第三章の部分で文を一部改変しました。
ストーリーの流れに影響するほどではありません。
───時刻昼頃。冬木市に存在するマンションの一室。
「───これが私が話せるだけの事情だ。
もう少し詳しいことを聞きたいなら、直接アドニスに聞け」
戦闘後マンションの自室へと帰り、汗を浴室で流して睡眠をとった。
だが、早朝。ある異変に気付く。
部屋に何者かの気配があった。
最初は無論警戒し、ベットから飛び起きたわけだが、その正体は昨日の一件で知り合うことになったアーチャーであった。
恐らく場所は、緑の髪のランサーが教えたのだろう。
「───なるほど……。
戦いの種を撒く黒幕、か……」
それから少し冷静になり、謙太はアーチャーからFDFが何故あの高層ビル内で戦闘を行っていたのかを聞くことにした。
結果としては事細かいことまでは彼等に聞けとのことだったが、それでも十分に事情を知ることできた。
───聞いた話によれば、今世界各地に偽物の聖杯がばらまかれているという。
聖杯自体については大体把握している。
この地で「聖杯戦争」なるものが起こっていたことも勿論。
しかし、聖杯は少し前にある魔術師の手によって解体されたと聞いていた。
この事件に関わる物は、聖杯と言っても偽物の名の通り、本来の聖杯程の力はない。
まず「願望機」としての機能はなく、あるのは「英霊の召喚」のシステムのみ。
さらに一つの聖杯につき一体の英霊しか呼ぶことが出来ず、英霊側が召喚に応じなければ召喚することができない。
所謂「簡易型の召喚機」と言えるだろう。
そんな本物とまるで言えない贋作なのだが、偽物と言えど野放しにすると手に負えなくなってくる。
それが反社会的組織の手に回ること。
聖杯がテロリストの手に渡るのは危険極まりなく、主に英霊の召喚システムが悪用される可能性があった。
無論、国家同士に争いが起こってしまう可能性があることも、例外ではない。
この事を放っておくわけにはいかず、魔術協力や聖堂教会は勿論のこと。
アインツベルンや、さらには各国家の上層部もこの件に関して不安視し、動いている組織も多い。
そして、アドニス・ヴァナルカンドが所属するFDFもその一つ。
聖杯の回収を任務とし、聖杯を撒いている「黒幕」こそを見つけ出すことが目的の特殊部隊という。
それにしても「『F』ate 『D』efense 『F』orce」で「FDF」とは、また大層な名前である。
「…まあ、確かに事柄としてはとても大きい。
下手すれば聖杯の奪い合いで大戦争に発展しかねない」
もしもこの贋作の奪い合いが、国家レベルにまで発展してしまえば、世界情勢としてはどうなるか分からない。
最悪のケースとして「第三次世界大戦」────ということにもなりかねないわけだ。
「───そこでだ。
汝にもこの戦い、是非とも協力してほしいのだ」
話は戻ることになるのだが、何故アーチャーが謙太の元を訪ねたかというのは、ある根底の目的があった。
要するにアーチャーは彼をFDFの協力者として頼み込みに来たのだった。
「協力、か……」
謙太は恐らくアドニスがアーチャーに、自分を連れて来るように頼んだのだろうと考えた。
前の話ではあるが、謙太には数多くの戦場に参加していた経験があった。
その際の事をアドニスは知っているのだろう。
実際、先の戦闘でアドニスは一目見ただけで、彼が「尾神謙太」だということを認識していた。
「勿論、先の戦闘のようにサーヴァントと再び戦う可能性もある。
そうなれば任務の危険度はさらに上がり、命の保証はできない。
無理にとは言わない。しかし、考えておいてくれ」
「断ってもいい……ということですか?」
「ああ、構わない。
私としては汝に協力してもらいたいところが、アドニスが決めたことだ。何も言うまい」
さらにアーチャーの話を聞くと、この日本だけの協力で良いとのことだった。
彼等の情報によれば、最近になり日本各地にテロリストが多く侵入しているのだという。
理由は不明ではあるが、恐らく龍脈の関係。
特にこの冬木は龍脈もあり、過去に行われていたとされる聖杯戦争に縁もある。
そのため、今後この冬木の地には可能性として、様々な組織で構成されたテロリストたちが今後集結するかもしれない。
つまり、FDFが暫くこの冬木の地に滞在し、防衛するための期間、共にテロリストを撃破してほしいとのことであった。
「そういうことなら、俺で良ければ協力します。
一般人に手を出す可能性も捨てきれないでしょうし、この街をいろいろと乱されては溜まりません」
無論彼はFDFに協力することにした。
身近で何かしらの戦闘が起きるのであれば放ってはおけない。
何より自分は力がある。
