「此処なら見つからないかな。」
———着替えを終えた悟飯はハイヤードラゴンをこれからどうするのか、暫く考えた後に一つの結論に至った。とりあえず今日の夜まで何処かに隠れてもらう事にしたのだ。
その何処かとは、海鳴温泉付近の森の中。士郎達がハイヤードラゴンを捜索してから既にかなりの時間が経過しているのでそろそろ諦め時ではないかと思いこの場所を選択した。
「じゃあ、また後でご飯持ってくるから大人しくしててね。」
「クアーッ、クアッ。」
高町親子が確認した後の茂みにハイヤードラゴンを隠しておく。恐らく確認した所はまた見る事はないだろうと計算して。
すぐに悟飯は士郎達に見つからないように温泉旅館に戻る。得意の身体能力を駆使しての速やかな走行で物音も立てず無事に戻る事ができた。
「ふう…。」と安心のため息と共に廊下を歩く。木の板で作られた廊下は木特有の匂いもするが特に気になるほどではなく、寧ろ和風な雰囲気を追い立てている。
不思議とその光景を見ているだけで気分が良くなっていくような気がした。心身を癒す目的で此処を選んだ理由がなんとなくわかったような気がしながら衾の戸を開けると。
「なによあれ!! 昼間から酔っ払ってんじゃないの!?」
「アリサちゃん、落ち着いて……。」
「わたしは気にしてないから。」
いきなり鬼のように怒鳴るアリサと彼女を宥めようとするなのはとすずか。彼女達の様子を見て思わず表情を引きつらせてしまう、何かトラブルがあったようだ。
「ど、どうしたのアリサちゃん?」
「ちょっと聞いて悟飯!さっき話しかけてきた人が……。」
クドクドとアリサは先程自分達に話しかけてきた女性について長ったらしく愚痴を零す。細かい部分はなのはとすずかが苦笑いを浮かべながら説明を付け加えて。
どうやら話しかけてきた時の態度がかなり生意気で失礼極まりない酔っ払い人のような女性だったとか。相当アリサはその女性のせいで気分を悪くしていた。
———だが少し引っかかったのはすずかもアリサの言い分に同意した事だ。物腰の柔らかい優しい彼女が半分だけとはいえ同意するほど酷い人だったらしい。
その女性は勘違いでなのはに絡んできたとか、結局は勘違いではあるが謝罪する時の態度もまたムカツク、とアリサの愚痴は士郎達が戻ってくるまで続くのだった。
「わあ〜…これおいしそうだよ。」
「うん、毎年来てるけど今回は凄い豪勢だな。どれから箸をつけようか迷うよ。」
「私もこれくらい作れるようになりたいです~。」
「後でレシピだけ聞いてみましょうか。」
「恭也ぁ、私が食べさせてあげようか?」
「いや、遠慮する。」
現在はテーブルに用意された食事を堪能する時間。座布団に正座をしながら並べられた豪華な食事に誰もが目を奪われる。
「でも、これだけだと悟飯くんには足りないんじゃないかな?」
「そうねぇ…やっぱり育ちざかりの男の子はよく食べるものね。」
確かに高町親子の言う通り悟飯からすれば一人にこの食事量は少なすぎる。本人は大丈夫だと答えるが、悟飯の性格を知る者から見れば周りに迷惑をかけないように我慢しているようにしか見えず。
「まっ、もし足りなくなったらあたしのを分けてあげるわよ。」
「わたしも残ったら悟飯くんにあげるね。」
「だから無理しちゃダメだよ?足りなくなったら遠慮なく言ってね。」
「ありがとう、みんな。」
思わず悟飯は嬉しそうな微笑を浮かべてお礼の言葉を述べる、楽しそうな子供達の光景に高町桃子は薄っすらと柔らかな微笑を浮かべて会話のやり取りを見守っていたが、なのはの隣に座る美由希はなにか悪戯を思いついたような笑みを作りだして。
「悟飯くんモテモテだね〜…ねえねえ、大人になったらなのはと結婚しない?」
「あら、それはいいかもしれないわね。」
「素直でいい子だし。」と悟飯を絶賛すると同時に娘に同意する母親。なのはは「ふえっ!?」と顔を赤くさせて慌しくオドオドし始めた。そして最後に桃子は「恭也と違って。」と言ってしまう。
さすがにここまで言われると悟飯も困ったような反応を見せる、最後の桃子の台詞のせいで恭也の視線も貰ってしまう始末であり、どう返答すればいいのかサッパリわからない。
「お、おかーさん…!別にわたしと悟飯くんは……。」
「ダメー!!そんなの絶対ダメ!悟飯がなのはと結婚なんてあたしがぜーったい認めないっ!!」
「あ、アリサちゃん…?」
「っ!? ……勘違いしないでよね、別に悟飯を取られたくないとかそういうのじゃなくて!」
