視線のるみちゃん   作:つば朗ベル。

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(4)  一挙両得

 勉強に集中できない……そんな、不安を抱えていたのは今に始まったことじゃないけれど、その理由はいつもとは違って関くんの遊びに見入ってしまってという訳ではなかった。

 昨日見た、後藤さんと関くんとのやり取り――仲良さそうに一緒に帰っていた二人――を見てからというもの、心がむずかゆくて落ち着かない。頭から離れなくて勉強にも集中できない。そんな気持ちだったのだ。

 実は2限目と3限目の休み時間、笑顔で私に話しかけてきた後藤さんを適当な理由で邪険にしてしまった。私がいつもの通りに話せる自信が無かったといえ、悪いことをしてしまったし、後藤さんも薄々私の態度がおかしいことに気が付いたかもしれない。だから、本当は放課後にでもゆっくり後藤さんに話を聞こうと思っていたのだけど、昼休みに早めに話してスッキリしておこう! そう思い立って息をついた所で、昼休みを告げるチャイムが鳴り響いた。 

 

「どうしたの? るみ、険しい顔して……」

 弁当箱から顔を上げた友香ちゃんに怪訝な顔で言われる。

「えっ? そんな顔してた?」

「なんか知らないけど昼休みくらい緊張ときなよ」

「あ、あはは……そーだね」

 そう指摘されたことでなんとか笑顔を作ってお弁当を食べるが自分でも顔が引きつっているのが分かる。う~んこんなにも、昨日の事が気になってしまうなんて……メンタル弱いのかな、私。

 そして、ご飯を食べ終わって……

「ふぅ……ご馳走さま! じゃあ、悪いけど二人とも私、用事があるからっ!」

 そう二人に告げると私は急いで、後藤さんの元へ向かった。

「うわ、なんだ今日の横井……真面目な顔したり、作り笑顔だったり、慌てて去ってったり……百面相横井か……!?」

 

 ……えーっと、外に向かったってことは多分……あ、やっぱり。

「後藤さんっ……!!」

 後藤さんは、学校の外にある花壇でお花に水をやっていた。学校の脇にあってあまり人の通らない場所だ。

「えっ……よ、横井さん? どうしてこんな所に!?」

 後藤さん凄く驚いている……まあ、こんな閑散とした場所だもんね。

「外に行ったのが見えたから、ここかなーと思って……あの、今ちょっといい?」

「えっ? あっ、はい。良いですけど……あの、横井さんから来るなんて……あの、間違いだったら、申し訳ないんですが……横井さん、今日私の事避けてませんでした……?」

 じょうろをすぐ下のコンクリートの上に置くと困ったように私を見て言う。

「えっと……あーーうん……ごめんね、そのことも含めて、ちょっと話があるんだけど」

 やっぱり、気が付いてたのか……悪いことしたな。

 二人して、横長のコンクリートで出来た花壇の上に隣同士座る。

「えーーっとね……実は……昨日、後藤さんと関くんが……一緒にしゃべ……帰る所、見ちゃったんだよね……偶然、ね?」

 聞くのは凄く恥ずかしかったけど、丁度後藤さんが横にいるので顔を見ないで喋れた。

 ……そのまま、横を見ずに前ばかり見て答えを待つ。前方には所々に色が剥げた白塗りの校舎。

「……あーはい、昨日ですね……関くんと一緒に帰りましたよ! なんでも、関くんがガーデニングの事を聞きたいとの事らしくて……」

「……あーそうなの? ガーデニング……」

 そういえば、関くん前にそんな遊びしてたかも……。

「はい……関くん、お花とかに興味あるらしくて」

横をチラリと見て後藤さんの顔を見ると凄く嬉しそうにしている。

「えっと、その……後藤さんって、関くんと仲良いの?」

 そう言った後、後藤さんは一瞬、訳が分からないと言った感じで固まったけど、私の質問を理解したのか、

「それって、もしかして……私に嫉妬しているんですか? 横井さん」

 急に赤面させて言う。それを見た私も思わず紅くなってしまう。……もらい赤面?

「えっと、嫉妬……!? 私……嫉妬してるのかなぁ?」

「多分、間違えないですよ……!」

 興奮冷めやらない後藤さんが、そう言って私の手を取る。そんな根拠のない言葉に勢いでそうなのかと、受け取ってしまう。

「考えてみれば、そうでした……お二人はお付き合いされている相思相愛の仲なのに、他の女子が楽しく喋っていると不安になるのも当たり前ですよね!」

 目をキラキラさせて立ち上がってそう続けた。私も一緒になって立ち上がる。

「……って? えっ!? お付き合いされている? 相思相愛? 後藤さん……誰と誰の事を言ってるのっ??」

「え? 何を言っているんですか横井さん、横井さんと関くんの事に決まってるじゃないですかぁー!」

 そう言ってつないだ手をブンブン……エッ!?

