し作業に勤しむとしますか。

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