Fate/Awakening   作:Vaan

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お待たせしました。第五章です。


第五章 「同類」

「───……ジーンについてだが、まだ調査中だ。

何故我々を裏切り、テロリスト側についたのか……今のところは不明だ」

 

場所は変わり、以前の戦闘とはまた違う使われていない建物。

人通りは全くなく、隠れ家としては最適な場所である。

そこにはFDFが残留し、各々の武器の手入れや、日本政府への協力や戦闘現場の後処理の要請などなど。

出来うる限りのことを行っていた。

 

FDFの隊長を務めるアドニスは、上へと報告を行っていた。

その際のFDFの司令官である大佐との会話である。

 

「まさかジーンが裏切るとは……私の責任です」

「……何度も答えるが、アドニス一人の責任ではない。これは彼を選んだ私の責任でもある。

しかし、彼は優秀な人間ではあることは違いないが、私やアドニス、ランサーですらその影に気付かないというのは……どうも私としても引っ掛かる」

 

裏切りが起きた任務の後、大佐へとそのことを報告し、ジーンの近辺を調べてもらっていた。

アドニスの方でも通信履歴を漁って、彼の経緯を調査していた。

だが、結果としては何も得られず。

証拠の塵一つ見つからなかった。

 

「とりあえず、こちらの方で調査は続けよう。

…それで、『厄龍』の方はどうなった?」

「はい。彼の協力については取り付けました。

これでジーンの穴埋めどころか、それ以上の働きが出来るでしょう」

 

話は変わり、内容は尾神謙太への協力依頼の返答について。

元々、尾神謙太への協力依頼の案を出したのが、FDFを創設し、指揮を任せられている彼である。

 

先程戻ってきたアーチャーによって、協力してもらうことに成功した報告がもたらされた。

協力依頼に関しては、アドニスが直々に交渉へ向かおうとしていたが、アーチャーが彼への興味からか、彼女が協力依頼をしてくることへ申し出があった。

不安ではあったものの、大した差はなかったらしい。

 

ちなみにアーチャーは後ろの方で、この会話を聞いていた。

 

「それは良かった。

彼が協力してくれるならば、英霊にも対抗する手段が増えるだろう。

…では、そのまま日本の方で任務を続行してくれ」

 

そうして、「よろしく頼む」と大佐との通信は切れた。

 

 

「………」

 

ジーンのことも気になるが、まずは尾神のこと。

彼に協力してもらうなら、今後のことをしっかりと話しておかなければならない。

全ての情報を開示してこそ彼は動く。

尾神とはそういう男であることは知っている。

 

「それにしても……『厄龍』、か……」

 

それは大佐の言った、彼に対しての「二つ名」。

尾神謙太が不吉な名を冠するのにはそれなりの訳がある。

 

「その『厄龍』というのは何なのだ。

謙太のことを言っているのか?」

 

案の定、その事を知らないアーチャーは疑問に思っていたのか、アドニスに二つ名について聞いてきた。

 

「……私も大佐も現場に居合わせた訳ではない。

飽くまでも『噂話』だが、聞くか?」

「…………」

 

アーチャーは何も言わずに頷く。

それを見たアドニスはある話を始めた。

 

「あの事件の事実については内戦に関わった者しか知らない。

尾神自身が起こしたことだ……───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────ちょっとした過去の話。

 

戦場に生きる兵士の間で、細々と話題になっている男がいた。

たった独りで戦況をひっくり返してしまうほどの圧倒的な力。そんな男。

 

だが不思議なことに、彼は戦場に居ながら、その力で人の命を奪うことは絶対にしなかった。

傷付く人、困っている人に手を差し伸べる、甘い甘い優しい人間。

そんな彼の行動を敬愛するような者もいれば、彼を嫌い畏怖する者もいたが、彼は変わらず、その不殺の志を貫いていた。

 

ある出来事まで────

 

 

 

 

『───あなたのせい……あなたのせいで私の家族は……!』

 

『───なんで殺さなかったの?

