視線のるみちゃん   作:つば朗ベル。

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(10)  決戦のとき!

 そして、翌日。今日も張り切って放課後に部室に向かう。近くまで行くと廊下にも演技の声が聞こえてきていた。

「わあ、張り切ってやってるなぁ~」

 そう一人ごちると、私は早足で部室に入った。そこではすでに本格的に練習をしており、邪魔にならない様、音を立てずに部屋の奥に移動する。一緒に演技を見ていた部員の男の子が会釈するので私も返した。

 目の前では、シンデレラとまま母が屋敷で暮らしている場面を練習している。シンデレラは部の子、まま母は踊子ちゃんが演じている。

 私は脚本を持って演技を見ている部員のメガネの男の子に話しかける。

「ねぇ、なんだか、いつもと違う? 今日はやけに気合入ってるような……」

「ああ、実は昨日、横井が帰った後、頼んでた脚本が来て、それで練習してるからね」

「ああ……なるほど」

 昨日までは仮の脚本で練習していたけど、遂に本物の脚本が届いたって訳ね……そりゃ、練習にも気合が入るか。そう言えば、今、シンデレラの役で練習している子……踊子ちゃんよりもふくよかで私が作った衣装ピッタリみたい。なるほど、だからふくよかな人用に大きめに作ったのかぁ…………って、私はふくよかじゃありませんよっ!!

 

 ……まあ、でもシンデレラ役の子決まったみたいで良かった。

 そう、ホッと息を吐いていると、

「ホラホラ、エラ! 掃除が終わったら、洗濯よ~こんなに大量にあるんだから、早くやりなさ~いっ!!」

 うわぁ、まま母、すっごく意地悪な役だなぁ……そして、踊子ちゃん演技うまいなぁ。

「うう、勘弁してくださいっ」

「ほら、次は家の靴を全部磨いて、頼んでた内職して、それに晩御飯の支度もあるんだから急ぎなさいっ~」

 うわぁ~、エラ役の子、すごい蔑まれてる。四つん這いになってまま母に足蹴りにされてるし……。

 …………いや。うーーんと、ちょっと待って……。確かにエラはこの時、まま母にこき使われるけど……ここまで極端だったっけ? 

「ねぇ、ここってもう、エラのお父さんも死んじゃった後?」

 メガネの男子に聞くと、

「いや? まだだけど」

 脚本を少し確認した後そう言った。

 やっぱり。でも、原作ではお父さんが死んじゃって、財産が限られてから顕著にひどい扱いになったハズ……でも、その前からこの調子だなんて……ちょっと、おかしくない!?

 なんだか、この意地悪な感じ……私は知っているような……まさか……ね。

「……ねぇ、ちょっと、悪いんだけど、その新しい脚本、見せてくれない?」

 私はその違和感を確かめるため、また彼に聞くと、嫌そうにした後、ひらめいたように「ちょっと待ってて」と言って、奥に追いやられているテーブルに向かう。そしてそこに置いてあった脚本をひとつ持ってきて、渡してくれる。

「あ、有難う」

 その脚本は昨日原本が来てから作ったはずなのにもう、ヨレて癖がついている。後ろを見ると踊子ちゃんの名前……昨日と、今日の休み時間に読み込んだだけで、こんなに使い古されるなんてすごいなぁ……。

 実際、今も脚本を見ずに演技をしているのだからその情熱たるや計り知れない。

 そんな風に私は勝手に凄みを感じながら脚本をめくる。

 ……ああ、あった。やっぱり序盤の方。

 そして、その辺りの脚本を詳しく読んでみると……、

「やっぱり……間違えないっ!」

 つい、大きな声を出してしまうと、演技練習していた子達が演技をやめて私を見る。

「あ……ご、ごめん」

 静かになる室内に驚き、慌てて謝った。

 で……でも! この、脚本……この、まま母の意地悪さ、どう考えても……!

