魔法少女リリカルなのはvivid 紅き鉄腕 作:tomato88
「おりゃァァァッ!」
「はぁぁぁッ!」
左腕によるストレート、右腕によるアッパー、右足によるローキック、ハリーの攻撃は左腕による大振りしかなかったものが、蹴りなどを織り交ぜるようになり始めた。
『壮絶な砲撃の撃ち合いだった第2ラウンドとは打って変わり、第3ラウンドはお互いの身体を使った格闘戦だァァァッ!』
射撃戦はどちらも魔力を大量に消費しただけでクリーンヒットはなかった。ハリーも射撃戦が続いても決着がつかないとわかるやいなや、デバイスであるレッドホークを使った接近戦を仕掛けてきた。もしかしたら、残りの魔力自体、少ないのかもしれない。
この状況は私としては願ったり叶ったりだった。射撃戦ならいざ知れず、格闘戦ならただの不良娘であるハリーには負けない。それを証明するかのように、この第3ラウンドは私がハリーの攻撃を避け、防ぎ、カウンターを当てる、そんな一方的な展開になっていた。
「まだまだいくぜぇぇ!」
だから楽勝か、そんなはずがない。私にだって疲労が溜まっている。ライフがどんどんと少なくなっているのにも関わらず、ハリーは一歩も下がらない。叫び声を上げながら、炎を纏わせ、腕をふるう。そのスピードは未だ衰えず、耳元で風を切る音が聞こえるたび、精神がすり減っていくのがわかる。
結構、ダメージ与えてるはずなんだけどな。
ハリーの攻撃を受け止め、鉄腕に魔力を吸収させながら、そんなことを考える。ここまで、自分の拳の軽さが憎らしく思ったことはない。
『おーと! ここでゴングだぁぁ! 第3ラウンドの格闘戦は紅音選手有利の展開。最終ラウンドは紅音選手がそのまま突っ走るののか、それともハリー選手が逆転するのか!』
「ここまで来れば作戦に大きな変更はない。その調子で冷静に勝利を掴んでこい!」
「紅音なら出来るッスよ!」
2人はこう言っているが、なんだろう、このままだと危ないような気がする。ハリーのあのギラついた目は、何か狙っているようなーー
ーーね! おい、紅音!」
「え? なに、ノーヴェ?」
「もうブザー鳴ってるぞ」
「あ、本当だ」
なにか、ボーとしていた。しっかりしないと。
「大丈夫ッスか?」
顔を軽く叩いて気合いを入れ直す。
「うん、大丈夫。行ってくるね」
私は一抹の不安を感じながら、リングに上がった。
「これが最後のラウンドだぜ、紅音」
リングの中央で不敵な笑みを浮かべ、仁王立しているハリー。特攻服なのも相まってそれはとても様になっていた。本来の彼女がどんな感じの人なのかは別として。
「そうだね」
「オレかお前、どっちが勝っても恨みっこなしだ。正々堂々、最高の試合にしようぜ!」
ゴングが鳴ると同時に一気に駆け出す。もう鉄腕には十分な熱が溜まっている、リングの魔力もそうだ。
ハリーが左腕を後ろに引くのが見える。あとはこの攻撃を肘で受けて右のカウンターで決める。魔力を右手に集中させる。
左肘に重い衝撃。今だ、いけ。
「悪いな」
そのハリーの呟きが、私の予感が間違えていなかったことを分からせた。
「オレの勝ちだ」
背筋に悪寒が走る。慌てて身体を避けようとするが、間に合わない、拳を押し込まれる。
「パイルバンカーァァァッ!」
その瞬間、会場に大きな炸裂音が響き渡った。突き抜けるような衝撃。あまりの激痛に身体が硬直する。その一瞬をハリーは見逃さなかった。
「決めるぜ、ガンフレイムッ!」
吹き飛ばされ、身体を壁に叩きつけられる。身体に力が入らない。薄れゆく意識の中、ある表示が目の前に映った。
『システム、エグザミア起動』
▽▽▽
『紅音選手、ダウンだァァァァァ! ハリー選手の鮮やかな逆転! これは決まったか?!」
壁に身体を預けたまま、紅音はピクリとも動きません。
「嘘……ッ!」
「そんな……」
コロナとリオはその光景を信じられないといった表情で見ていました。たぶん、私も同じような顔をしていると思います。
紅音のライフは残り少ないとはいえ、まだ残っています。立てばまだ、望みはーー
『紅音選手、立ち上がった! だが、ダメージが大きいのか、足元がおぼつかない!』
「「「良かったぁ……」」」
思わず、安堵のため息が漏れます。フラフラと千鳥足でリングに上がり、構える紅音。
「……ッ!」
こちらからは髪に隠れて見えない、紅音の表情。けれど、一文字に閉ざされた口元だけがやけにはっきりと見てとれました。さっきまで楽しそうに試合をしていた紅音とは違う、そう思わずにはいられません。
「大丈夫かな、紅音」
「紅音ならきっと勝ってくれるよ! あたしはそう信じてる!」
「そ、そうだね!」
きっと大丈夫。あれはクラッシュエミュレートの痛みを我慢してるだけなんだ。私はそう思うことにしました。
試合再開のゴングが鳴る。その直後、紅音はその場に倒れこむように前のめりになって、そして、その姿を一瞬消した。
「ーーえ?」
紅音が選んだ攻撃は膝打ち。ハリー選手の胸元目掛けて打ち出した膝。誰もが予想していなかった攻撃。当然というか、不意を突かれたハリー選手はその攻撃をもろに食らってしまいました。
これだけで、紅音の攻撃は終わりません。ちょうど、鳩尾に膝が入ったのか上手く呼吸ができず、動けないハリー選手に膝を狙ってローキック、膝が曲がり頭が下がったところにこめかみ目掛けてハイキック。
「あのボクシング一筋だった紅音が蹴り……?」
紅音の流れるように繰り出される足技の数々は、時には剣に、時には鞭のように変化していきます。それはどことなく、シグナムさんのレヴァンティンを使った剣技に似ていました。
炎を纏わせた脚でハリー選手の肩に向けて踵落とし。そして、満身創痍、ライフもほとんど残っていないハリー選手にトドメと言うように剣に見立てた脚を斜めに蹴り上げ、魔力を撃ち出した。それはさながらシグナムさんの飛竜一閃。そんな砲撃並みの攻撃はハリー選手のライフを全て削り、壁に大きなクレーターを作くり上げました。
「紅音……」
勝利を喜ぶわけでなく、苦しそうに顔を歪ませ、立ち尽くす紅音の姿を私は忘れません。今日、この日、私は紅音の闇に初めて触れた気がします。
『試合終了ォォォォォッ! 逆転に次ぐ逆転! 勝利を掴んだのはルーキー日野紅音だァァァッ!』