魔法少女リリカルなのはvivid 紅き鉄腕 作:tomato88
「…………」
「………………」
「クゥ〜ン…………」
今、この部屋にいるのは私と紅葉とチャンピオンの3人だけ。 ノーヴェが気を使ってみんなを外に出してくれた。 私のためでもあり、チャンピオンのためでもある。 本当に優しいコーチだ。
「その犬、かわええな。君の自作?」
「うん。 紅葉っていうの」
「私、生物型のデバイスに憧れがあるんよ。 いいなぁ……」
「そうなんだ」
「うん」
そして、また沈黙。 さっきからずっとこんな感じだ。 お互い、なんて話出していいかわからない。
「その、今日は、ほんま、ごめん」
沈黙を破り、チャンピオンがそう切り出した。 だけど、私はなんのことかわからず、首を捻る。 実際、謝られることがあっただろうか?
「腕、折ってもうて……」
「あぁ、そういうこと……」
なんだ、そんなことか。 チャンピオンが私になにが言いたかったのか、なんとなくわかった。きっと、彼女はガイストを使いたくなかったのだ。任意で使えるかはわからないが、あの時は一種のトランス状態だったのだろう。 だから、加減ができなかった。 だから、腕を折ってしまった。そんなこと、気にする必要ないのに。
「チャンピオンが気にする必要はない。 格闘技をやっている以上、怪我は付き物」
「でも……」
見た目はあいつに似ているのに、性格は全く正反対だな。あいつなら、こんなに人を気遣わない。 そもそも、ちょっと、いや、かなり人を壊すのが好きな気持ち悪いやつだったはずだからな。 そう思うと、あの人が1番マシだったのかな?
「そもそも、知っている技を受けた私が悪い」
「エレミアの技、知ってるん?」
「知ってるのはガイストだけ」
私の言葉の意味をチャンピオンはよくわからなかったようで、頭に疑問符が浮かんでるようにみえる。 まぁ、仕方ないか。 ミカヤとジークの話によると、どうやら記憶は受け継いでおらず、戦闘経験だけを受け継いでいるとかなんとか。 だから、いつの時代にどんな技が出来たのか知らないんだ。
「チャンピオンは、エレミアがどうして『黒のエレミア』って呼ばれているのか知ってる?」
突然、自分の家のことを聞かれたチャンピオンは、驚いた顔をしたけれど、すぐに頭を切り替えて、私の質問について考え始めてくれたようだった。 だが。
「ごめん、わからない」
わからなかったようだ。 まぁ、別にだからと言って何かあるわけでもないし、そもそも、この質問にはそこまで大した意味はない。 ただ、話を始めるきっかけにすぎない。
「赤と青と緑の3色を混ぜると黒ができる」
私はあの人の記憶を懐かしむように思い出す。
「エレミアは昔、3つに分かれていた。 炎熱変換した魔力を使って武器を作る赤。 その武器を手に取り戦場に出る青。 そして、傷を癒す緑」
あの時は、良かった。 皆、仲良く手を取り協力し合っていた。
「1つの国にその3つの勢力があった。 お互いの勢力のリーダーであった仲が良く、それらは協力し合い、国を豊かにしていった。 だけど、あることがきっかけで、3つの勢力は敵対してしまった」
お姉ちゃんから聞かされた昔話。 私はこの話が嫌いだった。 誰も幸せにならない、残酷な話だったから。だけど、今は違う。 あの人の記憶を持ったから。 あの人の気持ちを知ったから。
「やがて、争いが始まり、国は荒れ果てていった」
チャンピオンは静かに真剣に私の話を聞いてくれている。 紅葉もいつの間にか目覚め、起き上がっていて心配するような目で私のことをみている。 頭を撫でようかと手を伸ばそうとして、やめた。 両手が包帯でグルグルで撫でられないと思ったから。それが少しもどかしい。
「争いが終わったのはそれから1年後のことだった。緑の勢力のリーダー出会った女が倒され、その後、赤の勢力のリーダーも戦いの最中、行方不明になった。争いに勝利した青の勢力のリーダーは生き残った者たちを1つにまとめ上げ、国を復興しようとしたが無駄だった。 そして、1人、また1人と国を離れていった」
ここに来てからわかった。 お姉ちゃんの話が嘘ではなく、作られた話でもなく、本当のことだということが。
「これで、話はおしまい。 まとめ上げた時の色が黒。 離れていったから土地がない流浪の民。 つまりはそういうこと」
ふぅ、と1回、息を吐き出す。 こんなに長く話したのは久しぶり。 昔から口数はそこまで多い方じゃなかったから。
「なんで、そんなに私の家のこと詳しいん?」
チャンピオンからの質問。 内容は聞きたくて当然のこと。 だけど、その質問は私の話を信じてくれているということ。だから、私も隠すようなことはしない。
「私はエレミアの子孫だから」
やっぱり、チャンピオンは一言、そう呟いて俯いた。噂では、エレミアの子孫はもうほとんど残っていないらしく、チャンピオンとその家族だけになっているらしい。だからか、何か思うところがあるのかもしれない。
しん、と静かな部屋の中でなんだか、居た堪れない気持ちになった私は何か話題はないかと全力で頭を回していた。
「君は、炎熱変換資質を持ってるから『赤のエレミア』ってゆーんでいいんよな?」
何か口にしようかと思ってた矢先に、突然、チャンピオンが顔を上げてそう聞いてきた。 いきなりだったので、びっくりしてしまったが、うん、と返事を返すことはできた。
「つまり、私と君は親戚?」
「そ、そういうことになるね」
チャンピオンが身を乗り出すように近づいてきた。 その目はなんというか、キラキラしたものになっていた。
「私、さっき生物型のデバイス欲しいーゆーたろ?」
「うん」
「実は、妹も欲しかったんよなー」
あ、これはやばいやつかも。 そう思っても、もうときはすでに遅くて、ベットの縁に腰掛けていた私の背中に回り、そのままホールドされた。
「いつもなーヴィクターになー娘扱いされるんよー! だからなー私も年下の妹みたいな子がいて欲しかったんよー!」
頭を撫でながら、そう言ってくるチャンピオン。 腕が動かせない状態の私はなす術がなく。
「チャンピオン、やめて」
そう言って、抗議するしかなく。 だけど。
「ジークって呼んでねーな」
全く聞いてくれない。 「私にはもうお姉ちゃんがいるんだけど」 と言っても「親戚のオネーさんやから関係あらへん!」と言われてしまった。
誰か、助けて。 そう願ったゆえか、救世主は、現れた。
「失礼、入りますわよ」
「え!? ヴィクター!?」
ガチャリと扉を開けて部屋に入ってきたのはヴィクトーリア・ダールグリュン選手だった。たぶん、彼女が1番最初に見た光景は我が子が両腕が塞がっている少女を襲おうとしている様だろう。
「ジーク? 何をしていますの?」
「え、あの、いや、これには……」
「問答無用! そこに直りなさい!」
しばらく私はジークの説教を聞きながら寝る羽目になってしまった。
あぁ、紅葉が暖かい……