「そっか、悟飯くん風邪引いちゃったんだね。」
「大丈夫かな……。」
「まぁ、風邪と言ってもそこまで酷い訳じゃないから心配する必要はないわ。」
朝のホームルームが始まる前の騒がしい教室。その窓際でアリサ達三人は雑談を交えていた。主な話題は悟飯について、悟飯が転入してからはアリサと一緒に登校する事が多かった為、彼の姿が見えないのを疑問に感じたすずかの問いから今の流れへと至る。
「でも、やっぱり心配だよ。昨日は元気そうだったのに……。」
「ねぇ、アリサちゃん。今日学校が終わったらアリサちゃん家に行ってもいいかな? 悟飯くんのお見舞いがしたいし。」
「えっ!? それはダメっ!」
「「え?」」
「あ、だから、ほら、悟飯の風邪が移るかもしれないじゃない? それで、もし二人が風邪引いたら悟飯が責任感じると思うから。」
動揺を隠しきれずわたわたと身振り手振りを行いながらアリサは説明する。実際は悟飯は風邪など引いてなく、元気な様子で朝早くに出掛けて行った。今頃はフェイトの母親がいる時の庭園に向かっている頃だろう。その為、彼が学校を休む口実としてアリサが嘘を吐いたのだ。
そんなアリサ達の会話が聞こえたのか近くにいたクラスメイト達が彼女達の元に集まってくる。
「え?孫のやつ休みなのか! また勉強教えて貰いたかったんだけどなぁ。」
「マジかよ。悟飯にサッカーの助っ人頼みたかったんだけど、風邪なら仕方ないな。」
「えぇ~? 孫くんお休みなの? 本借りようと思ってたのにぃ~~。」
「悟飯くんの風邪早く治るといいな……。」
まさか食いついてくるとは思わず、アリサは悟飯の話題で盛り上がるクラスメイト達に呆然とし、すずかとなのはに顔を向けて。
「悟飯ってこんなに人望あったっけ? 勉強や運動ができるのはわかるけど……。」
「え? アリサちゃん知らないの? 悟飯くん困ってるクラスのみんなや他のクラスの人達を助けてるんだよ。」
「にゃはは、この前も上級生に絡まれた下級生の子を助けてたよね。」
最近は登下校とお昼休み以外の休み時間は悟飯と行動する事が少なかった為か、二人の話を聞いて驚き直ぐに納得する。悟飯の性格を考えればなのはとすずかが話した通りの行動を起こしても不思議ではないだろう。その事を直接本人が話してくれなったのには思う所はあるが。
「………みんなあんたを待ってるんだから、さっさと帰って来なさいよね。」
空を見上げながら呟くアリサの声は誰に聞こえる事もなく風に流されて消えていくのだった。
「あなたは此処で待機してなさい。」
「わかりました。」
試合を行う場所は別にあるらしく、プレシアに指示されるままに時の庭園の最下層へと移動する。不気味に漂う邪悪な気がより一層倍増されたように感じる中、悟飯は指定された広大な部屋で待機する事となった。
「フェイト、一緒に応援しよう。悟飯が勝てばもうあんな酷い事されずに済むんだ。」
「……うん。」
アルフとフェイトは戦いに巻き込まれないようにと別室でプレシアと巨大なモニター画面での観戦。フェイトは複雑な心境を胸に抱き、アルフは悟飯が勝利することを祈るのみ。
「プレシア・テスタロッサの名において命じる―――」
プレシアの足元に光を発する魔方陣が出現し、彼女が詠唱を呟くと次々と異なる色を持つ小柄な生物が悟飯のいる部屋全体に召喚される。その数は数えきれない程多く広い部屋を瞬く間に埋め尽くしていく。
「「「「「「キキィーッ!!」」」」」」
「———栽培マン!? なんで栽培マンが……それに、この感じは……。」
悟飯はこの醜悪な存在の正体を知っている。サイヤ人の科学者が開発した生物兵器――栽培マンだ。だが幼い頃に悟飯が見た栽培マンは全て緑色であり此処まで異なる色を持った栽培マンは初めて見る。そして様々な色を持つ彼等を目にした時、ドラゴンボールを狙って現れた異なる色を持つ小柄な生物達を連想した。
「うげぇ~なんだよあの気持ち悪いの。」
