黒鴉と親殺しの神 (更新停止中)   作:ウィキッド

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prologue
プロローグ 1


 気持ちよく晴れた朝の通学路。周りには急ぎ足で校門へと向かうクラスメート、くだらない話で笑いあう人間たち。

 いつも通りの平和な(退屈な)登校風景。その風景の中、寝不足の頭を揺らし何とか覚ましながらゆっくりと歩いていく。

 するといつも通り続きの中、いつもと違う光景が広がっていた。簡単に言うと校門前に列ができていた。列は学年、性別問わずに少しの乱れを生じながら形成されている。

 

 ――何か事件が起きたのか?

 

 そんなわずかな非日常に対する期待と不安を込めて列の先を覗いてみるとそこには―ー

 

「よし、では寄り道せずに教室に向かうように!」

 

 黒ぶちメガネをし、襟元までボタンをきちんと留めた男性。名前は柳洞一成(りゅうどういっせい)。いかにも優等生というイメージの彼は友人でもありイメージ通り生徒会長を務めている。そんな彼は列の最先端で生徒たちに呼びかけをしている。

真面目だなぁ、という感想を抱きながら彼を眺めていると彼もこちらに気づいたようで笑顔を向けながらあいさつを交わす。

「おはよう! 今朝も気持ちのいい晴天で結構!」

「おはようさん、一成。それにしてもなんだ? この人だかりは」

 

 俺のつぶやきに一成は呆れたようにため息を吐く。

 

「おいおい、ちゃんと先週の朝礼で伝えていただろう? 今日から学内風紀強化月間になると」

「げっ、そうだっけ?」

 

 まずいな。身だしなみは一応大丈夫だが……鞄の中には友人に貸す予定の本(薄い)が入っている。寺育ちの一成のことだから、当然没収するだろう。

 

「げっ?……なんだ、見られたらまずいものでも」

 

 俺の反応に一成は眼鏡を光らせる。

 

「あっははは! まっさかー。そんなことあるわけないだろー」

「……まぁいい。では制服からチェックするぞ……襟よし……」

 

 

 まずい……一成が服装のチェックをしている間に解決策を考えなければ!

 ……

 …………

 ………………いや、無理だろこれ。

 今から逃げたところで逃げ切れない、素直に事情を話せばきっと一成も見逃してくれるだろう、同じ男だもの。

 

「次に鞄の中身だが……ん? これは……」

「一成。それには海よりも深い事情が……」

 

 今この時だけでもいい、どうにかして誤魔化すんだ。朝から頭をフル回転で稼働させ言い訳を考える。

 しかし、俺の予想とは違った展開になった。

 

 

「もっと丁寧に教科書を入れろ。折れているではないか」

「へ?」

 

 そういって一成は鞄から折り目のついた教科書を取り出す。確かに乱暴に鞄の中に詰め込んだので折り目ぐらいついてしまうとは思っていたが。

 

「全く、教師であるお前の姉を見習ってだな……」

 

「それだけ、か?」

「む、それだけとは?」

 

 何を言っているのかわからないとでも言いたそうに首をかしげる一成。その様子に疑問を感じたがすぐに合点がいった。

 

 ――なるほど。見逃してくれているのだろう。そしてほかの風紀委員や生徒会の役員に気づかれてしまわないよう知らないふりをしくれているのか!

 堅物な友人の気遣いに感動を覚えながら一成の思いを無駄にしないよう早めに立ち去るようにした。

 

「いや、何でもない。一成、お前は親友だ! 後でお前にも貸すからな!」

「よくわからんが寄り道はせずに教室に行けよ? 岸波」

「おう、お前も頑張れよ!」

 俺、岸波黒野(きしなみくろの)は手を上げて教室に向かった。

 

 ◆

 

「あれ、どうしたんだろあの子」

 

 無事取引を終え、自分の教室に向かう途中、涙目になりながら周囲を見ている少しハネ気味の藍色の髪をした男の子を目にした。

 見た目は6歳ぐらいだが、彼が持つ雰囲気が見た目よりも幼さを醸し出している。実際の年齢はもう少し幼いのかもしれない。

どちらにしろ月海原学園には彼が通えるであろう初等部はないはず……ということは誰かの弟で忘れ物をしたから届けに来たとか? ともかく困っているようだし話しかけてみるか。

