昼食を取り終えた二人は、公園へと向かっていた。
理由はルナからの呼び出しだ。そこまで大したものではないと思うが、ミソラから事情を聴きたいとのことで招集したそうだ。
スバルたちが公園に来てから数分後、ルナたちも合流してきた。
その顔は、怒っているというよりは上機嫌でいるようだった。
「お久しぶりね。ミソラちゃん」
「久しぶり。ルナちゃん」
「ミソラちゃん!! 久しぶり!!」
「今話題のドラマ、ちゃんと見てますよ!!」
次いでゴン太とキザマロが軽い挨拶を入れる。
「ふふふ。ありがと」
「さて、軽く事情とやらを聞かせてもらいましょうか」
「そうね……実は」
事細かではないが、ミソラはある程度のことをルナたちに話した。
終始、ルナたちの表情は変わらないままだったが特に怒っているという表情は見られなかった。スバルはそれを見て安堵の息をついた。
「それで星河君の家に居候するのは少し侵害だけれど、大体事情は分かったわ。それで、遠足の話は聞いているの?」
「……遠足?」
ルナにはてなを投げつけると、スバルは思わず頭を抱えてしまった。
「ということは、星河君からは何も聞かされていないようね。それならいいわ。近々、コダマ小学校では遠足があるのよ。その遠足では班決めがされているんだけれど、ミソラちゃんなら私たちと知り合いなわけだから、いいでしょう?」
「委員長!! それはいい考えだぜ!!」
「名案です!!」
「本当に? 私なんかで大丈夫?」
「女子も私しかいなかったからね。ちょうどいいくらいだわ」
「意外とうまくいきそうね」
スバルが遠目でミソラたちのやり取りを見ていると、ハープが話しかけてきた。
「もとからコミュニケーションは取れるほうだもんね。ミソラちゃんなら、すぐに友達出来ると思うよ」
「私もその辺は大丈夫だと思っているけれど……最近、あまりよくない噂が流れているらしいじゃない」
「……まさか、シドウから聞いたのか?」
ハープの話は、まさに今起こっている異変だ。
「詳しくはないけれど、スピカモールであった日。私も妙な感覚を覚えたわ。こう耳障りというか、何というか……少し気持ち悪かったわね」
「電波体というより……っていう感じだからな」
「それに、ミソラと似ている服を着ていたらしいじゃない」
スバルたちに視線は、楽しそうに話しているミソラに注目された。ピンクを基調としたパーカー。その後ろ姿は先日会った少女を戦慄させてしまう。
「また厄介なことに巻き込まれなければいいけれど……」
「問題はそれね。もし大事にでもなれば、どうにかできるっていうレベルじゃないものよ」
「何言っているんだよ。俺らがいるから何とかなるだろ!?」
「バカ言うんじゃないわよあんた。メテオGが消滅したっていう事はサーバーがなくなったのと同じなのよ? そうなればあなた達は『ファイナライズ』はできないの」
「……」
それは全く考えていなかった。
つい最近まで、ディーラーと戦っていたのだ。メテオG内にあるサーバーを使って『ファイナライズ』をしていたのだ。だが、それが消滅した今……
「もし新しい敵が現れて、あの少女も敵だったら……本当にやばいわよ」
ハープの言葉にスバルは思わず固唾をのんだ。
想像すると、それは残酷な結果になるはずだ。
「現時点でも電波変換できるのはほんの数人よ。それで世界を救うなんて……到底考えられないわよ」
「お前、大分現実を突きつけてくるんだな」
ハープの痛い言葉にウォーロックは弱音を吐いた。
「あら、あなたの割にはずいぶんと弱気なのね」
「……実際、あれだけの強いウイルスさえきつかったんだよ。それを考えたら……僕たちもっと強くならなきゃね」
「スバル君!! おいていくわよ!!」
「あら、どうやら学校内を探検するそうね」
ハープはミソラのハンターへと戻り、スバルはミソラたちのもとへと駆けて行った。
『……す……けて』
「えっ?」
突然耳元で聞こえた声。
振り向いたが、誰もいない。
「……ねえウォーロック」
「ああ、俺にもばっちり聞こえたぜ」
「いったい……誰なんだろう」
「それより、早くあいつらのところ行こうぜ!」
「う……うん」
気のせいだろうと心に泊めて置き、スバルは駆け出して行った。
だが、スバルがいなくなったその場所から。
「助けて……ロックマン」
少女の声がはっきり聞こえたのだ。
休み明け、学校へ登校すると何故か周囲の人たちは騒がしかった。
「どうしたんだろう。なんか今日はやけに騒がしいね」
「たぶん、ミソラのことだろ? ったく、人間の噂っていうのは本当に面倒なんだな」
ウォーロックの言っていることが本当だとすれば、いったいどこからその情報を知ったのかスバルは逆に興味を持ってしまう。ルナたちが広めたとは考え難いが、アイドルが転向してくるのだ。そりゃあ話題になっても当然のことと言えるだろう。
「おはよ」
「おはよう。ジャック」
スバルと同時に登校してきたジャックは喧騒とした空気は何ともないようだ。
「……なんか騒がしいな」
のようでもなかったようだ。
「あー実は」
スバルは昨日のことを一部始終説明した。途中、ジャックは相槌を打ったりなど特に驚いたリアクションを見せることはほとんどなかった。興味がないのか、結果的に騒ぐほどのものでもないのか。捉え方は人それぞれのようだ。
「おーい。席に着けよ」
数分経ってから、担任の育田道徳が教室に姿を現した。
席に着く生徒たちはなぜかいつものように落ち着きがない。転校生が来ると知っているからか、だまっていても騒がしい雰囲気を醸し出しているのがわかる。
