視線のるみちゃん   作:つば朗ベル。

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(7)  二律背反

 ……ああ、そうか。そういう事か。それだと全部説明が付く。不自然だった関くんの行動……それに、おそらくあの絵の事も……。

 

 たぶん、10分位だろうか……ベンチに座ったまま私は考え事を続けていた。そして、そんな結論が出て少しした後、目の前に現れた関くんから声がかかる。

「横井さんっ!」

 珍しく、慌てた様子の関くんが私を発見すると、そう言ってホッとした表情を見せる。

「あっ……関くん、どうしたの?」

「どうしたのじゃないよ……ちょっと、探し回ってたんだよ」

 はぁ……と、息をついて関くんが言う。どうやら走って探していたみたいで息が切れている。

「えっ? でも、さっきもいたよね? ここ」

「考えれば、そうなんだけど横井さん、なんだか普通じゃない感じで走って行っちゃったから、てっきり帰っちゃったのかもと思って出口付近で探したり、店員の人に聞いたりしてたんだよ」

「えっ……そ、そうだったんだ、ゴメンね」

「い、いや、こうして見つかったから別に良いけど……」

 少し、気まずい私は立ち上がってすぐに動ける気を見せ、

「あっ、じゃあ次は何処に行こっか?」

 そう言って雰囲気を変えようとする。

「ああ、次は電話でも言ったけど、ショー見に行こう」

 そう言って、歩を進める関くん。ゲームセンター併設の室内を出て、そのショーの施設まで行く。施設に入ると入場券を買う券売機があり、その横に次のショーの時間が書いてあった。

「あっ……」

 関くんが困ったような顔を見せる。

「どうしたの?」

「いや、もう始まっちゃってるんだよね、見たかったやつ……もう、今日はないみたいだし」

「ああ……そう、なんだ」

 関くんの見たかったらしいショーは、7分ほど前に開始されていて今から急いで入れば見れないこともないけど中途半端になってしまう。関くんとしてはしっかり見たいようで今から入る気はないようだった。

「ご、ごめんね……私を探してる時間がなければ、見れたのに」

「いや、別にそんなに気にしてないよ、でも困ったな……これが見れないとなるともう今日の予定は無くなっちゃうんだけど」

 そう言うと、ガヤガヤとうるさいその空間から取りあえず二人で出た。

 

「どうしよっか?」

 扉を閉めた途端、外の穏やかな空気で静かになる中、関くんが言った。

「…………」

 ――やっぱり、そうなると私の予想では、

「……横井さん?」

「えっ? ……ああ、あ、なんだっけ?」

 ――つい、さっきの事、考えてしまっていた。

「なんか、さっきいなくなってから横井さん……心ここにあらずって感じだけど?」

「えっ!? あ、あ~いや……ごめん」

 図星をつかれて謝ることしかできない。

 関くんを見ると、少し考えたような表情を見せ、

「おもちゃ屋……いく? ここ出ることになるけど」

「あ、う、うん」

 なんだか、良く分からいけど二つ返事でそう言ってしまった。

 

 そのまま、バスで帰りバス停に到着すると、

「こっちだよ、少し歩くよ」

 そう言って関くんは私を誘導する。

 しばらく、お互いに口数少な気に歩いていた。

 トヤマ模型店……と書かれたおもちゃ屋にたどり着き、関くんは躊躇なく中に入る。私は通りがけに見たことはあったけど中に入ったことはなかった。それほど大きくない個人商店で、手書きの垂れ幕などがあり、古くから営業している年季が店内からは感じ取れた。