 

「どうしたの?」

「ひっ! すいません! 許してください!」

 

 男の子は体をビクッとさせ、不安そうにこちらを見る。

 ……いくら俺の目つきが悪いからといってそこまでおびえなくても。まぁ、慣れっこだけど。

 それに彼はこれから自分より年が上の人たちの集団がいる場所に向かうのだ、不安を抱いていても仕方がない。その状態の時にこんな目つきの悪い男が声をかけてきたのだ。そりゃおびえるわな。

 

「怖がらないでくれよ、別に酷いことするわけじゃない。それよりどうしたの?」

 

 再度尋ねる。すると男の子はおびえながらも答えてくれた。

 

「きょ、教室が、わからなくて」

 

 怖がらせないように目線を男の子に合わせる。見下ろされているよりは威圧感を感じないだろう。

予想どおり少しだけ怯えがマシになったようだ。

 

 

「どこに行きたいの?」

「えと、2-Aの教室です」

「わかった、それじゃ案内するよ」

 

 幸いにも2-Aの教室はここからそう離れてはいない。時間に関しても予鈴がなるまでには大分猶予があるだろうし彼を案内した後でも余裕で間に合う。万が一遅刻したら体調が悪くて保健室に行っていたとでもいえばいい。第一このまま見捨てるのはさすがにかわいそうだ。

 

「え、でもいいんですか?」

「子供が大人に遠慮するもんじゃない」

 

 ポンポンと曇り気味の表情を浮かべた竜太の頭をなでる。

 

「君、名前はなんていうの?」

「……間桐竜太(まとうりゅうた)っていいます」

「そうか竜太くんか。俺の名前は岸波黒野。黒野でいいよ」

「はい、黒野さん」

 

 そうして、男の子を引き連れて案内を始めた。

 

「竜太君はどうして二年生の教室に行きたいの?」

 

「兄がお弁当を忘れてしまって」

 

「そっか、お兄さんに届けに来たと」

「ええ、基本優秀なんですが、多少抜けていまして」

 

 照れくさそうに笑う様子を見て竜太は兄のことが大切に思っているのがわかる。兄思いのいい弟だ。きっと兄も優しい人物なのだろう。

 

 そんなたわいもない話をしながら廊下を歩いていく。最初のおびえていた様子はもう消え去り、会話が弾む。すれ違う人々は年下の竜太が珍しいのか皆こちらを不思議そうに見てくるが気にしない。

 

「はい、ついたよ」

 

 目的地までそこまで離れているわけでもないのであっという間についた。予想通り予鈴が鳴るまでには間に合いそうだ。

 

「あ、ありがとうございました!」

 

 そうお礼を言って慌てながら教室の中に姿を消していった。

 

 

 

 

「いいことするのは気持ちがいいな! 何でも屋でもしてみるか」

「そうか、ちょうど良かった」

 

  そんな独り言に反応があったことに驚き、その声の人物を予想し固まった。

 肩にポンと手を置かれる。そこまで力は入れられていないが動けない。蛙が蛇に睨まれるというのはこういうことなのだろう。

 ゆっくりと振り返るとそこには予想した通りの人物が笑みを浮かべていた。

 

「ならば放課後蒔の字の頼みを聞いてくれ。汝も所属している新聞部の活動でどうしても頼みたいことがあるそうだ」

 

 氷室鐘(ひむろかね)。色素の薄い長い髪という容姿に眼鏡をかけた彼女は知的なイメージを与えさせる同級生の女性だ。出会った時はクラスは違ったがとあることをきっかけに交流を持ったのだ。それより――

「氷室、新聞部って俺と何の関係があるんだ?」

 

俺は部活はなにも所属していない。別にやりたいものがあるわけではないし第一やる気がない人物に入られてもやる気があるほかの部員に迷惑がかかるだけだろう。

そんな訳で俺は帰宅部だ。

 

「? 何を言っている。汝は我が新聞部のエースではないか」

 

 見当違いのことを言われたような戸惑いの表情を浮かべた彼女に俺はなにか誤解があるとおもい説明をしようとした瞬間――

 