「後藤さんっ! なんだか、分からないけど勘違いしてるよ! 私と関くんは……付き合ってないよ!」

「えっ? そう……なんですか?」

 毒気を抜かれ唖然とする後藤さん。ていうか、私と関くんが……? なんで、そんな勘違いを……? まあ、だけど……よくよく思い返してみれば、確かに後藤さんがいつも私と喋るたびに恥ずかしがったり、話が微妙に合わなかったり……思い当たる節があったかも……。

「もしかして……今までずっと、私と関くんが付き合ってると思ってたの?」

「は……はいっ!」

 後ろめたそうに緊張しながら答える。別に攻めてないんだけどな。

 ああ、でもそうだったんだ……なんだか、改めてそう考えると……うわぁ、凄く恥ずかしい。思わず、紅くなって熱い顔をパタパタ……手で扇ぐ。

「あのぉ……お付き合いしていたのは間違いだったみたいですが、やっぱり、私から見てお二人はお似合いだと思いますよ……?」

 私の顔を見上げるように上目づかいで後藤さんが言う。

「えっ……? えへっ……え、あ……そうかな? え、えへっ……えへへっ」

 なんだか変な笑いが込み上げてくる。

「あっ……良かった! 横井さん笑顔に」

 急に後藤さんが嬉しそうにそう言って手を叩く。

「えっ!? どうしたの」

「だって、さっきまで、横井さん不安そうな顔していましたから」

 不安そうな顔……確かに、後藤さんと関くんとの仲が分かった時から……昨日から続いていたわだかまりは綺麗に消えていた。

 

「あの……でも、今の横井さんは明らかに……その、関くんの事を気にしてらっしゃいますよね……? それはなぜですか?」

「ああ……えっと、それは……」

 ――私は、関くんに勉強を教えたことやそこで意識してしまったことを話した。さすがに、絵の事は関くんのプライベートでもあるので言わなかったけど、他は大体話した。

 

「なるほど……ということは、お互いに意識しあう男女の仲……その、出発点……記念すべき愛の回廊を歩き出したばかり……という訳ですね!」

 三つ編みの髪を両手に抱えながら興奮して言う。

「……って、そんな恥ずかしい言い方しないでっ!!」

「あ、あのでも……横井さんは関くんの事、気になっているんですよね? それって、好きになりかけている……っていうことですかっ?」

 恥ずかしがりながらも、どんどんと話を聞き出そうとする後藤さん。

 う~ん、この子引っ込み思案なのか、積極的なのか分からない……でも、凄くワクワクして目を輝かせてる……こういう話、好きなんだろうな。

 でも、好き……好きになりかけてるかって……そんなの、分からない。

「気になってるっていう意味では……そうなのかもしれないけど、好きかって聞かれると、良く分からないなぁ」

「はあ……やっぱり、現実の恋愛は中々単純ではないのでしょうか……私は人を好きになったことがないので良く分かりません」

 人差し指を唇に添えて後藤さんが言った。

「そっか……じゃあ、私どうしたらいいのかなぁ」

 溜息をついて言と、

「う~ん……関くんの気持ちはどうなんですか?」

「あんなだから、良く分からない」

「じゃあ、関くんの気持ちを知るのが先決ですね!」

「やっぱりそうだよね」

 ――結局、そんな感じで気が付くと、私の恋愛相談(?)の時間になっていた。でも、後藤さんに話せてスッとしたというか、改めて、関くんに話してみようかと思った。釈然としない関くんの気持ちも私の気持ちも。

 

 翌日の登校中。学校への道を歩きながら私はやけに緊張していた。入学式じゃあるまいし……単なる学校への登校でこんなに緊張しているなんて恥ずかしくて人に言えない。関くんの気持ちを探るため、今日は積極的に関くんに話しかけてみようと決心したものだから、なんだか変なプレッシャーに朝から緊張しているのである。朝も目覚まし時計のなる5分前に起きて、音が鳴る前に下に降りたからお母さんが驚いてたっけ……。

 

 そんな風に朝からの出来事を回想していると、もう目の前には校舎……学校に着いていた。関くんは大体私より早くに教室いることが多い……もし、居れば元気よく挨拶をして、今日話しかける勢いを付けようと思っていた。

 教室の扉を開けると、予想通り左後ろの隅に関くんが座っていて、他の生徒はそう多くはない……よし、今がチャンス。

「おはよー! 関くん!」

 私は満面の作り笑顔で、元気よく挨拶をした。

 当然、軽く何人かの生徒がこちらに顔を向けるが、これは予想済み……! 恥ずかしがってはいけない。

 ――が、そんな渾身の私の挨拶にも関くんは……プイっと私から目を盛大に反らして、何事も無かったかのように、机の中身を見ている。

 ……ちょっと。せっかく、私が覚悟を決めて恥ずかしい思いまでして挨拶してあげたっていうのに……無視するなんて、どういう神経してんのよ! もうっ!!

