感情のなかった人間のお話。たった1話で終わるので気軽に読んでください。

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完全なオリジナルです。
すぐに終わるので気軽に読んでください。


あの時を

私には感情がないのだろうか?

感情というものが理解出来ない私には分からない。しかし、未だに私は喜びや悲しみというものを味わったことがない。

 

ー幼稚園ー

私は非凡だった。何をしても人より数倍優れていた。その事に幼稚園児の時に気が付いたが、その時点でもう可笑しいだろう。感情を味わったことがないからこそ他人と話せない。他人の言葉を理解出来ない。

 

ー小学校ー

この時、初めて恐怖を味わい、また歓喜という感情を覚えた。今までに味わったことがない感情に戸惑いは無かった。しっくりきた。自分に足りていなかったパズルのピースをはめていくようだった。だが、まだ足りない、パズルのピースが足りない。

 

ー中学校ー

告白をされた。歓喜という感情は湧かなかったが新たなパズルのピースがはまっていくようだった。この感情はなんだろうか?

小学生の時に味わった恐怖と歓喜のどちらも当てはまらない。

 

ー高校ー

中学生の時に付き合ってしまった彼女とは続いている。まだあの時の感情の正体が分からない。今も続いているあの時の感情。

 

この時にあの感情の正体が分かっていれば何かが変わったのだろうか?

いや、変わっていないだろう。そのはずだ。

 

ー高校卒業後ー

別れを告げられた。理解出来なかった。そして、同時に悲しみというものを理解した。また、安堵というものも理解した。私にも、愛するという感情があったのだから。だが、彼女の事は理解出来なかった。いや、今までずっと理解出来ていなかったのだろう。理由を聞いたが答えてくれない。どうしようもなかった。

彼女のお父さんが転勤するそうだ。彼女の友達から聞いた。やはり理解出来ない。これが別れる理由ならば可笑しいだろう。少なくとも僕達は愛し合っていたのだから。

 

彼女のお父さんに会って見たが、何の感情もわかなかった。ただ、強いていうならば、怒りだろうか?大人の身勝手さに怒りが湧いたのか?その感情は全くしっくりこなかった。

今思うと子供だったのだろうか?離れたくないというのは我が儘だったのか?

 

彼女に会った。別れた理由を話してくれた。だが、理解出来なかった。まだ、私のことが好きなようなのに別れたいというのは何故か。実際に彼女に言ったが、返ってくる言葉は「ごめんね」だけ。私は謝って欲しいわけでは無かった。

ただ、もう一度だけでもいい。君に……君が私に告白してきてくれたように私も伝えたかった。今ではもう遅いけれど。

 

彼女の家族が乗った車が事故にあった。理解は出来た。感情が理解に追いつかなかった。彼女は死んだ。家族全員死んだようだ。この時、私は初めて涙を流した。散りばめられたパズルのピースが私の心の隙間へとはまっていった。愛情、悲しみ、後悔………

私にとって、初めての感情が胸の中でうごめいた。とてつもない吐き気がした。今、理解した…私に感情が出来たのだ。いや、この表現では間違っているのだろうか?感情が戻ってきた、これが正しいのだろうか?

私はこの日、人間になったのだ。

 

ーーーーーーーー

 

今でも彼女のことが忘れられない。あの後、何人かの女性と付き合ったが全く満たされなかった。ただ、今は別の事で満たされている。彼女とそっくりの少女で、孤児院にいた。親から虐待を受けていたそうだ。無性に、守ってあげたくなった。

 

ある日、私は倒れた。過労らしい。彼女を失った悲しみで大学へろくに通わなかったせいで企業へ就職出来なかった。我ながら情けないと思う。今はアルバイトで生計を立てている。あの子を守るために。あの子を守るためならこの位、何のことは無い。

 

今回は本当にに危ないそうだ。栄養不足や過労……体が弱りきっているらしい。あの子はまだ小学生だ。せめて、私が彼女に初めて会った中学生までは必ず育てる。

 

時間というのは速い。あの子の入学式に直接行けなかったのは悲しいが、看護師さんがわざわざビデオカメラで撮影してきてくれた。これが、私への最高の薬だそうだ。そうかもしれない。あの子がここまで育ってくれて本当に嬉しい。ここからの記憶は曖昧だ。

 

意識が薄れる中、あの子の声がした。

「ごめんね、私のためにこんな…」

 

もう謝らないでくれ。私は、あの時と同じで、君の謝罪が聞きたいわけじゃない。私はほぼ感覚のない手を動かし彼女を撫で、涙を拭った。そして、最大限笑ってみせた。あの子も笑って「ありがとう」と言った。これからも、これまでも君への愛情を忘れない。

 

 

今なら言えそうだ。あの時、彼女が引っ越す前に言えなかった言葉を。

 

「ただ、君を愛している。これ以上にないくらい、君だけを」

 

 

私は人間なんだ。だから死ぬ。彼女と同じように……

 

彼女のもとへ

 




ちなみに、小学生の頃の恐怖は給食の『ぬた』です。

少し悲しい内容でしたがお楽しみ頂けたなら嬉しいです

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