魔法少女リリカルなのはvivid 紅き鉄腕 作:tomato88
グリューンから魔導書が今日中に出来ると連絡を受けた私は早々に身支度を整え、グリューンの元へ向かおうとした。
「よ、よぉ、ゴルト」
「おはよう、ブラウ。帰ってきたばっかりだというのに朝が早いな」
「へへっ、まぁな」
彼女の名前はブラウ・エミリア。長い黒髪を二つに束ねた小柄な少女だ。だが、こう見えて戦闘に秀でた青のエレミアの長であり、そして、私と婚約中の女性だ。ここ一週間は隣国の小競り合いに加勢しに行ってもらっていて、昨日遅くに帰ってきた。大暴れしてきたせいか、随分と早く寝ていたようだった。
「すまない、私は急ぎの用があるのでな。また、後でな」
「あー、悪い。ちょっと待て。ゴルトはユーリがどこにいるかしらねぇか? 昨日一緒に遊ぶ約束してたんだけどよ、どっかに出かけちまったみたいなんだよな」
「なに? 私はそんなこと一言も聞いていないぞ。……まったく。危ないから外へ出かけるときは一声かけるよう言ってあるのに」
私がそうぼやくとブラウは仕方なさそうにため息を吐いた。
「ゴルトも知らねぇか。しゃーねぇっ。おれはユーリ探しに外ぶらついてくるわ」
「わかった。くれぐれも気をつけてな」
「問題ねーよ。俺より強い奴なんてこの世にはいねぇって」
そう言ってにやりと笑う彼女を私は見送った。ユーリのことは彼女に任せるとして、私は自分の仕事に集中しなくてはな。
▽▽▽
「ようこそいらっしゃいました。今お茶をお持ちいたしますわ」
「すまないね」
グリューンたち緑のエレミアはその色の通り、多くのものが国の中心から外れた木々の生い茂る森の中で生活している。昔、それとなくグリューンに尋ねてみたのだが、どうやらこの辺は薬品に変えられる草や花が多く存在しているようで、この場所を守る意味も兼ねているようだった。
そんなことを思い返していると、グリューンがお盆にティーセットとお茶菓子を乗せたお皿を持って戻ってきた。
「お待たせしました。こちら紅茶とお茶菓子にクッキーです。今回のはどちらも自信作ですので、きっとゴルト様のお口に合うと思いますわ」
「そうなのか。そこまで言うのなら、早速いただくとしよう」
ニコニコと笑顔のグリューンが見守る中で私はティーカップに口をつける。しつこくない、さっぱりとした甘酸っぱさが口の中に広がってくる。クッキーも紅茶に合ったものでとても美味い。
「うむ、流石はグリューンだな。大変美味だ」
「ふふっ。ありがとうございます」
私とグリューンはしばらく会話を楽しんだ。だが、やはり私も一国の王。次の予定の時間が差し迫っていた。
「すまない、次の予定があるでな。そろそろ本題に移させてもらっても構わないか?」
「あぁっ! ごめんなさい! わたくしとしたことがゴルト様にご迷惑を……」
「大丈夫だ。そう気悩むことではない。すまないが『例のもの』を持って来てもらえないか?」
「はい。ただいま」
グリューンは一礼すると部屋を出ていった。
そう言えば、ブラウはユーリを見つけることは出来ただろうか。ユーリが行くところは限られているとは思うが、何処かで何かないとも限らない。
ユーリは私のただ1人の肉親なのだ。何かあっただの考えたくない。
そう椅子に深く座り込んで考え事をしていると、ドアをノックした音が聞こえ、考え事から意識を離した。今は『例のもの』についてだ。ユーリはブラウに任せているのだ。きっと大丈夫であろう。
「ゴルト様。『アレ』をお持ちいたしました。どうぞ、お手にとって見てみてください」
「これが『夜天の書』か……」
一見、厚い革張りの本のようにしか見えない。手に取った感想も高級な革を使っているのだろうと言ったものしかない。
「今はまだ、試しにわたくしの回復魔法しか入っておりませんが、問題なく使えると思いますわ。ただ、色々と問題がありまして……」
「ほう。一体その問題とはなんだい?」
「魔法を記憶する方法ですが、やはり無条件で、とはなりませんでした」
「やはりそうか……」
「はい。少量ではありますが、魔法使用者本人の魔力が必要となります」
なるほど。私の想像していた最悪の場合に比べたら格段に優しいものだ。自分の魔力を分けるという行為が少し厳しいことかもしれないが、これぐらいならば説得することも可能だろう。
「ありがとう。魔力を少量の魔力ならば話せばわかってくれる人はきっと大勢いるはずだ」
「ゴルト様からそう言って頂けるなんて、わたくしにとって最高の幸せですわ」
これで後はロートの作品と組み合わせればこの『夜天の書』は完成する。
「もう少し調整することもございますが、これで大方完成とみてもよろしいと思いますわ。それにロートの作品たちもこちらで預かっておりますから、後はわたくしに任せてください」
「そう、だね。今すぐ持って帰りたいところだが、そうとも言ってられないだろう。夜天の書はお返しするよ。これが私の手元に来る時を楽しみにしている」
「はいっ! 必ずや、ゴルト様の期待に応えてみせます!」
こうして私とグリューンは別れた。屋敷へと帰った私を待っていたのは信じたくない報告だった。
「ユーリが見つからない、だと?」
「は、はい! 今朝からユーリ様が見当たらないとブラウ様から伝えられ、使用人総出で捜索をしましたが、見つからず……」
「そうか、わかった。まだ捜索していないところはあるか?」
「山の下の方や森など、ユーリ様が行かなそうなところの捜索はまだです」
「ならそこらを重点的に捜索してくれ。何かあったら私に連絡を」
「かしこまりました!」
その日、ユーリを発見することは叶わなかった。