「どうしたの? るみちゃん」

 まま母の衣装を着た踊子ちゃんが演技しない普通の声で言う。

「えっ!? あっ、いいの? 練習」

「るみちゃんが大きい声出すから集中力切れちゃった、いやそれはいいけど、そんなに驚いてどうしたのよ?」

 演技を止めてしまったのは申し訳ないけど再開する雰囲気ではなかったので説明する事にした。

「いやね……この、脚本って……誰に、書いてもらったの?」

 そう言えば、衣装作りを始めて数日後に脚本は他の人に任せたと言ってたっけ。

「あーーその、脚本、面白いよねぇ~普通じゃなくて! 書いた人なら終わりのページに書いてあるよ」

 それを聞いた私は急いで、ページをめくる。ページに癖がついていて、何度も違うページが開かれる。

「ああっもうっ!」

 そして、ようやく最後のページを見ると……

 ――脚本 関 俊成。

 やっぱり……確信していたけど、やっぱり関くんだった! ああーーもう! なんで、関くんは私がどこに行っても何やっても目の入る所に……!!

 そこまで、思ってから頭を抱えた後、ふと、関くんの言葉が思い出される。

『……また、俺と一緒に遊んでほしい。俺の隣で笑っていて欲しい』

 

「どうしたの……頭抱えたり、静かになったり……」

「えッ!? いやっ……なんでもないっ!」

「なんでもないって……顔、紅くなってるじゃん」

「こっ! これはっ……頭に血が上って! も~~関くん! 絶対ゆるさないんだからっ!! 神聖な『シンデレラ』を汚して! シンデレラはハッピーエンドで終わる幸せな話なのよ!? 関くんの好きな弱いものいじめな展開にはさせないわっ!」

 踊子ちゃんに指摘された事を誤魔化そうと、つい早口でまくしたてる。

「すごい意気じゃない、じゃあ、シンデレラ役、るみちゃんに任せても良い?」

 すると急にそんな事を言い出す踊子ちゃん。

「えっ? いや、そんなつもりじゃ……だって、シンデレラ役なら……」

 そう言って、私はまだ衣装を着ているさっきまで演じていた子を指さすと、

「彼女は一応、合わせるためにやってもらってただけで、本決まりではないの」

「ああ、そうなんだ……」

 すると、部員のみんなが「良いんじゃないか?」とか、「横井の方がしっくりくる」とか、そんな勝手な事ばかり言い出す。

 まあ、でもそんなみんなの意見にまんざらでもなくて……。

 ずっと、演劇部の手伝いをそれこそ部員よりも熱心に取り組んでいたからだろうか。本を見たり衣装を作ったりしている内にシンデレラというキャラクターに愛着を抱いてしまったからだろうか。

 ……まあ、そうだとしても、原因は……関くんから距離を置くためであって……。

 そう考えると、実は関くんのせい? うう、関くんを避けても結果的に関くんに振り回されてる!? 

 …………いいえ、違うわ。私は関くんに振り回されてなんかない。いつも私は戦ってきたのよ。時には翻弄されながらも……関くんが羽目を外さない様に、私が目を光らせてきたんだから!!

 だから、今回も受けて立つわよ。私が演劇部のストッパーになって、関くんの独壇場を止めて見せる! 自分の席とその隣の私までしか巻き込まなかった関くんワールドを全校生徒が見る文化祭の舞台で発揮させる訳にはいかないわ!

 

 ――そんな決心をしてからというもの私はやる気満々で演技練習に精を出していた。部では関くんの脚本の通り演じ、家に帰ってからは原作を読み、本物のシンデレラとの違いを確認するように。

 

「横井は今日も演劇部?」

 とある日、もう少しで帰りのHPが始まる間の時間にゆーちゃんが話しかけてくる。

「えっ? ああ、うん。まーね」

「手伝いだっていうのに熱心な事だねぇ」

「う……うん」

 ゆーちゃんは、私がまだ手伝いで衣装作りや雑用などをしていると思っている。実際は主役で演技練習しているなんて……なんとなく言いにくい。まあ、言わなかった方が本番で驚かれるのだろうけど、今言って色々説明するのもおっくうだった。

 

「さて、本番まであと二日! 今日も気合入れて練習するよ!」

 踊子ちゃんのいつもの喝が入る。本脚本が来たのが遅かったこともあり今日やっと、ラスト付近の練習を初めて行う。

 