「1、2、3……100体くらいはいそうだね。」
「そんなにいるのかい!? というか悟飯の対戦相手って……。」
「彼等よ。」
さも当然だと言わんばかりに答えるプレシアにアルフは呆然としてしまう。やはりこの母親は冷酷だ、あんな数が相手じゃいくら悟飯でも勝ち目なんてない。最初から徹底的に叩き潰すつもりなのが誰が見たってわかる。
「待っておくれよ! これじゃどう見たって悟飯が不利じゃないか!」
「誰も対戦相手が一人とは言ってないわ。」
「そんなの屁理屈だろ! フェイトも言ってやりなよ!!」
怒りで腕力が込められた拳を壁に叩きつけそうになりながらアルフはモニター画面の状況に反論してフェイトにも同意を求めようとするが。
「大丈夫だよアルフ、悟飯は負けないと思うから……。」
モニター画面に視線を向けたままフェイトは呟く。今まで悟飯の強さを目撃しているからか相手の数が圧倒的に多かろうと不思議と彼女には悟飯が敗北する構図が浮かばなかった。
「始めなさい。」
「「「「ギギィィィィーーーッッ!!」」」」
突発的に声が重なり合うと部屋全体に反響し合い、悟飯を取り囲むかのように全ての栽培マンが襲い掛かってくる。
これだけの数による連続攻撃は到底避けられる物ではなく返り討ちも望めるような状況でもない、それにも関わらず悟飯は拳を強く握りしめると———
「はあっ……!!」
「「「「グギギイイイイイイィィィィーーーッ!!?」」」」
自分の気を一気に周辺へと開放させることで巨大な衝撃破を解き放つ、本来は不可能に近い筈の返り討ちを悟飯は簡単にやってのけたのだ。
強風が巻き起こる中で砂煙が部屋全体に撒き散らされ、モニター画面には吹き飛ばされて壁や地面に叩きつけられる数え切れないほどの栽培マンが状況の見通しを悪くさせる。
「す、すごい……あれだけ数がいたのに……。」
「うん、本当に凄いね。」
もはやアルフの目は点になっていた、先程まで溜め込んでいた怒りもすべて悟飯が吹き飛ばしてくれたかのように力が抜けて呆然とした表情でモニター画面に釘付け状態。フェイトも驚きはしたもののアルフ程ではなく、それよりも白いマントを羽織った道着の少年の頼もしさに口元を緩めていた。
「これで全員倒しましたよ。」
モニター画面には信じられない光景が映し出されていた、悟飯の周りに群がった戦闘不能の栽培マンがおよそ100体ほど転がり落ちており動く気配がない。かと言って死んでいる訳でもなく、僅かにピクピクと手足を痙攣させていた。その気になれば全員殺すこともできただろうとプレシアは察し、改めて人間離れした少年の異常さを感じ取り杖を強く掴む。
「ふぅ……最初はどうなるかと思ったけどあっという間に勝負がついたねぇ。でも、これでフェイトは―――」
「いいえ、まだ終わりじゃないわ。」
安心するアルフの隣でプレシアが再び詠唱すると魔法陣が輝きだし、モニター画面にうつる床にも同じ魔法陣が出現して新たな対戦相手が召喚される。
「次は彼等が相手よ。」
「「「「「キーッキキーーッ!!」」」」」
「セルジュニア!?」
新たに召喚されたのは先程の栽培マンと同じ背丈くらいの生物。栽培マン同様異なる色を複数持ち、黒い斑点が付着された身体に黒い羽と白い肌を持つ。しかしその容姿はつい最近見た生物と瓜二つで悟飯は驚きの表情を顔に出す。
「そんな……うそ……。」
「なんで此処にあの化け物達がいるんだよ!」
悟飯と同様にフェイトとアルフも驚きを隠せず、その様子にプレシアは疑問を抱く。最初に召喚された生物を見た時と明からに反応が違う。二人の言葉を聞く限りでは前にも遭遇した事のある言い方。偶然、時の庭園内で見つけてしまったのだと考える事も出来るが、それなら報告が来る筈だ。故に理由を聞き出す為に彼女達へと歩み寄り。
「どうしてあなた達が彼等の事を知ってるの?」
「え? それは……。」