 

 そんな、私の怒りは顔に思い切り出ていたと思うけど、関くんは私を見向きもしないので気が付かれることはなかった。

 ……もう、こうなったら、今日いっぱい関くんがちゃんと反応するまで、永遠に話しかけてやるんだからっ!!

 

 それから私は、笑顔で内心は怒りながら、休み時間ごとに関くんに声をかけ続けた。

 だけど、その度に関くんは、教科書を読むふりをしたり、遊び道具をいじる振りをして私を無視し続けた。

 

「ほら、関くん~5限目も教室で授業なんだから、時間いっぱいあるでしょう? ずっと、私ここで一人で話してるよ~?」

 なんて、席でじっとしている関くんの傍で昼休みずっと話しかけたりした。関くんは目をつぶって、私を無視してくれたけど!

 

 結局、一日中関くんに無視されっぱなしだった。もう……こんなんだったらいつになっても関くんの真意が掴めないじゃないの……。

 そんな事を思いながら、下校しようと下駄箱を開けると……二つ折りになった紙が私の靴の上に無造作に置かれていた。

 もしかして……ラブレター? ……って、ないない。封筒にすら入ってないし……。

 それでも、一応周囲を気にして誰もいないことを確認して、開いてみる。そこには「教室では話しかけるな」とだけ。そして右下にローマ字で関くんのサイン……。

 教室では恥ずかしいって事かな……? 確かに私も少し恥ずかしいけどそんな事を気にしてたら誰とも話せないじゃない……。そんな事を思いながら紙をポケットにしまうと、私は帰路に着いた。

 

 そしてまた翌日。昨日は帰った後、どうしようかと考えていた。教室で話しかけるのを禁止されたら、外で二人とかの時にしか話せないじゃないの……なにそれ……ていうか、後藤さんとはあんな風に仲良く喋ってたくせに! あ、でも確かにあの時、他には人いなかったな……掃除終わる頃だったし……。もしかして、関くん学校でウワサとかされるのが嫌なのかな? だから、教室では話さない……? 

 そんな風に推察していた頃、昨日と同じくらいの時間に教室に入ると……関くんは来ていた。昨日のような風景。と、私を見るや否や前の方で談笑していた女子グループが、急に慌ただしく教室を出た。

「……なに?」

 誰にともなく口をついた。廊下からは騒がしい高い声が聞こえる……。なんだか……なんだか嫌な予感がする。

 関くんを見ると……私と同じように、出て行った子達を気にしたように廊下の方向を見つめた。少しして声が聞こえなくなると、教室とは思えない静寂が辺りを包んだ。

 私は席に付き、何の気なしに関くんを見つめる。多分普通の……男子中学生相応の顔立ち……まだ、あどけなさが残っていて、男というより男の子って感じ。それでも小学生の頃に見ていた男子から比べると、十分に男らしい顔つきや雰囲気がある。いつも、授業中にばかり見ていた横顔……その表情はとても豊かで、私を全く飽きさせない。授業中という声の届かない聖域で、奇想天外な仕掛けで私を魅了する……。外や家で会うとまた一層違った面が見れて面白かった。まるで、今ここに居る関くんが、あの時、家で勉強していた関くんとは違う人みたい。そんなバカみたいな考えを本気で思う。

 

 そうやって、しばらく見続けていると関くんは気が付いたように私を見た後、目をそらした。私なんかの顔を見て何を恥ずかしがっているんだろう……。なんだかそんな風に思ってしまう。と、関くんはもう一度、こちらを見る……いや、私の後ろ? を見て、後ろを見ろ! とのジェスチャーをしていてそれを見た私が振り返る。

 そこには、何人かの女子がいて扉の窓から私たちの方を見ていた。ってさっき出て行った女子グループじゃない……なんで、こんなこと……。

 前を見ると関くんが頭を抱えている。すごく気にしてる……やっぱり、関くん学校でウワサになるの気にして……でも、今だって単に私がちょっと関くんの方を見ていただけだし……いや、もしかしてずっと見られていたとしたら、困るけど。

 

