魔法少女リリカルなのはvivid 紅き鉄腕 作:tomato88
「ねぇ、アリサ?」
「なによ、紅音」
「そろそろ離してくれない?」
「やだ」
「ほら、シートベルト付けないと車が出発できないから」
「やだ」
「ほら、運転手さんも困ってるよ? だから離して」
「やだ」
簡潔に言おう。アリサに捕まった。そして車の中でずっとアリサの膝の上に乗せら、抱き締められている。なのはとヴィヴィオはなのはのお父さんの車に乗ってとっくに行ってしまった。なのははアリサを止める役目、つまりはすずかがいない今、こうなることはわかってただろうに……
アリサは昔からそうだ。会うたびに私を撫でたり、抱きついたり、餌付けされたりした。なのは曰く『紅音ちゃんが忠犬ハチ公みたいにいつも誰かのこと待ってるからじゃないかなー? アリサちゃん犬、大好きだから』だそうだ。なのはが待ち合わせの時間に来ない時が多いんだもん。
「仕方ない。出てきて、紅葉」
『ワン!』
私はずっと体の中に隠していた紅葉を外に出して。
「はい、私の代わりにこの子を抱いてて」
「ワン!?」
「わぁ…… 可愛い〜!!」
アリサは私を解放して代わりに紅葉を抱き始めた。助かった。アリサが犬好きで。それと、ごめん、紅葉。今度、美味しいものでも買ってくるから。
私がシートベルトを付けたのと同時に車はゆるやかに出発し始めた。
▽▽▽
「ねぇ、なのは? 私に何か言うことがあるよね?」
「あはは〜。 その、ごめんなさい」
アリサの車で翠屋まで送ってもらった私は早速なのはを問い詰めていた。なのはに『積もる話もあるだろうから、私たちは先に行ってるね〜』と言われ連れてかれたヴィヴィオは兎も角として、知ってて私を見捨てたなのはには謝ってもらわなきゃ気が済まなかった。折角、海鳴を見て回る時間があったのに……
「まぁ、素直に謝ったし、許す」
アリサも久しぶりに私に会ったせいか、もしくは成長したおかげか、昔よりはだいぶマシになっていた。しばらく泣き付かれたりしたけど、それぐらいはね?
「とりあえず、夕飯食べよ。 折角、なのはのお母さんが作ってくれたものだし、ヴィヴィオも早く食べたそうにしてるし」
そして私は先ほどから目を光らせ、うずうずとした様子でお腹を鳴らしている親友を見た。確かにあのヴィヴィオがこうなるのはよくわかる。瑞々しい色とりどりの野菜にジューシーなハンバーグ、トロリとしたコーンスープ、そして、主食にスパゲッティ。デザートに翠店名物のシュークリームまである。一目見ただけで美味しいとわかるものだ。
「まだまだ先は長いなぁ……」
「頑張りなさい、なのは。そしていい男を捕まえるのよ!」
「え〜。私にはヴィヴィオとフェイトちゃんと紅音ちゃんがいるから別にいいよ〜。 そうだよね〜? ヴィヴィオ〜?」
「くすぐったいよママ〜」
ワイワイとした人数は少なくとも、高町家の食事風景。
私も昔この街でお父さんとお母さんとお姉ちゃんと、こうやって……
別に涙が出てきたりする訳じゃない。お姉ちゃんは私の中に生きてるし、お父さんもお母さんもきっとどこかで生きてる。いつかまた4人で、なんてもう絶対にないけど、生きてる希望がある、今の私にはそれだけで十分だ。
夕食を全て綺麗に平らげて。食後の運動も兼ねて、そのまま高町家に向かう2人と別れて私は散歩に出かけた。目的地は海の見える、あの公園だ。
「よくここでお姉ちゃんと一緒に練習いてたなぁ」
私と違って蹴り技が得意だったお姉ちゃん。ジャンルは違えど、ここで一緒に練習していた冷たく心地よい海風を感じながらベンチの一つに腰掛けた。
そうやって、いつまでそこにいただろうか。
「隣、いいですか?」
私は大人びた女性の声で我に返った。慌て、どうぞ、と一言返事をする。
「ありがとうございます」
柔らかく丁寧な言い方だったがどこかで聞いたことのある声だった。その女性は手入れの行き届いている綺麗な長髪に薄紫を中心とした落ち着いた服装。その顔は……
「なのは……?」
さっきまで一緒にいて、ヴィヴィオと共に家へと向かうために別れた、高町なのはの姿がそこにはあった。