力があるのなら使わない手はない。
そんなことを謙太は思った。
その様子をまじまじと見ていたアーチャー。
「……そうか」
アーチャー自身としては、彼の考えに一つ想うことがあった。
昨晩の戦闘での去り際での言葉。
あの言葉には確実に「憂い」があった。
「感謝する。
……しかし……もしもでいい。もしも何か困っていることがあったら、是非私に言ってほしい」
確かに彼は強い。アドニスが彼の力を頼り、協力してほしいのも理解できる。
しかし、恐らくあれは何かの迷い。
そんな迷える戦士を、本当にこの戦闘に導いていいのだろうか。
「ありがとうございます」と答える謙太を再び、じっとアーチャーは見つめた。
(助ける力があるのなら…か……)
以前の言葉。
何故そのようなことを言ったか。
聞けば答えてくれるだろうか。
───いや、以前のように何も答えないかもしれない。
なんとなく。なんとなくではあるがアーチャーは、彼の心に潜むであろう何かの
───同時刻、冬木市郊外。山林。
「ぐああぁぁぁ……!」
「ひっ…!た、助け────」
様々な断末魔と共に、鮮やかな血の色が、草木を赤く染め上げる。
「………こんな真っ昼間からご苦労なことだな」
そこには武器を持った武装をした多数の人間に囲まれた、一振りの日本刀を持つ一人の少年が佇んでいる。
普通ならば飛び道具に多数といったものであれば、一人の人間など容易く葬ることができるであろう。
しかし───
「何故『たったの一人』が殺せない……!
我々は10人!それに厳しい訓練を耐え抜いてきたエリート部隊だぞ!」
全く逆の立場。
劣勢に立たされていたのは多数の方であった。
先に断末魔を上げた二人の兵士は、無様にも糸が切れたかのように地面に転がっていた。
「へえ……。『厳しい訓練を耐え抜いてきた部隊』ね……。
エリートとかいうツッコミ所はともかく、『テロリスト』の割に武装がしっかりしてると思ったが……やっぱり……」
囲まれた少年は常に余裕の表情を浮かべている。
10人から8人に減った火器を持った相手に周辺を囲まれるという異常の中、それをまるで異に返していない。
敵としては認識してはいるのか、片腕に持った剣の構えだけは解くことはなかった。
「こちとら生け捕りでも構わない。降伏はしない?」
「な、何を馬鹿なことを…!
貴様に殺されなくとも、任務を失敗すればどちらにしても我々は処分されてしまう……」
しかし、舐めた態度であることは変わりなく、その様子を見た部隊の隊長らしき一人が激昂する。
「やれやれ……。そんなことだろうとは思ったけど……あまり口走らない方が良い。
情報筒抜けだぜ、お山の大将。
……にしても、使い捨てができる組織ってことは、上は中々の組織力だな」
敵の隊長らしき人が強がっていることはなんとなく伝わってきていた。
彼が言うように、恐らく任せられた任務を失敗すれば、処分───つまり殺されてしまうからだろう。
故に引くことができず、恐怖を覚えながらも前に出るしかない。
そんな状態がひしひしと感じられる。
「それで?お前らの任務は『聖杯』ってやつでも関わってる?
…それとも、
「……………」
少年の言葉に、兵士たちは何も答えない。
挑発に対する怒りよりも、恐怖が増してきたのかは分からないが、それが冷却剤となったらしい。
「流石に答えてくれないか……まあ───もういいや」
少年は兵士の命にせめてもの想いを馳せ、目を瞑った。
───一人の兵士は思う。
最初から勝ち目はなかった。
目の前の敵の情報は、「尾神謙太」とかいう人物と共に頭に入っていた。
多数で群れを成したところで、自分たち程度で適う相手ではないことぐらい、最初から判っていたのだ。
挑んだこと自体が既に浅はかな判断に違いない。
怖いという恐怖、畏怖が頭を過ぎる。
仲間は既に二人殺され、遺体として転がっている。
自分もああなるのかと考えると怖くて仕方がない。
「───じゃ、さよならだ」
敵はそう言うと、仲間を殺し始めた。
心臓や首を一刺しに、一撃で仕留めにかかっている。
もう少し生きたかった。
でも、もうこんな「化け物」を前にすれば仕方ない。
何となく恐怖というものが薄れていっている気がした。
とてつもない量の返り血を浴びているのに不思議なものだ。
手に持つ短機関銃も、もう撃つ気分ではなくなっていた。
「ん…?何?あんたもしかして裏の仕事はあんまりやったことない?」
敵である少年が話しかけてきた。
私は何も答えない。
「じゃあ俺の名前を、しっかり冥土の土産に持って行ってくれよ」
そうして少年は静かに告げた。
「
あの世でよろしく───」
景色が回り出す。
痛みは無く、穏やかに意識が暗転した。