ーーアインハルト家のかなり広い部屋の一室で、二人の人物が仕事をしながら話しをしていた。
その部屋の中には暖炉のような物があり、壁には豪華な金色の装飾が施され、どこか中世的な感じを漂わせている。
「ねぇ、聞いた? ロイゼがシャロット様のお世話係になったみたいよ?」
そう話すのは銀髪ロングの背の高い女性だ。
その着ている服からロイゼと同じアインハルト家のメイドのように見える。
「……え? ロイゼってあの新人の子ですよね?」
銀髪の女性の言葉に驚き、水色の髪の少し背の小さな少女が、黒曜石でできたかなり大きな長方形型のテーブルから食器を片ずけていた手を止めた。
「そうそう、でも意外だったわ。まさかロイゼがお世話係に任命されるなんて」
「でも、あの子ってメイドとして雇われたのって、最近じゃありませんでしたっけ?」
銀髪の女性はロイゼがシャロットのお世話係になった事に驚いていたが、それ以上に水色の髪の少女の反応の方が大きかった。
彼女も、同じくアインハルト家のメイドのようだ。
黒をベースとした、いたってシンブルなメイド服なのだが、服の背後の腰辺りについている、白い大きなリボンのような物が、メイド達の可愛らしさを引き立てている。
「シャロット様のお世話係だなんて、羨ましいわぁ。ねぇ? 貴方もそう思わない?」
銀髪の女性が両手を頬に当てると、うっとりとした表情を浮かべながら問いかけた。
「……そうですかー? あたしは別に羨ましくなんかないですけど」
少女はそう答えると、少し眉をひそめながら食器を片付け始める。
「あらあら、本当は羨ましいくせに〜」
「なっ!? そ、そんな事はありません!!」
「うふふ、貴方はすぐ顔に出るから、すぐわかるのよね〜」
銀髪の女性が、少女を見ながらニヤニヤと笑っている。
「う、うるさいですぅ!!」
少女は食器を両手に山のように積むと洗い場の方へ急ぎ足で去って行った。
水色の髪の背の小さな少女はミーシャと言う名前だった。
ミーシャはロイゼより一年早くこのアインハルト家のメイドとして仕えていたが、最近新しく雇われたロイゼに対してあまり良い印象は持ってはいなかったようだ。
(……何なのよ、何なのよ、何なのよ!! ロイゼ、ロイゼって!)
洗い場に着いたミーシャは一人、下げた食器を洗いながら考えていた。
自分よりも一年も後にメイドとして雇われた新人のロイゼが、このアインハルト家のお嬢様であるシャロットのお世話係を任されている事に疑問を感じていた。
アインハルト家のメイドは全部で7人いるが、その中で数名はそれぞれ役割があった。
通称『奥さま』と呼ばれている、シャロットの母親専属の側近メイド。
『旦那さま』と呼ばれている、父親専属の側近メイド。
その中でミーシャとロイゼは、ごく普通の食事のかたずけや掃除を任されていたメイドだった。
ミーシャはロイゼがシャロットのお世話係になった事を心底羨ましがっていた。
周りのメイド達には羨ましくはないと言ってはいたが、それは単なる強がりに過ぎなかった。
このアインハルト家に仕えるメイドにとって、側近と言う役割に就くことはとても名誉な事なのもあるが、何より普通のメイドよりも待遇が良かったのだ。
一般のメイド達は、一応各自部屋は与えられるのだが、狭い部屋に木製の硬いベッドに小さな机が一つあるだけ。
それに比べ、専属の側近メイド達はふかふかのベッドに広い部屋が与えられていた。なにせ食事に関しても、かなりの違いがあった。
庶民の食事よりはましと言えるが、決して豪華と言う訳ではなかった。
アインハルト家から支払われるお金に関しても、そうだった。
専属の側近メイド達が、金貨10枚とするならば一般のメイド達はその半分にも満たない金貨3枚程だ。
ミーシャだけに限らず他のメイド達が羨ましいがるのも当然の事だった。
不満が出ないのかと言われれば出てはいたのだが、なかなか思い通りにいかないのが世の常である。
ミーシャには2つ下の妹と3つ下の弟がいた。
両親は母親だけ。
母親は重い病であった為、ミーシャが家族を養っていた。
妹と弟はまだ年齢的に幼く、当然働きに行けるはずもなかった。
「……はぁ」
ミーシャの口からため息のような物が溢れ出る。
シャロットのお世話係になりたいと心の中では必死だった。
掃除や洗い物、とにかく一生懸命頑張っていたが、何故か新人のロイゼに先を越されてしまった悲しみと、家族を養っていかなければならない気持ちが重なり合い、憂鬱な日々が続いていた。