「バルディッシュ…!」
『Thunder Smasher』
月に照らされた闇の中で彼女達もまた空中戦闘を繰り広げていた。魔法使い同士のぶつかり合いが初めてであるなのははこれほど緊張する物もないせいか少し精神的な疲労も伴っていた。
だがそれでも此処で負けるわけにはいかないのだ、フェイトが空中で夜に浮かぶ金色の魔方陣を輝かせながら出現、片手を彼女へ向ければ一気に金色の砲撃が撃ち放たれる。
「レイジングハート…!シューティングモード!」
『Shooting Mode』
桜色の魔方陣と共に槍のような形状へと変貌した杖はまっすぐに金色の砲撃を見据えるように向けられて。
「———— デ ィ バ イ ン バ ス タ ー ! ! ! 」
杖を纏っていくのは桜色のリング、そのリングは更に魔力が増幅されるように先端からの桜色の砲撃を発射する事で金色の砲撃へと立ち向かっていく。
互いに衝突すれば激しい強風が巻き起こり両者は互角の威力を誇っていた。なのは自身は砲撃関係の魔法を得意としており、実力が上のフェイトでも充分に通用するほどの高いレベルを持つ。
「…うっ、くっ!」
「レイジングハート、お願い!」
『All right.』
術者の思いに答えるように杖は反応を返せば更に砲撃の威力は格段と上昇していく。それはもう十分すぎるほどに金色の砲撃よりも飛び越えた破壊的な一撃と成り代わっていた。
金髪の少女自身もそれには気づいていた、金色の砲撃はなのはの放つ砲撃によって飲み込まれかき消されていく。真っ直ぐに目標を狙い打とうとその一撃で飲み込もうとする。
「え…?どういうこと?」
砲撃は容赦なく彼女を呑み込んでいく———筈だが、手応えがない。何か物に当たった独特の衝撃がしないのだ。何もなかったように通り過ぎていったような気分になってしまう。
『Scythe Slash』
「…っ!?」
なのはが上空を見上げた途端、振り下ろされるのは眩い金色の刃。電撃がバチバチと弾くような音が耳に聞こえくる。全体的な構図は、フェイトが横からなのはの首へと刃を突きつけられていた。
砲撃を放つ事で夢中になっていたせいもあり、何がなんだか状況がよくわからない。ただ彼女なりに推測できるのは砲撃に当たる前にこの少女は回避したのではないだろうかということ。
『Pull out.』
「レイジングハート…!?」
そして結果が今に至るわけだ。突如、赤色の宝石が光を点滅させると漆黒の服に包まれた少女の目当ての品物が浮かんでくる。
「きっと、主人思いのいい子なんだ。」
なのはが動揺をしている間にもフェイトはオレンジ色の球体を奪い取ってしまう。そのまま地面へとゆっくり降下していくと球体を静かに見通す、青い星マークが二つほどあった。
「あ…あの!」
「できるなら…もう私達の前に現れないで。今度は止められないかもしれない。」
こちらの返事など真っ向に返すつもりはないのか、ただ背を向けて冷たく言い放つ。表情は見えないが言葉の冷たさに胸が苦しくなるような感覚を覚える。だがそれでなのはは引き下がろうとはせず。
「お願いっ!名前、あなたの名前を聞かせてっ!」
「私はフェイト……フェイト・テスタロ———…っ!?」
なのはに呼び止められてフェイトが名乗ろうとした直後、、途方もなく現れた邪悪な光がフェイトの口を遮ってしまう。強烈な光は夜であるにも関わらず周りを照らし出す。
「あの光は…!」
「もしかしてジュエルシードが……あ、待ってフェイトちゃん!」
夜は更なる闇へと包まれていく。なのはとフェイトは焦りを隠しきれずにその邪悪な光の中心へと向かっていくのであった。
