視線のるみちゃん   作:つば朗ベル。

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(5)  せいてんのへきれき

 一限目の休みに後藤さんと相談した後も微妙な雰囲気がクラスを包んでいた。理由は勿論、私と関くんとの事だろう。関くんに話しかける度に雑談していた子の口が止まり、チラチラとこちらの様子をうかがっているのを感じながら放課後まで過ごした。

 そして、関くんが帰ろうと鞄を机から取るのを見て、さりげなく遠くから付いて行く。他の人に気が付かれないよう、十分に注意し校門を出て誰もいない事を確認すると、私は関くんに声をかけた。

「ちょっと、待って! 関くんッ!」

 足の速い関くんはスタスタとどんどん進んでしまう。制服の裾を掴むとようやく関くんは停止した。

 無言で振り返り私の顔を見る。

「関くん……もう、学校も近くないし話せるでしょ?」

 私がそう言うと、キョロキョロと辺りを確認し、

「……まあ」

「そう? よ、よかった……」

「それで……?」

「えっ? ……あーえーっと」

 私は話そうとすると、また、周囲を気にする関くん。ああ、そっか。こんな所で立ち話っていうのもなんだもんね。

「どこか、落ち着ける場所で、はなそっか?」

 そう言って、関くんの隣に移動し一緒に歩き出した。

「あーーうん……例えば?」

「そうだなぁ……関くんの落ち着ける場所なら」

「フム……今日はウチは、ちょっと無理なんだけど」

 少し申し訳なさそうに言う。

「ああっ、そっかぁ……」

 ……何気に期待してたな。そっか、関くんの家がダメとなると……どこがあるだろうか。図書館っていうのも……今回は勉強しに行くわけじゃないし……となると、ウチしかないかぁ……。

「……えーっと、ウチ来る?」

 遠慮がちに顔を見ながら言う。変な目的も無いのになんだか男の子を自分の家に誘うのってやっぱり恥ずかしい。

「えっ? よ、横井さん家に……?」

 珍しく驚いたように聞き返す関くん。

「う、うん…………いや?」

「や、そんなことはないけどっ」

 なんてしどろもどろになって、ちょっと可愛い。

「じゃあ、決まりね!」

 私はエヘヘと笑って、関くんの腕を引いて行った。

 

 自宅に着くと鍵がかかっていた。まだ、誰も帰っていないみたい。私は鍵を開けると好都合とそのまま関くんを部屋まで誘導する。

「あ、私……先に着替えてくるね! 関くんは……ここで、待っててもらえる?」

 私は、自分の部屋の隣にある兄の部屋を指して言った。

「あ、うん……」

 関くんも緊張しているのだろうか、素直にそれに従った。

 

 さて……どの服を着よう……。って、制服のままだと落ち着かないから着替えるだけなのに、そんなデートじゃあるまいし……って、今からデートしようって言うんだった……。ああ、やっぱりなんだか緊張するな。スカート……スカートでいいかな……なんか、あざといかな……? いや、考えすぎだよね? 普通だよね? 

 ……そんな風に鏡の前で迷う私。結局、無難だけど着慣れた可愛い服でまとめる。スカートも自然……だと思う。

 

 そして、関くんのいる部屋をノックする。

「おまたせ、着替え終わったよ」

「うん……」

 出てきた関くんは、目を上から下にやって私を見回す。……どんな風に思ったのだろう。

「ささ、入って」

 そう言って私の部屋に入ってもらう。男の子を自分の部屋に入れるなんて、お兄ちゃんと違ってやっぱり緊張……。

 入った途端、関くんはキョロキョロと部屋を見回す。

「い、一応綺麗にしているけどあんまり見ないでね……」

 と恥ずかしながら言うも、もう興味が失せたのか落ち着いて床に座りこんだ。

 

 その後、自分の部屋に私服の自分と関くんが居るという特殊な状況に妙な緊張感が私を支配する。いつもリラックスしている場所で、関くんが居るっていうのがね……。

 そうして、何分か声をかけられずにいた頃、

「……えっと、何か話があるんじゃなかったっけ?」

 しびれを切らしたように関くんが言う。

「あっ……まって! えっと、えっとね……い、いま……話すから」

 う~ん。後藤さんと決めた時はあんなに意気揚々に言う気満々だったのに……いざ、こうして言う時になると、なかなか口をついて出ない……ま、まあ、後は言うだけ! っていうこの状況まで持ってきたのは、上出来かもしれないけど……。

「えっと……」

「……えっと…………」

 うわ~ん。意識すればするほど言葉が出ない~ッ!!