 そして、練習が始まってしばらくした後だった。

「って、あれ? ここで終わり?」

 一人の部員が慌ててページを戻したり裏表示を見て確認する。

「あーー……」

 踊子ちゃんが困ったように声を出す。

 そうなのだ。私も先日気が付いていたけど、この脚本、実はラスト付近がまだ出来ていないのである。後半のとある所で急に終わる。具体的に言えば、シンデレラが舞踏会に行った帰りに魔法が解ける直前、なんとか王子に元の姿がバレずに逃げ帰った所……である。

 私は家でここまで読んだ時『もしかして関くん、この後、シンデレラをいじめる場面がほとんどないから書く気力が無くなっちゃった?』……って思ったのを覚えている。

 

「この後は、今書いている途中だそうだけど、もう大体書けてるらしいから本番までには絶対間に合うって」

 踊子ちゃんがそう説明する。もちろん、「大丈夫なのか?」とかみんながざわつくけど、

「まあ、この後は大体決まった展開だから原作通りに練習すれば問題ないでしょう! あとは、届き次第、練習するってことで」

 なんで、あっけらかんという。確かに関くんがこの後、いじわるな展開が無いから書く気力が無くなったっていう私の推測通りだとすれば、原作に近い感じになるだろう。

 けど、踊子ちゃんも演劇部でスイッチが入ってる状態だと、自信に満ち溢れている感じがそのまま出ちゃってるって感じで少し心配。まあ、他の部員はそんな踊子ちゃんの態度に安心してる様子。もう、本当にいいの? みんな。まあ、部員じゃない私が口をはさむことじゃないと思うから黙ってるけど。

 

 ――そして、あっという間に残り二日の練習が過ぎて。

「よし! 良いでしょう! 明日は本番だから、この調子でガンバロー」

 踊子ちゃんのその一声で前日の練習も終わった。前日という事もあり、なんと今日は午後8時までの練習! 今日だけ特別に許可してくれたんだそう。

 外は既に暗くなっており、いつも見ている窓からの青空とは全く違い不思議な気持ちになる。そんな夜空を学校の部室から眺めていると、なんとなく演技を始めた最初の日の事が頭に浮かんできた。

 初めは慣れない演技に戸惑った私だったけど、関くんの顔が常に頭にちらついて離れず、それを思い出すと奮闘する気持ちが再熱して一層頑張れた。下手くそだと言われた演技もみるみる上達して合格点を貰った喜びで自信を保っている……まだまだ、十分とは言えない演技力だけれど、もうこうなったら開き直って頑張るしかないよ!

 

 

 ――緊張……緊張していた。登校して教室に入ると既にクラスにはソワソワした雰囲気が漂っていた。そりゃそうだ。今日は文化祭。特別な日程で進められるお祭り。みんなワクワクドキドキした表情を見せている。

 私は……というと、もちろんドキドキ……シンデレラの大役を任されているのだ。緊張しないハズが無い。でも、それでも、やるべきことはやった。自分なりの手応えもあった。なんでこんな状況になってるのか自分でも訳わかんないけど頑張るしかない。

 

 演劇部の公演は今日のトリでまだまだ時間がある。ざわざわする教室で隣に顔を向けると関くんがいつもと変わらないダルそうな顔で前を見ていた。教室が静かでないと集中して遊べないらしい。

 ――関くん。待ってなさい。今日の演劇の舞台で、関くんと――真っ向勝負する――!

 静かに私の心の火はメラメラと燃え揺らいでいた。

 

 そうしてしばらくは、劇の事を忘れ、友達と文化祭を楽しむ。友香ちゃんと……ゆーちゃんと……模擬店を見て回る。定番の? 仮装した店員がいる喫茶店や、写真部の写真が綺麗に展示してある部屋を見て回る。校内はあらかた見て回り、外に行こうとゆーちゃんが言い出して、校門を出た時だった。

「あっ! 横井さん」

「後藤さん……」

 じょうろを持った後藤さんに出くわす。家に関くんと一緒に謝りに来た時以来、なんだかんだ余り話すことが無かったので少し気まずい。

「そう言えば、後藤さんも何か展示したりしてるの?」

 そう口をつくと、

「あ……はい! あちらで、育てた花を展示してますのでぜひ見にきてください、私は水を汲んできますので……」

 笑顔でそう言って一階の水飲み場に急いで向かった。私たちはせっかくなので、後藤さんの言っていた展示場まで先に行くことにする。後藤さんの指差した方向に向かうと、多くの花が展示されていた。