闇色に包まれたオーラを全身から放出する謎の生物を目の前に悟飯は精神的な圧迫感を感じていた。というのも、数々の難題が一瞬で浮かんできてしまったのだ。
(ハイヤードラゴンの時と同じだ。だとするとセルジュニアが合体した原因は……。)
恐らくセルジュニアが先程手にしていたドラゴンボール、それに触れた事により五体のセルジュニアがひとつの固体へと合体したのではないかと推測できる。
――そして、その合体した結果がセルと同じ姿。よく見れば腹部にはドラゴンボールが埋め込まれていた。
(なんて巨大な気だ。あの時のセルに匹敵するかもしれない。)
「グウウウウギギギ……。」
(それと気と一緒に感じる力、あれは……。)
「グギャァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアーーーー!!!!」
「しまっ———」
醜悪に満ちた声が木霊すると突然、頭突きを食らわそうと接近――思考の最中に不意打ちとも呼ぶべき攻撃が顔面へと激突してしまう。明らかに先程のセルジュニアより速度は比較にならないほど上昇している、それは悟飯の速度さえも確実に上回っていた。
更に拳と脚の連撃が高速を超えた刹那に迎え入れられる、悟飯は圧倒的に上昇した速度のせいで完璧に避けきる事は困難な物に成り代わったがそれでも全ての攻撃を両手足で防御していく。
(パワーもスピードも格段に上がっている…!!)
精神的な焦りが悟飯を支配していく、戦闘において相手の強さが飛躍的に上昇されるという事はかなりのプレッシャーになるのだ。同時に発生する戸惑いと緊迫感。
次々と連続攻撃を両手足で受け止めていたがそれも限界に近づいてきたのか、防御していた部位が徐々に麻痺してきてしまう。絶大なパワーを相手に何度も受け止めるのは戦闘において良い結果には繋がらないのだろう。
「ギィャアァァァ!」
「う…ぐっ……。」
激しい攻防を繰り広げた末に押されていたのは悟飯だった、相手は想像以上の手強さが備えられているせいもあって防御を行っていた両手足が完全に麻痺を起して上手く使い物にならない。
僅かな刹那の隙ではあるがそれでも合体セルは見逃す事はなく一気に人体の急所部分である鳩尾へと自身の重圧な拳を塗りこませる、言葉では言い表せない吐き気にも似た激痛が悟飯を襲っていた。
「が…あああ…!」
「グギギギッ!」
身体に直接負担がかかったような衝撃が感じられる。それは他の部位に攻撃された時の痛みとは比較にならないダメージであり、嘲笑の声と共に腹を手で押さえて蹲るような体制を取ってなんとか和らげようとしていた。
「グギィッッ!」
「————うわあああぁぁっ!!」
だがそれでも容赦なく合体セルは両手を組んだ状態から一気に背中へと叩きつける、更に追い討ちをかけるような激痛が悟飯の背中から浴びせられると衝撃により一気に地面へと落下していく。
一般人ならばそのまま人体が貫通して容易に抉られる領域の力が悟飯に襲い掛かってきていた。合体していないセルジュニアでも岩石ぐらいは簡単に破壊できるパワーを持っている。
そのパワーとは比較にならないほど飛躍的に増強された力が押し寄せる。直接身体に響かせられた悟飯の視界は目まぐるしく回転する最中に合体セルは落下していく彼を更に追撃を加えようと急降下を図り。
「グギイイイイィィィ…!!」
「くぅ……っ。」
殺意が込められたような嘲笑が短く耳に聞こえてくると同時に悟飯は身体の痛みを我慢しながらも全身の体重を片手で地面に立ち、もとい全身を支えながら一気に後方へと転回させ攻撃を速やかに避ける。