 

「っ!?」

 

頭の中にノイズが走った。僅かな痛みと共に視界が暗くなる。

 

「おい?」

 

 氷室に声をかけられ意識が戻る。視界もいつも通り、痛みもどこかに消えていた。

「あーなんの話していたっけ?」

「いや汝が新聞部のエースで蒔の字が頼みごとをしているという会話をしていたが……違ったか?」

「――そう、だったか。いやそうだったなうん。悪いな氷室」

 

 どうやら寝不足がよほどひどいらしい。話をしている最中に意識を飛ばしてしまうなんて。

 

「気にするな、呆けることなど誰にでもある」

「お前にもか?」

 

 からかいの意味と単純な興味とを含めた質問をするが氷室はムスリとした顔で腕時計を指差した。

 

「……授業が始まるぞ」

 

 そういって氷室は教室に向かった。

 

「俺も行かなくちゃな」

 

 ごまかされた気がするがもう少しで予鈴が鳴るので走って教室に向かった。

 

 ◆

 

「はっ!」

 

 気づいたら夕方になっていた。確か藤村先生がいつものように盛大にずっこけるところを見たのは覚えている。いや正確には食堂で飯を食べたところまでは覚えているがそのあとの記憶がない。

 

「ま、仕方ないな春だし」

 

 寝不足がたたってどうせ途中で眠ってしまったのだろう、よくあることだ。

 オレンジ色に染まる教室には俺以外には生徒はおらず、寂しさを感じさせた。それと同時に誰か起こしてくれてもよかったとのにとわずかながらも不満を抱いた。

それほど俺と仲がいいやつがいなかっただけかもしれないが。

 

「……新聞部に行かないとな」

 

 むなしさを晴らすように鞄の中に机の上に置かれてある荷物を乱雑に詰め込み、扉を開ける。

 

「お! われらが新聞部のエース。どうだ? 取材の方は進んでいるか?」

 

 張りに張った声に健康的な雰囲気を感じさせる褐色の肌。彼女は新聞部の部長蒔寺楓(まきでらかえで)。氷室が言う蒔の字は彼女のことだ。そんな彼女はどこぞのボスキャラのように仁王立ちで廊下に立っていた。

 もしかして俺を待っていたのだろうか? 申し訳ないとも思うが正直わざわざ部室まで行く手間が省けて助かったという気持ちが勝る。

 それよりも取材? いったい何のことだろうか。ごまかしても面倒なので素直に聞いてみることにした。

 

「あの、なんのことっすか?」

「なにぃ? 忘れたあ? 『月見原怪奇スポット』の真相について調べて報告しろって、昨日言ったじゃんかよー。大丈夫か? 締め切りまで時間ないんだぞ」

 

 案の定怒られてしまったがおかげで思い出すことができた。俺が所属している新聞部ではホラー、オカルト特集ということで我が校月見原学園についての階段を調べているのだった。

 

「そんなのオカルト研究部にでも任せとけばいいじゃないっすか。ほら、あの優馬くんとか好きそうですよ?」

「いや、あいつと話すと疲れる。というか憑かれる」

 

  クラスメートを生贄にするが、失敗。

 

「まぁいいや。それであたしの方で取材は半分終わらせておいたからさ、続き頼むわ」

 

 ……意外だ。この部長が仕事をしているなんて。

 そんな気持ちが顔に出ていたのだろう。彼女は少し怒ったようにこちらを睨みつけてくる。

 

「なんだよーその顔。あたしだってただ遊んでるわけじゃないんだぜ?」

「真剣に遊んでいるだけ、とか言わないでくださいよ?」

「……月見原学園怪奇スポットその1! ”霊界の入り口”!」

 

 図星だったらしい。話題をそらされる。だが、下手に藪蛇をつつきたくはないので突っ込みはしないでおくことにする。

「なんでもさ、弓道場の裏手には霊界への入り口があるんだってさ。ごみ捨てに行った男子生徒を最初に何人も行方不明になっているらしいよ」

 

 そのあと、何かいろいろ言われたが聞き流した。というよりも弓道場か……藤村先生がいそうだな。顧問だし。

 