「いつの間にこんなに育ってたんだねぇ」

 友香ちゃんが言う。確かに私が結構前の昼休みに後藤さんと話した時より、格段に成長していた。しっかり世話を焼く人がいると花は成長する。その事を私は身を持って体感していた。演劇の練習を踊子ちゃんや他の部のみんなに指導してもらい成長してきた。その実感がある。花でも人でもおんなじ。そんな事を成長した花たちを見て思った。

 そうしている内に、おさげを揺らしじょうろを抱えながら小走りでこちらに向かってくる後藤さん。

「お待たせしました!」

 息を切らせながらそう言うと、真っ先に花たちに水をやり始めた。自分の額の汗を拭くより先に。そんな後藤さんの姿を見ていると余計に花たちが輝いて見えた。

 

 その後、気が付けば準備の時間になっていた。公演の30分前に演劇部と私が会場となる体育館に入り最終的な打ち合わせを始める。小道具係や照明の部員達が脚本片手にステージ上で身振り手振りをして最終調整に入っている。

「やっ! どう、緊張してる?」

 そんななか、私の肩を叩いて言う踊子ちゃん。

「あっ、踊子ちゃん……緊張してるよ~! も~~」

「はははっ、そりゃそうだよねぇ、こんな人前で演技するのなんて初めてだもんねぇ」

「そうだよ~、ちゃんとフォローしてよね~?」

 今更になって、というか、今になってまた、緊張が再熱してきた私は、不安いっぱいで踊子ちゃんにすがりつく。

「出来る限りはね……まあ」

「歯切れ悪いなぁ……」

 ……まあ、主役である私をフォローというのも限界があるよね。結局は自分次第なのだから。

 

 私がいるのはステージ横の暗い舞台袖。一応電気スタンドが用意してあって、脚本を読んだりできる位の明るさ。今はまだ薄暗い程度だけど、舞台が始まると体育館の電気が消され、ここは真っ暗になる。電気スタンドの光量が全てだ。

「じゃあ、私は他に行くけど、みんなるみの事、応援してるからね! やりたいようにやればいいから」

 そう言って、もう一度、私の肩を叩き踊子ちゃんは他の部員の元へ行った。

 ……そっか踊子ちゃん、私の緊張を解すために少しでも傍にいてくれたんだね。部長だから忙しいのに、貴重な時間を使って。

 見れば、踊子ちゃんは小道具の子、他の裏方の子と色々最終チェックをして回っている。他の役者の子は、既に脚本を見て役に入りこもうと集中しているようだった。

 ……私も、みんなを観察している場合じゃない! 集中しよう……!

 

 暗くなった体育館に全校生徒が集合しざわざわした声が聞こえ始めて10分もした頃、踊子ちゃんに「そろそろ始まるよ」と一声かけられ、気を引き締めていると、私たちの演劇がいよいよ始まるアナウンスが流れた。その後、初めのナレーションが終わると、舞台が明るく照らされ、草原の満ちた自然が顔を出す。

 

 地味な私服の衣装を着た私が飛び出して、舞台を所狭しと駆け巡る。

 ……初めの演技が動きで良かった。何度も練習した動きだったから自然と体は動いた。それでも緊張で少しぎこちない出だしだったけど、動き回る内にそれもなおる。

 そして、お父様と会話するシーン。客席は予想通りざわざわ……私が主役だと知らない人が大半だからだ。でも、思ったほどじゃない。舞台から離れた席と本番の雰囲気がそこまでうるさくさせないのか、あるいは役に入り切った私の耳に入らなかったのか。

 

 とにかく――精一杯やった。前を見渡しても客席は暗くほとんど見えない。それだけに堂々と練習通りの演技ができた。

 主役なので私は出ずっぱり。すぐさま次のシーンがやってきて気持ちを整えている間すら無い。

「ほら、シンデレラ、屋敷の掃除がまだじゃないか! まだ、庭の剪定のあるんだ! 早くおし!」

 踊子ちゃん演じるまま母に足蹴にされながら、演じる私。

 くぅ! 演劇の舞台なのに、関くんの悪そうな顔が頭に浮かぶよ~! 