両足が地面に衝撃を与えながらも更に全身の体重をかけ、一気に前方へと足を出せば高速を遥かに飛び越えた爆発的な威力を叩き込もうと駆使して。
「だああぁぁーーっ!!」
合体セルの顔をなぎ払うように蹴り飛ばす。それだけで周辺は衝撃による強風が巻き起こっていた。
———しかし高威力を誇る蹴りであっても合体セルは痛がる表情を見せなければ吹っ飛ぶ様子もない、手応えは確かにあったはずだ。それを証明するように当たった形跡が目視できる。
「なにっ!?」
「グギャアアアァァ!!」
その場から動かない合体セルは悟飯の足を両手で掴み取れば乱暴に暴力を持って振り回した後、上空へと勢いよく投げ捨て空中を無理矢理泳がせてしまう。
「グギギギギ…!!」
悪辣で気持ち悪さが漂う声と共に悟飯へ大量の闇色に包まれた邪悪な気弾を次々と音速を飛び越えた威力と速度を持って発射されていく。
咄嗟に悟飯は気を限界まで高めて回避しようとするが、やはり体内から来る謎の痛みが襲い掛かり行動が中断され、ただ何かが近づいてくる事を瞬間的に直感で捉えられるだけで対処自体がまったくできず。
「うわあああああぁぁぁぁぁぁーーっ!!!!」
———それは圧倒的な実力だった。気弾は次々と容赦なく炸裂を引き起こしていき連続的に攻撃を加えていく。全身の激痛にひたすら耐えながらどうにか動作を起こそうにもそれさえ叶わない威力と激痛である。
身に纏っている浴衣自体もボロボロになり爆発で吹き飛ばされ地面へと強く自身を叩きつけ大きく肌と土を擦り剥き削り取りながらようやく勢いは止まる。
その際、浴衣にしまっていた先端が丸く削られた純白の星が地面に零れ落ちた。あれだけの凄まじい威力を持ってしてもこの星形の宝石は罅も入っておらず、悟飯はその固さに目を疑ってしまう。
「くっくっく、遂にオレは究極の力を手に入れたぞ!これでオレは自由だ、奴等に従う理由もない……。」
(っぐ…なに…を言ってるんだ……。)
どうやら合体した際に知能も大幅に発達したように窺える。今まで喋らなかった相手が悪意だけが込められたような野心的な感情の一言を口にした事に悟飯は驚きを隠せずにいた。
血液が流れ大幅に身体的なダメージを受けた今でも頭は回転させられるほどの体力は残っており、その体力を使って全身全霊、頭を回転させていく。
(奴等…って事はまだ仲間がいるのか……。)
あの合体セルの発言から考えられるのは他にも仲間がいるということ、しかも従っていたという事は目の前の相手…少なくとも合体する前のセルジュニア達よりも強い存在が何人もいる可能性が高い。
悟飯は激痛を堪えながら、邪悪なオーラを纏った生物に問いを投げ掛ける。
「はぁ…はぁ…なんでセルジュニアがこの世界にいるんだ……。」
「セルジュニア? 違うな、オレはクローン戦士だ。」
「クローン戦士?」
「そうだ。オレ達はある生物の細胞から生み出されたクローン生命体、もっとも今は全てを超越する力を持った究極完全体クローン戦士だがな。貴様にもわかるだろう、この圧倒的気と魔力の高さを……。」
“クローン生命体”つまりあのセルジュニア達は元となった生物の遺伝を受け継いで人工的に生み出された生物。ある生物と言うのは彼の外見から恐らく本物のセルかセルジュニアの事だろう。
確かに彼の言う通り、今の悟飯では到底倒す事ができない相手だ。圧倒的な気と魔力がそれを物語っているように肌身で彼は感じられるのだ。
(気と魔力……———やっぱり気と一緒に混ざっていたのは魔力だったんだ。確かに物凄い力を感じる。あ!じゃあ、ボクの中にある痛みの正体も……!)