 そんな風に、悶々としている内に朝のHRが終わった。だけれど、なんとなくいつもとは違う雰囲気……その違いは担任の先生も感じ取ったようで、「今日はどうした?」と、問いかけるも誰も明言はせず……でも、クラス全体がなんとなくいつもと違う雰囲気にソワソワしているようだった。

 

 そして、チャイムが鳴り1限目の休みに入った時だった。廊下に出る生徒が扉を開ける音と同時に慌てた様子で後藤さんが私の席までやって来た。

「横井さんっ! ちょっと……!」

 後藤さんはそれだけ言うと、私の手を引き、廊下に出ようとする。

「えっ? あの……まだ、教科書片づけてな……」

「そんなの後でいいですからっ」

 そのまま、後藤さんの勢いに押されて、引っ張られるように廊下に出る。

 

 そして、少し教室から離れてから後藤さんが咳払いをして、口を開いた。

「横井さん……マズイです。さっき、聞こえてきたんですが、どうやら教室内で横井さんと関くんの仲がウワサになっているようです」

「えっ!?」

「しっ! 声が大きいですっ!」

 と、周囲を気にする後藤さん。……予想していたことが起きてしまった。それもこんなにも早く。

「でも、理由は?」

「どうやら、昨日頻繁に話しかけていたのが原因みたいです。それと、朝に見つめ合っていたっていう話も……」

 おさげを両手でつかんで言う。

「昨日の今日で! そんな……たかだか一日中話しかけてただけじゃないのっ」

 そう言いつつも私の声は震えていた。

「横井さんにとってはたかだかでも、他の人から見ればそうじゃなですよ……大体、女子っていうのは常に噂話に飢えてますし、それがいつも一緒にいるクラスメート……ましてや色恋の話題となれば、格好の話題なんですよ……」

 …………そうかもしれない。中学生をなめてたよ!

「あ……でも、私と関くんなら前にも一度、話題になったじゃない、その時は一週間もしない内に自然消滅したよね? 今回も……」

「いえ! 今回はそうはいかないと思いますっ!」

 遮るように後藤さんが言った。

「え、どうして?」

「前は、確か……横井さんが、関くんの下駄箱に手紙を入れたのをラブレターだと勘違いされたってだけですよね? それなら、すぐに誤解が解けても、今回は目撃者が多いですし、横井さんもハッキリと否定できないでしょう?」

 う~ん、確かに、話しかけたのも見ていたのも事実だからねぇ。

「でも、だって……関くんが教室では話さないっていうから、私も意地になっちゃって……私も関くんと話したいのに」

 私はふてくされた様に言った。

「なるほど……それなら……」

 後藤さんはそう言ってしばらく考えた後、

「もういっそ、お二人でデートしたら良いじゃないですかっ!」

 パァッっと明るい表情で人差し指を立てて言った。

「って、なんでそうなるのよっ! 後藤さんが見たいだけなんじゃないのっ?」

「そんなっ! これは一石二鳥の解決策なんですよ!? 考えてもみてください! 横井さんは関くんと学校以外の場所で関くんと会ってお話ができる! そしてウワサに関しては、事実無根という訳じゃなく今は否定も肯定も出来ないわけですから、実際にデートしてお互いの気持ちを確かめる! ほらどうですか! 完璧じゃないですかっ!」

 そう言って、おさげをブンブンと振り回す。すごい乱れてるー。

「いや……でも、それって……」

「それってなんですか? 良い案だと思いますけど?」

 自信満々に言う後藤さんを見て……私は、興奮した気持ちを抑え、落ち着いて考えてみる事にした。えーと、えーと……。

 

 ――そして気が付いた。確かに良い案だわ!!

 確かに、今のままではウワサに曖昧な態度しかとれない……それで、関くんとギクシャクしても嫌だし、そんなウワサに惑わされたくない! ……それに、一番大事なのは関くんがどう思っているか……その、ずっとモヤモヤしている聞けないことを聞くこと! それなんだから。うん、いいじゃない。関くんが外でしか話さないっていうんだったら……デートでもなんでもして恥ずかしがる関くんとイチャイチャしながら連れ回してやるわよ! それで……それで、あの、思わせぶりの関くんから本音を聞き出して、すっきりしてやるんだからっ!!

「ふふふふふふふふ」

「うわっ! 急に悪魔のような笑み! どうしたんですかっ横井さん」

「ありがとう、後藤さん、私デート頑張るわ。ふふふふふふふふ」

「乙女のようなセリフなのに、ちっとも可愛くない! むしろ、悪女! そしてふが多いっ!」

「どうしたの? 後藤さん、そんなに声を荒らげて」

「今度は、らが多いっ! ……いや、多くないっ!?」

 

 画して、私は関くんとデートすることになった(強制)のでした♪

 

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