 でも、耐える。耐えきる! これは関くんとの闘い! ここを耐えきれば……耐えきれば、後は誰もがうらやむシンデレラストーリー! それは、言わば関くんへの勝利! 関くんを自由にする権利!!

 

 そして、私はまま母と双子のいじわる姉妹の執拗ないじめ……いじめ……いじめに耐えて、耐えぬいた! そうよ、私は耐え抜いたのよ! 

 

 場面が変わりスポットが当たる――。王子が妃を決める舞踏会……それに出るため、一着しかないドレスを引き裂かれた私が、家の裏庭でフェアリーゴッドマザーに出会うシーン。フェアリーゴッドマザーの魔法により、ドレスは綺麗で艶やかなものになり、かの有名なカボチャの馬車が登場――大道具一番の自信作との事――その煌びやかな馬車に乗り込み綺麗なドレスに身を包んだ私が舞踏会に向かう。シンデレラの見せ場の一つにして灰かぶりのエラがイメージとしての『シンデレラ』に生まれ変わる転換期。その心沸き立つ魅力あるシーンに会場が沸き立つ。

 

 そのシーンを終え、舞台裏に帰る私。この後のシーンは私がいないシーンが入りその後、小休憩なので、前半戦終了って所だった。

 と、そんなタイミングで来た踊子ちゃんが笑顔で、

「やっと、幸せの幕開けだね」

「あはは……あのいじめに耐えきったからね~これから『シンデレラ』の始まりだよ」

 上機嫌で私が言うと、

「フフ……ああ、あと王子の役……変更になったから」

 踊子ちゃんは急にわざとらしくそう言うと、舞台袖の逆側に繋がる道に歩いて行った。

「…………えっ?」

 変更になったって……今!? こんな急に!?

 と、気分が高揚していた私は踊子ちゃんの言葉を理解するのに時間を要し気が付けば聞こうにも踊子ちゃんは既に姿を消していた。

 そんなことって……呼吸を合わせるのとか、相手が変われば勝手も変わるのに……当然それに気が付かない踊子ちゃんじゃないだろうけど……でも、じゃあなんで? いくらあっけらかんな踊子ちゃんでも、それは無いんじゃない……?

 そんな事を思いつつ、憤っていた時、ふと見上げると誰か……後姿。王子役の衣装に身を包んだ男子。

 うわ……えっ? だれ? えんじ色が中心の英国の軍服がモチーフなのは小道具の子の趣味らしい。ピシッとしていて、黄色の紐のようなものがいくつも垂れ下がっている独特なデザインがとてもかっこいい。

 そして、裏方の子に衣装を着る手伝いをしてもらっていたその男子が振り向いた。

「! ……関くん!」

 カッコイイ……。……って、見惚れている場合じゃないっ! 確かにすらっとした関くんがあの格好の良い衣装を着れば、かっ、かっこいいけれども……! 

 そのまま関くんは私の方に一直線に向かって来る。

「せっ、関くん……!? なに、どうしてそんなカッコ……?」

「いや、実は……王子役……俺なんだよね」

「はえぇ~~っ!?」

 思わずのけ反って驚く。すると関くんは困ったように視線を逸らした。

「えっ!? 関くんが王子役って……だって、確かに演劇部で王子役は……」

 私の言葉を遮るように関くんが、

「……それはダミー、実は最初から俺に決まっていたんだよ」

 ……そんな。

 私は今までの練習風景を思い出していた。すると確かに王子役の男子はあまり身が入ってなかった気がしなくもない……。それがその子の性格だと思っていたけれど……よく考えるとそんな身が入っていない演技をしていても踊子ちゃんは私が見る限りは一度も指導をしていなかった。今考えると不自然だ。

「はっ……!? じゃあ、もしや」

 そこで、私は更に気が付いてしまう。すると関くんが察したように、

「そう、シンデレラ役も横井さんで初めから決まってたんだよ」

 と抑揚なく言った。

「やっぱり! ……でも、どうしてそんな事……」

 私が言うと、関くんはふぅと一息付き、潮時と言わんばかりに口を開く。

 

 ……その時、関くんの口から説明された理由は私の予想を裏切る物だった。

 

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