 店内はゲームやおもちゃが所狭しと、置かれている。人が一人通るのがやっとな通り道の両手には将棋やUNO、オセロなどのボードゲームがあった。

 ……ああ、なんか色々思い出すな。

 そんな私にとって珍しいおもちゃの数々に目を奪われていた私に、

「横井さん、こっち」

 と言って、関くんが手招きしてくる。

「えっ? なになに~?」

 私が機嫌よく向かった先には、ショーウインドウに飾られたロボットのおもちゃがあった。

「これ、ロボット家族だ!!」

 それは学校で見慣れた、関くんがいつもバッグに入れて持ち歩いているロボット家族そのものだった。お父さんにお母さん、そして子供もちゃんといる。

「うわぁ~! かわい~~! 関くんここで買ったんだぁ~」

 しばらくショーケースに張り付いて観察する。ショーケースの上には箱に入ったロボット家族各種が陳列してあった。

 結構、数が置かれていて何気に人気の商品のようだ。可愛いもんね。

「ああ、よかった」

 しばらく目を奪われていた私に関くんがホッとしたようにそう言った。

「え? 何が?」

「……いや、横井さん、ここ来るまでなんだか元気なかったから」

 あ……関くん気が付いてたんだ。まあ、確かに無口で顔も強張ってたかも……。

「……関くん、これ私に見せたくてここにきたの?」

「うん……横井さん、好きそうだったから」

 そっか……関くん、私に気を使って……。でも、

「確かに、元気になったよ……でも、私が好きなのは関くんの持っているロボット家族で、ここにいる家族じゃない。見た目は同じだけど……多分私は、関くんが一生懸命想像した物語に沿って命が吹き込まれる……そんな血の通った家族たちが好きなんだもの」

 それは、口にしている今まさに気が付いた事だった。最初は心躍ったけれど、私はロボットのおもちゃが好きだという訳じゃない。だからしばらく見ると段々と冷静になっていた。

「あっ……! でも、嬉しかったよ? ワクワクしたし……」

 言った後、せっかく、私の機嫌を取り戻すために連れてきてくれたのにそんな事を言うなんて……と思って取り繕う。なんだかんだ言ってもちょっと欲しいしね……。

「……いや、それはなんとなく分かっていた事だったから」

 関くんは以外にもそう言うと、今度は急にそわそわし始めた。

「……どうしたの? 関くん」

「あ、あのさ……だったら、ウチ来る?」

 と、急にそんな提案する。

「えっ!?」

「いや、家に来たらロボット家族も見れるし……」

「ああ、そっか」

 なんだが、今日は関くんに気を遣われてばかりだな……でも、素直に喜べない理由がある。関くんは私に隠し事をしている……そして、そしてそれを打ち明けるにも都合が良かった。

「あの、私も関くんに言う事があって……」

「えっ?」

 今度は関くんが驚く番だった。

「だから、関くんの家に連れてって」

 私が関くんの目を見てハッキリと言うと、

「う……うん」

 と、関くんは唾をのんで傾いた。

 

 関くんの家に向かって二人で歩くさなか、関くんは考え込んでいる様な顔をしていた。自分から家に誘ったのに、逆に私が行きたいと言い出したので狼狽しているのだと思う。

「あの……」

「えっ?」

「話って何?」

 恐る恐る関くんが聞く。

「……ここで話したら意味ないじゃない」

 私がそっけなく言うと、諦めた様子で前を見た。

「着いたよ」

「うん……」

 見れば分かることだけど、気まずいのかそう言ってドアを開ける。

 そのまま、久しぶりに関くんの家に入り、関くんの部屋に入る。

「えーと、なんか、飲む?」

「いや、いい……じゃあ、話聞いてくれる?」

 私はベッドに腰を下ろしそう簡潔に言った。

 重い雰囲気を感じ取ったのか、関くんも無言でその場に座る。

「……ロボット家族、見るような雰囲気じゃないね、ハハ……」

 ぼそっと関くんが言う。

「じゃあ、言うけど……関くん、私に何か隠している事あるでしょ?」

 

 

 

 ――横井さんのその声は、今まで聞いた中でも特に棘のある声だった。占いが終わった後、逃げるように俺から離れ、探し回った挙句に発見した横井さんは何か悟ったような落ち着いた表情をしていた。その時から何か思いつめたように、再三下を向いていたけど、おもちゃ屋では明るい笑顔を見せていた。が、それも束の間の事だった。

 俺が家に来るかと誘うと、逆に話があるから連れてってと言う。何となく嫌な予感がしながら部屋に招き入れると、案の定答えにくい質問を振ってきた。

 