ぽかーんとする一同の視線が目に入れば墓穴を掘っている事にアリサは気付き、すぐに言い訳を考え始めるが更に墓穴を掘ってしまう彼女に大人組は苦笑いを浮かべてしまう。
「えーと、ほら!悟飯って世間知らずだし鈍感だし大食いだし天然だし、あとは……。」
「アリサちゃん、流石にちょっと言いすぎだよ……。」
「悟飯くんが可哀想だよ。」
「ははは…ボクは気にしてないから……。」
物凄く気にしているようなショックを受けているような素振りを見せながら気にしてないと言われても誰も信じるわけがない。アリサは途方もない罪悪感が芽生えてきてしまう。
「美由希…。」
「うっ……あー、そのさっき言ったのは冗談だから、ごめんね。」
恭也の鋭い眼差しが元凶を捉えると美由希はしゅんと肩を落として反省する。
こうして騒動は収まり食事が再開されるが、想像以上の食べっぷりを発揮する悟飯にアリサ達以外の人物は驚きを隠せずにいた。その途中に温泉の壁が壊されたという緊急事態にも等しい情報が入ってくる。
事件に関わった四人はあえて知らない振りをしながら話を聞いているとどうやら犯人が捕まったらしい。思わず背筋が凍りついたが犯人が女性である事を聞けば明らかな勘違いだとわかる。
食事が終わった頃にアリサから犯人は自分達に人違いで話しかけてきた女性ではないかという話を聞く、「ざまあみなさい!」と勝ち誇った少女であった。
———そして時は加速して睡魔が襲ってきそうな夜の時間帯になる。途中までファリンが本を読んで面倒を見てくれたが今ではもう彼女も眠ってしまっている頃だろう。
全員が寝ているせいなのか沈黙が部屋を包み込む、明かりがついていないせいでとても不気味に感じられたがそれでも悟飯は起き上がる、すると奇妙な違和感を感じて……。
「あれ、なのはちゃんは…?」
小さな独り言を呟くとなのはの布団を見つめる。其処には寝ているはずの彼女がいない、部屋を見渡しても姿は見当たらない事から部屋から出た事がわかる。
(トイレにでも行ったのかな…?)
出かけた理由がそれしか思い当たらない為、そう思っておくことにする。悟飯は昼間約束した通りハイヤードラゴンの様子を見る為に荷物から袋を取り出して部屋から出て行く。
実はというと食事をしている最中に料理を素早くテーブルの下へ隠してビニール袋に包んでいたのだ。あまりの早業に誰も気づいてはいなかったが。
(ハイヤードラゴン、今頃お腹を空かして待ってるだろうなぁ…急がなきゃ。)
無論、この行動に出たのはハイヤードラゴンにご飯を与える為。すぐに悟飯は室内を物音も立てずに抜け出る、コソコソと動き回る行為は今日で二回目だ。
旅館の外に出ると森に向かう。茂みに隠れたハイヤードラゴンをきょろきょろと探すように視線を張り巡らせていると気配を感じ取る。誰かがいる——その気配を探ろうと森の奥地の茂みに入っていく。
「おーい!ハイヤードラゴーーン!!」
「クアーッ!クアックアーッ♪」
悟飯の声に反応するように茂みの奥から飛び出てくるドラゴンは目を輝かせながら彼の前にまで立つ。葉っぱが身体についているが特に気にする様子もない。
「あ、いたいた。遅くなっちゃってごめんね。」
すぐにビニール袋に包んでいたおかずやご飯を与えようとするがハイヤードラゴンの口元に悟飯は注目する。真っ白な星形の宝石を咥えていたのだ。
「あれ? ハイヤードラゴン。それどうしたの?」
「クアックアッ!」
まるで悟飯に見せ付けるように地面に落とす。純白に煌く宝石はとても美しく悟飯はそれを片手で拾い上げながら観察をする。星型といっても先の角は尖っておらず、丸い形をしていた。
「うーん、誰かの落し物かな?今日はもう遅いし、明日旅館の人に届けよう。」
とりあえず浴衣のポケットにその星型の石を押し入れてしまっておく。誰が落としたのか知らないがきっと落とした人物は困っているだろう、しかし今届けると外に出たことや起きてることがバレる為、朝になってから届ける事に決めるとハイヤードラゴンとの時間を過ごすのだった。
真夜中の森は不気味な風の音が鳴り響いていた、ロイヤルブルーに染め上げられた空に浮かぶ月が森を照らしていたがそれでもこの気味の悪さは晴れない。
寧ろ暗闇の中に通る光は怪しく輝いているようにも見えるのだ。それが更に不気味さを煽てている、その中に金色の髪を揺らした少女が足音を立てながら周りを見渡していた。
「まったく、こんな時間に悟飯はなにやってるのよ……。」
