魔法少女リリカルなのはvivid 紅き鉄腕 作:tomato88
心地よい風が吹き抜け、わたしの紅い髪を揺らす。わたしの足元には辺り一面、色とりどりの花が咲き乱れている。なんだか、一つの芸術作品のように感じられた。
「お姉ちゃーん!」
大きな麦わら帽子を被った小さな少女が花畑の真ん中でこちらに手を振ってくるから、尚更、そう思ってしまうのかもしれない。
わたしは彼女の方へと歩みを進める。側まで近づくと少女は花を傷つけないように気をつけながら、わたしのところに駆け寄ってきた。わたしは少女の頭に手を乗せ、優しく語りかける。
「ユーリ、一緒に花の冠でも作ろうか? きっと、ゴルトにプレゼントしたら喜んでくれると思うよ」
わたしがそう言うと、ユーリは一層とキラキラと目を輝かせ、笑顔を浮かべた。
「本当ですか!? お兄様に喜んでもらうためなら、私、頑張りますよ~」
「うん。先ずは花を摘んでみようか?」
ユーリはニコニコと楽しそうな笑顔を浮かべながら花を一つ一つ丁寧に傷つけないように摘んで行った。花冠を作れる程度の量を摘んだところで、花畑にある大きな木の下の木陰に移動して花の冠の製作を始めた。
「ユーリ。こういうのはねーー」
「むー、難しいですね……」
うーん、うーん、と頭を悩ませながら花の冠を作っているユーリはなんだか、とても微笑ましく思う。
わたしも、いつもは一人、工場に篭って武器を作ったりしているから、たまにはこういうのんびりとした時間を過ごすのも、悪くない。
「赤のお姉ちゃん、こんな感じでどうですか?」
そう言われて、ユーリから手渡されたのは一部、ちぐはぐな部分もあるが一生懸命に作ったのであろうと、製作者の気持ちがよくわかる一品だった。
「うん、よくできてる。上手だよ、ユーリ」
「えへへ〜 よかったです〜」
「そうだ。せっかくだから、ブラウの分も一緒に作っちゃおうか? きっと、自分の分が無かったら不貞腐れちゃうよ、あの子」
「そうですねっ! よーし、もう一踏ん張りです!」
まだ摘んだ花は残っているし、わたしはユーリのために指輪でも作ろうかな。
これが、私の中に残るロート・エレミアとユーリ・エーベルヴィンとの、幸せな最期の記憶。
▽▽▽
すべては私が彼女に『アレ』を頼んだことから始まった。
「魔法を記録する魔導書…………ですか? ゴルト様」
「あぁ、そうだ。今の世の中、多くの優れた魔法が存在している。私はその魔法たちを半永久的に後世へ残しておきたいんだよ」
私が彼女、緑のエレミアの長であるグリューンに依頼をしようとしたのは一冊の魔導書だった。グリューンはその話を聞くや否や、肩口で切り揃えられた淡い金髪を弄りながら、私に問うてきた。
「どうして、その魔導書の製作をわたくしに? ロートの方が適任なのではございませんか?」
そのグリューンの疑問は当然だろう。武器や防具は勿論のこと、デバイス、魔導書の製作を専門としているのはロート率いる赤のエレミアだ。しかし、残念なことに今は魔導書の製作をロートには頼むことができない。
「確かにそうかもしれない。だけど、今、彼女には他のことを頼んでいるんだ」
「あら、そうなんですか」
「あぁ、だから君にしか頼める人がいないんだ」
ロートにはとある武器とデバイスの製作を依頼していた。きっと、ロートなら最高傑作を作ってくれるに違いない。
私は
「それで、魔導書の製作、頼めるかい?」
グリューンは口元に手を置き、少し考えるそぶりを見せた。そして。
「ええ、勿論ですとも」
彼女は口元に薄い笑みを浮かべ、そう答えた。
「このグリューン・エレミア、我が命に代えてもゴルト様の頼み、果たして見せますわ」
「そんな大袈裟な」
「いいえ。大袈裟ではございませんわ。これはわたくしの心からの気持ちです」
「そうか。それでは、魔導書の製作、よろしく頼むよ」
「はい。それでは、今日のところは失礼いたしますわ」
グリューンが部屋から出ていくのを確認すると、私は乗り出していた体を、深々と椅子に預けた。
「ふぅ…………」
グリューンの大袈裟な言葉に少し困惑してしまったが、彼女がこの仕事を受け持ってくれて助かった。そういう魔法は彼女の専門だからな。
……これで、私の夢は前に進むことができるはずだ。質量兵器がない世界を、この手でーー
▽▽▽
「質量兵器のない世界………… まさしく、今のような世界のことよね? 古代ベルカ時代は殺して奪えって感じだったけど、どうやら、この人は違うようね」
「極力、戦争は避けようとしてたから。ただ、兵士としても指揮官としても優秀だったよ。ゴルトは」
他の国では2桁、3桁と戦争があったというのに、あの国で戦争があった回数など簡単に片手で数えられるほどしかない。それも、攻撃されたからには建前上、戦争をしなければならなかったというものだ。
「これが紅音が話してた3つのエレミアがあったっていう時代なんやね」
「そう。ヴィヴィオのモデル、聖王オリヴィエが生きてた時代より前の話」
懐かしいという感情はおかしいかもしれないしれないけど、ゴルトやユーリが、国がまだ平和だった幸せな日々。だけど、もう既に何かが壊れてしまっていたのかもしれない。今だからこそ、そう思う。
「あ、ページが破れてる。えーと、次はもう魔導書が完成間近になったあたりみたい」
ここから、あの国の崩壊が始まった。