「……何が?」

「自分からは言わないつもり……?」

 真っ直ぐな瞳で横井さんが言う。

「…………」

 しばらく黙っていると、決心したように、

「じゃあ、言うけど……関くん、私の事、からかってるでしょ?」

 むくれた表情で睨んで言う。

「……なにが?」

 なおも俺がとぼけていると、

「はぁ……じゃあ言うね、関くんあなた、後藤さんと繋がってるでしょ!?」

 高々にそう宣言する。

「な、何を根拠に」

「分かったわ、全部私の口から説明してあげる……」

 そう諦めた様子で息をつくと、横井さんは静かに語りだした。

 

 初めに不審に思ったのは、後藤さんにデートの事を話した時、後藤さんがデートの場所を言い当てた事……まあ、それはたまたま当たる可能性もあるけど、あの時、後藤さん焦ったような顔をしてた。だから、ずっと引っかかってた。そしてデート当日……今日の事だけど、関くん、妙に優しかった……。入場料もジュース代も払ってくれて、なんだかそれも不自然な気がした。だって、私たちまだ中学生だし、同学年なのに……男の子が全部出すなんてちょっと、不自然だよ。そして極め付け……あの、占いだよ。よくできていたとは思うけど、あれ関くんと後藤さんが打ち合わせして用意した占い店だよね? 不自然な位置にあったし出来が良かったから騙されそうになったけど……あの、おばさん後藤さんだったんでしょう? そう、あの不自然な長い帽子は後藤さんのトレードマークのおさげを隠すため……そして、おばあさんに見えた容姿は事前に関くんが特殊メイクを施したもの……間近で見れば気が付いたかもしれないけど、占い店の暗がりのおかげで誤魔化せたって訳ね。今考えれば、声も後藤さんと同じだった。少し声色を変えていたし、顔が全然違うから、まさか本人だとは思わなかったけどね。そして、あの占いの内容……あまりにも出来すぎていたし、聞いた時の関くんの反応……全然、驚いてなかったじゃない。あれは事前に後藤さんだって知っていたから、言う事も予想済みだったって訳でしょう?

 

 ……横井さんが言ったことは概ねその通りだった。

「いや……そうだけど、大体そうなんだけど」

「やっぱり! じゃあ、あれもそうよね……最初に私が関くんの家に勉強を教えに行った時あったノート……あれに書かれていた絵……怪盗Xが絵の下に書かれていたからつい、関くんの絵だって思い込んじゃったけど……あの絵、後藤さんの書いた絵でしょう? 思い出したのよ、美術の時間に私の顔を書いた後藤さんの絵をね! あれと同じ!」

「……まさか、それまで気が付いたとはね」

「じゃ、じゃあ! 関くんの……色んな、気持ちも……ウソだったってことだよね!?」

「いや、それは……!」

「わたし……せっかく、自分の気持ちに気付いて……関くんのこと……好きに……」

 そこまで言うと、横井さんは涙をこらえきれず目元に手を当て、そのままバッグを持ち部屋を出て行った。

「横井さんっ!!」

 バンッっと、玄関を閉めた音が聞こえた後、横井さんが走り去る音が遠くで聞こえた。

 

 ――確かに、横井さんが言ったことは9割合っていた。何かと恋愛ごとにしたがる後藤さんを使って、横井さんと恋愛ごっこをして遊んでいたのだ。横井さんのあの反応を見る限りそこまで分かっているだろう。伊達に俺の事を見ていないな。

 でも…………全部、ウソじゃない。勉強教えてもらったこと自体は、たまたま起こったことだし――事前に分かっていたから利用したけど――横井さんとプライベートで一緒にいる内に……俺も気持ちが変わってきていたのも事実だった。

 ……なにより、デートは俺も楽しみにしていたのだ。大体は後藤さんの計算通りに事が進んだけど、デート自体はれっきとしたデートで、純粋に楽しむ予定だったのだ。それがこんなことになってしまうとは……第一、横井さんはあの事には一切触れていない。そう、前に横井さんの家で話した時の事。あの時……手を合わせて見つめ合って、言葉にはしなかったけど、お互いに惹かれていた――そう、お互いに確信したはずだ! 

 だから……あえて、あの日の事は横井さんも触れなかった。でもそれは、まだ望みがあるって事だと、思う。本当に横井さんが俺の事を、好きなのだったら……。

 

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