見逃していなければこんなことには………』

 

『───早く、せめて早く……あなたが死ねないなら、私の家族の仇を取って来てよ……お願い……。

あの人達を「みんな」殺してきて……』

 

 

ある戦場で助けた一人の少女。

それまで一緒にいた家族は、彼女独りを残して皆死んだ。

 

仕方なかった。

世界を呪っても仕方ない。

家族を殺した兵士を呪っても仕方ない。

けれど、呪わずにいられなかったのだ。

誰かのせいにしなければ耐えられなかった。

 

その少女は縋る想いで、彼に言った。

心の底では意味がないと解っていても、彼に残酷な言葉を告げてしまった。

 

全ては敵の兵士を生かして逃がした彼のせい。

その逃がした兵士が家族を殺した。

責任をとって、「あなたが殺せ」と願った。

 

 

 

 

 

 

 

 

だから殺した。

 

 

 

彼に流れる「血」は特別なもの。

本来、敬われ、尊ばれ、崇められ、祈られれば力を増す。

例えそれが呪いであったとしても、それは等しく人の願い。

初めて覚醒した血の理に、彼は逆らうことができなかった。

 

彼は敵を蹂躙した。

殺戮し、破壊しつくした。

それは天災のように、躊躇もなく、無惨に。

 

気付いた頃には遅かった。

彼の周りには、敵も、そして味方も、誰一人いない。

血塗られたその手で顔を覆い、彼は泣いた。

 

勿論、これは彼が望んで行ったことではない。彼が望むはずがない。

 

そうして、自らの持つ力と人を殺した感触に恐怖しながら、その戦場を去っていった。

幸か不幸か、彼についての事は戦場での語り草となったが、彼の姿をそれから見た者はいない、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────それが奴の…?」

「ああ、そうだ。それが尾神謙太の経験したもの。

故に、血の因果もあって、一部の人々は厄を運ぶ龍と呼ぶ。

敵も味方も、皆殺しにした『災厄』としてな」

 

アドニスから聞いた尾神謙太の過去。

それは「普通の人間」ならば、まず分からない事だろう。

 

「ちなみに、行方不明になった後は、各国の軍上層部が彼の力を求めて捜しているらしい。

まあ……まさか我々の前に現れるとは思っていなかったが……」

 

アーチャーは彼の顔を思い浮かべる。

度々見せていた表情に何となく納得がいった。

 

「それに……彼はあっさりと人を殺していた。

もう命を奪うということはしないと思っていたが……。

彼は戦場でも珍しい側面を持つ人間としても、一種の有名人だったんだ」

 

思い出せばランサーの時も、悲壮な過去が存在しないかのように遠慮無しに攻撃を行っていた。

ひたすら冷静に、冷徹に、冷酷に。

あの時もしかすると、感情を必死に押し殺していたのかもしれない。

 

「……謙太は戦うこと自体、多分嫌いだ。

人間の命をその手で奪うことも……しかし、それは彼が甘えているだけではないのか?

戦場にいたのならば命を奪うことなど、無理にも理解するべきだろう」

 

だが、それでも彼の眼の中には確かな決意が宿っていた。

情熱に燃え、且つ優しさが共生する温かみのある矛盾した眼。

その中にこそ彼の本性がある。優しい人と言われた尾神謙太の本質。

アーチャーは彼と出会った時からそう思っていた。

 

「……ああ、そうだな。甘い人間だ。

だが同時に、彼はとても強い人間でもある。

『力』を持っているというのは、それぐらい悩めることだ」

 

アドニスはアーチャーに背を向け、その場を離れる。

 

「だが、アーチャー。

彼に関してはもう一つある。」

「もう一つ……?」

 

そして去り際、彼女にあることを告げた。

 

「彼は親から愛されたことがない」

「────!?」

「母親は彼が産まれた時に死に、彼には父親しかいなかった。

だが、彼の父親だ。そいつが幼い尾神を戦場の、さらに激戦区に放り込んだ。

何故そうしたのかは分からんが……」

 