「とにかく!違和感から目をそらすなよ!」

「へいへい」

「返事は大きくハイ! だ」

「ハイ」

 

 妙なアドバイスを背中に受けながら逃げるようにこの場から立ち去った。

 

 暗くなる前に終わらせるために階段を駆け足でおりる。先生にも注意をされなかった、というよりも先生と出会わなかっただけだが。

 そうしてあっという間に下足箱の前にたどり着いた。

 

「まぁ、ずいぶんとがらんとしていること」

 

 下校時間近くなので仕方ないといえば仕方ないか。テスト期間だったはずだし

 

「……なんでテスト期間なのに俺部活してんだろ?」

 

 今回の取材が終わったら部長に抗議しよう、無駄かもしれないが。

 そんなことを考えながら靴を履きかえていると後ろから声がした。

 

「そこで何をしている」

 

 用務員室から出てきたのは黒い服をまとった男。髪は短く、背丈も言うほど高くはないがその眼光は威圧的だ。

 寒気がする、吐き気がする、鳥肌が立つ。怖い、怖い、怖い。だが、とにかく話しかけてみないといけない。

 

「えっと、どちらさまですか?」

「――ふざけているのか?」

 

 苛立ったように眉を寄せる黒服。何が悪かったのかはわからないがとにかく謝ろうとするが男はこちらの様子など興味がないようで考え事をしていた。

 

「もしや本当に思い出せていないのか? なら都合がいい。 貴様はレオの脅威になるやもしれん――――ここで潰す」

 

 ぞわり、とスナイパーにでも狙われているような感覚。なぜそんな感覚を知っているかはわからないが、とにかくこの男は危険だと本能的に感じ取った。

 どうする? 逃げるのは難しい、背を向けたら死ぬ。

 助けを呼ぶ? 誰を? 今は誰もいない、校庭にでも行けば誰かいるかもしれないが無理だ、そこまでいけない。

 

 

 

 

 ――殺すか?

 どうやって? 

 簡単だいつものように暗器を仕込んでいるそれをつかえ。魔術礼装も、相棒も持ってきている。

 殺しきれない要素はない。やれる、ヤレル、やるんだ、やれ、やろう、楽しめ。そう。

 

 

 

 

 

 

 ――楽しんで、殺るんだ。

 

 

 

 

 

 

 自分のポケットに手を入れ、いつのまにか(いつも通り)入っていた苦無を右手でつかむ。硬さを確かめるように何度か握る。そして相手の首元を狙って放とうとする、しかし男は興味がないように踵を返した。

 

「――いや、やめておくか。”蜻蛉”相手に何の策もなしに相手したところで結果は見えている。それに、思い出せていないふりをしているだけでこちらを殺そうとしている準備はできているかもしれないしな」

 

 

 そう言い残し男は用務員室に戻っていった。

 

「つまらない」

 

正直消化不良で腹が立っている。わざわざやる気にさせといて勝手に逃げるなど身勝手がすぎる。

俺は男の後を追うつもりで用務員室の扉に手をかける。するとジリ、とノイズが走る。氷室のときに感じたものよりも少し強めの衝撃だったのでふらつき、膝を地面につけてしまう。

 

衝撃はそのまま異物が体内に混ざっているような違和感に変わり、激痛に変わる。

 

「うぇ」

あまりの痛さに気分が悪くなり、嘔吐感に襲われる。

なんとか胃の中身を出さずに数秒後。溶けるように痛みが和らぎ、司会もクリアなものに変わる。

 

 

 

「なんで俺丸めたティシュなんて握っているんだ?」

 

 

気がつくと右手になにかを握っていた。おそるおそる右手を開くと丸まったティッシュだ。何枚も重なって丸められているのか硬い。疑問に思いながらも近くのゴミ箱にその塊を投げ捨てた。

 

 そんなことより早く取材に行かないと怒られる。急いで誰もいない下足箱から出て弓道場に向かった。

 

 ◻

 

 弓道場の前につくと一つの疑問が生じた。

 

「……開いているのか? もう部員はみんな帰っただろうし、そもそも今はテスト期間中だしな」

 