アリサはうろうろと外を歩き回りながら悟飯を探していたのだ。彼が部屋から出て行く姿をたまたま目が覚めて目撃して以来、少し心配になって彼を追いかけていた。
だが悟飯の身体能力は尋常な物ではないせいか追いかけることはできず、姿を見失った結果が外で迷子のようにうろつく羽目になってしまっていたのだ。
「…っ!?」
真っ暗闇のせいで視界が悪く、足元が疎かのせいもあって何かに躓いて地面へと転倒してしまう。付着した砂を払いのけながら立ち上がればその躓かせた正体に目を配る。
「なにかしらこれ?」
視界に入ってきたのはオレンジ色に輝く球体、真ん中に青い星マークが印象的な野球ボールぐらいの物体。中々見たことない珍しい物である事からアリサは暫くボーッと見つめてしまう。
現実に存在する輝きとは思えない程の美しさを持つ宝石のような物体を両手で拾い上げれば自分の顔に近寄せ、間近でそれを見つめてみる。とても綺麗な球体で皆に見せたいほどだ。
「……それを渡して。」
「―――!!あんた誰よ?」
まったく気配に気づくことができずに、アリサの後ろには金色の髪をツインテールにさせた黒衣の衣装を着込む少女がいた。年代は恐らく自分と一緒のようだが、この時間帯に何故こんな所でうろついているのかとても疑わしい。
一つ言えるのは、何故かとても警戒せざるをえないということ。理由はアリサ自身もよくわからないがとにかく目の前にいる金色の髪をした少女は油断してはいけない相手のように思ってしまう。
「あ~らあらあら、子供がどうしてこんな所にいるのかしらねぇ?」
「あんたは…昼間の!?」
金髪の少女の隣から昼間なのは達に話しかけてきた赤茶色の髪の女性がアリサを見下ろしていた。相変わらずの生意気な態度に思わず眉を顰めるが彼女にもまた警戒を抱く。
「あたし等はその玉が必要なの、だから素直に渡さないと…ガブッといくよ?」
先程までのおどけた態度とは違う本気の警告、獣のような青い眼光が脅迫的にアリサに襲い掛かってくるせいで恐怖と危機感が同時に湧き上がってくる。
なんとなく察しがついたのはこの二人は只者じゃないということ。何処かの犯罪組織とは比べ物にならない程の脅威、誘拐された身だからこそわかる直感的な物がそれを告げていた。
「なんでこれが必要なのよ!」
「さぁ~ねぇ…答えてあげる理由が見つからないよ?ねぇ、フェイト。」
「…大人しく譲るなら、私達も手出しはしない。」
此処で譲らなければ先程彼女が警告した通りの事が起きる。只の脅迫の可能性は決してゼロじゃないがそれは逆も然りである。フェイトという少女の言葉に従うべきなのか……。
数々の疑問がアリサの脳裏で一瞬の内に浮かんでくるが今はそんな事を考えている暇などない、とにかくこの球体を渡すかどうかが問われているのだ。
アリサは一度手に持つ球体に視線を向けた後、静かに口を開き。
「……誰があんた達みたいな怪しい奴等に渡すもんですか!」
「———言ってくれるねぇ。」
更に眼光は青く輝く、その不気味な輝きはアリサにとっては恐怖以外の何者でもないがそれに負けないほどの目線を相手に送りつける。
この球体を彼女達に渡せば事は治まるだろうが何か嫌な予感がする、それは根拠のない女の勘といっても過言ではないのだがそれでも胸騒ぎのような危険信号のような物を感じていた。
だが一方でフェイトや女性も焦っていた。実はあの警告は単なる脅しに近いもので、無関係な一般人に手を出すのは彼女達にとって躊躇いのある行為である。
「「………。」」
故に次に襲い掛かるのは沈黙。両者が互いに睨み付けた目線をぶつけ合う、暫くそれが続いていたのだがフェイトが表情を曇らせた瞬間——茂みから何かが動いた物音が聞こえて。
「「「「「キキーッ!」」」」」
「えっ!!」
突然、奇声と共に飛び出てくる謎の生物達。次々と正体を現すその姿は青色の異性物や赤色の異性物、黄色の異性物と、形だけは全員共通しているが色がそれぞれ違う奇妙な生物達の集合だった。
(オマケ/悟飯が出て行った同時刻、大人部屋で気配に気づいた恭也は)
恭也(ん?今のは悟飯くん…トイレに行くのか?いや、それにしては挙動不審に見えるし、手に持っているのはなんだ。……気になるな、様子を見に……。)
忍「んぅ~恭也ぁ~~。」
美由希「恭ちゃ~~ん。」
ファリン「恭也様ぁ~~。」
ノエル「………。」
恭也(まて!忍はともかく、どうして美由希とファリンとノエルが俺の布団の中にいるんだ。くっ、体を動かせない……。)
桃子「ふふふ……。」