 ……そんな、私に愛想を尽かしたのか、関くんは溜息を付き立ち上がるとドアを開けようとする。

「あっ! ま、まって~! せきくんーっ!」

 私は慌てて立ち上がって関くんにすがりつき体で止めようとする。

 せっかく、久しぶりに話せる機会が出来たっていうのに! 今を逃がしたら今度はいつ外で話せるか分からないっ!

 それでも、関くんは帰ろうとしたので、もっと強く関くんの体を引っ張った時だった。

「うわっ」

 ――バターン。と、大きな音がして関くんが私に引っ張られた反動で倒れる。そして私も一緒になって倒れこむ。

「きゃああっ!」

「……あわっ、ご、ごめん」

「い、いや私こそ……無理やり引いちゃって……」

 そして、体勢を整えた関くんが私に手を差し伸べてくれる。私はその手を取ろうと手を伸ばした時だった。

 関くんは不意に視線を下の方……にやって何か見ると、3秒位停止した後、なぜか手を引っ込めてそのまま背を向けてしまう。

 ――えっ? えっ? なに? どうしたの?

 私は倒れた姿勢のまま、関くんの視線の先を辿る……と、スカートがめくれあがって、太ももが大きく露出していた。幸いパンツは出てなかったけど、結構ギリギリまでめくれてしまっていて、恥ずかしさのあまり、瞬時に直して正座の体勢になった。

「わっ、あっ……うう、あううぅぅぅ…………」

 顔が絶対、紅くなってる……ううう。

 少し目を上にやって、関くんの様子を見ると背中を向けたまま……何を考えてるんだろう。と、関くんが立ち上がって、

「もう帰るわ……」

 横顔を見せ、それだけ言って階段を下りて行った。

 私は恥ずかしさと、突然の事に今度は引き留める元気も隙もなくその場で座りつくした。

 はぁぁ。えっと、何が起きたんだろう……。さっきの反応を見るに……関くんにめくれたスカートを見られて……帰られた。……私のせいじゃないの! 帰る時の横顔……関くん、顔紅くなってた……ってことは……。

 

 ……そんな事を考えだらしなく座っていると、不意にガチャリとドアの開く音が聞こえ、驚いて見ると、

「関くん……?」

 関くんが戻って来た。そして、そのままそそくさとドアを閉め、鍵も閉める。

「……って、関くん何してんの!? どうして戻ってきたの?」

 そんな風に慌てて言いながら、私は立ち上がり、関くんが見ていない隙にスカートのヨレを直す。

 すると関くんはこちらを見て、『シッ!』っと人差し指を立てたポーズ。

 ――しゃべるな? どういうこと?

 と、その理由は直ぐにわかった。階段から音がする。ドンドンと周囲を気にせず上ってくる音はもう、聞き飽きたほどに聞きなれた足音――お兄ちゃんである。

 ……ああ、そうかお兄ちゃんが帰ってきてUターンしてきてここにかくまったってことか……確かに友達の家で見たことない兄弟に遭遇すると、すご~く気まずいよね……。

 

 お兄ちゃんはそのまま、隣の自分の部屋に入った。いつも通り独り言がうるさく、壁が薄いので何を言っているかまでは分からないも、声が聞こえる。関くんは年上の知らない男が嫌なのか、まだ気にしているようだ。

 んと……これはチャンス? チャンスでは……? 

