第一話
ロックマン。
220X年現在。この単語を聞いて首を横に振る人は数少ないであろう。
何せ、世界を三度も救った世紀の大ヒーローなのだから……
FM王による地球襲撃。ドクターオリヒメのムーテクノロジー悪用の世界抹殺。ディーラーが流星メテオGを駆使した地球滅亡。すべて空前絶後の出来事だったが、それをロックマンがすべて防いだのだ。
青を基調としたアーマーに、きりっとした眼差し。それは誰もが憧れる存在へとなっていた。
そんなロックマン。実は、小学生であるのはここだけの話である。
「おいスバル。目覚まし鳴っているぞ」
「う……あと五分だけ」
枕元に置かれた端末―ハンターVGからなりだすメロディを聞き、ウィザードのウォーロックは主人であり、ロックマンでもある星河スバルを布団から引き出そうとしていた。
しかし、当の本人はごらんのように起きる気配は0である。
「スバル!! ルナちゃんたちもう来ているわよ!!」
「んっ……ええ!?」
一回から聞こえてきた声は彼の母親、星河あかねそのものだった。待ち人のルナは、スバルが通う小学校の委員長でもあり、良き仲でもある。
「言わんこっちゃねえな」
「まさかこんな早く来るとは思っていなかったよ」
慌てて布団から跳ね起き、いつもの服へと着替える。
「おはよう!! 母さん。とうさん!!」
「おはようスバル。元気なのはいいけれど、寝坊は感心できないな」
「うっ……」
「ほら、早く食べなさい。ルナちゃんたち待っているわよ」
「そうだった!!」
テレビを見る余裕もなく、スバルは目の前に出された食パンをほおばってゆく。
最後の一口とともに、牛乳で流し込み鞄を手にとっては。
「行ってきます!!」
「気を付けていきなさいよ」
「気を付けるんだぞ!!」
「はーい!!」
家を出ると、待っていたのは委員長の白金ルナを筆頭に最小院キザマロ、牛島ゴン太、ジャックであった。
「ごめんごめん」
「別に遅れてはいないわよ? 私たちが単純に早く来ただけなのよ」
「それでも委員長のために一秒でも早く来ようとした星河の君の誠意には、僕も敬意を示したいと思います」
「いつものことなんじゃねえのか?」
ジャックがどうでもいいかのように、腕を組みながらつぶやいていた。
しかし、ルナはそんなことはお構いなしに、
「何せ生徒会長だからね。高尚に待っていなければ、生徒の信頼は得られないのよ」
「本当に上品に待っていたのかよ……」
「う、うるさいわね!!」
「ね、ねえ。そろそろ学校へ行かない?」
「そうですよ。早くしなければ遅刻してしまいます」
「急ごうぜ」
人の家の前で騒がれるのが嫌なのか、または学校へ遅れるのが嫌なのかは本人に聞いてみなければ分からないが、スバルたちは駆け足でコダマ小学校へと向かったのだった。
今日から新しい一年。新しい学期が始まるのか、久しく見る生徒が多くいる。
「いいわね。新しい一年。新しい始まり。清々しいわ」
「自分が学校の頂点にたててうれしいだけじゃねえのか?」
「ジャック、それくらいにしなよ」
ルナはいつものように歩く児童たちを見て高らかと笑う中、ジャックは軽いため息をつきながら言う。
「始業式まで時間はあるわね。軽く先生たちにあいさつ回りにでも行こうかしら」
「いいですね。僕もお供しましょう」
「俺も行くぜ」
「星河君とジャックはどうする?」
「俺はパス。教室にいるぜ」
「僕もちょっとパスするよ」
スバルとジャックの二人はルナの誘いを断り、教室へと向かった。途中、キザマロがぶつぶつと何か言っていたのに二人は気にしていなかったが。
「どう? WAXAの仕事は」
「どうって言われてもなあ。どこかしらでウイルスが出てそれを対処するくらいだからな。特に大きな事件はないな」
「平和になったものだな」
「そうでもないよ? ウォーロック。今だってサイバー犯罪は立て続けに起きているし、またいつかディーラーみたいな組織が出てきてもおかしくないよ」
「スバルがそう言うと、説得付かないんだよな……」
「ほんとだぜ。お前の主人にはこっちも頭が下がりまくりだ」
ジャックのウィザード、コーヴァズが姿を現してはウォーロックの意見に便乗してきた。
「二人にそう言われると、さすがのスバルも何も言えないんだな」
「ほぼ正論を言われているからね……」
メテオGの件以降、ジャックと姉のクインティアはWAXAに入りネットワーク内の巡回を承っている。ジャックは学校へ通いながらだが、クインティアに至っては恋人でもある暁シドウと同じほぼ同じ階級にまで登りつめている。
「また近々、WAXAに顔を出すから」
「シドウさんにそう言っておくよ」
スバルとジャックが談話を重ねていると、スピーカーから校内放送を知らせる音が鳴り響いた。
「児童のみなさんに連絡します。まもなく、入学式が始まります。体育館へ向かってください」
「さて、そろそろ行くとするか」
新しい一年が、今幕を開ける。
……同時に、災厄の始まりでもあった。
「報告いたします。調査の結果、電脳竜のPGMの位置が判明しました」
「ようやくか……引き続き調査をしてくれ」
「はい」
玉座に座る男に何かを報告する部下たち。
その男の周りには、数人の人がいた。
「ようやく特定できたんですか?」
「のようだな。これで少しは仕事が捗るな」
「でもボスが指示を出さないっていう事は、細かいところまでは出ていないわけでしょ?」
「まあ、お前ら焦るな。焦っても何も始まらない。我ら『グローカー』。賢明に待機して居ようじゃないか」
「おいおい。ガルファス。ずいぶんと余裕なんだな」
「そういうシモンこそ、手柄がとられるんじゃないかって心配しているんじゃない?」
隣の女性がハンターを操作しながら、反応した。
「はっ!! 手柄なんてどうでもいいんだ。俺は電脳竜の力さえ手に入ればいいんだよ!!」
「そうですよ。私たちの目的はあくまで、電脳竜のPGMを手に入れ世界を破壊の混乱に貶めること。手柄なんて元から無いんですよ」
「クラハも目的のものばかり見ているんだな。先ばかり見ていないで、すこしは手前のものを見つめなおしたらどうだよ?」
「なんだ小僧。先日任務を失敗した奴が調子こいているんじゃない!!」
「任務をもらっていないボンクラよりはましだと思っているよ」
「なんだと……貴様、それ以上ものをいうと」
「やめておけ。ボスの前だぞ。はしたないところを見せるな」
静止した男……ガルファスは仲間割れを起こしていた二人の青年を抑制した。
二人もボスの方を見ては、お互い冷めた態度を取り始めた。
「まあ、誰がどう出ようと結果だけが求められるからね」
「……レオンの言う通りだ」
レオンと呼ばれた少年はただ、物静かに影にひそめているだけだった。
「……電脳竜の詳細は、また集まり次第だ。それまで、各自臨時体制をとっておくように……」
『イエス・ボス』
お決まりの掛け声を共に、彼らのボスは玉座から姿を消した。