「ようやくわかったよ、この前のジュエルシード捜索の時にあいつらが現れたのもあたし達の手伝いをさせる為にあんたが送り込んだんだろ!」
再び怒りを露にするアルフ。あの生物達の所為で彼女達は酷い目に合ったのだ。凶暴になった原因はドラゴンボールと融合したジュエルシードを取り込んだ事にあるのだが、そもそも彼等さえ現れなければそのような事態になる事はなかったとも言える。
「そんな命令出してないわ。」
「とぼけたって無駄さ。あたし達はこの目でしっかりと見たんだ、あいつらは間違いなくドラゴンボールを狙ってた。」
「そうなのフェイト?」
「……はい。」
プレシアに聞かれるとあの夜の出来事を思い出したのか身体を震えさせながらフェイトは頷く。アルフの言葉に嘘はない、確かに最初は自分達に攻撃せずドラゴンボールを持つアリサを狙っていた。その後ジュエルシードの力で凶悪になり延々といたぶられ続けた。もし、悟飯が助けてくれなければ確実に殺されていただろう。
「どういうこと……。」
本当に身に覚えがなく救援命令など出してなかった。しかし、アルフ達の発言が嘘を言ってるようには思えない、と言うより嘘をつく理由が思い当たらないのだ。
ならば他に考えられるのは自分以外の誰かがセルジュニア達に命令したという可能性、彼等の存在を知る人物は自分ともう一人……。
「……まさか。」
「ん?…――な、なんだよあれ!?」
アルフの声に反応したプレシアがモニター画面へ視線を戻せば、映像の中では無数のエネルギーの塊が集中豪雨を仕掛けていた。倒れている栽培マンや残されたセルジュニア、そして悟飯を巻き込み幾度も爆発を繰り返す、しかし画面の映像はフラッシュだけしか映らない。
「……っ!」
「一体何が起きて……って、フェイト!何処行くのさ!!」
突然部屋を出て行くフェイトの後を追ってアルフも駆け出す。向かう先は悟飯のいる部屋。
二人が其処に到着しても尚、轟音は鳴り響き大量の爆煙に覆われて視界が見えず、時折誰が発したかわからない断末魔のような声が耳に届く。
「悟飯…っ!」
「ダメだよフェイト! 危ないって!!」
部屋の中へと侵入しようとするフェイトを背後からアルフが押さえつけて説得する。悟飯が心配なのはわかるが悪意に満ちた光弾は未だ衰える事無く降り注いでおり、今飛び込めば間違いなく二人とも巻き添えを受ける可能性を考えての判断だった。
暫くして光弾が止むと徐々に爆煙が薄れて部屋全体の状況を把握できるようになる。
床は先程の爆発で原型を留めておらず辺りには栽培マンやセルジュニアの物と思われる腕や脚等の身体のパーツが散乱し思わず目を背けたくなる中、部屋の中心にはただ一人埃で汚れたマントを羽織う黒髪の少年の姿が視界に留まる。
「悟飯! よかった無事で……。」
「つくづく悟飯には驚かされるよ。あの中にいてよく無事でいられたもんだね。」
安全を確認してから二人は悟飯に近づいて声を掛ける、だが悟飯は返事を返さず上空を見据えていた。彼女達も追うように上空に目を向ければ、まだ晴れてない煙から複数のシルエットが形を成していく。
「二人とも、すぐに此処から離れるんだ。」
険しい表情で悟飯が呟くのと同時、突如周囲に無数のモニターが出現し黒い帽子を被った白髪の老人の姿が画面一杯に塗り潰されていた。続いて不気味な笑い声が部屋全体に響き渡る。
『くっくっく、まさか生きてるとは思わなかったぞ……孫悟飯。』
「お前は……!」
モニターに映る老人を捉えた瞬間に悟飯の顔付きは更に険しく変わる。まず見間違いではないだろう、老人の容姿に加えて黒い帽子に印された赤いリボンが彼の正体を決定づけるのだ。
「なんだいあの爺さんは?」
「悟飯は知ってるの?」
「うん、あいつは―――」
『やっぱりあなたの仕業だったのね、ドクター・ゲロ………。』
悟飯が答える前に別のモニターが出現すれば、プレシアの姿が映し出される。そして上空の煙が完全に晴れると複数の人の形を成した者達が三人を見下ろしているのだった。