「よし。それじゃあ朝の会を始める。……の前に、今日は転校生だ。この時期でなんだが、本人の希望でな。特別というか、今日からこのクラスで勉強することになった……」
教室の扉が、静かに音を立てながら開いた。
入ってきたのは、紛れもなく響ミソラ。
スバルたちは特に驚いた様子もなかったが、何も知らない人たちにとっては本当にあの有名アイドル、響ミソラが自分のクラスに来たのかと、驚きの表情を隠せないでいた。
「今日からこのクラスで一緒に勉強させてもらうことになった、響ミソラです。よろしくお願いします」
さすがアイドル。言葉も一流といったところか。それを聞いてクラス中は
「きゃああああああああああああああ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」
歓声の嵐だった。下手をすれば、隣のクラスの人たちまで押し寄せてくるかもしれないほどだった。
「静かにしろよ。じゃあ、響の席は星河の前の席だな」
「……」
冷たい視線をクラス中から浴びるのと同時に、なぜそのように中途半端な席が空いていたのか、スバルはそれが疑問だった。
だが、空いている席はそこしかない。やむを得ずミソラはスバルの前の席へと座った。
「それじゃあ朝の会を始めるぞ。遠足のことについて。場所は『グランバード公園』だ。数々の鳥がいることで有名な公園だ。持ち物などは、ハンターVGのほうで送るから、各自それを確認するように。それから……」
育田先生の話が終わり、朝の会が終了すると同時に多くの人たちがミソラを押しかけてきた。もちろん、質問攻めだ。
最近出演しているドラマについて、発売されたCD。なぜこの学校へ来たのかなどの質問が投げかけられていた。
「迷惑なら断ればいいのに」
「ミソラちゃん。それでもちゃんと対応するんだよ。有名アイドルだからね」
「スバルも、そわそわしていると誰かに取られるぞ」
「だっ……誰かって誰だよ!?」
「おい、動揺しているぞ」
ジャックの一言で、スバルは動揺を隠しきれなかった。ジャック自身もその気はなかったようで、スバルの反応を見て思わず笑いそうになった。
「ま、そうやってしているのも今のうちだけれどな。遠足の行く場所」
「……がどうかしたの?」
「電波の乱れが出ているんだよ。それも、結構ふり幅がデカい。もしかすると……」
「この前みたいになるかもしれない……」
スバルの答えに、ジャックは首を縦に振るだけだった。
『グランバード公園』。この周辺ではかなりでかい公園だ。多くの鳥が生息し、国指定の公園ともされているそうだ。そこを守護しているウィザードもこれまた珍しいとのことだ。
「対策は、まだ充実していない。自力で何とかするしかないってことだな」
「地力は少し厳しいんじゃないのか?」
「それでも、やっていくしかないよ。僕たちで何とかするしか……」
「そうだな。今は、あの少女の詳細を知るまで何とかするしかないな……」
「ほら、あんたたち。何しているの?」
スバルとジャックの間に、これまたルナが割って入ってきた。
「ミソラちゃんを学校へ案内するわよ」
「案内するって……授業始まるよ?」
「一時間目は、体育よ」
移動授業だということを思い出したスバルたちは、大急ぎで体操着を手に取り更衣室へとダッシュしていった。
「ガルファスが言っていたこと、本当なの?」
「間違いないよ。最近、あらゆるところで電波の乱れが生じているし、妙な電波体がうろついているってね。ガルファスが調べたら、大体は合っているでしょ」
「それで、ここも最近はその乱れが生じていた場所っていうわけね」
レオンとレベッカの二人は、以前下見へと来ていた『グランバード公園』にいた。
幹部からの情報で、電波の乱れが激しいこの場所に電脳竜のプログラムがある可能性だという事。その任務を請け負っているふたりは、再びこの地へと訪れた。
「鳥しかいないこの公園に、電脳竜のプログラムがあるの?」
「電脳竜は二頭が争いを続けていたっていう説があるでしょ? でも、それはあくまで強大な力を持っている二頭であって本来は手下みたいな竜もついていたらしいよ。まあ何百年も前の話だけれど今でも生存している電波体がいるみたいでね。ボスは今回……」
「この公園を管理しているウィザード、アクイラに目を付けたっていうわけね」
「そうだね。とりあえず、今回はそのアクイラを手なずけて電脳竜の反応が出るか確認してみるか」
「けれど、公園を管理しているウィザードなのだからセキュリティとか厳しくないの?」
「その辺は抜かりないと思うよ。ほら、この前実験で使ったウィザード」
「……なるほどね」
レベッカは何かを思い出したかのように、相槌を打った。
「さて、あとの問題はロックマンが来るのかどうか……」
「レオン」
「どうした? レグルス」
レオンに声をかけてきたのは、彼のウィザード。レグルス。獅子座のFM星人であった。
「ロックマンってやつの相棒……確かウォーロックっていうんだが、昔やりあった記憶があるんだ。せっかくのいい機会だから、俺らでやりあおうぜ」
「そうだね……機会があったらね」
にこやかに答えるレオンを、レベッカはただ見ているだけだった。なぜなら、この笑顔は誰が見ても温厚な性格に見えるが、戦闘能力は半端ではないのだ。ある一部の話では本気を出せば星一つは破壊できるだとか……
レベッカは最初、この話を聞いてはレオンを避けていた。だが、仕事をするからには酒らない相手だから、次第に慣れていったものの……
「レベッカ? 行くよ」
「あ……うん」
本当に表情から察することができない男。いつか自分も殺されるんじゃないかと心配でしょうがなかったのだ。