私とミーシャは一般書物庫と呼ばれる部屋の前に来ていた。
一般書物庫の扉は、白い木製に見える、とても可愛らしい扉だった。
扉の中央部分には、何やら金色に輝く、猫の後ろ姿をモチーフにしているかのようなプレートがつけられ、そのすぐ下には黒い文字のような物が書かれていた。
恐らく、描かれているのは猫だろうとは思えるのだけれど、その下の黒い文字はなんて書いてあるのかさっぱりわからなかった。
アルファベットにも見えなくはないのだが、なんか違う。
これがこの世界の文字と言う物なのだろうか。
それより気になるのはやっぱり猫だ。
もしかして、この世界にも猫と言う物が存在するのだろうか?
もし存在するのなら、大の猫好きな私は大歓喜してしまいそうだ。
そう考えると、ニヤニヤが止まらなかった。
ミーシャが、ガチャガチャと扉に付けられている、金色のとっての部分にある鍵穴に、丸い手の平サイズの輪っかに付けられている、鍵を差し込んでいる。
カチャリと言う音と共にミーシャが鍵穴から鍵を引き抜くと、ゆっくりとその可愛らしい扉を開けた。
「お待たせしました、シャロット様! 少しほこりっぼいかもしれませんが、どうぞ中へ!」
ミーシャが扉を開けると、部屋の中に左手を差し出して、私を一般書物庫の中へと招き入れた。
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一般書物庫の中に入った私はその部屋の広さと、天井の高さに目を大きく開き、驚いていた。
「うわぁ〜! ……綺麗〜!」
本当にこの言葉しか出なかった。
部屋の中に入った私が目にした物は、円形状の白い壁に木製の6段くらいの本棚が天井に向かってたくさん積まれていた。
その本棚の中には、たくさんの色取り取りの本がぎっしり収まっている。
ガラス張りのように見える天井を見上げると、ふわふわと青空を流れる雲のような物が広がり、太陽の光とも思える日の光が、にわかに部屋に差し込み、部屋を明るく照らしていた。
部屋の広さも、ビックリする程大きく、まるで図書館にでもいるような感じだった。
「えっとぉ、魔術本はっと」
ミーシャは本棚にゆっくり歩いていくと、収められている本を手に取り、本を開くと、ペラペラとページをめくり始めた。
本を見るミーシャの表情は、幼い子供が絵本を見るかのように、楽しそうだ。
もしかして、ミーシャは本とかを読むのが好きなのかな?
そう思いながら、私もミーシャの近くで本棚から白い色の本を手に取り、ページをパラパラめくって見ると、何やらページにぎっしりと文字が書かれてある。
うわー……見ているだけで、頭が痛くなってきそうだ。
英語で書かれた本でも、読めれば楽しいのかも知れないが、読めなければ何一つ楽しくなんかない。
それと同じだ。
文字を読めなければ、全く本を見る意味がない。
魔術の本って何か難しいイメージがある。
そもそも、文字を理解できなければ、魔術を覚える以前の問題だ。
ミーシャに読んで教えてもらう選択肢もあったけれど、メイドとしての仕事もあるし、ずっと付き合ってもらう訳にもいかない。
ーー文字を読めるようになりたい。
そう思った時だった。
手に取ってページをパラパラとめくっていた、私の手がぴたりと止まる。
「どうされました? シャロットさま……って……ええーー!?」
ミーシャが急に目をまん丸くしながら、ひどく驚いたような声を上げたと思うと、手からバサバサと持っていた本を床に落としていた。
「シャロットさま!? 今一体何をなされたのですか!?」
ミーシャが私の側に駆け寄ると、困惑した表情を浮かべながら、私を見ていた。
「えっ? 何をってどういう意味……?」
「今、私にはシャロット様が言語解読の魔術をお使いになられたように見えましたが……!」
私はミーシャにそう言われ、気がつく。
確かにミーシャに言われた通り、一瞬ではあったけど少しだけ文字を読めたような気がしたのだ。
「言われてみれば、今一瞬だけ少し文字を読めたかもしれない!」
「で、ですよね!? でも、私の使える言語解読とは少し違うような気もするんです! シャロット様の身体を纏うオーラの色も紫がかっていましたし!」
どうやら私は、自分でも気がつかない内に一瞬ではあったようだけれど、生まれて初めての魔術的な物を使えていたかも知れない嬉しさに大歓喜な私とミーシャなのでした。