アドニスがこんな話をし始めたのには訳がある。

アーチャーが英霊になる前に関わり、今叶えたいと思う願い。

FDFのメンバーは予め、アーチャーの正体は知っていた。

 

「だからとは言わん。理解しなくてもいい。

でも、彼を少しでも気にしてやってほしい。

祈りを吸う魔物としてではなく、讃えられる英雄でもなく、只の人間としてな」

 

そう言って、アドニスはアーチャーの元から去っていった。

 

 

「…………」

 

アーチャーはその後も暫く、その場で黙っていた。

正直に言えば自分には関係ない。

甘えた男など気にする必要などない。

そんな男など、自然の摂理に飲まれれば良いと思う。

 

「そうか………そうだったのか…」

 

だが一つだけ、一つだけ確信が持てたことがある。

最初は彼の持つ力に興味を持っていた。

だが、先程彼と再び会い、度々見せる彼の表情や言動に興味が沸くばかりだった。

では何故、「尾神謙太」という男のことをそれほどまでに気にしているのか。

アーチャー自身にも無意識の域であったが、やっと自覚がすることができ、同時に理由を知ることができた。

 

それは、「同じ」だったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───八つの特別な血を引く一族。

混血でありながら退魔を司る、太極で例えるなら陰と陽の両方を備え持つ存在。

天、龍、夜叉、乾闥婆、阿修羅、迦楼羅、緊那羅、摩睺羅伽と呼ばれる八部衆。釈迦如来を守護する者たち………。

───ま、既に本物の名を関する血族は、絶えているのですけれど……」

 

この物語を覗く者。

彼女は不適に微笑む。

 

「けれど、血が絶える前に名だけは残したいと思う一族はいくつか居たそうですわ。

それは天衆と龍衆、それに夜叉、迦楼羅、摩睺羅伽、の5つの一族。

そして、この日本で受け継ぐに相応しい家系にその八部の名前を与えた。

その内の一つが龍衆の銘を継ぐことになったのが、謙太さんがいる尾神家という一族。先祖に龍を持つ家系。

摩睺羅伽衆の名を冠することになる御都波もいますけど、他の者たちに関しては追々語りましょう」

 

語りながらも、自分の白く細い綺麗な指を眺め、さも興味のないような素振りだった。

但し、あることを除いて。

 

「それにしても、いつ聞いても謙太さんの物語は素敵……。

ああ、それと詳しく語るならば、あの時の謙太さんは必死に自分の流れる血に抵抗しましたわ。

彼は尾神の代々の中で『先祖還り』を起こすに近い、もっとも純度の高い血を持っている。

しかし、謙太さんであれど所詮は人の手。神にも近い龍の血から来る逆鱗を止めれる筈がない………。その辺の混血と同じ所謂『反転』みたいなものですわね」

 

尾神謙太という男に関しては、光悦にまるで惚れているかの如く、すらすらと語っていた。

「年頃の少女」であるかのように胸を弾ませ、且つ舞台の上で演じるかのように大げさに言葉を弾ませる。

 

「けど、私が見たいのはもっと上のこと。

『先祖還り』などでは足らない。

その先にあるものこそ私は見たい!謙太さんはその可能性がある!

それこそがそもそも私たちの『望み』、『祈り』ですもの……フフ」

 

笑いを堪えきれず、声に漏れ出す。

欲にまみれたその声で新たな物語の先を紡ぐ。

 

「さてさて、そろそろ『彼等』でもぶつけてみましょうか。

勘の良い英霊が一体いるようだけど、少々私も顔を出してみようかしら………」

 

そして『少女』はそのまま、暗闇の中に消えていった。




ぶっちゃけこの話はマスターというか、人間側が滅茶苦茶強いです。
その上でなんとかサーヴァントたちを活躍させたいですが……
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