まぁそんなわけで、今回は二本同時更新します。これでようやく日常編が終わります。何故こんなに長くなったし(。それと色々ネタも仕込みました。それではっ!
デパートの最下層にある薄暗い倉庫。シャッターが閉じられて明らかに使用されてない倉庫の中で三人の男女が話し合っていた。
「くそっ! どうしてこうなったんだ……。」
「それはこっちのセリフよ! バッグを盗んでこいとは言ったけど誘拐しろとは言ってないわ。」
当初の予定では階段を降りていた少女が身に着けていたバッグを背後から奪って逃走する計画だったのだが、予想以上に少女が抵抗してきた為、仕方なく少女ごと連れ去らってきてしまったのだ。
「うるせぇ! もとはと言えばお前が高級品なのが欲しいって言ったからじゃねぇか!!」
「なんですって!? あたしの所為にするわけ!」
「まぁまぁ、お二人とも落ち着いてください。目的の物は手に入ったのですから良しとしましょう。それに幸い顔は見られてませんし。」
ヒートアップしていく男女の言い合いに割り込む老人。穏やかな表情を浮かべながら諭すように告げると二人の熱は冷めて視線を足元へと移す。
彼等の足元には色鮮やかに装飾されたバッグと長い金色の髪を持つ少女が寝かされていた。
「ふぅ~、すぐに眠らせて正解だったな。そういや、俺を追ってきた連中は上手く撒いてくれたのか?」
「ええ、外に逃げたと伝えといたわ。」
「そっか。あの時はマジで危なかったぜ。」
さらおうとした際に少女の叫びが聞こえたのか黒髪の少年と青年が同時に駆けつけてきたのだ。男は慌てて階段から逃走するも彼等は男を追いかけてくる、それも異常な速さで。
このままでは追いつかれると焦った男は仲間に援護を要請し、どうにか逃げ切ったのである。
「それにしても、この子相当なお金持ちなのね。あのバッグ海外限定で数十万もするのに。」
「外人だからじゃねぇか? 連中もアリサって呼んでたし、携帯も高そうなの使ってたし。」
「携帯ですか? 荷物の中にはありませんでしたが。」
「衣服の中も調べたけど何もなかったわよ? っていうか、なんで携帯持ってるってわかったの?」
「そりゃあ、背後から近づいた時に携帯弄ってるのが見えたから。」
「で、その携帯は?」
「俺が奪ってポケットの中に……。」
ズボンのポケットに手を入れるが携帯を掴む事ができない。というより携帯がない。そこから考えられるのは………。
「悪い、途中で落としたかもしれねぇ……。」
「はぁ!? ちょっと、なにやってんのよ!!」
「これは不味いですね。もし、誰かが見つけて警察に届けられでもしたら。」
深刻そうに告げる老人に女性も頷くが、男の方は理解ができておらず首を傾げる。
「なぁ、そんなにヤバイのかよ。」
「……ヤバイわよ。あんたさっき携帯を取り上げたって言ったわよね?」
「ああ、言ったけど……ああああああっ!!!」
ようやく男も気が付く。携帯を取り上げた事、それは携帯に触った事を意味する事実に。
つまり少女の携帯には男の指紋がついているのだ。もし、それを警察に調べられたら何れ男の元に辿り着いてしまう。
「バカ! なんで手袋つけてなかったのよ。」
「き、きっと階段の近くで落としたんだ。取ってくる!」
「あ、ちょっと待ちなさい!!」
女性が引き止めようとするのを振り切って男は階段に近いシャッターの入口へと走り出す。警察に捕まる事を恐れて周りが見えてないのだ。なんとしても誰かに拾われる前に見つけなればならず、それが焦りを増幅させる。
男がシャッターを全開まで解放すると薄暗かった倉庫に光が差し込む。そして眼前には―――
「探し物はこれか?」
装飾品に飾られた携帯を片手に持つ青年が不敵に微笑んでいた。
「お、お前は!」
青年の登場に驚く男。彼こそが男を追跡していた黒髪の青年―――高町恭也だったのだ。
恭也の左右には警備員の男性達が立ち並び、懐中電灯で倉庫の中にいる人物達を照らしていく。
「……やはり仲間と組んでいたのか。」
「うそ……。」
「……ふむ。」
明かりが捉えた先にいる人物は彼等と同じ警備員の服を着た老人と何度か見かけたデパートの従業員と同じ服を着た女性。老人は落ち着いた態度だが女性の方は信じられないような表情を顔に出していた。
「ど、どうして此処にいるってわかったのよ! 別の場所探しに行ったんじゃなかったの!!」
「貴女が俺とぶつかった時、余りにもタイミングが良すぎたものでな、申し訳ないが後をつけさせてもらった。もし、このまま売り場に戻るなら謝罪しようと思ったが、貴女は売り場に戻らず何度も周りを警戒しながら非常扉の方へと向かった。そして俺はその先の踊り場で倒れたポールとアリサちゃんの携帯を見つけたんだ。」
彼女の慎重すぎる行動が逆に恭也の疑念を深めたのだ。だがそれも非常扉に入るまでで此処までくれば大丈夫だと気を緩めた結果、ポールと携帯を見逃して恭也が見つける事態となった。階段周りが暗かった事もあるが注意深く探せば見つけて対処する事もできただろう。
「じゃ、じゃああたしが先に見つけていれば……。」
「くそっ!」
自分が犯してしまったミスを嘆く女性を余所に男は強引に逃げ出そうとするが、恭也とすれ違う際に腕を捕まれて引き寄せられる。