 関くんはどうやら帰りそうもない。理由はおそらくお兄ちゃんに見つかるのが嫌なんだろう。確かにお兄ちゃんは宇沢くん的な雰囲気がある。そんな部分を感じ取っているのかもしれない。

「せきく~ん」

 小さめの声で関くんを呼ぶ。そこまで小声じゃないと隣に聞こえる訳じゃないけど話している位は結構分かる。

「こっち、この辺りだったら話しても聞こえないから」

 そう言って、ベッドの所まで誘導する。ベッドは壁の遠くにあるためここで話せば隣には聞こえない。関くんは致し方ないといった様子で私の隣まで来た。

「ほら、ここ座って?」

 そう言って、私の隣に座らせる。ドアから遠い奥側。

 関くんはお兄ちゃんの登場に少しテンパっているのか、素直に従う。

 よし! ついに関くんを手中に収めたわ!(?)ここから更に……ベッドに置かれた手に……私の手を重ねる……!

 恥ずかしながらも私が手を重ねると、関くんは驚くものの……隣の部屋を気にしてか声は出さない。

「関くん……」

 私は手を重ねたまま横を向いて関くんに話しかける。

「えっ……」

「聞きたいことがあるの……」

「……!」

 関くんの顔に緊張が走る。

「えっと……関くん言ったよね? 『俺の遊びに真剣に付き合ってくれたのは君が初めてだ』って……あれ、どういう意味?」

 言えた。ついに聞いた。ずっと疑問だったこと。ずっと気になっていたこと。

 すると関くんは、恥ずかしがりながらも私の顔を見て、

「……あれは、そのまんまの意味だよ。前まで一人で遊んでいて……でも、君が一緒に遊んでくれるようになって、俺は遊びの計画立ててる時も好きな時なんだけど……いつからか君が見てる、入ってくる前提で考えるようになってた……」

 ……関くん。そんな風に私の事。

「ふふ……私は何気なく、関くんの遊びに付き合っていただけだったのに……関くんの中では、どんどん私の存在が大きくなっていってたんだね……」

 言って、関くんを見る。すると感心したように頷いて、

「そうかもしれない」

 と言った。そしてそのまま関くんの顔を見ながら思った。

 ……ていうか私ドサクサに紛れてとんでもないこと言わなかった? 関くんの中で、私の存在が大きく……あーもう、なに言ってるんだろ。つい、思ったことをそのまま口にしちゃった。恥ずかしい。

 ああ、でも! 今が関くんに話す絶好のチャンス! 学校ではまた話してくれないだろうし……いま頑張らないと……。

 私はうつむきながらもチラチラと関くんの方を見る。と、関くんは私達の間……ベッドに置かれた手を見ている。って、まだ、重ねたままだったっ!

 すると、関くんは手を持ち上げ私の重ねられていた左手を大きな男の子の両手でギュッと包み込み、

「横井さんは……もっと、自分が可愛いって事、自覚した方がいい……」

 私の目を見て淀みなく言った。

 ――えっ? えっ? なに!? 急に……?

 私はそのまま、なし崩しにされるがまま関くんを見ていると、

「よ、横井さん……今度、一緒にデート……行かない?」

 歯切れ悪く……でも、一生懸命に笑顔を見せながら関くんが言った。

「……!?」

 ……えっ? デート!? ……まさか、せっ、関くんの方からっ……!?

 私はあまりの出来事に驚き、驚き、本当に驚いて、声はおろか、どんな顔をしていたかも覚えていない。言われたことの意味を理解するのに精一杯で、頭が追い付かない。そんな感じ……。

 

 ――今思えば、多分とんでもない顔で、固まっていたんじゃないかなぁ……。我に返ったのは、関くんが帰った後……多分、しばらく時間が経ってようやく落ち着いた頃には、もう、関くんが帰った後だった。帰る時にも何か話したと思うけど、動転していてほとんど記憶にない。とにかく直前に言われたことで頭がいっぱいだったから……。

 

 静かな夕暮れ時の外を見ながら時間の流れを感じる。そして思い出す、数時間前の事。衝撃的すぎて現実とは思えない。だけど、部屋にかすかに残る関くんの残り香が、確かに現実だったのだと教えてくれるのでした。

 

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