 できれば鍵がかかっていてほしい。こちとら早く帰りたいのだ。しかし、

 

「まじかよ」

 

 施錠はされておらず、扉は力を込めなくとも容易に開いてしまった。仕方なく調べることにする。

 

「し、失礼しまーす」

 

 弓道場の中も夕日が入り込み、オレンジ色に染まっていた。巻き藁には棒矢が刺さったまま、逸れた弓矢は畳に刺さったままと散らかっている状態だった。どうやらすべての部活がテスト休みではないらしい。

 

 ……本で見た知識だが、弓道は道具が大切だと聞いていたがこれはどうなのだろうか? どう見ても大切に扱われたてはいないようだけど。

 

 そう思いながら足を踏み入れる。すると

 

「不審な動きをせずに、手を上げろ。」

 

 後頭部に何か当てられる、たぶん感触から言って拳だと思う。指示に従わなければすぐに取り押さえられるか、意識を持っていかれるだろう。かけられた声からはその意思が伝わってくる。それにこんなに近くでは逃げることすら難しいだろう。おとなしく指示に従い手を上げる。

 

「こんな時間に……って黒野じゃないですか」

「ば、バゼット姉さん?」

 

 自分の名前が呼ばれると共に拘束が外される。後ろを振り返るとそこにはよく見知った人物がいた。

  汚れ一つない黒色のスーツを着こなし肩にかからない程度の長さの紅色の髪は手入れされているのか艶やかだ。その紅色の中に一筋の藍色メッシュが目立つ俺よりもほんの少し背の高いこの女性はバゼット、義理ではあるが姉である。現在は岸波バゼットということになるが本名はたしかバゼット・フラガ・マクレミッツだったはず。その名前で呼ぶと可愛くないと不機嫌になるので呼びはしないが。いいじゃんマクレミッツ。

 

「バゼット先生。そっちは終わりましたか?」

 

 お互いに呆けていると奥のドアから虎柄の服が似合っている女性、藤村大河(ふじむらたいが)が現れる。

 

「あれ? 岸波君」

「藤村先生も。こんなところでいったい何を?」

 

「それはこちらの台詞です」

「いた、いたたたた!」

 その言葉と共に耳を引っ張られる。あまりの力強さにちぎれてしまいそうなほどだ。

 

「な・ん・で! 生徒である貴方が下校時刻が過ぎてもまだいるんですか? そもそも弓道部員じゃないでしょうに」

 大声でどなられキーンとするがなんとか事情を話そうとする。

「いやーそれには深ーい訳がありまして」

「話なさい」

 新聞部の調査ということを二人にかいつまんで説明する。二人は俺の説明を聞いて納得したような表情をする。

 

「……はぁ、今回は許しますけど次からは断りなさいね」

 

 なんとか必要以上に叱られなかったことに安堵する。そうしたところで一つの疑問が生じた。

 

「お二人はなんで?」

「弓道場の掃除よ。もう、みんな使ったら片付けなさいってしっかり言っているのに」

「私はその手伝いです」

 

 

 納得がいった。藤村先生はいい加減に見えてしっかりしているから部室を綺麗にしておきたいだろうし、姉さんも頼まれたら断っることができないような性格をしているから手伝っているのだろう。

 

「なんていうかご苦労様です」

 

 

 本当にご苦労様だと思う。片付けは本来は部員だけで行うものだろうに。しかも弓道場は広い、片付けだけでも大分苦労するだろう。

 

「うぅ、岸波君だけだよ慰めてくれるのは。うちの子にならない?」

 

 涙ながらに提案されると後ろからギュッと抱かれ、強く体全体を拘束される。

「だ、ダメです!藤村先生! 黒野は私の弟なんですから!」

 犯人はいつの間にか後ろに回り込んでいたバゼット姉さんだった。体全体にかけられていた圧力がだんだん首辺りに集中してくる。

「ね、姉さん。絞まってる、絞まって……るから」

 

 背中に柔らかさを感じるがそれよりも首にかかる痛みが上回る。地獄と天国の両方を味わってる感じだ。

 ――そして

「あっ」

「「あっ」」

 グキリ、と鈍い音と共に視界が黒く染まった。

 

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