「逃げても無駄だ。既に警察には連絡してある……これ以上罪を重ねるな。」
力強く掴まれた腕には力が入らず男はその場で膝をつき、女性も観念したのか抵抗の素振りは見せずその場で佇む。後は警察が到着して彼等を逮捕すれば事件は解決する……筈だった。
「ふ、ふふふ、ははははは!」
突然、笑い出したのは警備員の老人。その豪快な笑いに彼と行動していた男女は呆然とする。
「何がおかしい。」
「いやいや、すみませんねぇ。まさか彼等のミスがあったとはいえ此処まで追い詰められるとは思いませんでしたから。」
「……その割には随分と余裕を持っているな。何か策でもあるというのか?」
「ええ、ありますよ。仲間が我々だけだと思いますか?」
「なんだと……ぐああっ!」
――瞬間、恭也の体に電流が迸る。身体をよろめかせて片膝をついて振り向くと其処にはスタンガンを手にした警備員達の姿が。
「こ……この二人も……。」
「はい、こちら側の者です。」
ニコッと笑う老人。だがその笑顔は思わず背筋が震えるほど不気味さを露にしていた。
「は、はは。やったぜ! ナイスだ爺さん!!」
「ありがとう、本当に助かったわ。」
形勢が逆転すると男女の瞳に光が蘇る。これで後は青年を始末すれば警察を掻い潜れる。携帯も此方の手に渡った以上痕跡は見つからない。そう思って二人は老人に近寄ろうとするが……。
「がああっ!」
「ど……どうして……。」
スタンガンは男女にも当てられたのだ、醜悪な表情を浮かべる老人の手によって。
「もうあなた方は用済みですので。」
告げられた一言に戦慄する。“用済み”、その言葉を最後に彼等の意識は闇に落ちていく。
「……仲間じゃなかったのか。」
「仲間ですよ。ですが、我々の組織に無能な仲間は必要ありません。」
「組織……?」
「貴方も名前くらいは聞いた事があるでしょう。数年前、世間に名を轟かせた盗賊団の事を。」
「盗賊団……―――まさか龍(ロン)か!?」
恭也は目を見開く。“龍”それは目的の物を手に入れる為なら大量殺戮さえ平気で行う極悪非道の盗賊団で警察でも手に負えない組織なのだ。だが、数年前に恭也の父、士郎と彼の仲間の協力を得て組織のアジトを発見して壊滅させ首領を含む構成員を捕える事に成功した。しかし、その代償は大きく龍との闘いで士郎は大怪我を負ってしまう。今でこそ元気に喫茶店で仕事してるが一時は命の危険まであると言われていた。尚、士郎が龍と関わっていた事は縁のある一部の者にしか伝わっておらず、まだ幼かったなのはは知る由もなかった。
「御名答。首領達は捕まりましたが、私を含め何人かは上手く逃げ延びました。とはいえ我々だけでは組織の復興は厳しく、組織を完全に立て直すには資金と人材が必要だったのです。」
「それであの二人を仲間に加えたのか……。」
「彼等にはセンスがありましたからね。育てていけば戦力になるかと思ったのですが、どうやら期待外れでした。如何なる状況でも冷静な判断を取れないでようではただの足枷にしかなりません。」
冷酷な視線で男女を見下ろすと老人は警備員達に指示を出す。それに従う警備員達は縄で恭也と男女の体を拘束させて倒れているアリサの横へと並ばせる。更に灯油を隅の壁から万遍なくかけていき。
「なにを……するつもりだ。」
「ふふ、私の正体を知る者をこのまま生かしておくと思いますか?」
そう言って老人が懐から取り出したのはオイルライター。着火させたそれを灯油がかけられた壁へと投げ入れて。
「さぁ、燃え上がりなさい。」
ライターの火に触れた瞬間、一気に大きな炎と化して燃え上がり徐々に範囲が広がり始める。
「後は我々が警察に証言すれば「犯人は若い男女で、青年に追い詰められて逃げられなくなり、人質の少女と青年を巻き込んで放火して自殺」で事件の幕が閉じます。どうです、素晴らしいシナリオでしょう。」
「……外道が。」
「ボス、そろそろ戻りましょうぜ。」
「仲間もボスの帰りを待っていますし。」
「ふふ、そうですね。では、炎の牢獄を楽しんでください。」
鋭い眼光で恭也は老人を睨み付けるが、老人は恭也を嘲笑いアリサのバッグを手に取って警備員達と共にシャッターの外へと歩いて行く。このままシャッターを閉められては老人の言葉通り“炎の牢獄”と化するだろう。一刻も早く対処しなければならないが拘束されて手足が使えず、スタンガンの影響で意識が朦朧とした状態。
(ここまでなのか……。)
周囲の温度が熱くなり、もはや意識が保てず落ちかけようとした時……。
「「「―――ぐああああっ!!」」」」
「「「―――!?」」」
複数の叫び声と同時に響き渡る轟音。そして黒い影が此方へと着地して砂埃が舞う。
目線だけを向けると其処に倒れていたのは黒いビジネススーツを着込んだ男達。
一体何が起きたのか?老人と警備員達は動く様子がなく、ただ目の前に立ち塞がる人物を見つめるだけ。
「何処に行くつもりだ。」
(この声は……。)
幼さが残る声。その声には聞き覚えがあり声の主を確かめようと意識が落ちる前に顔を上げれば。
(ごはん……くん……。)
薄れゆく意識の中で最後に見た光景…―――それは犯人達を睨み付ける少年の姿だった。