体内で感じる不思議な力は眼前の怪物が放つ力と酷似していた、以前フェイトが自分に魔力があると言ったのは本当だったようだ。理由はわからないが恐らく気の中に魔力が混ざり合って溶け込み力の発動を抑制していたのだろう。魔力の扱い方を知らない為、無理に引き出そうとすれば痛みが発生する仕組みなのかもしれない。
「さて、そろそろ貴様と遊ぶのも飽きた。一瞬で消し飛ばしてやる。」
死刑宣告のようにも聞こえた。片手を悟飯へと突き出した合体セルは強大な邪悪の気と魔力を駆使して気弾を作り上げようと行動を起こす。
悟飯は動かない体に鞭を振るうように起き上がろうとしても、もはや自身の体は使い物にならない領域にまで入っており、正に窮地に立たされた状態だった。
(このままじゃ…やられる……。)
『Thunder Smasher』
「————サンダぁぁーー…スマッシャぁぁああーーっ!!!」
それを中止させるが如く叫んだ少女の声は雷撃が伴う煉獄の砲撃を合体セルへと一直線に発射された。狙いは勿論、腹に埋め込まれたドラゴンボールである。
一瞬で到達させる事に成功すればドラゴンボールへと命中した、それを証明として雷撃がクローン戦士を包み隠すように発生し激しい金色の線が何度も破壊し尽くす。
「……これで、なんとか…。」
大きな衝撃音と共に爆発を引き起こし、周辺を一方的な暴力によりかき荒らしていく。フェイトと悟飯から合体セルまでの距離があるにも関らず轟音が響き渡る。
例え彼がどんなに強くても前回のドラゴンと同じ例であるのならジュエルシードに直接魔力で攻撃すれば急所を捉えた事にもなり大ダメージを食らう筈なのだ。
(さっきの攻撃は的確にドラゴンボールが埋め込まれてる部分を狙ってた。けど――)
「……今、何かしたのか?」
「えっ!?」
やがてシルエットが爆発の中から浮かび上がってくるとようやく姿が見えてくる——―が、其処には闇色に包まれたオーラと共に彼は無傷の状態で佇んでいた。
埃だけがかかった姿で痛くも痒くもないといった表情を露にされてフェイトは戸惑いを覚えてしまう。
「どうして、効かな……。」
「———―逃げてフェイトちゃん!」
原因を探る前に木霊したのは倒れている悟飯の声だった。意味がわからずフェイトは叫んだ彼へと振り向くとその最中に醜悪な生き物は不敵な笑みを浮かべていたのだ。
合体セルはフェイトへと急接近していく、スピードは手加減しているのか悟飯でも目視できるレベルだが、少女にとってはそれでも速くあっという間に二人の距離は縮まり回避しなければ激突は免れない。
「フェイトおおおおおおおおぉぉぉぉーーーっっ!!!」
「きゃ!あ、アルフ…!?」
唐突な展開の連続で混乱を覚える中、横からフェイトを突き飛ばして迫りくる合体セルの前に立ち塞がるのは赤茶色の髪をなびかせたアルフだった。両手を広げてフェイトを守るかのように眼前の生き物を見据える。
無論、相手がいくら手加減をしているからといっても充分に彼女を殺傷できるほどの威力を持っており此処で止る事さえできない。その前に止まろうともしないのだろう。
「フェイトはあたしが守る!」
それでもアルフは強い決意を持って合体セルの突撃を体全身で受け止めようとするが。
「うわああああああああああああああああぁぁぁぁーーッッ!!!」
信じられない程の怪力が彼女に襲い掛かりそのまま吹き飛んで樹木へと強打する。血液が口から吐き出しそうな嘔吐感と骨や肉からくる痛みを一瞬感じた後には意識を失ってしまっていた。
「つまらん、これで終わりか。」
「そんな…アルフ……アルフううううううぅぅぅっ!!!!!」
血を流して倒れたアルフは樹木へともたれかったままピクリとも動かない。悪夢となった現実にフェイトの絶叫が空しく響き渡るのだった。